作戦をとろう
ある日勇気を出して以前渡したのと同じ名刺の裏に、私用の電話番号と「良ければランチでも」と書いて渡した。『名刺タイプのお近づき作戦』だ。
裏がチラリと見えるように渡したのに、彼女は表情を変えずに貰い慣れたように、ありがとうございます、と普通に受け取った。
電話の向こうに見えた姿はなかった。
僕はこれまでそこそこ顔がいいと言われて、そこそこうまい事生きて来た男だ。多少の自信はあった。
なのにそんな普通な対応をされて、僕は何だか肩透かしを食らったような気がして、いや、この手のお誘いに慣れていたような彼女に期待してはいけなかったのか、それとも名刺の裏に気づいていなかったのか、などと思いながらもこちらからはなるべく顔を合わせる日も電話も、最小限になるようにメールで済ませた。
ランチについての連絡はなかった。
その後、ミーティングで顔を合わせても僕らはそんな事は無かったように接していた。
彼氏がいたのかも知れない。
ただ単に、僕が嫌だったのかもしれない。僕は昔の彼女にこう言ってフラれた。
「『顔だけ男』だった。一緒にいても全然楽しくない」
全否定だった。ひどい屈辱だった。
へこたれた気分で思った。僕はやっぱり『顔だけ男』なのか。『名刺タイプのお近づき作戦』は失敗に終わって、
「やあ、久しぶり」
憎らしい屈辱君が友人のように顔を出した。