95話 自業自得
そして、ルストさんがあっさり帰った後。
「それはそうと、ルリ。確認だが、誕生日の翌日に日本に行くのは変わらないか?」
「はい。本当は誕生日のその日に行こうかと思ったんですが、精霊達ほぼ全員に反対されまして‥‥」
「豊穣の祈りのあとだから無理するなということだろう?」
「はい。その様です。あと誕生日を楽しめと。」
とある日にオリジンに聞いてみたのだ。豊穣の祈りはどれ程の頻度でするのかと。
年に一回、当代の巫女の誕生日の日だけでいいそうだ。
なので私は数日後の誕生日の日に再び豊穣の祈りをする。
そして翌日に扉を通って日本に一旦帰る。魔岩と呼ばれていた、魔素の塊を今度こそ破壊するために。
「では、父様。今度はラズライトに行って参ります。」
「ああ。」
そして執務室を出て、ゲートでラズライトの中庭に出た瞬間、目を疑う光景を見てしまった。
「王太子殿下!お会いしとうごさいました!」
と言ってリヒトに飛び付いた令嬢。
「リニス様?‥‥!?」
そしてそのままリニスと呼ばれた令嬢はリヒトにキスをした。
すぐにリヒトはリニスの肩を掴んで引き剥がし、
「いきなり何を!?」
「いやですわ、何をなどと。一度は私が婚約者の最有力候補でしたのに。」
へぇ~‥‥そう‥‥
と思っていると、私に気付いたリヒトが「ルリ!?」と驚いていたが、側にいるリニス様も驚愕の表情を浮かべて、
「も、もしかして‥‥」
「はい。セピオライト王国第二王女のルリ・セピオライトと申します。私のことはお気になさらず、続けてくださいませ。私は失礼致しますわ。」
「いや、待ってくれ!ルリ!」
「王太子殿下。私のことはお気になさらず、お幸せに。では。」
そう言って、当初の目的である伯父様のところへ行こうとしたのだが、その伯父様が伯母様と一緒にちょうど側の廊下を歩いていた。
「あ。伯父様、伯母様!」
「お、ルリ。来たか。リヒトを連れて行くんだろ?いいぞ。」
「そのことですが、伯父様。リヒトは私以外に心が移っている様なので、一緒に行くのはやめようと思います。」
「「え?」」
「いや、誤解だから!」
「では、伯父様、伯母様。失礼しますね。」
「「え!?」」
「頼むから、話を聞いてくれ!」
「‥‥‥心配せずともちゃんとセピオライトに戻ってきますよ?ラズライトに来る頻度は減るでしょうが。」
「いや、そうじゃなくて。」
「王太子殿下。浮気の弁明は何を仰っても言い訳にしかならないと相場が決まってますわ。」
「‥‥‥ルリ。何があったか知らないが、私からも頼む。言い訳でもリヒトの話を聞いてやってくれ。」
「‥‥‥‥。」
「ルリ。私からもお願い。」
「‥‥‥伯母様が仰るなら‥‥仕方ないので伺います。」
「何故、マノカの言うことなら聞くんだ‥‥」
「ふふっ。同じ女性だからよ。ね?」
「はい。‥‥それで王太子殿下。弁明をお聞かせ頂けると?」
「‥‥敬語に戻った‥‥」
「やっぱり帰ります。」
「待て待て!リニス様とは本当に何もないから!」
「ふ~ん?キスされてたのにですか?」
「あれは向こうが勝手に‥‥」
「でも親しい方じゃないと普通しませんよね?婚約者の最有力候補だったそうですし。構いませんよ?あの方に乗り替えて頂いても。」
「ルリ。何度も言ってるだろ。俺はルリじゃないと駄目だと。」
「‥‥‥‥今はもう何も聞きたくありません。伯父様、数日後また来ます。」
「あ、ああ‥‥。」
「では、失礼します。」
今度は問答無用でゲートを通って帰った。
この数ヶ月で大分慣れて、詠唱無しでゲートと唱えるだけでできる様になっていたのだ。
「リヒト。ルリ、帰っちゃったわよ?何したのよ?」
「あの、発言よろしいでしょうか‥‥?」
「あなた確か公爵家の。」
「はい。リニス・レーニスでございます。私が舞い上がって殿下に失礼を‥‥第二王女殿下はその場面を見てしまった様で‥‥申し訳ございません。」
「そう‥‥あの優しい子を傷付けるなんてね‥‥。」
今の王妃のその顔に日頃の誰にでも優しい目を向ける聖母の様な雰囲気はない。
「リヒト。ルリを泣かせたら許さないわよ。」
「はい。私も見たくありません。」
「分かってるならいいわ。あなたも立場を弁えなさい。仮にも公爵令嬢が何をしてるのかしら?」
「はい‥‥。仰る通りにございます。」
その言葉にリニスを一瞥しただけで、王妃はこの場を去っていった。
「マノカが怒るとは‥‥久しぶりに見たな‥‥。だが、リヒト。数日後、ルリが誕生日の日にまた来てくれるんだ。その時が最後の機会だぞ。」
「はい。」
*****
一方、ルリは帰ってすぐに姉と母を連れて父がいる執務室にいた。
そして先程見た光景とリヒトの弁明等を全て話し、姉に泣きついていた。
「「ほう‥‥。」」
「許すまじ。リヒト。」
「ええ。そんな子だとは思わなかったわ。ルリ、リヒト君なんかやめてずっとここにいなさい。」
「はい!そうします!」
と女性陣が話している横で、
ルエルは「何やってるんだ‥‥リヒト。令嬢ぐらい軽くあしらわなくてどうする。」と思っていたが、すぐに「ただ、ルリを泣かせるなら嫁にやらん!」とこちらも親バカなことを考えていた。
数日後。
ルリの誕生日当日。
ルリは昼食後、城の最上階へと向かった。
そして祈りの間の祭壇の前に立つと。
ールリ、大丈夫?ー
「うん。大丈夫だよ。アスカ。」
ー無理するなよ?ー
「うん。ありがとう、サラマンダー。そろそろやるね。」
『頑張れ。』
「ありがとう。ーこの地に集いし精霊達よ、母なる大陸に豊穣の祝福を与えたまえ。ー」
そして、去年と同じく大陸中央の山頂から放たれた光が大陸全土に広がっていった。
今度は驚くことなく、その光輝く光景を窓から優しい顔でずっと見ていた。
そしてしばらくすると光が徐々に消えていき、最後に山頂の方で一瞬キラッと輝いたあと、完全に光は消えた。
「今回も成功かな?」
ーええ。大丈夫よ。お疲れ様、ルリ。ー
「ふふっ。私よりみんなでしょ?」
ー俺達も大丈夫だ。前回と違って四大だけじゃないしな。ー
「そっか、良かった。さて、戻るかな。」
ーふふっ。ルリ、誕生日おめでとう。楽しんでね。ー
「うん。ありがとう。」
そして私が王族の私室が並ぶ階に降りてくると、
「あ!ルリ。お疲れ様。」
「あれ?どうされたんですか?姉様。」
「ふふっ。これからフローライトとラズライトに行くんでしょ?一緒に行っていい?」
「はい‥‥構いませんが‥‥」
私の誕生日を三国の王族で祝ってくれることになっていたのだ。去年の成人の時はフローライトの面々がいなかったため、リベンジの様な感じだ。
「じゃあ、行くわよ!どっちから行く?」
「ふふっ。では、フローライトから行きましょうか。」
そしてフローライトの中庭にゲートで向かうと、何とここでも。
「スヴェート殿下!お会いしとうごさいました!」
と言ってスヴェートに飛び付いた令嬢。
「アルマ様?‥‥!?」
そしてそのままアルマと呼ばれた令嬢はスヴェートにキスをした。
すぐにスヴェートはアルマの肩を掴んで引き剥がし、
「いきなり何を!?」
「いやですわ、何をなどと。一度は私が婚約者の最有力候補でしたのに。」
「「‥‥‥」」
「姉様。リヒトの時と同じ光景です。」
「へぇ~そう‥‥今ならルリの気持ちがよ~く分かるわ。」
「ユリ!?」
ここでようやく私達が会話している声で気付いたのか、スヴェート殿下が驚いていた。
側にいるアルマも驚愕の表情を浮かべて、
「も、もしかして‥‥」
「はい。セピオライトの第一王女のユリ・セピオライトです。」
「同じく第二王女のルリ・セピオライトです。」
「スヴェート殿下。ごゆっくり。行きましょ、ルリ。」
「はい。姉様。」
「いやいや!二人共待ってくれ!」
さっきからすごいデジャブ。殿下、リヒトと同じ反応。
「ルリ。ルクスと陛下達のところに行きましょうか。」
と言って、姉様はスヴェート殿下の言うことを聞いてない。
無視である。
そしてそのまま違うところに向かいそうだったので、
「姉様。陛下と公妃様はルクスと共に執務室です。」
「あら、三人揃ってるならちょうどいいわ。」
と言って執務室に向かうと、
「お。二人で来てくれたか。」
「私は姉様を連れてきてしまったのをちょっと後悔してます。」
「何かあったか?」
今、見た光景を話すと。
「うわ~アルマ様か‥‥あの方まだ、兄上を諦めてなかったのか‥‥」
「「ほう‥‥?」」
「あ。」
「はぁ‥‥ルクス‥‥。」
と、そこに追い掛けてきたスヴェート殿下がきた。
「ユリ、話を聞いてくれ!」
「嫌よ。」
バッサリだ。すると、ルクスが私に近付いてきて、こっそり話し掛けてきた。
「ルリ。ゲートでセピオライトに行く時に兄上を押し込むが、いいか?」
「うん。勿論。」
「ありがとな。」
「ちなみに、同じ光景をラズライトでも見たのよ。数日前に。」
「え?まさか、リヒトさんが!?」
「他に誰がいるのよ?で、多分姉様はリヒトを連れて来るために一緒に行くって言い出したと思うの。」
「で、ルリは兄上か。」
「うん。纏めて私達姉妹の怒りをぶつけてやるわ。」
「え‥‥仲直りのためじゃないのか!?」
「誰が仲直りって言った?」
「言ってないな‥‥。」
「でしょ?」
「ルリ。ルクスと話してないで帰るわよ。」
「はい。」
そしてフローライトの人達が全員中庭に出たところで。
「ルリ、なんでスヴェンまで連れてくるのよ?」
「ふふっ。姉様。私達の怒りのためです。」
「!!‥‥なるほど。じゃあ、次はラズライトね。」
「はい。」
今の私達は多分、目だけ笑ってない。
そして、私達姉妹は今度はラズライトへと向かった。
リヒトの浮気疑惑の辺りが、作者が夢で見た光景の一つでした。まだこの作品を書くなんて考えてなかった頃です。
ちなみにスヴェートはリヒトの巻き添えです。
こうしたら面白そうだと思ったので。




