93話 閑話 国王と王女の会話
70話で後書きに書いていた閑話です。
全体的に会話のみです。
成人前、ルリが王女に戻ると決めた後のとある日。
執務室に呼ばれたルリが中に入ると、国王夫妻が揃って待ち構えていた。
「あれ?母様もいらしたんですね。」
「ええ。ルリに大切な話があるの。」
そしてルリが両親が座る対面のソファーに座り、尋ねる。
「なんでしょう?」
「ルリ。まず王女に戻る決心をしてくれたこと、嬉しかったぞ。これは本当だからな。」
「え?はい。どうされたんですか?父様。」
ここでルリは両親の表情が真剣なものになっていることに気付いた。
「ルリ。王女に戻るとはどういうことか分かるか?」
「ざっくりとした質問ですね。」
「今までと違うことはあるだろ?」
「はい。まず、暮らしが違います。何もかもが日本にいた時や旅の間とも違います。」
「他にあるか?」
「セピオライトやラズライトの街を歩かせてもらった時、国民の皆さんが教えてくださったのが、私達王族の方から話し掛けないと会話もできないと。」
「それを聞いてどう思った?」
「違和感しかなかったです。何故産まれの違いで会話もできないとか意味不明なことになるのかと。」
「それはな、庶民感覚を持った王族が何十年も、いや。もしかしたらそれ以上いなかったからだ。」
「え?でも王族が旅をするのは義務なのでしょう?」
「ああ。でも皆社会勉強止まりなんだ。この大陸にいる間、王族として見られる。街に泊まるにしても宿ではなく、領主館だ。」
「あ。なるほど。でも、向こうの大陸では?」
「それは「先祖を迫害した奴らなんぞから学ぶことはない」だよ。勿論全員じゃないけどな。」
「‥‥‥父様もですか?」
「いや。俺は向こうの大陸では確かに学ぶことなんぞないと思ってさっさと帰ってきたが、こっちの大陸に入ってからは宿に泊まって理解しようとした。」
「しようとした?」
「ああ。たったそれだけで国民の生活を理解したなんて思わないさ。一生を城下で終わる国民と、城で終わる王族の俺。お互いに真に理解することはない。したと思うのは傲りだ。だが、ルリは違うだろ?」
「‥‥‥父様よりは国民に近いですね。」
「ああ。そんなルリが王女に戻るんだ。ルリは国民の希望になってる。国民の気持ちを真に理解する王女だからな。だが、同時によく思わない者もいる。」
「私が王女に戻ることに反対の人がいると?」
「ああ。多くの者達がルリを祝福するだろうが、中には庶民育ちが王女で大丈夫なのか?と疑問視する者もいる筈だ。命も狙ってくるかもしれん。」
「え?命をですか?」
「ああ。反対派が声をあげようと、賛成派の方が多ければ反対派の声は潰される。それでもどうしても納得がいかないからいっそ‥‥と考えるやつが皆無とは言えないだろ?」
「極端な話ですが、そうですね‥‥。」
「で、俺が何を言いたいかというとだ。王女に戻るということはこの国の重要人物の一員になるということ。そして、ルリの場合は巫女にもなるから余計でもだ。この大陸の最重要人物と言っていい。俺達よりルリの方が命の優先度は高い。そしてルリの命を狙うとしたら一番は人間の国だ。」
「精霊‥‥ですか?」
「ああ。そうだ。精霊達は本来向こうの大陸にいたからな。」
「身勝手ですね。」
「俺もそう思うがな。で、世界の中でこの大陸の三国はどんな位置付けか分かるか?」
「え?えっと政治的な面でですか?」
「ああ。」
「えっと‥‥‥向こうの大陸に干渉することはない‥‥‥魔族にも人間の国にも属することはないので、中立‥‥か、傍観者といったところですか?」
「まあ、そんな感じだ。いいか、ルリ。俺達は王族だ。国民は宝だ。それは分かるか?」
「はい。国民なくして国とは言えません。」
「ああ。その通りだ。今までこの大陸に魔族も人間も「攻め入る」ということはなかった。だが、これからもそれが無いとは言い切れない。」
「可能性は無くはないですね。私という巫女が現れて、向こうに知られれば特に。‥‥‥ということですか?」
「ああ。仮に人間の国がルリを誘拐する為に攻めて来たらどうする?」
「‥‥‥私が巫女としてどれ程の力を行使できるかは分かりませんが、抵抗は全力でします。」
「ああ。そうだな。俺もだ。だが、ルリは最後の砦だ。絶対に最前線には送らないからな。」
「え?狙われてるのが私でもですか?」
「ああ。三国それぞれに辺境伯家は一家ずつしかない。そしてその領地は海沿い。これで分かるな?」
「‥‥‥まず、辺境伯家の私兵や周辺の街に常駐している騎士達で対応する。それでも防ぎきれず、上陸されたら城の騎士達も出動。王都に近づくまで侵攻されたらやっと私も抵抗に参加していい‥‥‥ですか?」
「その通りだ。ルリ、王族に入ることや巫女になることはそういう覚悟も必要だ。自国は勿論、他二国や世界を見て判断する必要がある。脅したみたいになったが、それでも王女に戻り、巫女になるか?」
「‥‥‥‥‥‥はい。私はそれを承知の上で王女に戻り、巫女になります。そしていざとなったら国民の剣となり、盾となります。」
「‥‥‥そうか。良かった。」
それまで真剣な表情だった父様がふっと安心した様に笑った。
「この覚悟を聞かないままルリを王女に戻したら、後で後悔するのはルリかもしれないからな。洗礼前の今ならまだ引き返せるから聞いてみたんだ。」
「そうでしたか‥‥ありがとうございます。父様。」
「いや、いいさ。実はな、この話は王族全員に話す様に先祖代々決められてることなんだ。ルリの場合は巫女の部分を加えたが、王族としての覚悟と自覚を持てという意味でな。」
「へ~!そうなんですね。」
「ふふっ。そうよ。だからいつかルリもリヒト君と一緒に自分の子供に話してあげなさい。」
「はい。‥‥‥って母様!な、なにを!?」
「ふふっ。やっぱりルリの反応は可愛いわ~。」
「からかわないで下さい!まだ先の話をされても‥‥」
「あら、そんなに先じゃないかもしれないじゃない?」
「も~!母様!」
「ははは!ナノカ、その辺にしてやれ。」
「ふふっ。は~い。」
「‥‥‥‥父様、母様。」
「「ん?」」
「私がここに帰ってきた時、王女に戻るか日本に帰るか決めていいと仰ってくださったのは、このためでもあったのですか?」
「ああ。」
「ええ。そうよ。今までそんな話とは無縁のところで生活してたんだもの。いきなり言われても無理って言われてもしょうがないかなとは思ってたからね。」
「でも、ゆっくり考える時間をもらえて良かったです。すぐに決めろって言われてたら無理って日本に帰ってたかもしれません。」
「やっぱりか‥‥‥ただでさえ情報量が多いから、ルリにはまず理解して判断する時間をあげないとなって話してたんだよ。」
「ふふっ。正解でしたね。」
「全くだ。」
こうして王族親子の覚悟の会話は終わった。
余談ですが。
作者は最後の一文、危うく辛気くさい会話って書きそうになりました。




