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布田記念記憶研究所  作者: 小雨
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断捨離

久々にすっきり目が覚めた。テレビの電源ボタンを押すと

「今日も一日元気にいってらっしゃーい」

キャスターの声が響く。

食パンを焼いてピーナッツバターを塗る。マグカップにコーンスープも用意した。朝ごはんを食べるは、1か月ぶりだ。

顔って歯磨きの後、部屋の隅のごみ箱のわきから通勤かばんを手にとる。退職後から今日まで1mmも動かしていなかった。

(今日こそは、断捨離しなきゃ…)

チャックを開ける。手帳や営業ノート3冊、会社で使っていたマグカップ、筆箱、タオルハンカチ、退職関係の書類等ぐちゃぐちゃに詰め込まれている。退職日に朦朧としながらカバンに私物を押し込んで退社した日のことがフラッシュバックする。

社員研修や旅行の集合写真、誰かの歓送迎会の写真、名刺入れ等なども乱暴にねじ込まれている。今日まで触れることさえできなかった。

まず、手帳の中身を破いてごみ箱に入れる。残っていた名刺をちぎり、タオルハンカチは、スーツやワイシャツとともに洗濯機に投げ入れた。会社のノベルティの余りのマグカップは、思い入れがないので、雑芥の袋にいれ、書類も不要なものは処分した。残りは写真と営業ノートだ。

これがなかなか他のものと同じようにはいかない。営業ノートは、何度も破こうとしたが頑張っていた自分の足跡が消えてしまうようで結局できなかった。写真もなんとなく捨てにくい。写真の中で屈託なく笑う自分がなんだか腹立たしい。

(このころは、まだ仕事楽しかったんだよな…。)

悩んだ末、ノートに写真数枚を挟み込み、クローゼットの収納ケースの番下に潜り込ませた。

カバンは、年季が入っていたのでそのままごみ箱に捨て、10時ぐらいには、あっけなく作業は終了した。

やらなくてはいけなかったことが一つ片付きすっきりした。

しかし、色々やりすぎたのか、過去の思い出に触れすぎたのか、その日の夜は寝つきが悪く、夜中に何度も目が覚めた。次の日も、その次の日も、夜中に悪夢で目覚めては、眠れないまま朝を迎える。病院でもらった薬をきちんと服用しているが、気力体力ともに限界でフラフラなのに、頭が妙にさえてしまい眠れない。

 「笹川さん。もう限界です。記憶を消したいです」

翌週の木曜日に、笹川さんの携帯に連絡した。

「岡崎さん、落ち着いてください。何かあったのですか?」

「先週、笹川さんと会った翌日に、通勤カバンを整理したんですが、その日から、会社の悪夢を見たり、眠れなくて、それが続いているんです。もう限界です。疲れているのに眠れないし、食欲も無くなってきて…。だから、早く治験を受けたくて」

「それは、辛いですね。眠れず食欲もないとなると、心配ですね」

「あのどうやったら治験を受けられるんですか?」

ガサガサと書類を漁っているような音が響く。

「私、ちょっと準備するので30分ぐらいしたら折り返しますね」

「ええ、よろしくお願いいたします」

 9時半過ぎに笹川さんから折り返しがあった。

「岡崎さん、急なんですけど、明日布田総合病院の予約が取れそうなんですけど」

「えっ?病院ですか?」

「はい。まずは、治験の前に岡崎さんが治験を受けられる状態かチェックが必要です。そのため、人間ドックを受けていただきます」

「はぁ…。人間ドックですか」

「ええ、岡崎さん、しばらく睡眠も食事もあまりとれていないということで、この際体の状態も一度しっかりチェックしてもらいましょう。私も付き添いますから」

「えっ?笹川さんが付き添ってくれるんですか?そんな、申し訳ないですよ」

「どうぞご遠慮なさらずに。岡崎さんが人間ドックを受けている間に研究所のスタッフとともに、治験に関する手続き書類の準備をしてますから気にしないでください。人間ドックは9時から12時ぐらいまでで、身長と体重測定、採血尿検査、心電図、レントゲン等一般的なものと脳波測定もあります。身分証明書とお薬手帳を持ってきてください」

「お金はどれくらいかかりますか?」

「いりません。治験の準備段階に入っていますから、心配しなくて大丈夫です。ただ採血があるので今日の21時以降は、食事なしで水は飲んで結構ですからご注意ください。病院の場所は分かりますか?」」

「ええ、以前頂いたパンフレットで確認しました。10分前ぐらいに行けばよいですか?」

「はい、それでは、8時50分に病院玄関でお待ちしています」

「よろしくお願いします。では、明日また」



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