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第9話 Betrayal

 俺の元に心配そうに駆けつけてくれたのはルナさんとイメリアさんだった。俺の姿を見ると安心したように少しため息をついて・・・少しだけルナさんが怪訝そうな顔をしたのを俺は見逃さなかった。

 そして「井野宮さんあなたはなんの能力をもらったのですか・・・?」静かに聞いてくる。


「言霊使い、とりあえず即戦力になりそうなものをもらったんだけど」

「そう・・・ですか」


 どこか浮かない顔をしながら少し寂しげな顔をして・・・。

 ポケットから端末のようなものを取りだした。携帯電話・・・にとてもよく似ている。しかしその表面は不思議な光沢で見た事のない素材で出来ているように思える。


「はい」


 用途も携帯電話らしい。どこかのボタンを押して電話に出た。


『もしもーし』

「あ、あなたは・・・終ノさん」


 終ノ。

 俺が能力をもらっている間に何やら新しい仲間・・・のような人が増えたと聞いていたが、その終ノというのが新しい仲間なのだろうか。

 しかしルナさんは動揺している。


「今、どこに・・・?」

『ああ、それね。はやく君と戦いたいし、暇だったから正義軍のアジトの中に来ちゃった』

「え・・・」


 絶句。

 そんな言葉が似合う顔をしている。


『君たちを一度に連れてくると目立つし、裏切ったことがわかっちゃうし。大丈夫、今日中にリーダーを見つけ出して殺しちゃうから』


 ブツッ。

 電話の途切れる音がこちらにも聞こえて来た。ルナさんは先ほどよりも大きくため息をついて、「彼のことを少しだけ甘く見ていたかもしれません・・・」と呟いたのだった。







「さて、と」


 終ノは電話をしまう。

 ここは正義軍アジト。ランドバハドにある大きな工場のようなものではあるが、一度見ただけではまさか正義軍がここで活動しているとは思えない建物である。


 外見だけではなく、そう思わせるような結界みたいなものも貼っているのだが、仲間になったものにそれは通用しない。終ノはへらへらしながらアジトの中を進んで行く。

 人は少ない。アジトとはいえ、正義軍は今忙しい。ほとんどの人員が現場に行っているのだろう。それか・・・この工場の最奥か。


「あとで地図送っておこう」


 このアジトまでの道のりが描かれている地図をルナへ送る。これで彼女らもこの場所に来ることができるだろう。しかし・・・。


(こんなずさんな警備や秘匿でよくこのアジト今の今までバレてないよね)


 そう思う。

 まるで自分の家のように緊張感のない足取りで先に進んで行くと、今まで一度も見た事のない人影が目の前にあった。

 その人間を見つけて終ノは笑顔になる。


「やあ、なんだ君か」

「・・・・・」


 そんな変にテンションの高い終ノの言葉に無視を貫き通す1つの影。


「あれ、無視かい?」

「・・・・・何しに来た」


 170ぐらいの背丈。そして全身がフルアーマーで包まれている。何の素材で出来たものかは分からないが、不思議な光沢をしている。

 しかし不思議なのはそれだけではない。


 その鎧は間接部分も変な金属で包まれており、頭の装備には一切穴がない。これでは関節を曲げることもできない上に、まわりを見ることもできない。また息をするのも辛いだろう。

 それでもその男は静かに佇んでいる。


「相変わらず置物みたいだね。何しにって僕たちは仲間だろう?」

「・・・・・」


 スッ。

 先ほどまで終ノの頭があった場所を細い黒い槍が通り抜ける。

 関節までもが金属に包まれているはずなのに、きちんと曲げている。柔らかい素材なのか、とも思うがそれともちょっと違う。

 終ノは綺麗にその攻撃をかわしていた。


「危ないよ、急にさ」

「貴様はここで殺す」


 次は終ノの胸を狙った突き。

 しかし終ノは大きく後ろに転がることでギリギリその槍をかわした。すぐに体勢を整えた終ノは急にその場で空を蹴りあげた。

 もちろんそんな距離からでは蹴りは当たらない・・・が。


「・・・・・」


 キィインという金属音。

 靴に仕込んでいた包丁を蹴った勢いにのせて発射したのだ。その包丁は綺麗に相手の関節、肘を狙う。だが、そこにあるのも金属。綺麗に弾かれてしまった。


「やっぱりそこ柔らかいわけじゃないんだね」

「相変わらず・・・油断ならない奴だ」


 お互い対峙する。

 攻撃が一切通らないのに関わらず余裕そうな終ノの表情。それははったりめいた意味もあるがそれだけではなく、相手の能力が分かりやすいものだというのもあった。


 『槍使いランサー』。

 その能力は単純に槍を使うための能力。そのために身体能力が向上する。・・・程度のことだと思っていたのだが、どうやら先ほどのものを見る限りそれだけではないらしい。


「大方槍を使うためなら不可能を可能にする、というのもあるっぽいね」


 そう言いながらもう一度包丁を関節に向けて投げる。

 しかし弾かれた。金属甲冑ではあるが槍使いの能力によって自由に曲げたり出来るというものなのだろう。決して瞬間的に柔らかくなっているわけではない、というのが厳しいが。


「ふッ!」


 槍を使い相手も攻撃を始める。

 上段、中段、下段突き。高速で放たれるそれは常人にかわすことはできない。

 しかし能力のない終ノはそれを綺麗にかわしていく。


「殺意を持つ攻撃は僕に通用しない」


 誰よりも殺意に近い人間は誰よりも殺意を感じることに敏感だった。

 相手の動きは見えない。でも殺意は手に取るように分かる。だから身体的にも劣っている相手に対してここまで善戦しているのだ。

 終ノは戦闘中にも関わらずいつものように減らず口を叩いている。


「いきなり殺すだなんて物騒だよ。まずはゆっくり話し合いでもして・・・」

「お前が言うな」


 一蹴だった。

 槍が大きく振るわれる。


「おっとっと」


 終ノは緊張感のない口調でその攻撃をかわした。


「どうしたの?さっきから僕ごときに時間がかかり過ぎてない?一瞬で決めれないの?」

「お前を殺すにはお前のように何もない、無感情の攻撃をすればいいのだろうが、生憎そんな真似、普通の人間には無理だ」


 再び槍を握り、突きを何度も放ち続ける。


「危ないってば。というかそもそもどうして攻撃してくるのさ、僕たちは仲間だろう」

「お前が裏切ったからだ」

「・・・・・」


 一瞬、終ノの顔から笑顔が消える。

 しかし鎧の相手は小さくため息をついた。


「なんてそんな確証もない。俺はお前が必ず裏切るとふんでいるが、その証拠をつかんだわけでもない。ただ、個人的に気に入らないだけだ。それでお前が裏切っていればラッキー程度さ」

「無茶苦茶だなあ」


 終ノは笑う。

 相手は終ノが裏切っていれば始末したことに問題はない、もし裏切っていない場合、裏切っていたことにすればいい、そう考えている。

 説得は通用しない。いや・・・。


(僕には最初から説得なんて手段はないけど)


 異常な生業。

 人殺し特化の人間。

 そんな人間が人から見て正常に見えるはずがないのだ。見るだけで嫌悪感を感じ、話すだけで相手を恐怖に沈める。そんな人間の言う事を聞けという方が無茶な話なのだ。


「俺はお前を殺したいと思うほどに憎んでいる。別に家族をお前に殺されたとかそういう理由では無い。ただ単純に気に入らない。ぱっと入ってきたお前が我が正義軍で一番強いなどと、お前のようにへらへらしたやつが一番強いわけがない。それを俺は証明する」

「勝手に仲間割れしてリーダー怒らない?」

「お前を仲間だとは思っていない。所詮雇われだ」


 槍を両手に持ち構える。

 それは殺意を込めた一撃。終ノに殺意のある攻撃は通用しない。それでもその殺意で、殺したいという意思でその男は槍を構えた。


「正義軍、現2位、カルボドネ=イラーキ。お前を殺して俺が1位になる」




 

久々になってしまいました。次はもう少しはやく投稿できればいいな、と思っております。

よろしくお願いします。サブタイトルは裏切り、です。

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