第4話 World Ⅳ
「井野宮さん!」
大きく吹き飛ばされた井野宮天十をルナは見る。
恐らく直撃。どういう仕組みかは分からないが、相手の甲冑のようなものが最初の膜のようなものからよりはっきりと甲冑になった瞬間、防御力と攻撃力(筋力)が激的に上がっていた。
そんなものを生身に食らえば粉々だ、何もかもが。
ルナはすぐさま天十の元へと移動しようとしたが、そこに敵、ルードヴィヒ・オイラントが突如現れた。
「行かせないのである」
「くっ・・・!」
ちょうど天十の近くへ移動するルートを敵に潰されてしまう。
ルナが使用できるのは高速移動であり、空間移動、テレポートではない。道を防がれてしまえばそこを通ることはできない。
そしてなにより。
(高速移動の終わりが相手に筒抜けになっている・・・!)
どこを目がけて高速移動するかはもう明らかだ。天十の元である。
そこを狙われて拳を振るわれれば先ほどのように拳に潰されそうになってしまう。
(私を助けようとしたばっかりに・・・!)
ルナは自分が許せなかった。
ここに連れて来てしまった以上、安全を確保するのはルナの責任だと思っている。それがどうだ。自分は隙をつかれやられそうになるし、その上守ってもらってしまった。
これでは立場が逆ではないか。
(なんとかして井野宮さんのところに駆けつけないと・・・)
はやく治療しなければもしかしたら手遅れになってしまうかもしれない。
もうすでに手遅れになっている可能性もある・・・と考えてから頭をぶんぶんと振る。今はそういうマイナスなことは考えない。
それで相手の攻撃への反応が遅れてしまえばルナ諸共やられてしまう。
赤い土を踏みしめ、ルナは決意する。
曇り切った空を見上げて、そして・・・敵を睨む。
(なんとかして通る!)
それしかない。
ルナはすぐに高速移動を使った。連続での使用はできないが、相手は未だにこの移動について来れていない。移動できる距離も限られているが・・・。
相手の近くにまで移動する。相手はまだ反応出来ていない。こちらを見ることさえ出来ていない。
ここで相手を越えて天十の元へ行くには距離がありすぎる。一度ある程度近付いてから時間を稼ぎ、そこからさらにもう一度高速移動をして天十のところへ近付く・・・というのが一番いい。
辿りついてからどうするのかはその時考える、とりあえず距離をとろうか。そんなことを考えながら近付いて・・・刀を思いっきり抜いた。
抜刀。
しかしその刀では確実に通らない。大きな音と共に思いっきり弾かれる。
「む、そこにいたであるか」
刀を思いっきりぶつけた・・・それでもこの程度。無傷。
元々今勝つ気はないが、時間稼ぎすらも無理かもしれない。そんな負の感情が押し寄せてくる。相手が大きな拳を振りかぶる。
「ぐっ・・・」
その拳に当たる瞬間真後ろに飛んで少しでも威力を殺す。
刀も前に立て防御に。
しかしそれでもものすごい威力。刀を持っている手が折れてしまうのでは。そう思ってしまうほどに重い。そんな痛みと共に後ろへ吹き飛ぶ。
(せっかく近付けた・・・のに・・・少し下がって・・・)
息を整えながら、冷静に分析する。
しかし最初よりは天十の体に近付いているはずだ。これを繰り返すことによって、もしかしたら一気に高速移動できる距離になるかもしれない。
折れるのはまだはやい。
なぜならば、今の拳をくらう瞬間、見た。見えたのだ、ルナは。相手の拳に軽く斬り傷があることに。本当に小さなものだが、怪我は怪我だ。
(きっと井野宮さんは拳が当たる直前咄嗟に刀を構えた・・・それによって敵の全身全霊の攻撃は逆に自分の拳を傷つける事に・・・)
あの刀を振るっても傷つけることさえできなかった相手の甲冑。しかし相手の全身全霊の拳に対してはどうだろうか。その場で構えれば相手の拳は刀にぶつかる。そのままものすごい威力で吹き飛ばした。
その時に多少、相手の甲冑を破ったのだろう。
相手の攻撃を活かした攻撃。
(もしかしたら敵の攻撃がずれている・・・のかもしれません・・・)
ならばきっと天十は生きている。
ルナはそう思った。
ものすごい土煙をあげてルナは再び高速移動する。
ジグザグに動いて相手を撹乱する・・・ということもしたいが、それだと距離を無駄にしてしまう。一刻もはやく近付いて・・・。
「・・・・・ッ!」
限界が来た。
これで少しの間高速移動は使えない。
距離的には近付いているが、非常に中途半端。天十の様子を見るには遠く、敵の攻撃を受ける可能性のある・・・中途半端な距離。
「そのちょこまかはもう使えないみたいである」
「やっぱり・・・!」
敵も馬鹿じゃない。
学習をするのだ。相手は高速移動できなくなったルナをひたすらに攻撃する。やっていることはただ殴っているだけだ。しかしそれは一撃一撃が地面を抉る攻撃。
一撃でも当たれば死、だ。
「・・・・・ッ!」
必死に避ける。
それでも体に衝撃が伝わってくる。抉られた地面の土煙が襲う。目をつぶっている暇はない。余波が体を叩く。痛みに顔をしかめる。それでも時間は経ってくれない。
まだ、移動することはできない。
それでも。
「・・・・・」
前へ。少しでも前へ。
殴られながらも少しずつ前へ。
「また近付こうとしているであるな!」
気付いた。気付かれた。
敵がまたルナを反対側へと吹き飛ばす拳。だが。
「私を遠くへ飛ばそうとする・・・それによって制限が付き、動きの予測が付きやすくなる。あなたが教えてくれたことですよ、ルードヴィヒ・オイラント」
「むっ!」
その拳を綺麗にかわした。
乱打はかわしにくいが、相手が天十の反対側へ吹き飛ばそうとするのならその攻撃方法は限られている。事前に予測出来る攻撃は、かわせる。
足に力を込める。
(まだ足りてない・・・それでも・・・)
一気に駆けた。
まだ時間は経っていない。無理矢理の高速移動。もちろん距離は全く移動できない。でも『剣を伸ばせば』その切っ先が相手に届くぐらいの距離は稼げている。
伸ばした切っ先は軽く天十の体に傷を付けた。血すら流れないうっすい怪我。
「何をするかと思えば・・・」
敵はそのままずんずんと近付いてくる。
ルナは無理な高速移動により足がほとんど動かなくなってしまっている。かわせない。思いっきり振るわれた拳にルナは吹き飛ばされた。
「・・・・・」
叫び声もなく、ただただ後ろに吹き飛ばされる。
地面をごろごろと転がり、ようやく止まった頃にはぴくりとも動かなくなってしまった。直撃。
「・・・・・ようやくであるか」
動かなくなりはしたが油断はできない。
もしかしたら死んだふりをしているだけかもしれない。慎重に慎重に移動する。
そして小さく「3rd」と呟いた。
敵の不完成な甲冑がついに完成した。しっかりとした銀色がつき、頭からつま先まで覆う甲冑。まさに西洋の城にいるような格好であった。
ルードヴィヒ・オイラントの能力。『模倣使い』。元はといえば相手の行動などを模倣、コピーするような能力であったが、ルードヴィヒ・オイラントは生まれつき、物質をコピーできるほど強力な能力の持ち主だった。
かっこいい美しいという理由で西洋の甲冑をコピーし、任意でそれを着れる能力へと模倣した。
しかしその能力をフルで活用するためには時間が必要だった。1st,2nd,3rdという3つの段階があり、1stを発動させてしばらくしたら2ndに進める制限がついている。
防御力だけじゃなく、筋力をも強化するその能力は強力過ぎて、ルードヴィヒ・オイラントの模倣でも完璧に模倣することは出来なかった。
だからこその制限。そしてそうなるとわかって今も使い続けているのは自分の力不足を常に自覚するため、慎重になるため、いつかこれを完璧に模倣するため。
歩き続けてルナの近くに移動する。
正義軍として女子供であろうが、邪魔するものは許さない。それが正義軍リーダーの方針だ。逆らう事は許されない。
(私はそれに反対であるが・・・)
これも全て正義のため。
みんなが笑顔になるためには多少の犠牲が必要なのだ。
だから、目の前のこの少女もそんな尊い犠牲の1人。ルードヴィヒ・オイラントは一歩踏み出し、そして地面へとずぶずぶ落ちて行った。
「え・・・?」
ルードヴィヒ・オイラントが驚愕する。
なぜ自分は地面に埋まっていっているのか。それが理解できない。まさか・・・。
「君・・・であるか」
「・・・・ええ・・・」
ルナが静かに起き上がった。
「でも私は何もしていません。先ほども言った通り、私はあなたを殺すつもりなんてないんです」
ルードヴィヒ・オイラントは静かに下を見た。
そこにあったのはアリジゴクバナ。一度足を踏み入れるとツタを絡みつけられ、地面に隠された奈落の底に沈まされていく。
「な、なぜ・・・!さっきは確実になかったはずである!」
ここの地形もしっかりと調べて来た。
ましてや赤い土に白い花だ。見落とす方が難しい。それでも足元に急にアリジゴクバナが出現したのである。なぜこうなったのか少しも分からない。
「分からない・・・ということは君の能力であるか」
「・・・・・」
ルナの職業は『忘却使い』。
相手を傷つければ、認識を1つだけ消すことができる能力だ。一番最初、出会ってすぐ使った高速移動により、刀で相手を斬ったことを思い出す。相手の認識から1つの範囲のアリジゴクバナを消した、視界から消したのだ。
しかしそれは認識を消しただけ、実際はそこにある。それに気付かず踏み入れただけである。
(さすがにここにある全てのアリジゴクバナを消すには私の能力は未熟ですが・・・ここの地形を調べて来ているのなら逆に1つもアリジゴクバナがないとあやしまれる。だから1つの範囲のアリジゴクバナを消した・・・)
それでもまだ不思議があった。
なぜルードヴィヒ・オイラントは沈んでいるのか。
それは単純だ。ルードヴィヒ・オイラントの体重に甲冑の重みが合わさり、アリジゴクバナが反応するような重みへと変化していただけなのだった。
「なるほど・・・なかなかやるである。・・・・・しかし!」
すぐに甲冑を解除した。
生身になってしまうが、すぐに1stと呟き、薄い膜を貼る。しかしこの程度の重みでは沈まない。甲冑を解除して、まだ軽い1stを装備することにより身の安全も守る。
そう、ルナの刀では1stでも傷つけることができなかった。守りはこれだけでも十分。
「私だけならば」
ルナが呟いたとき、敵の後ろに現れたのは・・・。
「お前は・・・!」
「・・・・・・」
綺麗な、あの刀を持った井野宮天十だった。
「恐らく、甲冑が形作られる2nd・・・とやらから沈んでいきますよ。このままではあの刀に裂かれてしまうし、2ndを発動すれば穴に沈んで行く・・・好きな方を選んでください」
1stではあの刀を防げない。
しかし2ndを発動させれば穴に落ちていく。今は一時的に止まっているがすでに半身以上は沈んでいる。一瞬でも発動すれば終わりだろう。
(ならば・・・素人の刀・・・このまま2ndを発動すれば確実に死ぬ、だが・・・あいつの扱いなれていない刀なら・・・なんとか凌げる可能性はある・・・)
ルードヴィヒ・オイラントは思う。
ちなみに井野宮天十が動けるようになったのは先ほどルナが軽く刀で傷つけた時に痛みの一部を認識させないように、認識外へと追いやった。
(予想以上にまだ元気そうだから無理をさせてしまいました・・・)
反省する。
近付いた天十はすでに目を開けておりアイコンタクトで「どうすればいい?」と聞いてきたのだった。
そこで一瞬で作戦会議をして、こういう場面が出来あがったというわけだ。
天十は刀を構えて突撃する。
やはり扱いなれていないのかふらふらとしているが、それでも・・・なんだか不思議とその斬り筋はしっかりと相手の心臓を狙っているように見えた。
「一応助言です、ルードヴィヒ・オイラント。あの刀はあなたを殺せます」
その一言がきっかけだった。
どういうわけか素人のはずなのに自分の心臓を綺麗に狙っている、と気付いた瞬間、すぐに2ndを発動させた。刀を大きく弾かれ・・・しかし。
「ぐ・・・!おおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
叫びながら終わりがないと言われているアリジゴクバナの落とし穴。
その底へと沈んで行ったのだった。
主人公がやられるという都合上、今回は三人称視点となっています。次回からはまた一人称になるとは思いますが、今後も三人称になる場合があるかと思います。
読んでくださりありがとうございます。
次回ももしよければよろしくお願いします。




