97話 もう一つの故郷へ
さて、色々あった今日だが。
「ではルリの誕生日を祝して、乾杯!!」
『乾杯!!』
「そして誕生日おめでとう!ルリ。」
『おめでとう!』
「ありがとうございます!」
三国の王族のみの和やかな雰囲気で誕生日のお祝いだ。
去年は成人になるのと、王女復帰のお披露目も兼ねて盛大なパーティーになったが、今年はこんな感じだ。
私はこっちの方がいいので、すごく嬉しい。
ちなみに私が飲んでいるのは果実水だ。
お酒は去年、一杯で酔ったからね。
「ルリが16歳‥‥大きくなったわよね~。」
「髪も更に伸びて可愛いしね。」
と王妃姉妹が話していたのに乗っかったリヒトが、
「俺が切らないでくれって言ったから、伸ばしてくれたのか?」
「‥‥‥‥その笑顔からして、分かってて聞いてるでしょ?」
「勿論。」
今の私の髪はお腹辺りまで伸びてる。
「‥‥‥まだ伸ばしてほしい?」
「いや。その長さを保ってほしい。今の長さが一番可愛いからな。」
「‥‥‥リヒトも元通りだね‥‥。」
「‥‥確かに‥‥相変わらず、息をする様にルリを褒めるわよね。リヒトは。」
「褒め言葉と受け取っておきます。ユリ姉。」
「‥‥気持ちが分かるだけに否定できない!」
「姉様‥‥。」
「兄上。リヒトさんみたいにユリ姉を褒めてみたらもっと兄上を見てくれるかもしれませんよ?」
「あ。確かにな。試してみ‥‥」
「余計なこと言わなくていいの!ルクス。これ以上スヴェンに何か言われたら‥‥」
『言われたら?』
何と父様達まで会話を聞いていたらしい。
その瞬間、プシュっと音がしそうな感じに姉様が真っ赤になった。
「ね、姉様‥‥可愛いです!!」
「もう!ルリ!」
「ユリをもう少し弄ってみたい気もするが‥‥ルリ。」
「なんでしょう?父様。」
「明日の準備は終わってるのか?」
「はい。準備と言っても、扉の向こうはすぐに育った家ですから。どちらかというと、うちからここに戻ってくる時の為の備えって感じです。」
「それもそうだな。」
そしてその後も各々、晩餐が終わったあとも話し続けてルリ以外はお酒も進んできた頃。
「ねぇねぇ。リヒト。そのお酒、去年も飲んでたよね?好きなの?」
「ん?ああ。去年、ルリが飲んだのとは違う果実酒だよ。飲みやすいから好きなんだ。」
「へ~!!」
「飲んでみたらいいじゃないか。ルリ。」
「ルクス。余計なこと言わなくていいの!」
「え?ルリはお酒弱いんですか?」
「ええ、そうよ!」
「‥‥‥ユリ姉、酔ってません?」
「酔ってないわよ!」
「酔ってるわよ。ユリ。」
「母様まで!」
「‥‥とりあえず、リヒトのちょっともらっていい?」
「ちょっとだけだぞ?」
「うん。」
と本当にちょっとだけリヒトの飲み掛けをもらっただけにしたのに、度数が高かったのか‥‥
「ルリ‥‥」
「なあに?リヒト~。」
去年と同じくリヒトの上に向き合って座ったルリ。
ルリにちょっとでもお酒をあげた自分を激しく後悔したリヒトであった。
まさか三口程度で酔うとは‥‥‥と。
一方ユリも酔っていたからか、「スヴェンに言いたいことがある。」と言って同じくスヴェートの上に向き合って座っていた。
さすが姉妹である。
「スヴェン‥‥私を口説き落としといてあれはないでしょ‥‥あの光景を見せられた私の気持ち分かる‥‥?分からないでしょ‥‥?」
「えっと‥‥ごめん。」
「ごめんで終わらないでよ‥‥私、スヴェンのこと好きになっちゃったから‥‥悲しかったんだからぁ~!!」
とスヴェートに抱き付いた。
「リヒトもぉ‥‥私を口説き落としておいて、あの光景見せるなんて酷すぎる‥‥」
「ご、ごめん。」
「ごめんで済ますなぁ~!!」
「どうしたらいいんだよ‥‥」
「‥‥‥自分で考えてみなよ‥‥私だって悲しい思いしたんだからぁ‥‥」
とこちらもリヒトに抱き付いた。
『‥‥‥』
その様子を黙って見ていた他の人達。
「ルリにお酒が駄目な理由が分かりました。すごく弱いんですね、ルリ。」
「ああ‥‥去年、パーティーで飲ませなくて正解だったと思ったものだ‥‥。」
「「「でしょうね。」」」
初めて見たフローライトの面々が納得していた。
「さて、今年も主役があれだとな‥‥一旦、お開きにするか?ルエル。」
「そうですね。兄上。」
「じゃあ今年もリヒト君、ルリをお願いね。スヴェート君もユリを運んであげて。」
「「‥‥はい。」」
ということでお開きになったが、今年も国王兄弟は部屋で飲み直すなどと言いながら各々が去っていったあと、取り残された4人は。
「‥‥‥リヒト。」
「‥‥なんでしょう?スヴェートさん。」
「俺はユリに試されてるんだろうか?」
「奇遇ですね。俺も同じことを思ってました。」
「「どうしよう‥‥。」」
ユリもルリも抱き付いたまま動かない。
実はユリ程ではないが、ルリも出るところはちゃんと出ていて、姉妹揃ってなかなかに艶かしい体つきをしている。
なのに例え婚約者だろうと、未婚の女性に手を出すことは許されてない。即ち、この状況はリヒトとスヴェートには拷問なのだ。
自分が惚れて婚約者になってくれた相手が自ら腕の中に入ってきてくれたのに、キス以上のことは許されない。
理性を試されているのかという状況なのだ。
「‥‥どうもしなくていいよ。」
「そうよ。このままじっとしてて。」
どうやら拷問は続くらしい。
と思ったら、
「‥‥‥リヒト。」
「ん?」
「どうしたらいいか分かった?」
「分からない。」
「正直だね‥‥まあいいや‥‥‥リヒト、上書きしてほしい?」
「スヴェンも上書きしてほしい?」
「「え?」」
上書き?とリヒトとスヴェートがきょとんとしていると、ルリとユリの顔がそれぞれ近付いてきて‥‥
「「!!!」」
「‥‥へへっ。上書き完了だね~、リヒト。」
「ふふっ。スヴェンもね~。」
「‥‥‥まずい‥‥可愛いすぎる‥‥」
「ああ‥‥キスまでされたら‥‥理性が‥‥」
「スヴェートさん。」
「ああ。」
「「部屋に返してしまおう。」」
そう言ったあと、リヒト達は素早く婚約者である姉妹を横抱きにしてそれぞれの部屋へと向かった。そしてそれぞれの専属メイドに任せて自分達は客室へと逃げた。
翌日。
朝食の席で再び三国の王族が集合する場に、気まずそうな姉妹が入ってきた。
「リヒト」「スヴェン」
「ん?」「なんだ?」
「「昨日のことは忘れて。」」
「「やだ。」」
「「なんでよ!?」」
「「可愛いかったから。」」
「「くっ。」」
「ふふっ。仲いいわね~。でも、ユリもルリも座って朝食、食べちゃいなさい。」
「「‥‥はい。」」
そして朝食後。
「では、伯父様達とフローライトの皆さんを先にお送りしますね。」
「ああ。頼む。」
まずはフローライト。
「じゃあ、気をつけてな。ルリ、リヒト。」
「ルリ、リヒトさん。また。」
「はい。スヴェートさん、ルクス。また。」
「お二人共、また。陛下、公妃様も、帰ってきたらお知らせに伺いますね。」
「ええ。」
「ああ。待ってるな。」
次にラズライト。
「じゃあ、リヒト。ルリを守れよ。」
「はい。勿論。」
「ルリ、帰ってくるのを待ってるわね。」
「はい。伯母様。」
そしてルリ達も準備ができたところで。
「さて、扉に案内するな。ルリ。」
「はい。‥‥‥教えてもらえるのが一年後とは‥‥長かったですね~。」
『‥‥‥。』
ルリからの言葉に棘を感じて黙ってしまった一同。
「ふふっ。心配しなくても帰ってきますよ?」
「ああ。それは信じてるさ。」
それからセピオライトの王族とリヒトが向かったのは城の地下。
勿論地下には牢屋があるが、牢屋に向かうのとは別に王族のみが知る隠し通路があり、そこを通るらしい。
「ルリ。先に言っておくと、向こうの戸隠家に今のルリの状況を知らせてある。今日、帰ることもな。」
「え?じゃあ、私が王女だと‥‥」
「知ってる。俺が定期的に知らせていたんだ。」
「え?父様自らですか?」
「ああ。あの扉は、こちらからは王族しか開けられないんだ。」
「そうなのですか!?」
「ああ。」
「俺でも開けられるから、ルリも一人で開けられる筈だぞ。」
「リヒトは私を迎えに来てくれた時もこうして通ってきたの?」
「ああ。しかも俺に扉を開けさせてくれたんだ。」
「へ~!」
「今回はルリが開けてみるか?」
「はい!やってみたいです。」
「ああ。いいぞ。」
そしてたどり着いた場所にある扉。
日本で見たのと似た扉だった。
「この扉ですか?」
「ああ。これを開けたら、ルリが知る戸隠家に出る。」
「‥‥‥」
「ルリ、緊張してるのか?」
「う、うん。あの日、送り出されてから2年経つから‥‥。」
「そうだな。」
「でも、大丈夫。向こうにいるのも家族だからね。」
「ああ。」
そしてルリは扉に更に近付いたところで振り返った。
「では、父様、母様、姉様。行って参ります。」
「「「いってらっしゃい。」」」
そしてルリは再び扉の方に向き、扉のノブに触れる。
すると、鍵穴はないのにガチャという音がなった。
「?」
「通れるよ。開けてみな。」
「うん。」
そしてルリが扉を押して開くと、日本を出る時と同じ光。
今度は躊躇なく、光の中をリヒトと共に通っていった。
出た先は、勿論。
「あ‥‥うちの地下だ‥‥」
あの日旅立ったかつての我が家の地下。
「だな。」
と言っている間に背後の扉は閉まった。
そして代わりに。
カチャ
「‥‥‥‥ルリ?」
「!!!‥‥義母さん!」
「やっぱりルリなの!?可愛いくなったわね~!」
「え?そ、そう?」
「うん。‥‥王太子殿下。ようこそ、おいでくださいました。」
「はい。少しの間、お世話になります。」
「とりあえず、上がりましょうか。」
「うん。」「はい。」
そして、ここを出た時とは逆に靴を脱いで一階に上がり、玄関に靴を置いてリビングに入っていった。
ユリ、ルリ姉妹は酔った勢いを利用しないと本音を言えないタイプっぽいなと思ったので書きました。
作者にとっては特に意識せず、この設定になっていた感じです。




