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夏の夜の悪夢①
南国特有の蒸し暑い夜風が、汗ばんだ体に張り付いたシャツを通して心地よく撫ぜた。男は今夜、一仕事を終えその疲労感を癒す酒場を探して夜の街を歩いていた。賑やかな通りには店の明かりや笑い声が漏れて、男の気分は一層高まっていた。
あてもなく歩く男に夜の街の住人が手当たり次第に声をかけてくる。男はそれを手のひらで軽くかわし、タバコを胸ポケットから出しライターで火をつけようとしたが、あいにくのガス欠だった。
小さく舌打ちしながら辺りを見回すと一軒の看板が目についた。
バーグレイ。
その青白いネオンに取り囲まれた文字は、薄暗く陰気な地下に続く階段を不気味に照らし出していた。男は不穏な空気を感じながらも急な階段を下に降りていった。扉は重厚なネイビーでこの扉をひらけば、後戻りはできない。何故だかそんな印象を男にもたせた。
しかし男は迷うことなく、その扉をゆっくりと開いて、まだ見ぬ未知へと足を踏み入れていった。