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デート

 連絡先を交換して、僕は早速ランチのお誘いをメッセージした。

 好きな食べ物は何ですか?という至って普通な僕の問いに、彼女は、

「これは正直に言うと誘われないアレですね。麺類です。本当はグミです」

と返した。確かに『今度の週末、一緒にグミを食べよう』というのは最初のデートの誘い文句としては難易度が高い。でも代替案として麺類を上げてくれた。どうやらお出かけに乗り気のようだ。嬉しい。

 その週はグミを仕事の合間にモグモグしている彼女を妄想しながら過ごした。



 順調に滑り出したと思えた交際当初は様子見だった。

 様子見の期間は予想以上に長びいた。




 時々は長く話してくれる彼女は普段はあまり話さなかったから、僕が彼女の分を補うように沢山話した。

 この頃では大分打ち解けて来て、僕は自分の事を『私』ではなく『僕』と言うようになっていた。

 彼女は相変わらず敬語だったけれど、それが少し昔っぽくって丁寧な彼女らしいと、かわいらしく思えた。



 ある日、僕はお母さんが働いていた頃の事をした。

「子供の頃、うちは共働きだったんだ。

 小学五年生くらいの頃、お母さんが働きたいって言って、お父さんが家事をちゃんとやるなら働いても良いって言って、お母さんは僕にも働きに出ても良いか聞いてくれて、僕は良いって言ったんだ。


 お母さんは家事も仕事も凄く頑張って両立していて、夜居ない時はちゃんと温めるだけで良い晩ご飯を作っててくれたんだ。けれど僕はお母さんが居ない家でひとりでご飯を食べられなくて。温めるだけなのに、ひとりで食べられなかったんだ。


 僕が忘れん坊だからって思ったのかな。いつからかお母さんは食卓の上に、

「今日は学校楽しかったかな。ご飯はスープとお肉の焼いたのがあるから温めて食べてネ。沢山食べてネ。」

とか、数行の手紙っていうかメモを書いて置いてくれるようになったんだ。メモには丸と棒で書いた人間の絵っていうか、絵文字みたいなのがある事もあって、僕はお母さんの絵は初めて見るな、絵はこんな感じのを書くのか。とか、お母さんは普段は「~~ね」なんて言わないのに紙に書く時は「~~ね」なんて急に女みたいになるな。とか、「食べてね」の「ネ」はカタカナか。とか、「たくさん」って漢字だと「沢山」なのか、サワヤマかと思ったよ。なんて、なんとなく数行のメモを読んでいたんだけどね。でも多分、その頃から僕は晩ご飯ひとりで食べられるようになったんだ。」


 彼女は深く頷きながら言った。

「はい。

 子供って全部わかっているけど、子供だから全部はわからないですよね」


 おかしな日本語だったけれど、忘れ物の話をした時の様に僕の胸の中で何かがまたストン、と落ちた。

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