鬼面鬼
はらはらと、雪が降る。
漆黒の夜闇に勢いよく燃やされた炎が躍っている。その緋色の輝きに照らされて、雪もまたあかがね色に煌めいていた。
ずらりと並んだ人の群れ、その先頭に押し出されたのはまだ幼い少年だった。少年と炎を挟んで座る老婆が低い声で唱える。
「とおかみ、えみたまえ。とおかみ、えみたまえ。とおかみ、えみたまえ――」
じゃらりと白い布の上に筮竹が撒かれた。
*****
「六花、おいで」
柔らかい、しかし有無を言わさぬ青年の声に、六花は軽く頭を下げて了解したことを示した。荷物を抱えて声の主に近寄る。そのまま青年は六花の手を握って歩き出した。そうすることが当然だとでもいうように。
「主様、今日も気配が」
「んー、その呼び方は好きじゃないなあ。毎日言ってるけどね、六花はどうして学舎に行ったら忘れてしまうのかな」
うなじでくくった黒髪を揺らして、青年は笑顔で振り返る。
「……申し訳ございません、廉様」
街の中にある学舎は、読み書き計算から人の世の理の凡そのことまでを習う手習い所だ。六花の主人である目の前の青年も四年前まで通っていた。六花も今年で最終学年である。
人の世の八卦を守る艮の地の街、この地は鬼門と接していた。この地と対になる坤の地が裏鬼門、共に黄泉の国との数少ない接点である。
艮の里の民の役目は、鬼門から人の世に押し入ろうとする黄泉の軍勢を阻むこと。鬼門も裏鬼門も実態はどうあれ「門」と呼称されるだけあって、軍勢が一気に押し寄せることはできない幅の道であった。
さて「鬼門」と別称されるだけあって、この地に元々住んでいたのは主に鬼族、他に牛の妖族、虎の妖族である。黄泉の国からやってくる餓鬼をテキトーに遊んで、たまに通り過ぎるのを見逃していた。
そこに人の都が八卦の中央に築かれてからやってきたのが術者――人間達だった。
当然ながら争いが起こった。長くなる上に意味のない内容なので、詳細を省いて結果だけ言うと、何やら面妖な術を使う人間達が勝った。まあそもそも八卦に守られた安全な土地を出て妖に挑もうというのだから、全く勝算がなかったわけでもなく、もちろん普通の人間達ではない。彼らは陰陽師だったのだ。
それから時は流れ現代、陰陽術者たちと妖達は卜占により相性の良い相手を見定めて契約を交わし、共に黄泉の軍勢を阻む運命共同体となっていた。
六花の手を引いて歩く多紀廉太郎は艮の地の神宝「冬星」に選ばれし術者である。五歳で神宝に選ばれ、同時に卜占による妖の選定もした。そこまでは良かった。
それが十五年経って、まさかこんな状況になるとは誰が予想しただろうか。
六花が思いを馳せようとしたとき、かんかんかんかんと物見櫓から警戒の鐘が鳴った。六花は素早く気配を探る。
「廉様、門の外に気配が。術者も妖達も気づいて集まってきております」
「ふうん。餓鬼は今日は何匹だい?」
「十ほどかと。斥候でしょう」
えーどうしようかなあなどと嘯く主を追い立てて、六花は街の門へと急かす。随一の術者である廉太郎がいるといないとでは士気に関わる。
「少し大きな気配もいたします、お早く」
学舎で使う教書も持ったまま、六花は廉太郎の手を引いた。
「やれやれ、働き者だねーうちの奥さんは」
「誰が奥さんですか。冗談言ってないで走ってください。うちの族長や、牛頭や水虎達の気配もします」
「え、じゃあ僕意味なくない? 過剰戦力じゃない?」
埒が明かないと判断した六花は、文句ばかり垂れ流す二十歳前の、自分より背丈が高い男を肩に担いだ。鬼族の剛腕である。とはいえ妖なら大体人間より腕力脚力が優れているものだ。
「だってさー行ってもさーまた六花があれこれ言われるよー」
「私のことはいいんです。さ、跳びますからね。舌をかまないようにお願いします」
軽く助走をつけて学舎の門を飛び越える。そのまま家屋の屋根伝いに軽快に跳ねていく。
「廉様、ご準備を。あと二つ跳べば門外です」
「そう言うならせめて横抱きにしてくれないかな……」
文句を垂れつつ、六花は慣れ親しんだ気配を感じて微笑み――門の隔壁に立つと同時に、主人から手を離した。
「離すなら離すって言ってよおおおおおー……」
ちょっと情けない声と共に落下していく主。大丈夫、主の鍛え方ならこのくらいの高さでは死なない。
「おお、来てくださったか!」
大音声は鬼族の族長だ。
「いや今日は僕たち要らないでしょコレ」
「大物が三体ほどおりましてな、手こずっておるところでしたぞ!」
無事に着地したらしい主の声と、騒がしい族長のイマイチ噛み合ってない会話を聞きつつ、六花は人に非ざる跳躍力で、上空へ跳んで巨大な妖の全容を眼下に一望する。
「縛鎖!」
六花は名の通り雪の鬼。冷気を身の内から生じさせ、寄り合わせ鎖へ変じさせる術を使う。地面から生えた氷の鎖は凍気を放ち、餓鬼を凍てつかせながら動きを止めさせた。
その位置、廉太郎の目前である。
「ねえこれ主人と契約妖の立場逆じゃない?」
言葉とは裏腹に、およそ戦闘中とは思えぬ柔らかな笑みを見せた廉太郎は、踏み込みと同時に、巨大な刀へと変化させた冬星を振り抜いた。
餓鬼は倒してしまえば塵になるので、掃除をしないで済むのがこの戦闘の楽なところである。
仲間に撤収を呼びかけながら、焔は自分の主人を探す前に赤い面が目についた。ぎり、と奥歯が鳴る。
ずかずかと近づいたその相手の鬼は、短く二本の角が生えた赤い鬼面をつけていた。面をつけているから、どんな表情でいるかはわからない。
「お前、今日も廉太郎様と餓鬼の距離がぎりぎりだったな、六花」
「――はい」
「まだ鬼火も使えないのか」
「はい」
「あんな小手先の技で同情を引こうなんで思うなよ!」
つい、気が高ぶってその肩を掴んで引き倒した。抵抗もなく倒れた鬼面の、その歪みを直しながら彼女は再び立ち上がった。
「はい」
「――っ、なんでお前なんかが廉太郎様の鬼なんだか」
「はい」
はいとしか返事をしない、面で隠された六花のその額には、鬼としてあるべきものがなかった。街全体が周知の事実だ。
普通は齢七つを数えれば自然と生えてくる鬼族の角。十五を迎えた六花の額には未だそれが生えていない。よって鬼火も使えない。結界や障壁を張れるわけでも、焔たち他の鬼のように鬼火や雷を操って餓鬼を燃やしたりできるわけでもない。生来彼女が使えたのは、鬼族としては特殊なことに冷気だけ。縛鎖は、そんな六花が使えるよう習得した唯一の術だった。
『角のない鬼なぞ鬼族の恥』
鬼にとって角は霊力の象徴だ。だから鬼族の族長はそう言って、六花に角の生えた鬼面をつけるよう言いつけた。
「ねえ、そこまでにしてくれる?」
声と共にいっそ鮮やかに静かな勢いで、焔の喉元に刃が当てられた。
「君さあ、いっつもうちの奥さんに絡んでくるよね。僕、寝取る趣味も寝取られる趣味もないんだけど」
「誰が奥さんですか。何度も言わせないでください」
「しかも今、肩触ったよね? 触って押し倒したよね?」
「誤解を招く言い方はおやめください。『冬星』をお引きくださいませ。仲間に向けるものではございません」
「僕の六花を押し倒そうとした奴なんか仲間じゃ――」
「はーいはいはい、そこまで」
能天気な声と共に眼鏡をかけた青年が割り込んできた。殺気立つ廉太郎にも動じない胆力の持ち主――廉太郎の同期、朔である。
「ごめんねーうちの焔がいつものごとく六花ちゃんに絡んじゃって。俺に不満があるわけじゃないけど、とにかく六花ちゃんが気に入らないんだってさ。……まあ俺も、廉太郎の妖がなんで、とは思うけどね」
なんで、の続きは言うまでもない。
十五年前の卜占の時も皆が結果に驚愕した。生まれたばかりの赤子の鬼、しかも冷気を纏った、間違いなく異色で、気配も弱弱しい、強くなりそうにもない鬼が、廉太郎の契約妖として示されたのだ。
あまりのことに、毎年占い直しまでされている。けれど結果はいつも同じ。
卜占の結果は変わらない。廉太郎の妖は六花だ。角も生えない、使える術は一つだけ。鬼族なら幼児でも扱える鬼火さえ従わせられない、鬼面をつけさせられた出来損ないの鬼――。
「まあ言ったところで変わらないんだし、帰るよ焔」
眼鏡の奥の冷たい視線と、憎しみに近い感情を宿した眼差しと。両方を鬼面で受け止めて、六花はそっと会釈した。
「あいつ、毎回焔が六花に絡むのを止めないんだ。わかっててやらせてる」
「廉様。お収めください、皆が怯えています」
どれだけ影口を言われても、廉太郎のことを廉、と呼ぶ許可があるのは六花だけだ。六花にはそれで十分だった。
「私達も帰りましょう。今日の夕餉は何ですか?」
六花は鬼火どころか、火の扱い全般がてんでダメである。なぜかどんな手段を使っても火が熾せない。だから両親が死んだ後は、押しかけるように同居を始めた廉太郎が火を使う家事全般を担っていた。炊事と風呂炊きである。
「今日はねえ、いい鰤があったんだ。取っとくように魚屋の女将さんに言って、金子も置いてきたから、こないだの大根と合わせてぶり大根にするつもりだよ」
先ほどまでの殺気立った気配をけろりと消して、廉太郎は笑顔で語る。またこの男、転がり込んできたころから妙に料理が上手であった。
「まあ、ぶり大根ですか。鰤なんて久しぶりですね。楽しみです」
海から離れたこの地では、流通する魚自体がほとんど干物だ。生で届くなんて珍しい。
「多紀の若様と六花かい。取っといたよ、あれ」
「ありがとうございますー」
こういう時、街の人と話すのは大体が廉太郎だ。大抵の人は――妖も――六花と口を利くのを嫌がる。廉太郎が学舎に行く時以外では六花に付きまとっていることも大きい。氷に漬けられた切り身を半分、見た目だけは細い腕で箱ごと持ち上げて、六花は黙って頭を下げる。
そして家に帰り着く。六花の両親は、純血だがあまり力の強い鬼ではなかった。双方ともに短めの一本角。鬼族の強さは角の長さと本数で決まる。それを反映するように、長屋も古く狭い。
「ただいまー」
狭苦しい暗い長屋に明るい声が響く。同居の際には鬼族の族長まで出てきて、廉太郎に翻意を促したが、普段はちゃらんぽらんしているこの男が存外に頑固者だったと、そこで初めて皆は知ったようだった。もちろん、その時に六花に言えたのは「主様の仰せのままに」だ。契約妖は主に逆らえない。弱い鬼などお捨て置きくださいませと言えたらどんなにか気が楽だったか。
「その可愛くない面も外すよ? 外であれだけ暴れて汗まみれだろうし」
「そのようなお気遣いは無用です」
六花の言葉を無視して、廉太郎は鬼面の紐に手を伸ばす。しゅるりと紐がほどける音がした。
鬼面を外せば、色白の小さな顔があらわになる。名の通り雪のようなきめ細かい白い肌、黒髪は廉太郎がどこぞから手に入れてきた美容の香油とやらで手入れされて美しい。ほんの少し釣り目気味な大きな瞳は黒。角がないため、このまま街に出れば町娘で通るだろう。十歳で角が生えるのを諦められてから鬼面をつけるようになったため、今の六花の顔を知る者は誰もいない。
こうして手づから鬼面を外す主以外は。
「あいつに触られたのは……右肩だったね」
さわり、と大きな手が六花の右肩を撫でる。
「廉様」
六花は嘆息した。この主のこういうところが困ったものである。
「先に湯あみをしよう。汗で冷えては大変だ」
「え、嫌です……」
「わがまま言わない」
そう言って連れ込まれた先でナニがあったかは割愛する。
久しぶりのぶり大根は、六花の好物の一つだ。妖好みの薄すぎず濃すぎない味付けがまた堪らない。
「とても美味しいです! いつもながら廉様の料理は一級品ですね!」
「そうかい? そう言われると頑張った甲斐があるものだね」
六花が両親を亡くしてもまっとうな暮らしをできているのは、ひとえに廉太郎の妖だからだ。もっと言えば、周囲の反対を押し切って廉太郎がこんなあばら家みたいな家に引っ越してきてくれたからだ。それくらい六花だってよくわかっている。
「私、次の戦闘ではもっとお役に立てるよう頑張りますね」
ひもじい思いをして育った六花の胃袋は、完全に廉太郎の料理に陥落していた。
かんかんかん、と鳴り響く警報は、珍しいものではない。だが今日のそれは嫌に長かった。
「行こうか、六花」
いつもは行きたくないと駄々をこねる主が、珍しくやる気を見せたのを見て、六花は只事ではないと気配を探る。
「総勢五十を超えています。こちらの全戦力を合わせても五分五分です」
「だろうね」
「では失礼して」
六花はいつものごとく主を肩に担ぎ上げる。
「その、この態勢は改善されないのかな……」
「何か支障がありますか?」
「いや色々カッコつかないじゃん」
もはや返事をするのもバカらしくて、六花はそのまま跳躍した。
街を囲む隔壁の向こう、餓鬼の気配が今までになく色濃く感じられる。
「向こうもそろそろ本気ってことかな」
「本隊というには数が少なすぎる気もいたしますが……」
「こっちの手札を見たいんだろうね」
黄泉の国の女神は、餓鬼を通してこちらを見ているのだろうか。生まれた時から餓鬼は倒すべしと育てられた世代の六花にはよくわからない。
「六花、今日は門の前じゃなくて一緒に着地しよう」
「珍しいですね。ですがあなた様をせめて最小限に動かすのが私にできることなのですが……」
「そんなこと言ってる場合じゃなさそうだよ」
今まで感じたことのない濃厚な餓鬼の気配に、六花の決断は早かった。
「本当によろしいのですか?」
「僕を誰だと思ってるんだい。これでも『冬星』の使い手だよ」
不敵に笑ったその声を、信じた自分が馬鹿だったと、後から六花は後悔する。
二人が到着した時、既に現場は混戦状態だった。大小さまざまな餓鬼があちこちでちょこまかしている。
「来よ、白銀の剣――天より注ぐ矢羽根となれ!」
廉太郎の詠唱と共に、上空に一斉に白銀の剣が出現する。艮の街の術者も妖も巻き込まれるような愚は犯さない。白銀の剣は正確に餓鬼だけを貫いた。
「多紀殿!」
「少し遅参したが、敵戦力はだいぶ削いだぞ」
廉太郎が振り返った、その時だった。
「多紀さま!」
「危ない、後ろ!」
どうやって気配を隠して接近したのか、大型の餓鬼が一匹、背後に迫っていた。
(しまった――!)
六花は縛鎖を発動しようとしたが、間に合わない。
「六花!」
肉が絶たれる音が、した。
「れ……ん、さま?」
六花に向かって倒れこむ体躯。受け止めた手には熱く、ぬるつく感触。
「れん……れんさま!!!」
腕の中で真っ赤に染まる襟元を見た瞬間、六花の視界も真紅に染まった。
焔は、廉太郎を抱いた六花が慟哭し、その髪の色が毛先からさっと白銀に変わるのを見た。ぶちりと何か布のようなものが切れた音がしたのも聞こえたし、からんと妙に高く澄んだ音をたてて見慣れた赤い鬼面が砕けたのも見えた。
次の瞬間に襲われたのは、横殴りに荒れ狂う暴風雪。視界の端でぴしぴしとなすすべもなく凍てついていく餓鬼たち。
その中心には、左右に二本ずつ、合計四本の角が生えた女鬼がいた。
「――――っ!」
主を傷つけられた怒りに、霊力が呼応して白銀の髪が揺らめく。
「長、あれは六花なのか――」
「わかっとる!」
大音声が売りの三本角の鬼族の頭領も、暴風雪ではまともな会話がやっとだ。
「あれは――氷鬼だ! だからこそ封じの面をつけさせていたのだ! そうでなければ街中凍る!」
そう――鬼火は六花に従わないのではない。従ってもすぐに消えてしまうのだ。彼女が異形の鬼、「氷鬼」だったために。近寄れば鬼火ごとき、一瞬で消されてしまう。あまりに速くて誰もそれを認識できないほどに。
「総員、街の結界内へ入れ、凍るぞ!」
鬼の長の怒号がかろうじて響いた。
「六花、もういい。僕は大丈夫だよ」
嘘。嘘。だってあんなにたくさん血が溢れていた。人間は血が流れるとすぐ死んじゃうって知っている。
「ああ、やっとその姿を見せてくれたね。いつもの黒髪もつぶらな黒い瞳も可愛いけど、しろがね色の髪も、どんな鬼火より青い瞳も素敵だよ」
深手を負っているにしては能天気すぎる言葉に、六花ははたと瞬いた。腕の中の主が、よいしょと起き上がる。
「君の霊力のおかげだ。僕と君は霊力の相性が良いからこそ契約している。君がそれだけ霊力を解放していれば、こんなかすり傷、すぐに塞がるよ」
「ほん……ほんとう、に?」
「もう痛くも痒くもないよ。むしろ今までにないくらい霊力が漲っている」
「わたし……私の、これは」
「やっと氷鬼としての覚醒を迎えたんだよ。見てごらん、餓鬼どもが一網打尽だ」
一匹残らず凍り付いた餓鬼達を倒すのは容易いだろう。けれど。
「私、……ずっと、足止めしかできなくて」
それがどれだけ情けなかったことだろう。神宝の主の妖なのに、まともに術もできなくて。
「大丈夫だ。これから力の制御を覚えていこう。僕がついてる」
その言葉に、六花はふっと力が抜けるのを感じた。白銀に染まっていた髪が黒に戻り始める。
意識を手放した片割れを抱きしめて、廉太郎は凍り付いた餓鬼へと向き直った。
*****
餓鬼の大量襲来から数日。今日も今日とて廉太郎は六花の実家の厨に立っていた。ふと、竈で燃え盛る炎を見つめる。それは十五年前の卜占の儀を思い出させた。
「遠神、恵み給え……ね」
陰陽五行の原則に反する存在である氷鬼が、神宝の主の契約妖。これは偶然か必然か、はたまた神の悪戯か――。
「まあ、そんなことはどうでもいいか」
六花がずっと傍にいてくれるのなら、廉太郎としてはどちらでもいい。今はそれより汁物の味付けの方が重要だ。小皿にとって味見をし、塩加減を調整する。
うむ、今日も完璧。彼女の胃袋はばっちり廉太郎のものだ。
「六花ー、ごはんできたよー」
玄関先で雪かきをしている愛しい鬼に、彼は笑顔で声をかけた。
お月様の方に、お風呂で何してたか加筆したものがあります。