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道路工事

作者: 雉白書屋

 ようやく家の前の道路の工事が終わった。

……かと思えば、ツギハギのデコボコクソ道。

車に轢かれた犬の糞が、そのツギハギの隙間に挟まってやがる。

年度末に予算を使い切るために、わんさか適当に工事しているんだ。

つまりは税金の無駄遣い。

 ……なんて、話を聞いたことがあるがよくは知らん。

 スーツを着ちゃあいるが俺は高卒だ。家のローンもキツイ。

 目の前の家のご主人は多分大卒。

頭が禿げ上がっちゃいるが、懐に余裕はありそうだ。

と、目が合い「どうもー」と挨拶。

温和そうだが、よく知らんから、ただただ気まずい。


 さっさと歩いて駅まで行こうと思ったら

背後から蜂に刺されたような子供の泣き声。

振り返ると、宥める知らない母親と知らない子供。

 今度はその母親と目が合って「どうも朝早くからお騒がせしてすみません」

「いえいえ、まあ子供は泣くものですからねぇ」と会釈で伝える。

ひょっとして俺は超能力者かもしれん。テレパシーの。

なんて馬鹿な妄想を膨らませつつ通勤、通勤。


 と、その翌朝起きてみりゃびっくりだ。

いや、起こされてびっくりか、びっくりして起きたか、まあ、どうでもいい。

休日だというのに朝から工事工事。家の前の道路で工事。

 なんなんだと思ってみるも、ああ納得だ。思い返してみれば昨日の子供。

あいつ、地面に足を突っ込んでいた気がする。

つまり陥没。見間違いじゃなかったんだな。

あの親か節介焼きの近所のババアからクレームが噴き上がったのだろう。


 迅速全速ご苦労なこった。

こっちは機嫌が悪い妻を宥めなきゃならんというのに。

いや、妻が不機嫌なのはいつものこと。

「どうしてかしらねぇ! 工事! この前終わったばかりでしょう!」

と、俺に言われてもまあ、国がねぇとしか答えられない。

 どっかの子供が地面を踏み抜いたんだ。そのせいだ。

なんて原因は聞いちゃいないだろうし、俺も話したくもない。

女は理屈だ結論だなんだより、ただ共感して欲しいだけなんてことは

大学に行っていない俺でも知っている。

 おまけに子供の話はNG。俺らに子供はいないからな。

二兎追う者はってやつだ。家のローンで金がねえ。

 妻は妻で子供がいたらねぇとたまにぼやくくせにセックスレスだ。

やっぱり女って生き物はわからねぇし、たまに恐ろしく感じる。

それに比べて男って生き物は単純だ。

そんな女の体を求める性欲の忠実なしもべさ。

 まあ、工事が終わり、家の前が綺麗になれば妻もキレなくなるだろう。


 と、何日か経って工事が終わってみりゃ綺麗になってねぇ。

ツギハギのちぐはぐ。皮膚病患者の肌みたいだ。カサブタ、ぐじゅぐじゅ。

なんだこれ、液状化してんのか? 雨は降ってないはずだ。

じゃあ作業員の汗でも溜まったのか? なんてな。

でも窓から見た時、連中、亡霊みたいな顔をしてた。奴らも国の奴隷か。

口を利かず淡々と粛々とその結果、この様だ。

そういう俺は性欲と妻の他、会社の奴隷でもある。行くしかない。

 だが歩きにくい。ぐじゅぐじゅ、ぐしゃぐしゃ、おっと、おいおいおい。足がはまっちまったよ。

 ははは、参ったなっとおいおいこれ、いやいやマジか。

 どんどん沈むぞ、どうなってるんだ。

 泥沼、底なし沼。これはあれか、この国の現状そして未来を暗示しているのか。

なんて、キリっと顔を作ってみても、あっという間にその顔まで沈みそうだ。


 助けを呼ばなきゃ、誰か、妻は。いや、妻は無理だ。

今頃テレビの前で化粧中。あいつもあいつで無駄な工事中。

 と、地熱か? あったかくて意外と気持ちいいような気がするが臭いし

今、少し液が口に入って、なんだか口の中がピリピリする。

 こいつはひょっとして化物の口内なんじゃ。

人食い道路。はははは、そんな馬鹿な……。

 と、もしくはこれ、女のアレの中なんじゃとふと思い、指を動かしてみれば

ああ、そんな気も……。

なんて考えて、ふと横を見たら同じく沈んでいく向かいの家のご主人と目が合った。


「どうも」「どうも」と声に出さず、笑顔を作る。

「これってあれですよね」「ああ、私もそう思いましたよ」

なんてことを鼻と口が沈んだから目だけで伝える。

やっぱり、俺は超能力者かもしれん。

 夢心地。妄想膨らませ沈む沈んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言]  面白いですねえ。  起きている事と、なんか覚めていて「自分の命が危うい」状況でさえ何とも他人事のように語っている主人公のさまがコミカルにも感じました。  コミカルだけど彼の、周りの人達…
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