第2話 World Ⅱ
「いきなりそう言われても驚くでしょうが・・・狂っている、と私は直感で思いました。いえ、辛い時にあえて楽しむとかそういう次元のレベルではないのです。勝手に楽しい、幸せ以外の感情が消えてしまうわけですからね」
「そんな方法があるのか・・・ええ、あります。そんな狂った世界にするための方法が。それは世界を正の力で満たしてしまうことなのです。正の力とはすなわち人が幸せになる力のことです。この世には正の力、負の力が同じ量だけ充満していて・・・それらが相殺し合うことでいい事も悪い事も起きる、そんな世界になっているのです」
「しかし正の力で充満させすぎると悪い事が起きなくなる・・・のではなく、悪い事もいい事としか認識できなくなってしまう。その結果いい事しか起きないと錯覚することになる・・・それが正の力を充満させすぎた世界の末路です」
「今のところその行動はランドバハド内に限られていますが・・・この世には世界が3つあります。いつ他の世界にその手が伸びるか分かりません。ええ、そういった意味では確かにあなたも他人事ではないのかもしれませんね。でも、大丈夫です」
「私たちが死んでもそれを止めますから」
「最悪、ランドバハドを犠牲にしても・・・止めてみせますから」
○
目を開けるとそこは別世界だった。
枯れた木々に赤っぽい土、そんな少し綺麗とは言えない場所だったが、そこに咲き誇る花は変に白く、それが不気味さを際立たせている。
と普通の人は思うのかもしれない。俺の印象は無、だった。何も思わない。不気味にも思えないし、ここが世界の絶景の1つだよ、と言われても信じてしまうぐらい無関心。
「ほ、本当に・・・異世界だ・・・」
きっとそれは俺の感動が上回っていたからだろう。
ここが異世界。俺の待ち望んだ・・・世界だ。
「まさか私の話を全て信じるなんて思いませんでした・・・」
後ろにいるのは少しげんなりとしたルナさんがいた。
時間的にはあの説明の後、だろうか。どれぐらいの間移動していたのかは俺にはよく分からないが、それでも長時間は経っていないと分かる。
俺たちは異世界に来ていた。
「いや、信じますよ、目の前でぽーんと浮かれたら」
「わ、私の馬鹿・・・」
俺に異世界に行く方法なんてあるわけがない。
ということは必然的にルナさんに連れて来てもらったということになる。頼み倒した。本当に。拒否され続けながらも頼みまくった。
顔は困っていた。「助けてもらったわけだし、それぐらい叶えてあげたいけど・・・う~ん・・・」みたいな顔してた。
それでも汚いと罵られようとそこに付けこみ、俺はなんとか異世界に連れて来てもらったのだ。
最終的には「いや、ほんと危険な目にあったら見捨てていいし、むしろ俺を身代わりにしていいですから!ほら、だってその正義軍っていつかは地球まで進出してくるかもしれないじゃないですか、俺も何か手伝いたいですし!」なんて最もらしい理由を付けて。
でもそれで連れて来てもらえたということはきっとその可能性は0じゃない。特殊な能力のある職業持ちという存在があるランドバハドならまだしも地球は弱い。
文明的には進んでいるものの、それでも勝てるかなんて分からない。地球を守るためにはそういうもの、ファンタジーの知識が必要なのだ。
「それに俺・・・っていうのはなんか不安だけど・・・」
それでも対抗するためには何かきっかけが必要なのだろう。
「そ、それにしてもあなた・・・えっと・・・井野宮さんでしたよね」
「はい、井野宮天十って言います」
「その・・・まだ子供ですし・・・」
「え、見た感じ同い年ぐらいだと思っていたんですけど・・・」
可愛らしい見た目から同い年ぐらい、それか高校生ぐらいかと思っていたのだが・・・違うのだろうか。最近流行りの見た目は若くても年齢は凄まじいみたいな、100万歳とかそういうの?
「いえ、恐らく同い年ぐらいだと思います。年齢の定義が地球と同じかは分かりませんが」
「で、ですよね・・・」
さすがにそれはなかった。
あたりを見渡す。正直「異世界への移動手段は機密事項なので・・・目をつぶってください」と言われ、先ほどまで何も見ていなかったから余計に新鮮に思える。
「ここがランドバハドですか・・・なんというか・・・」
「別に無理していいことを言わなくてもいいですよ。殺風景ですよねここらへん。赤い土に曇り空、あるのはたまに咲いている白い花ぐらい・・・ここらへんはランドバハド・・・というよりそこから少し外れたところです」
「そうなんですか・・・」
「少し歩けば民家とかも見えると思います。地球並みの文明を見たいならもう少し都心に行くべきだとは思うんですが・・・このままでは危なすぎます。まず、行ってほしいところがあるんです」
そう言った。
どうやら俺を巻き込むか迷っていたのを断ち切ってくれたようだ。ルナさんが優しい・・・というのもあるとは思うが、それほどまでに人手が足りていないのかもしれない。
素人の俺の手を必要とするほど。
しかしこのままでは危ない、ということは危なくないようにするための何かがあるのかもしれない。
もしかするとそれは能力を得るとかそういう俺の望みそのもののような、何か・・・。これはわくわくしてきた。
さっそく記念すべき第一歩を踏み出し・・・。
「あ、危ないです!」
ルナさんに腕を思いっきり後ろへ引かれてしまった。
踏み出そうと思った一歩は空を切り、残った地面についている足で必死にバランスを取る。
「い、いきなりすみません・・・・・ですが・・・」
そう言ってルナさんの指した先・・・俺の足が来る予定だったところには至るところに咲いている白い花がいくつもあった。
なるほど、確かに花は踏まない方がいいだろう。気付かなかったとはいえ、俺の不注意。謝ろうと思ったものの、どうやらそういう雰囲気ではない様子。
「あれはアリジゴクバナ・・・重みを感じると遥か下・・・終わりの無い穴へとツタをまかれ、引きずり落としてくる植物なのです」
「ええ・・・」
すごく的確に怖い。
生い茂っている場所はもれなく無限穴という穴があり、それを植物たちが隠しているという状態らしい。どうにも物騒な植物だが、俺の気持ちはまだわくわくが勝っていた。
「どんなに体重のある人間の重さでも沈まない程度ですが、植物にツタを伸ばされるというのもなかなか衝撃的ですよ・・・」
「ショッキングだ・・・」
改めて分かる。
この世界は今までの知識はまるで通用しない。そんな異世界だということが。そんな危険な植物のあるこの地域の方が安全、というのはなかなかに皮肉である。
「こんな危険な場所にみんな住んでいるのか・・・」
「いえ、住居がある方はこういう危険なことも少なくなってくるので」
2人して歩いて行く。
赤い土は見た目は刺激的なものの特に危ないものではないらしい。ザッザッという歩いた時に鳴る音が小気味いい。感触も土と同じだ。
時折聞こえる獣の泣き声にびくびくしながらもひたすら歩いて行く。
そうやって俺は地球と比べていたのだが、そもそもなぜ俺はルナさんと普通に話しているのだろうか。言語は同じなのだろうか、それとも、何かの能力で通じるようになっているのか。
完全に浮かれている観光客だったが、それもしょうがない。憧れていた・・・異世界に俺は今いるのだから・・・。
冷静にしているように見えるものの内心、叫びたくてしょうがないレベルだ。
きっとこんな感動これ以降俺の人生にないかもしれない・・・まだそんな年齢でもないが。
「すみません、移動の際、場所を少し誤ってしまったみたいで・・・もう少し歩く事になりそうです」
「それは大丈夫です!もっと見て回りたいんで!」
「ならば・・・文字どおり回ってみるのであーる」
急だった。
急に足を掴まれ、思いっきりぶん回されたのだ。理解出来たのは俺が今ピンチなのだということだけ。吐きそうになっている中、そのまま投げ飛ばされた。
宙に浮かぶ感覚。
それが襲ったのもつかぬま、すぐに落ち始めそのまま地面に思いっきり落下した。ガッ!という音と共に俺は地面にぶつかってしまう。
「がっ・・・!」
ものすごい痛み。
声なんて出ない。肺からも空気が出て行ってしまった。苦しい。息が出来ないし、地面とすれた箇所が熱を持っているように熱い。
「井野宮さん!」
ルナさんの声が聞こえる。
その声の大きさからそこまで遠くには放りだされなかったみたいだ。なんて冷静に分析しているが、気絶しそうなほどである。
血も流れているかもしれない。
怖い。怖かった。いきなり危険にさらされて・・・。でもそれよりも何よりも怖いのはきっとルナさんが連れて来たせいで俺が傷ついた、と思われることだ。
それだけはいけない。それだけは譲れないのである。なんて、格好付けられるほど余裕はない。
「があああああああああああいってえええええええええええええええええええええええええええ!!」
叫ぶ。
痛い時は痛いと言った方が痛いという感覚が弱まると聞いたことがあるが、それが効いているのかも分からない。しかし叫んでいないと気を失ってしまいそうなほどの痛みだった。
「む、思ったより飛ばなかったである」
「あなたは・・・!」
ルナさんは見る。
そこにいたのは男。背が高く、筋骨隆々。ボディービルダーのような体型ながら来ている服はどこかのバーのバーテンダーのような格好。口元には偉そうな口髭が生えている。
「正義軍・・・!」
「私の名前はルードヴィヒ・オイラント。君たちを文字どおり潰す男であーる」
読んでいただきありがとうございました。
もしよければまた読んでいただけると嬉しいです。
ではまた次回。




