ぼっち少女と雪うさぎ
少し前に投稿したのと同じ作品です。
間違えて削除してしまったのですが、下書きにデータが残っていたので再投稿します↓↓
「私は、別れたいって言ってるのよ?」
軽薄な笑みを浮かべる彼に、いつもより低く冷たい声で言い放つ。
「だからさ、俺は別れたくないんだよ」
薄茶色の眉をハの字にして、蒼太はいつもと変わらない調子で言った。
「付き合うのは一年だけの約束よね?」
「俺は、結衣さんと結婚したいって思ってるよ?」
「何度も言ってるけど、私は結婚なんてする気はないの。蒼太はモテるんだから、もっと素直で可愛いげのある子と付き合えば?」
「俺は、結衣さんがいいんだよ」
「でも私は、別れたいのよ」
「あーもう、埒が明かないな。暑いし疲れたし、続きは結衣さんの家で話そうよ?」
ヤレヤレと困り顔でため息をつく蒼太に、私は心の底からイラっとした。
ヤレヤレはこちらのセリフだ。
彼は、当たり前のように私の腰に手を回し「じゃあ、行こっか?」と言ってヘラリと笑った。
蒼太に初めて会ったのは、一年と数ヶ月前。
私は、中途入社してきた彼の教育係に任命される。
大学生みたいな雰囲気の彼を見て、厄介な仕事を押し付けられたと心の中でため息を吐いた。
その日は簡単に仕事の説明をして、蕎麦の美味しい店で一緒にランチを食べた。
それが良くなかったのかもしれない。
なんと、その日の帰りぎわに告白をされたのだ。
「結衣さんっ! 俺の彼女になって下さいっ!」
まるで土下座する勢いで彼は頭を下げた。
何度断っても何度もお願いされて、とうとう10回目の告白で私が折れた。
会社の人には絶対に秘密で、一年間だけなら付き合ってもいいと。
「一年後、やっぱり別れたくないって言わせてみせますからね!」
彼は嬉しそうに笑いながら、そんな事を言っていた。
あの時私は、ハイハイって冷たく返していたけれど、本当は、笑うと見える彼の八重歯が好きだった。
3ヶ月の教育期間が終わり、彼は頭角を現す。
軽薄な見た目に反して、とても優秀だったのだ。
教育係を名乗るのが恥ずかしくなるくらい、私よりも遥かに仕事が出来た。
色素が薄い長身のイケメン。
白い肌と明るい髪色、少し青みがかった神秘的な瞳。
日本人っぽい顔立ちに欧米っぽさが混じった容姿は、一見ハーフかクォーターのようにも見える。
性格も陽気で人当たりが良い。
何でもそつなくこなし仕事も完璧。
それはもう、間違いなくモテる。
だからさ、私じゃなくてもいいんじゃない?
もっと美人で性格が良い子はたくさんいるよ?
家に着くと、蒼太は慣れた様子でソファーに座る。
私は少し窓を開けて、メンソールのタバコを咥えた。
「やっぱりさ、俺は別れたくないんだよね」
エアコンのスイッチを入れながら彼は言った。
「私、仕事辞めるの。あと、遠くに引っ越すから」
フーっと煙を吐くと、少しだけ窓が曇った。
「遠くって、どこに?」
「まだ決めてないけど、人が多い所がいいな」
「この家はどうするの?」
「売るよ。もう必要ないから」
「おじいちゃんの家なのに?」
「おじいちゃんは、もういないもの」
「俺も付いていくからさ、一緒に住もうよ?」
蒼太は私のタバコの火を消して、背中に腕を回す。
本当に埒が明かない。と言うか話が通じない。
「私は別れたいのよ?」
「俺は別れたくないの。そもそも、結衣さんは何でそんなに別れたいの?」
「理由は言えない。けど、一年だけの約束でしょ?」
私は、どんな相手だろうと一年しか付き合わない。
これは自分で決めたルールだ。
期間限定の付き合いならば、別れるのも簡単だから。
ハマり過ぎないように互いに気を付ければいい。
それが嫌なら、最初から付き合わなければいい。
これから先もそうする。そう決めたのだ。
本当は誰とも関わるべきではないのだけれど。
一人でいるのは寂しいから、少しだけ寄りかかれる温もりが欲しかった。
だから決めたのだ。一年だけのルール。
なるべく深く関わらないように。依存しないように。
そして絶対に秘密がバレないように。
誰にも話す事の出来ないこの秘密がバレないように。
17歳の夏、私は化け物になった。
あの日から私の容姿は1ミリも変わっていない。
ずっと17歳のままで止まっている。
あの肉を食べてから、ずっと。
あれからすぐに化粧を覚えた。
化粧をすれば少しは大人っぽく見えるから。
でも35歳を過ぎた今では、もう限界だと思う。
さすがに童顔で済むレベルを超えている。
誰も私を知らない場所へ引っ越して、仕事も変える。
マスクで顔を隠すと、何故かますます幼く見えた。
ずっと変わらない少女のままの顔。
あれから私は一度も風邪を引かなくなって、怪我をしても一瞬で治るようになった。
だから17歳の夏、バレー部をやめた。
体育もほとんど見学をした。
怪我をしそうな事はとにかく避けて、人と深く関わるのもやめた。
「すまない。結衣………本当にすまん事をした」
おじいちゃんのしゃがれ声が今でも耳に残っている。
私が口にした干し肉は、ビーフジャーキーなんかじゃなかったのだ。
濃いピンク色をしていて、肉のような魚のような不思議な味がした。
戸棚の奥に入っていたから、変な物だなんて思わなかったのだ。
よくある酒のつまみかと思った。
だから、少しくらいなら食べてもいいかと思った。
委員会と部活があったから、お腹が空いていたのだ。
寄り合いから帰って来たおじいちゃんは、干し肉を手にした私を見て叫び声を上げた。
慌てて紙袋ごと奪ったけれど、もう遅かったのだ。
だって私は食べてしまったから。
不老不死の妙薬と言われる人魚の肉を。
その肉を食べた者の運命は、二つのうちどちらかだ。
即座に命を落とすか、永遠の命を手に入れるか。
運が良かったのか悪かったのか、私は永遠の命を手に入れてしまった。
それはすなわち、人ではなくなるという事だ。
私は、小学四年生の時に両親を事故でなくし、祖父の家に引き取られた。
祖父の家は海のすぐそばにある。
当時、祖父は現役バリバリの漁師で、祖母も少し前までは海女をしていたらしい。
祖母は料理上手で、とれたての魚は美味しかった。
元々両親は不仲で、子供に関心がある人達ではなかったから、私は祖父の家に引き取られて幸福だった。
潮風は心地良いし、近所の人達も親切だったから。
穏やかで優しい時間は突然終わりを告げる。
祖母には持病があって、私が中学三年生の時に亡くなってしまったのだ。
「高校生になった結衣ちゃんの制服姿が見たい」と祖母は何度も言っていた。
結局、見せてあげる事は出来なかったけれど。
お葬式はたくさんの人が来た。
祖母は優しくて面倒見の良い人だったから、みんなから惜しまれながら逝ってしまった。
おじいちゃんは酷く落ち込んだが、私のために漁師を続けてくれた。
「お前を大学に行かせるまでは頑張るからな」と言って少し痩せた顔で私を安心させるために笑ってくれた。
「私も頑張るからね! 家の事ちゃんとやる。おばあちゃんみたいに、上手に出来ないけど…」と返したら、おじいちゃんはゴツゴツした手で頭を撫でてくれた。
高校生活は、家事や部活や勉強で大忙しだった。
でもそれは充実した忙しさで、学校は楽しい。
勉強は面倒くさいけど、仲の良い友達が出来たから。
放課後、バレー部の隣で練習している男子バスケ部を覗き見ては友達とキャーキャー騒いだ。
カッコイイ先輩がいたから、推しのアイドルに会えるみたいで毎日嬉しくて楽しかった。
まだ化け物になる前の、何でもない私の日常。
おじいちゃんがその肉を手にしたのは、おばあちゃんが亡くなった直後に上陸した台風の時だったそうだ。
船の様子を見に行ったきりなかなか帰って来なかったから、心細くなったのをよく覚えている。
おじいちゃんは、ずぶ濡れのレインコートを脱がずにしばらくボーッとしていた。
大丈夫かと尋ねたら、船は大丈夫だったと答えてすぐに寝てしまった。
だから私は何も気付けなかった。
あの時おじいちゃんは、怪異に遭遇していたのだ。
船を貸してほしいと黒ずくめの男は言った。
海は酷く荒れていて、船を出すなんて絶対に無理だと思っているのに、何故か断る事が出来なかったそうだ。
黒ずくめの男は、そんな祖父を見てニタリと笑った。
得体の知れない不気味な笑顔に怖気が走る。
してはいけない事をしているような罪悪感と恐怖心で震えが止まらなかったそうだ。
男は船に乗ると、大荒れの波をものともせずに異様な速さで沖へと向かっていった。
あっと言う間に見えなくなって、そしてふと気付くといつの間にか男は戻っていたらしい。
男は船からズルズルと何かを引きずり下ろし、それを肩に担いだ。
ぐったりと動かないそれは、真っ黒な虚な目で祖父を見ていたそうだ。
足がガタガタと震えて腰を抜かしそうになった。
もしかしたらもう、生きていないかもしれないそれは、まるで責めるようにじっとこちらを見ている。
人のようで、明らかに人ではない生き物。
男は祖父を見てニタリと笑い、その生き物の尾びれを切り落とした。
ボタボタと赤い血が垂れる。
土砂降りの雨は、まるで何事もなかったかのように鮮やかな血溜まりを消していく。
「船を借りた礼だ」
男は切り落とした尾びれを祖父に差し出した。
そんな物は要らないと心の底から思っているのに、その気持ちに反するように体はそれを受け取った。
たぶんこれは、人が手にしてはいけない物だ。
そう分かっているのに、体はしっかりと大事そうにそれを抱えて離そうとしない。
男の姿はいつの間にか消えていた。
腕の中には血生臭い魚の尾びれがある。
こんな物、このまま海へ投げ捨ててしまえばいい。
そう思うのに体が動かない。
祖父は仕方なくそれを持ち帰り、物置小屋に隠した。
その尾びれは何日経っても腐る事はなかった。
祖父は毎日、魅入られたようにそれを眺めた。
これは人が手にしてはいけない物だと分かっているのに、どうしても手放せなかったのだ。
それから数ヶ月後、物置小屋で猫が死んでいた。
尾びれを入れていたビニール袋が破かれていて、肉をかじったような跡が残っていた。
やはり、あの言い伝えは本当だったのだろう。
人魚の肉を食べた者の運命は二つのうちどちらかだ。
即座に命を落とすか、永遠の命を手に入れるか。
祖父は庭で火をおこし、ウロコと骨を外した人魚の肉を煙で燻した。
そして、水分がなくなって小さく固くなったそれを袋に入れて仏壇の奥に隠した。
食べようだなんて思わない。
そんな事、恐ろしくて出来ない。
そもそも永遠の命なんてほしくはないし、今すぐ死ぬ訳にもいかないのだ。
結衣が大人になるのを見届けてから、天寿を全うして死にたいと思う。
それなのに、肉を捨てる事がどうしても出来ない。
毎日、紙袋を取り出して中身を見つめる。
誰にも見つからないように、知られないように。
おかしな事をしている自覚はあった。
もしかしたら自分は狂っているのかもしれない。
その日は、盆の準備で仏壇の掃除をした。
あの肉が入った袋は、ひとまず戸棚の奥にしまった。
掃除が終わったら戻すつもりだったのだ。
結衣があの紙袋を持っているのを見て、頭が真っ白になった。
嵐の日に出会った、あの不気味な男の薄気味悪い笑い顔が脳裏に浮かぶ。
「ごめんなさい、おじいちゃん。これ、食べてはいけないやつだったの? 」
結衣の瞳が心配そうに揺れている。
違うんだ結衣、これは、これはな………
膝がガクガクと震えて立っていられなかった。
俺は、とんでもない事をしてしまった。
「すまない。結衣………本当にすまん事をした」
おじいちゃんは深くうなだれて、声も震えていた。
人魚の肉とか不老不死とか、まるでアニメや映画の話みたいだなと、私は他人事のように思った。
でも、真面目で男気のあるおじいちゃんが、こんなに怯えて震えているのだ。
きっとこれは嘘や冗談ではないのだろう。
おじいちゃんが辛そうだったから、私は平気なフリをした。
不老不死になれるなんて、むしろラッキーだよって。
でも、おじいちゃんにはバレていたと思う。
本当は怖くて泣きそうなくらい不安だって事が。
不老不死っていつまで続くのだろう?
私だけ一人でずっと生きていくの?
どうやって?
誰かにバレたらどうなるのかな?
こんなのもう人間じゃないよ。
そうだ…………化け物だ。
私は、化け物なんだ。
誰にも知られてはいけない。絶対にだ。
映画だと、こういう存在は封印されて終わる。
だって殺す事が出来ないから、封印するのだ。
きっと私は、崖から突き落とされたって剣で刺されたって死ぬ事はないんだ。ただ痛いだけ。
水に沈められたって同じ。ただ苦しいだけ。
燃やされたって、きっとすぐ元に戻る。とても怖くて痛いだろうけど戻ってしまうのだ。
1ミリも変わらない17歳の私に。
だから人と関わってはいけない。
もしバレたら、大変な事になってしまうから。
どんなに私を好きだと言う蒼太だって、きっと真実を知ったら私を恐ろしいと思うだろう。
人間とはそういうものだ。
自分と違うモノを決して受け入れてはくれない。
蒼太の唇が私のつむじに触れる。
背の高い蒼太は、私のつむじが可愛いと言って、いつもキスをくれるのだ。
どんなに離れがたくても一年間のルール。
これを破ってしまったら、きっともっと不幸で残酷な未来が待っている。
「ねぇ、蒼太………本当に無理なのよ」
貴方の事が好きだから一緒にいる事は出来ない。
これ以上一緒にいたら、きっともう離れられなくなってしまうから。
好きな人から恐れられる未来を、私は受け入れる事が出来ない。
「結衣さんは、俺の事が嫌いになったんですか?」
「そ、そう…ね。そう…なの。嫌いになったの」
「嘘ばっか。本当は俺の事が好きなくせに」
「嘘じゃない! 私は本当に別れたいって言ってるのよ」
「俺の事が好きなのに?」
私を抱きしめる力が強くなって、甘く優しい彼の声がつむじから耳へと伝わる。
「わ、私は、別れたいのよ。だ、だって一年だけの約束でしょ?」
「別れたい理由ってもしかして……人ではないから?」
「……………え?」
今、なんて言ったの?
人ではないって…………言った?
咄嗟に蒼太の胸を強く押し退けて、抱きしめようとする腕から逃れた。
「痛いな〜もう、結衣さん酷い!」
蒼太は胸をさすりながら、恨めしそうに私を見た。
「だ、だって、蒼太が、おかしな事を言うから……」
「あ、やっぱり図星でした?」
蒼太は、何でもない事のように楽しそうに笑った。
「ど、どうして…………」
どうしてバレているの? いつから?
心臓がバクバクと早鐘を打つ。
その瞬間、体が硬直した。
ゆらり、ゆらり、ゆらり
蒼太の綺麗な青色の瞳が、深く静かな闇を帯びる。
薄い唇が弧を描き、見た事もないような妖艶な笑みを浮かべた。
ゾクリと肌が粟立つ。
あれは、誰?
早く逃げろと脳が信号を出している。
これは、命の危険を警告する防衛本能だ。
不老不死になってから、ずっと忘れていた恐怖。
足が震えて動けない。
まるで大蛇に睨まれた蛙のように、目の前の男がとても恐ろしい。
きっと彼は、私を簡単に殺す事が出来るだろう。
どうしてだか分からないが、一瞬で理解した。
ボロリと涙が溢れる。
きっと逃げる事なんて出来ない。
力の差は歴然だもの。
どんなに抵抗しようと、私は彼には敵わない。
「うわぁ! ごめん、泣かないでよ〜結衣さん!」
間の抜けたような、いつもの蒼太の声が聞こえた。
私はホッとして、余計に涙が止まらなくなった。
「ごめんね? 怖がらせちゃたかな? 俺、少し張り切り過ぎたかもしれない……あー本当にごめん!」
へたり込んだ私の前に正座して、必死に謝る蒼太。
いつもの蒼太なのに、震えも涙も止まらない。
「ごめん、結衣さん! 本当にごめんなさい。こんなはずじゃなかったんだよ〜! カッコ良く決めるつもりだったのに! ま、まさか嫌いにならないよね? 俺、怖くないよ? ほら、泣かないで? ね? えーと、あ! 雪うさぎ! 結衣さん、冬に雪が降った時にさ、雪うさぎを作りたいって言ってたよね? あの時は、途中から雨になって作れなかったけど、俺、密かに練習したんだよ!」
そう言って、蒼太は雪の塊りを差し出した。
それはまるで芸術作品のように美しい雪のうさぎ。
今にも動き出しそうな程リアルな雪の彫刻だった。
「………これ、雪うさぎ…じゃない……」
「いや、雪うさぎでしょ? どう見ても!」
「私が作りたかったのは、大福みたいに丸くて、赤い実の目と葉っぱの耳のやつ……」
「え………そうなの?」
蒼太は、優秀で仕事も出来るのに抜けているのだ。
今にも動き出しそうなほどリアルな雪うさぎを見ていたら、ジワジワと笑いが込み上げてきた。
「わ、笑うなよ! ちょっと間違えただけだろ?」
「うん、これ凄いね。美術館に展示できそう」
「めっちゃ練習したんだよ! 結衣さんを喜ばせようと思ってさ、まさか笑われるなんて思わなかったけど」
「ごめんね。嬉しいよ、ありがとう」
「嬉しい? なら、俺と一緒に引っ越す気になった?」
「あ、えっと……あ、あのさ……蒼太って何者なの?」
「俺? 俺はね、雪女の血を受け継いだ雪男だよ」
「………ゆ、雪男?」
「うーん、正式名称は分からない。そもそも雪女の能力を持った男っていないらしいから」
「え、そ、そうなの?」
蒼太の先祖には雪女がいて、どうやら蒼太は先祖返りをして能力を受け継いだそうだ。
だから、蒼太以外の家族は普通の人間らしい。
「雪女ってさ、めちゃくちゃ愛が重いんだよ。好きな人間の子供だって産んじゃうし、好きな相手が振り向いてくれなかったら、凍らせて殺しちゃうくらいにね」
蒼太は私を立たせてから再び抱きしめた。
そしてまた、つむじに何度もキスをする。
「だから、結衣さんは俺と別れる事は出来ないよ。だって俺は絶対に結衣さんを手放さないから」
「それでも別れるって言ったら、私を凍らせるの?」
「え? いや、それは無理! 結衣さん凍らすとか無理! だって別れないから!絶対別れないからね? それに、俺と一緒にいたらお得だよ? 俺は人間界で生き抜く術を知ってるし、妖怪の知り合いもたくさんいる。結衣さんが末長く人間界で暮らしていけるようにサポートする自信があるんだ!」
「………あ、あのさ、蒼太って本当はいくつなの?」
「俺は、たぶん112…? いや、116歳かな?」
「ひゃ、116歳っ!?」
「でも、妖怪の中では全然ひよっこだよ。最低でも五百年は生きないと一人前って認めてもらえないから」
「ご、五百年……?」
「座敷童子の姉さんは平安時代から崇められているし、九尾の旦那だって室町時代から幅を利かせているしね、天狗の奴らも江戸時代くらいから勢力拡大してる」
「よ、妖怪って本当に実在するの?」
「結衣さんだって、その一人でしょ? まだまだヒヨコにもなってないタマゴだけどね」
「わ、私って妖怪のタマゴなの?」
「そうだよ。俺さ、初めて結衣さんに会った時の衝撃を一生忘れられないと思う。俺だけのタマゴを見つけた! って体に電流が走ったんだ。だから、大事に育てて死ぬまで絶対に離さないって決めたんだよ。もちろん顔も体も凄く好みだし、ツンデレなところも良い! アレの相性だって抜群だし、もう可愛い過ぎてヤバイ。もし浮気なんてされたら、間違いなく相手の男を殺すと思うよ」
「………………」
蒼太ってこんな人だったの?
私は、彼を全く理解していなかったのね。
何というか、チャラい見た目に反して愛が重い。
「私が上手に生きれるように助けてくれるの?」
「もちろん! 全力でサポートするよ!」
「妖怪の友達にも会わせてくれる?」
「い、いや、それは、うーん………」
「ダメなの?」
「いや、ダメではないけど天狗はダメ! アイツら女好きだから絶対ダメ! 結衣さんめっちゃ可愛いから、かどわかされて嫁にされる! しかも、アイツら商売上手だから無駄に金持ちなんだよ。 あーダメダメ無理! 座敷童子の姉さんと化け猫娘はいいけど、九尾の旦那もダメだな。イケメンで色気が凄いから会わせたくない!」
私は蒼太の話を聞きながら、少し溶け始めた雪うさぎを冷凍庫にしまった。
彼はその後もずっと重過ぎる愛について語りながら、何度もつむじにキスをする。
私を見つけてくれた軽薄そうな雪男は、私の心に張った分厚い氷を溶かしてくれた。
引っ越し先はこれからゆっくり探そうと思う。
2人で快適に過ごせる、少し広めの部屋がいいな。
それと、新たな雪の作品を入れるための大きな冷凍庫も買わないとね。
最後までお読みいただきありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
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