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5話

 高揚感に満ちている志郎は自分の家でもある、二階建ての探偵事務所に帰ってくる。

 二階建ての探偵事務所は、志郎が復讐を遂げるためにオオサカシティで情報を集めるために開設した探偵事務所である。

 志郎の復讐を達成するために開設されたこの事務所には、オオサカシティ各所の監視カメラの画像が映っているディスプレイが何台も置いてある。

 さらにディスプレイの横には、警察無線を傍受するための機械も用意されており、志郎がオオサカシティで知りたいと思ったことは大体わかるのだ。

 自宅謙探偵事務所に帰った志郎は、蜘蛛の紋章が刻まれたカプセルをバックルから取り出し変身を解除する。

 元の姿に戻った志郎は、元の姿に戻ると驚きを隠せなかった。なぜなら先程別れたはずのゆりが、探偵事務所に居たからだ。

「なんでここに居る!?」

「決まってるでしょう志郎。私と貴方はもはや共犯者、貴方が居る所に私は存在する」

 要領の得ないゆりの言葉を聞いた志郎は、苦虫を噛み潰した表情で頭を抑える。

「あら、別に帰っていいのよ。代わりに貴方へ渡したアトラナートバックルと、スパイダーカプセルを返してもらうだけよ」

「何……?」

 ゆりの言葉を聞いて即座に視線を向ける志郎。

「当たり前でしょう、あれをタダで渡すほど私はお人好しでないわ」

「勝手にしろ、ただし飯は自分で用意しろよ」

「ええ、どうせ食べないもの」

 最後に小声で言ったゆりの言葉は、頭が痛そうな志郎の耳には届くことは無かった。

 かくして復讐者北川志郎と、謎の少女比良坂ゆりの奇妙な共同生活が始まった。




 同日オオサカシティの百メートル地下、オオサカシティ防衛組織――ガーディアンズの司令室では、一度変身を解いて再度変身することでコスチュームを再構成させた天魔忍者カザネが、男にそのまま殴りそうな勢いで食って掛かっていた。

「司令どうしてですか! アトラナートは私を助けてくれました。なのに敵対怪人扱いするなんて」

「確かにカザネ君を助けたのは認める。だが彼の姿を見ただろう、あれでは秘密組織の怪人と変わらない。そんな人物を味方にするなんて出来ない」

 男――司令と呼ばれた男は、カザネの言葉を聞いて誠実に反論する。

 しかしカザネは納得できそうにない表情で、司令室にあった机を怒りに任せて叩く。

 ガァンとまるで金属が悲鳴を上げるような音が、司令室の外まで響き渡る。

 ――司令の考えも間違ってはいない。でもそれを簡単には飲み込めません……。

 一瞬とはいえアトラナートを抱きしめられる程に間近で見た風音も、秘密組織の怪人と思ったほどの見た目であった。

 だがあの時カザネはアトラナートの目を見て、本能的にアトラナートはNSD党などの怪人とは違うのだと感じた。

「わかりました。ガーディアンズの力は借りません。それで自分でアトラナートの正体を探します」

「君の主張を認めよう。せめてアトラナートが出現したら君にも一報を入れよう」

「ありがとうございます。それでは失礼します」

 カザネは一礼すると、そのまま司令室を出ていく。

「あれは嫌われたな……」

 司令室を出た際のカザネの様子を見て、司令は一人誰もいない司令室で独り言を言う。

 アトラナート――一体何者なんだ。

 司令はそう思いながらも、上層部から来た命令書を見る。そこにはアトラナートを敵対怪人として撃破せよと書かれていた。

(上層部に敵のメンバーがいるなんて、俺は考えたくないぞ)

 司令はそう思いながらも上層部の命令書を破り捨てライターで燃やすのであった。まるで誰にも命令書を見られないように。




 天魔忍者カザネこと星本(ほしもと)風音(かざね)は、先程の司令の言葉を思い出す。

 突発的に壁を殴りたくなったカザネであったが、すぐに理性が働いて殴りかけた拳を止める。

 もし天魔忍者の自分が壁を殴れば、強靭な肉体から繰り出される一撃によって壁は跡形もなく崩れる。さすがに壁を破壊するのはまずいと思い、冷静さを取り戻したカザネは、頭を冷やそうと一旦深呼吸をする。

「何よ司令の独身! ひげを伸ばしてかっこいいと思っているの!」

 壁に当たるのを止めた風音は、仕方なく司令の悪口を言うことでフラストレーションを解消する。

「珍しいな、あのカザネがそこまで荒れるなんてな」

「なに!?」

 横から聞こえた声にカザネは振り向く。そこには天魔忍者カザネと同じデザインの服を着て、腰まで青い髪を伸ばし、はち切れんばかりの胸をした女性が立っていた。

 青い髪の女性――天魔忍者フブキこと北山(きたやま)吹雪(ふぶき)は、荒れた様子のカザネを見て、珍しいものを見た感じであった。

「フブキ何の用?」

「なに、先程のカザネの大声が聞こえて急いで駆けつけてみると、そんな様子だったからな、流石に声をかけるよ」

 普段冷静沈着なカザネが、あのように荒れる様子など見たことのなかったフブキは、心配してカザネに声をかけた。

 しかし風音は冷静にフブキに対応するのを見て、フブキは何故先程までカザネが荒れていたのか分からなかった。

「何故あんなに荒れていたのか聞いても?」

「どうしてフブキに教えないといけないのですか? 私の本名も知らないあなたに」

「む……」

 風音の言葉に口を閉ざしてしまうフブキ。互いに名前で呼んでいる天魔忍者カザネと天魔忍者フブキであるが、彼女たちはいわばコードネームで呼び合う関係だ。

 天魔忍者カザネと天魔忍者フブキは互いに本名も、本当の素顔も、プライベートなことは何も知らないのだ。

 更にはスーパーヒロインの特別な力の一つに、認識阻害と呼ばれる力がある。この力のおかげでカザネやフブキは、自身の正体を知られることはないのだ。

 例えカザネとフブキがプライベートで名前を呼び合う関係だったとしてもである。

「しかしだ……」

「これは私の問題です!」

 風音はそう言うとフブキに背中を向ける。そして何も言わずに立ち去っていくのであった。

 怒りを募らせているカザネの様子に、フブキは何も言うことが出来ずに、カザネを止めることは出来なかった。





 天魔忍者カザネ――否、変身を解除した風音は、ガーディアンズの地下基地を出ると、最初にしたのはアトラナートの情報収集であった。

 今のご時世ネットで調べれば出てこないことなど殆どない。そう考えた風音は素早くスマートフォンを取り出す。

 しかしネットや、SNS、ニュースサイトを調べても、アトラナートについての情報は風音が知っている程度か、それ以下の使えない情報ばかりであった。

「どうゆうこと……あんな派手な見た目で、コホン、言い方が悪いですね……。かなり人目につく見た目なのに、ネット上に上がっている情報があまりにもなさすぎる……」

 いくら風音がアトラナートについて調べても、アトラナートの情報は断片的な情報しか出てこない。

 そして十五分以上ネットで情報収集した風音の脳裏に、アトラナートについてある推察が浮かび上がる。

「アトラナートは今日、行動し始めた?」

 もし風音の想像が正しければ、アトラナートについての情報が少ないことについても、ある程度説明がつく。だが風音の考えが正しいとすれば、一つの疑問が浮かんでくる。

「アトラナートの目的はなに?」

 アトラナートが人々を守りたいなら、ガーディアンズに正体を教えて売り込みだってできるはず。しかしアトラナートはガーディアンズに所属している天魔忍者である風音に、接触せずにそのまま去っていった。

 もし売名目的なのだとしたら、ネットに上がっているアトラナートについての情報が少なすぎる。

「正義でもない……知名度を上げたいわけでもない……なら……」

 風音は知っている中で、ガーディアンズにいる他のスーパーヒロインの戦う理由を思い出す。そして最後の戦う理由は……。

「復讐」

 もしアトラナートの戦う理由が復讐であるのならば、風音の疑問を全て解消してくれる。

 しかし風音は自分が想像した考えを否定したかった。アトラナートが復讐で戦う戦士だということに。

 正義でも、売名でもなく復讐することがアトラナートの目的ならば。

「今後アトラナートは、怪人の現れる所に現れるはず……」

 少しだけだがアトラナートのことをわかったような気がした風音は、嬉しさからかステップを踏みながら家に帰ろうとするのだった。

 一歩一歩と歩く内に風音は、少しずつであるが今後の事を見据えてきた。

(アトラナートは恐らく今後出現情報が増えていくはず……そこから新しい手がかりを掴んで見せる)


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