第3話 World Ⅲ
「私たち正義軍の邪魔をしている集団がいると聞いて来てみたのであるが・・・ただの子供である」
男は高い背を活かした上から見下ろすような視線でルナさんを見ていた。
ルナさんは咄嗟に後ろに下がり、体勢を整える。
俺の方はといえば地面にぶつかった部分の痛みと地面を滑っていった時の擦り傷から流れる血でそれどころではない。
痛みに慣れて来たのか先ほどよりはマシではあるが。
「というか・・・」
確かにかなりの筋肉の持ち主ではあるが、決して人間から逸脱したようなものではない。見た感じ俺たち人間と変わらないはずだ。
あそこまで人間を軽々と振りまわして、投げ飛ばせるものなのだろうか。そう、俺は片手で投げられていたのだ。両手ではない。
「そんな常識通じる相手じゃあないか・・・」
俺はなんとか立ち上がり、敵を見る。
あれが・・・正義軍。やつの来ている服、バーテン服の真ん中には大きめに『正』の文字が描かれていた。かなりセンスがない・・・とか言っている場合ではなかった。
「ル、ルナさ・・・」
名前を呼ぼうとしたが、途中で思わずやめてしまう。
ルナさんの手には今までなかった、綺麗な刀が握られていたのだ。刀なんて今まで見た事なんかない。でもそれがとても綺麗で・・・だからこそ恐ろしいことがすぐに分かった。
模造刀でも、ナマクラでも、竹刀でも、チャンバラでもない。あの刀は斬れる。本物の刀だ。素人が見ても分かる、人を傷つけるための武器。
優しいルナさんには不釣り合い・・・ではあるが今はそれどころではない。先ほどから邪念が多い。
ここからは本当に死ぬかもしれないのだ、ふざけていられない。
「そんなもので私を殺せるとでも?」
「私は殺しません」
瞬間。
一瞬だった。ルナさんが人間離れした動きで相手を斬ったのだ。完全に油断していたのかは分からないが、敵の腕あたりに少しだけ切傷が出来ている。
素早かった。目で追うのもできないぐらい。それぐらいはやかった。
「む」
敵はどこか訝しげにその傷を見る。血が流れているが大したことはないらしい。ルナさんは敵を斬った時の勢いを殺さないまま俺の位置まですごいスピードで走ってきた。
浮いたことといい、ルナさんの能力はどのようなものなのだろうか。
「井野宮さん。これを」
「これって・・・」
差し出されたのは先ほどの刀。綺麗な刀だった。
「護身用です。正義軍は一般の人達が集まった集団です。つい先日までサークルレベルだったぐらいには。しかしこうして自信満々にここまで追ってきたということはその中でも戦える者。それに『ここ』に来たということはきっととても強いのでしょう。ですから、護身用です」
「あ、ありがとうございます」
その刀をおそるおそる取ってみる。
重い。あんなに細くて綺麗なのにここまで重いのか。これを軽々扱うというのは大変そうだ。
「井野宮さんはここに。安心してください、私が倒しますから」
武器を俺に渡してルナさんはどうするのか。
その心配は杞憂だった。すでにルナさんの手には短めの刀が握られていたのだ。でも・・・この刀よりは綺麗じゃない。恐らく、この刀よりは斬れないのだろう。
刀の差を覆させることができるような能力なのだろうか。
「この場所・・・そして今の動き・・・さらに私の1stをも斬り裂いたその刀・・・・・なんだかきな臭いである。君は本当に人間であるか?」
「私は・・・人間です」
ルナさんが再び刀を手に襲いかかる。
相手はすぐに「1st」と呟くと相手のまわりに透明な、でも微かに光が反射して見える膜のようなものが現れた。きっとあれが相手の能力なのだ。
ルナさんの刀が相手を斬り裂こうと迫る。
が、弾かれてしまう。あの膜のようなもの見た目的にはそうでもなさそうではあるが、かなり堅いらしい。ルナさんは顔をしかめ、一度距離をとった。
「今度の刀は1stも斬り裂けないようであるな」
「・・・・・」
ルナさんは無言で刀を構えた。
そして初撃と同じとてつもないスピードで迫り、刀で斬るという技。しかし・・・効かない。効かない。相手のあの膜は敵の体全身を綺麗に包んでいる。
どれだけはやく動いて相手の隙を突こうとも、攻撃が通る箇所がない。
「こちらの番である」
相手は単純だった。
ただ、握り拳をつくってそれをルナさんめがけて振り下ろす。ただ、それだけの攻撃。体が大きいとはいえ、所詮人間の一撃。のはずなのに。
「・・・・ッ!」
ルナさんは先ほどと同じようにすごいスピードで後ろへ下がった。
拳はルナさんに当たらず、地面に振り下ろされる。衝撃。爆音。ありえない光景だった。土煙が上がり、時間が経つにつれて少しずつ視界が晴れていく。そこには、地面にはえぐられた後があった。殴られた地面は大きくへこんでいたのだ。
人間の一撃に、地面が負けている・・・?
「なんだあの馬鹿力・・・」
俺はそんな光景を見て驚いた。
だが、それと同時に勝機も見出す。あののろまな動きではルナさんに当てることはできない。そう思ったのだ。しかし、そんな俺とは別にルナさんの顔は少し焦っているようだった。
「困っているのであるな。確かにそのスピード、脅威であるが・・・どうやら連続使用はできないらしい。これはこちらも勝機である」
そう、わざわざ口に出して言ったのだ。
連続使用が出来ない・・・?あの猛スピードは一度使うと少しの間使えなくなる、ということなのだろうか。能力に制限がある、というのもかっこいいが今はそれどころではない。
確かに初撃、3撃目とあのスピードで攻撃していたが、2撃目はどうだっただろうか。初めてあいつの膜のようなものに弾かれた時、あの時は普通の速度。それこそ人間が走って出せる限界の速度ではなかっただろうか。
そんな考えが頭に過ぎり・・・汗をかいた。
しかしそれでも敵はさらに追い詰めてくる。
「ここらへん一帯にはどうやらアリジゴクバナが咲いているようである」
「・・・・・」
「『ここ』の予習は完璧である。アリジゴクバナは普通の人間の重さではまず沈まない、私ぐらいでも沈まない。しかしツタを絡めるという習性ははたらくのである。一瞬でもアリジゴクバナを踏んでしまうとツタが伸びて、足に絡みつき・・・」
俺は理解した。
俺には分からないことではあるが、きっとその一瞬でも、足にツタが絡まった一瞬のタイムラグでさえ命取りなのだ。特に敵の攻撃は凄まじい。一撃当たれば終わりだろう。
「・・・・・」
しかし再びルナさんは突撃した。
敵がペラペラと話している間にあの超スピードが使えるようになったのだろう。すごいはやさで斬り込んでいく。しかしどの攻撃も相手に傷1つ付けられない。
「やっぱりこの刀じゃなければ相手の膜を斬れないのか・・・!」
ではなぜわざわざこの刀を俺に渡したのか。
ルナさんが持っていた方がよかったのではないか。疑問が残る。
ルナさんは斬り込んだスピードのまま、相手と距離を開けようとして・・・その瞬間敵が笑った。
「話を最後まで聞くのである。そんな邪魔なアリジゴクバナを踏まないように移動するということはきみの移動が限られてしまうということ。そこから着地点を予測することも可能である!」
ルナさんの超スピードが止まった時。
そこを狙って敵の拳が振り下ろされる。かわせない。超スピードは連続で使えない・・・というのもあるかもしれないし、完全に隙をつかれてしまった。
このままだとあの超威力の拳に潰されてしまうだろう。
そう思った。だから。だから俺はその前に、そんな状態になる前に駆けていた。
別に予測したわけじゃない。そんな大仰なものじゃない。ただ、このまま守られているだけでいいのか、と思った俺が余計な行動をしただけだ。
そんな余計な行動がたまたま、相手の不意をつく攻撃となった。だけだった。
「ッ!」
綺麗な刀。
名は分からない。
だが、その切れ味は、相手の邪魔な膜を斬り裂く。
刀なんかはつかったことがない。
ふらふら。重みに足をとられながらも走る。でも、なんか。なんか不思議と刀が、刀の意思でどんどん突き進んでいるような・・・。
何かに吸い寄せられていくような。
(なんだ・・・これ・・・この感じ・・・)
吸い寄せられていくまま。
流れに身を任せて・・・斬る!
「む!むむむ!」
敵は振り上げていた拳をルナさんには落とさず、こちらへと向かわせる。
正直素人の攻撃なんて無視されるものだとばかり思っていたのだが。
「2nd!」
敵はそう叫ぶとまわりを包んでいた膜に変化があった。
装飾めいたものが付けられ、顔をも包むようになっている。色が白っぽくなり、なんとなく、それは鎧、いや甲冑のように思われた。
まだ薄そうで、完成系とはいえない出来そこないの甲冑。しかし。
「なっ!?」
俺の刀は弾かれてしまった。
ウソだろ。この刀の一撃だぞ・・・それをはじいたのか・・・?この刀を弾かれてしまったら、もう。相手に攻撃を与えることなんてできないじゃないか。
「やはり我が2ndは通らないのであるッ!」
拳。
先ほどよりも威力があるように思える。
どういうことか分からないが、あの膜、段階的に防御力と攻撃力が上がっていっている。そういう能力なんだろう。きっと。たぶん。
一気に上げなかったということは・・・段階的に、時間をかけてじゃないと上げていくことは出来ない。きっとそんな制限が・・・。
そこまで考えて。
瞬間。
ものすごい威力の拳を押しつけられ、俺の体は思いっきり吹っ飛んだ。
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