第1話 World
これは過去編です。本編(完結済み)を読んでいないと分からない点などがあるかもしれません、ご了承ください。
「私の名前はルナと申します」
空から降ってきた女の子をキャッチするという意味の分からない出来事に巻き込まれた俺はその女の子を背負いとりあえず病院か、それとも警察か。どちらかに行くべきであろうとひたすらうろうろしていた。
携帯なんぞ持っていないので110番もすぐには出来ないし、近くの家に電話を借りるべきか、でも意識を失った女の子を背負ってる男ってあやしすぎないか。
なんて考えて、そのまま近くの交番に行こうと思った時に女の子は目を覚ました。
最初に思った感想としては助かった、だ。だって警察官になんと説明するのだ。空から女の子が降って来て、それでキャッチしようと思ったら浮いていて、だから俺の腕は折れずに済んで・・・。
馬鹿か。狂ったのかと思われてしまいそう。
「あ、えっと俺は別にあやしいものじゃなくて、なんていうか通り過ぎただけというか・・・」
非日常に憧れていたというのはなんだったのか。
実際におかしいことが起こりだすとこの様だ。自分の望んでいた展開かもしれない。だから少しぐらい堂々としなければ。しかし見知らぬ女の子と話すことはまた別の話なのである。
しどろもどろと話している俺にその女の子は少しだけ微笑んで「ありがとうございます」と頭を下げた。
どうでもいいかもしれないが、未だ女の子をおんぶしている状態なのだが、これはどうしたらいいのだろうか。女の子のお礼に軽く会釈をしつつ、どうしようか迷っているとそれが女の子に伝わったのか、顔を赤くして「すみません・・・」と謝りながら俺の背中から降りていった。
道のど真ん中で話すのもなんなので、近くにある公園のベンチへと案内して、女の子が口にした言葉が最初の言葉だった。
「私の名前はルナと申します」
「ル、ルナ・・・さん・・・」
唐突に始まった自己紹介についていけず、名前を馬鹿正直に繰り返すことしかできない。
そう、だってまずは俺が何者なのか、あやしい者ではないということを証明しなくてはいけないのだ。知らないうちに男に背負われているだなんて怖いだろう。
しかしその女の子、ルナさんはその場で頭を下げたのだった。
「ありがとうございました・・・。その・・・助けていただいたんですよね」
「え・・・あ・・・まあ・・・はい・・・」
誤解は解けていた・・・のだろうか。そもそも誤解なんてしていなかった、ということか。
「た、助けたって言ってもル、ルナさ・・・じゃなくてあなたはう、浮いていたみたいですし、たぶん俺が助けなくてもなんとかなったんじゃ・・・」
俺はそう言った。
謙遜、なんかではない。本当の事だ。あれだったら地面に激突することもなかった。ただただ俺が1人で慌てていただけなのだ。
そういう意味を込めて言った言葉に女の子は一瞬驚いたような顔をした。
そして・・・。
「そう・・・ですか。見られていましたか・・・」
今度は俺が目を見開く番だった。
今まで慌て過ぎて忘れていたが・・・いや、覚えていたが気にとめていなかったことがある。なぜ、この女の子は浮いていた、のか。それだ。
どうやらルナさんはそれを見られたくなかったようだ。
「あ、あれはですね・・・その・・・私は・・・」
「あの」
何か言おうとしたルナさんを遮る。
「あれってどうやってやるんですか?」
そして真顔で聞いた。
「え・・・」
「あの、手品とかじゃないですよねあれ!」
考えてみればありえない質問だった。
気にしていることをぐいぐいとえぐるような質問。でも少しだけ場に慣れた俺はそんなこともお構いなしに今まで探していた非日常を離さないように、食いついた。
浮いている。
そんなもの何か能力がないと無理だろう。パッと見、何か空飛ぶ機械のようなものを持っているわけでもないし、持っていたとしてもそれはそれでありだ。
そんな俺の反応が予想外だったのか、驚いたような顔をした後・・・ルナさんは静かに笑った。
気を遣ったような笑顔ではなく、心から安堵しているような笑顔。
俺は思わず見惚れてしまう。
「はい、手品ではありません。お礼と言うには申し訳ないものかもしれませんが、あなたが興味ある質問をしていただければ答えられる範囲で答えましょう」
正直、それが何よりのお礼だった。
俺は目の前におもちゃを置かれた子供のような表情で聞くに聞いた。正直うざいレベルだったと思う。でも止められなかったのだ。
俺が聞いたことはたくさんある。浮いたのはなんだったのか。どこから来たのか。なんで空から落ちて来たのか。というかそもそも病院とか行かなくてもいいのか?警察は必要か?など色々なことを聞いた。
それらの話を全てまとめてみるとこうなる。
「私は確かにこの地球という世界とは別の世界から来ました。ランドバハド・・・という世界から。・・・・・はい、ですよね。名前だけ聞いても分からないと思います。信じてもらえないかもしれないんですが、この世には3つの世界があるのです。1つは地球、もう1つはランドバハド、そしてアークラセル。その3つの世界はそれぞれ境界という不思議な空間を境にして存在しています」
「境界・・・そうですね。なんと説明していいのか分かりませんが・・・無限の境界、4つ目の世界とも言われています。入る方法も限られていて・・・入ったら最後どこまでも同じ景色が続く境界内を永遠にさまよう事になる、と。そういうわけで私自身もまだ境界の中は見た事がないのです」
「そもそもそんなつまらない場所ですから・・・余程奇特な方しかその中身に興味を抱かないんです。ですが、中に入って来て元の世界に戻れた人は皆無である、と都市伝説のようなものが残っています。あ、都市伝説という言葉は共通語みたいですね、よかった」
「そんな3つの世界の内、ランドバハドという世界から来たのが私です。いえ・・・厳密にいえばまたランドバハドから来た・・・というのも違うのですが・・・。ランドバハドには職業という特殊能力を用いて生活する人が住んでいるんです」
「ジョブ・・・職業ですね。その名の通りその能力で生計を立てている人だっているんですよ。物を浮かすようなジョブならば物を運搬する仕事とか・・・もちろん相手を倒すことだけに重きを置いたジョブだってあります。特殊なもので言うと霊と交信し、使役する死霊使いなんてジョブもあるんです。ははは・・・わ、私はオバケとか苦手なので実際に会ったことはありませんが・・・。夏なんかにはテレビの心霊特集などで引っ張りだこですよ。なんせ本当に霊を呼び出してしまうのですから・・・」
「はい、そうです、季節だってしっかりあります。夏の風物詩・・・それはこちらの世界でも同じようですね。心霊系あまり好きではありませんが・・・。氷結系の職業を持つ方のアイスとかかき氷なんてものもおいしいですよ。そう・・・戦いに使われるばかりが職業じゃないんです」
「ですから私たちは平和に過ごしていたんです。しかし・・・私がここに来るきっかけとなった事件がありまして・・・これはあんまり話しても面白くないので割愛・・・き、聞きたいですか。でも面白い話などではないので期待はされない方がいいかた思います・・・」
「実は私たちの国・・・いや、全ての国が今、危ないのです。そう、正義軍が動き出してしまった・・・とうとう、ついに」
「正義軍・・・とは名前だけ聞けばかっこよく聞こえる・・・・いえ、逆に胡散臭いですよね。しかし名前の通り正義軍とは真の正義を追求し、それを完成させるための軍なのです。いわゆるサークルみたいなものでゆるい活動しかしていない・・・そんな団体でした」
「そんな正義軍が最近になってとある正義を提示してきたのです。これが正義の完成系。これこそが目指すべき場所、そう言いながら提示した正義」
「当てようとしても難しいと思います。まだ、そこらへんの説明はしていませんから。正の力負の力が関係するのですが・・・それは後で説明することにします」
「正義軍が提示した正義とは・・・『みんなが常に笑って、幸せに暮らせる世界を作ること』。そう正義軍は提示したのです」
「確かに聞いただけではそれはとてもいい言葉、いい正義かもしれません。しかしその内容は恐ろしいものでした。『何が起きても笑い、そして幸せに感じる世界』。それが正義軍の目指していた正義、世界だったのです。何が起きても・・・・・そうです」
「人が怪我をしても、入院しても、廃人になっても、悲しくても、痛くても、悔しくても、上手くいかなくても、腹が立っても、骨が折れても、いじめにあっても、泣かされても、喧嘩しても、まずい物を食べても、疲れても、嫌でも、好きでも、幸せでも、不幸でも、嬉しくても、喜べても、頑張っても、頑張らなくても、成功しても、失敗しても、健康でも、病気になっても、感情を失っても、寝ていても、寝れなくても、食べ過ぎても、食べられなくても、手に入らなくても、手に入り過ぎても、苦しくても、気持ちよくても、人が死んでも、生まれても、目にゴミが入っても、ペットが死んでしまっても、小指をぶつけても、見たい番組が終わっても、見たい番組が始まっても、余命を宣告されても、休んでいても、休めなくても、忙しくても、血を流しても、爪が伸びても、傷つけても、傷つけられても」
「何があっても平等に、笑顔で、幸せに感じる世界・・・」
「そんな世界を彼らは提示したのです」
お久しぶりです。今まで書いていた本編の方が完結しましたので、今日からこの過去編も更新していきたいと思います。
とはいえ、本編よりもかなり短い・・・それもダイジェストのような内容となり、あくまで補完が目的の話なので本編ほどの長さには今のところならない予定です。
というわけで、本編を読んでいないと訳が分からない点などがあると思います。なるべく、そうならないように書いていくつもりですが、本編を先に見ていただければ幸いです。
プロローグも全て書き換えました。まるで違う話になっていると思います。もう一度見ていただければと思います。
ではまた次回。




