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7話

 アトラナートの出現の報告を受けて、急いで事件現場に向かったカザネであった。

「シュシュシュ、天魔忍者か悪いが貴様には用は無い。さっさと失せろ」

「あなた達のような人を傷つける怪人は、一人も見逃しません。ここで倒します」

「ふん、威勢だけはいいな。はぁ!」

 そう言うとサソリ怪人は、口から溶解液をウォータージェットのように吐き出す。

 突然のサソリ怪人の奇襲に、反応できないカザネ。

 ――世話が焼ける天魔忍者だ。

 心のなかで志郎は舌打ちしながらも、即座に志郎の身体は無意識に動いていた。

 反応できないカザネを助けるように、志郎はカザネを抱きかかえ溶解液を回避する。

「きゃ! なにをするんですか!?」

「よく見ろ死にたいのか!」

 志郎が指差す先に視線を向けるカザネ。そこには溶解液で深々と溶けた地面があった。

 溶けた地面を見てカザネは、思わずゴクリとつばを飲んでしまう。

 ――今の攻撃で私の命は失っていたかも知れない……。

 そう思った風音はすぐさま志郎の顔を見る。しかし志郎の顔はアトラナートに変身しているために、志郎の表情を読み取ることはできなかった。

 ――あの人は何故私を助けたの……。

 心の中に浮かんできた疑問に動きが鈍ってしまうカザネ。そんなカザネに向かってサソリ怪人が襲いかかる。

「まずは貴様からだ天魔忍者!」

「なにをぼさっとしている! 来るぞ!」

「は、はい!」

 心ここにあらずの状態であったカザネであったが、志郎の声を聞くとすぐに目の前のサソリ怪人に意識を向け、サソリ怪人の拳を難なく回避する。

 そのままサソリ怪人の胴に向かってカザネは蹴りを叩き込む。

「ぐぅ……」

「まだです!」

 続けてカザネはサソリ怪人のこめかみに向かって回し蹴りを放つ。しかしサソリ怪人はカザネの回し蹴りを軽々と避ける。

「せぃ!」

 カザネの攻撃を回避したサソリ怪人。しかしカザネの背後から飛び出してきた志郎が、サソリ怪人に向かって両足を揃えたドロップキックを仕掛ける。

 カザネにのみ集中していたサソリ怪人は、志郎のドロップキックを回避する事ができずにまともに受けてしまう。

「合わせろ天魔忍者!」

「あ、はい!」

 サソリ怪人にとの距離を詰める志郎。そして志郎の言葉に合わせるように走り出すカザネ。

 志郎とカザネの二人は同時にジャンプすると、息の合った飛び蹴りをサソリ怪人に叩き込む。

「ええい、調子に乗るな!」

 一方的に攻撃されることに苛立った様子のサソリ怪人。

 素早くサソリ怪人は溶解液を目の前の二人に向かって噴射する。

「しまった!」

「世話が焼ける!」

 攻撃の隙を突くように放たれた溶解液に、カザネは咄嗟に反応することが出来なかった。そんなカザネの前に志郎が飛び出す。

 肉の焼けるような音が、カザネの耳に入っていくる。

 カザネの視界に入ってきたのは、両手を前に出して防御している志郎の姿であった。

 しかし志郎の両手はサソリ怪人の溶解液によって、惨たらしく皮膚がただれていた。

「そんな……」

「後悔する暇があるなら動きを止めるな!」

 志郎の見るも無惨な腕を見て思わず動きを止めしまうカザネ。

 ただれた腕をだらんと下ろしながらも、志郎は怨み言一つ言うことなくカザネを叱咤する。

「っ……!」

 志郎の言葉を聞いたカザネは、顔をサソリ怪人に向ける。

「サソリ怪人、あなたを倒します!」

「できるかあぁ? 無様な醜態を晒した天魔忍者に!」

「出来ます! 彼がそう信じてくれるのなら!」

 そう言うとカザネは、サソリ怪人に向かって飛び出していく。

 近づいてくるカザネに向かって、サソリ怪人は再度口から溶解液を噴射する。

 一瞬身体の動きを止めそうになるカザネであったが、すぐさま足を動かして溶解液を問題なく回避する。

 サソリ怪人との距離を詰めたカザネは、フェイントを織り交ぜつつもサソリ怪人の背後を取る。

「ぬ、小癪な!」

 サソリ怪人はカザネのいる方向に視線を向けようとするが、サソリ怪人の動きよりもカザネの方が速い。

「貴方の口からの溶解液は見切りました!」

 そう言いながらカザネはサソリ怪人に向かって、素早く拳を、蹴りを、叩き込んでいく。

 カザネが連続して放つ攻撃は、サソリ怪人に致命的なダメージを与えることは出来ないが、それでも小さなダメージがサソリ怪人に積み上がっていく。

「く……調子に……」

「乗るな、か?」

 怒り心頭のサソリ怪人の言葉を、バレバレだと言わんばかりに志郎は遮る。

 そして背後から隙だらけなサソリ怪人の背中に向かって、志郎は無事な足で蹴りを叩き込む。

 志郎の蹴りを受けたサソリ怪人は、そのまま顔面から地面に倒れ込んでしまう。

「貴様ら……二対一とは卑怯な!」

「悪いが、卑怯何も無いんでね」

「あなた達を倒すなら、卑怯者の烙印だって受けて見せます!」

 サソリ怪人の言葉を切り捨てる志郎とカザネ。そして二人はサソリ怪人との距離を詰めていく。

 カザネは太ももから苦無を取り出し、サソリ怪人に向かって斬りかかる。その後に続くように志郎はサソリ怪人に蹴りを放つ。

「は! 舐めるな!」

 サソリ怪人はなんとか志郎の蹴りを受け流し、自身の右腕に備わっている右腕のハサミで、カザネの苦無を受け止める。

「はぁ!」

「やぁ!」

 しかしそんなサソリ怪人を圧倒するかのように、志郎とカザネはサソリ怪人の左右に移動すると、挟み撃ちにして攻撃をする。

「ぐぬぅううう、調子に乗るなぁ!」

 志郎とカザネの攻撃を受けたサソリ怪人は、そのまま地面を勢いよく転がっていき、大型トラックの車体に衝突する。

 立ち上がったサソリ怪人は首を一回転させると、再び口から溶解液を志郎達に向けて放つ。

 だが志郎達はサソリ怪人の溶解液を使った攻撃を見切ったのか、焦ることなく余裕で回避する。

「ふう、お前の技、なんとなくだが分かってきた」

「私もです。アトラナートさん気が合いますね」

「そういう意味じゃない。それより天魔忍者、少し手伝え」

「はい?」

 志郎の言葉の意味が分からなかったカザネは、コテンと首をかしげる。

「俺のベルトの横に付いているカプセルを使ってくれ。この手じゃ掴むことも出来ないからな」

 そう言うと志郎は溶解液でただれた腕を、カザネに見せつける。それを見たカザネは申し訳無さそうな顔をしながらも、アトラナートバックルの横に付いているバッタカプセルを手に取る。

「これをどうすればいいんですか?」

「上のスイッチを起動させて、そのままバックルに入れるんだ」

「わかりました!」

「バッタ!」

 バッタカプセルを起動させるカザネ。それと同時にバッタカプセルから起動音が鳴る。

「これで、こう!」

「リーディング!」

 カザネがベルトへカプセルを斜めにして装填すると、アトラナートバックルから認証音が鳴り響く。

 その直後、志郎の両足がまるでバッタのように、発達した緑色の脚へと変貌していく。

「これは、アトラナートさん大丈夫ですか!?」

「ん、ああ、まったく普段どおりの足と変わらないぞ」

 ピョンピョンと軽くジャンプする志郎であったが、志郎の脚が変化した緑色の脚――ローカストレッグの脚力は、志郎の予想を超えるものであった。

「何を遊んでいる!」

 志郎とカザネの様子を見ていたサソリ怪人は、遂に堪忍袋の緒が切れたのか、右腕のハサミを振り回しながら二人に向かって突っ込んでくる。

 サソリ怪人の攻撃をカザネは後ろに下がって回避し、軽くジャンプしただけで志郎は五十メートル以上跳躍すると、サソリ怪人の攻撃を回避した。

「な……!」

 一瞬で上空に跳躍した志郎を見て、サソリ怪人は驚きを隠せないでいた。なぜならばNSD党の怪人で同じスペックを出せるのは、幹部クラスの怪人ぐらいだからだ。

「ありえん……そんな事があってたまるものか……」

 己の自尊心が砕かれたサソリ怪人は、ワナワナと怒りで手を震わせる。

「今だ天魔忍者!」

「はい!」

 そんなサソリ怪人の様子を無視して、志郎とカザネは攻撃を仕掛ける。

 カザネは目にも留まらぬ素早い動きで、サソリ怪人の周囲を撹乱し隙をみては苦無で攻撃していく。志郎は脚に軽く力を入れてジャンプすると、上空からサソリ怪人を強靭な脚で踏みつけていく。

「くうぅぅぅ」

 志郎とカザネの連携攻撃に、圧倒されていくサソリ怪人。

「これで終わりだ!」

「これで決めます!」

 志郎とカザネの二人は、合図をしていないのに同時に声を上げる。そして志郎はスパイダーカプセルを一度押し込み、カザネは印を結んでいく。

「バッタ! スパイダーフィニッシュ!」

「天魔忍法、曼珠沙華!」

 アトラナートバックルから必殺技を認証する音声が鳴り響くのと同時に、カザネの周囲から業火が燃え上がり始める。

「はぁ!」

「昇華!」

 志郎は天高くジャンプすると、上空からサソリ怪人に向かって必殺の蹴りを放つ。

 カザネは右腕に業火をまとわせるとそのままサソリ怪人に向かって距離を詰め、そのまま必殺の掌底を叩き込む。

 志郎とカザネの二人の必殺技を受けたサソリ怪人は、勢いよくふっ飛ばされそのまま地面を転がっていく。

「NSD党に栄光あれぇぇぇ!」

 サソリ怪人の最後は爆発であった。

 最後までNSD党に忠誠を誓うサソリ怪人を見て悲しそうな表情をするカザネ。志郎はそんなカザネの肩をポンと叩くのであった。

「天魔忍者、お前はあれに同情するのか?」

「いえ、ただ……彼はあのような道しかなかったのでしょうかと……」

 ――傲慢だな。

 そう思いながらも志郎は、その傲慢がカザネの優しさで、美徳であることをあえて口にしなかった。

「さて俺はこの辺で暇させてもらうぞ」

「もう行くんですか?」

「ああ、まだ用事があるからな」

 ――カップラーメンが待っているなんて言えないな。

 腹の虫が鳴いていることを、カザネに気づかれていないことに安堵する志郎。

 そのままカザネに背中を向けた志郎は、何も言わずにビルの屋上に向かってジャンプする。

「いってしまいましたね……」

 寂しそうに天魔忍者カザネは、アトラナートが消えていった方角を見ながらそう呟く。

 しかしカザネには今回の事件で嬉しい収穫があった。アトラナートは少なくとも今回の事件ではカザネの味方だったからだ。

 ――もっと話せば貴方の正体を教えてくれるのでしょうか……。

 そう思いながらもカザネは変身を解く。

 風音は胸に手を当てると、アトラナートのことを思いはせる。少しでもアトラナートのことを知りたいがために。

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