9話 現れたのは?
自分で言ったことだけど、その後のリヒトさんの行動に絶賛パニック中です。
え?‥‥‥え!?な‥‥何で!?
数秒後、唇を離したリヒトさんが「お。止まったみたいだな。」と言って涙の後を拭ってくれた。
た、確かに何されても文句言うつもりはなかったからそう言ったし、びっくりして涙止まったけど!
「こ、こうくるとは思いませんでした‥‥。」
「え?じゃあ何されると思ってたんだ?」
「デコピンとかされて痛みで涙止めるとかかなと。」
「あ。」
「あ。とは?」
「えっと‥‥半分以上は俺がやりたくてキスしたから‥‥‥でも確かに他にも方法はあったな‥‥って思って。」
とリヒトさんは顔を反らして言った。
その顔は若干赤かった。多分私も同じぐらい赤い。
「へ?リヒトさん‥‥私にキス‥‥したかったんですか?」
「‥‥‥まあな‥‥‥さっきからずっとルリの腕の中だったから余計に‥‥‥。」
「は!そ、そういえばそうですね。傷塞がったばっかりなのに抱きついちゃ駄目でしたね!すみません!」
と離れようとすると、逆にリヒトさんに抱き締められた。
「り、リヒトさん!?」
「まだこのままがいい。」
「で、でも傷が‥‥」
「どうせすぐには動けない。」
「あ!街に生き残ってる人がいないか確認しないと!」
「ルリ‥‥‥嫌か?」
「い、嫌じゃないですけど‥‥」
「キスもか?」
「‥‥‥‥‥はい。」
「今の間が気になるんだが‥‥‥もしかして初めてだったか?」
「む。悪いですか?」
「悪くない。むしろ嬉しい。安心してくれ、俺も初めてだったから。」
「え?それは嘘ですよね?そんな格好いい顔してモテない筈ないです。」
「それは嬉しいけど‥‥小さい頃にな。ルリの、写真って言うんだよな?あれ。ルリを育ててくれてた人が撮ってくれてたやつを見て俺、ルリに一目惚れしたんだぞ?」
「え!?写真って‥‥どうやってこっちに?」
「ある意味裏技だよ。こっちから向こうに行く時は確実にあの地下室の扉を開けるって言っただろ?予め日時を知らせておいてその時に少しだけ向こうに出て受け取ったら戻る。要は通過しなければいいって話だ。」
「本当に裏技ですね。」
「それで、その写真を見た瞬間「結婚するならこの子がいい!」って俺の両親に言ったぐらいだぞ?その時、ルリの実の両親もいたな。」
「え‥‥‥私と?」
「ああ。それからずっとルリだけが好きだったんだ。他なんて目に入ってない。」
「‥‥‥‥‥‥」
「ルリ?」
「まさかこの状況で告白されるとは思わなかったので‥‥」
「ああ。俺も。ちゃんとルリを落としてから言うつもりだったんだけどなぁ。」
「へ?お、落としてって‥‥‥わ、私のどこが‥‥というより実物の私見て幻滅しなかったんですか?」
「え?なんで幻滅するんだ?」
「いや、私が聞いてるんです。」
「幻滅する要素がないな。」
「‥‥‥‥リヒトさん。」
「なんだ?」
「すみません‥‥なんか、突然眠くなってきました‥‥。」
「え!?‥‥‥ああ。力使ったからだな。でもこのままここで寝るのは駄目だな。俺も動けないし。」
ザッザッザ
「ですよね‥‥‥リヒトさんの腕の中、安心するので余計に‥‥‥」
ザッ
「そこのお2人。ちょっとよろしいでしょうか?」
「「え?」」
リヒトさんと2人して声がした方に振り返ると、いつの間にか集団がいた。
そしてその集団を見たリヒトさんがゆっくり私を後ろに隠した。
その様子を見ながら集団から一人の男性が出てきた。
「誰だ?」
「失礼しました。我々の身分は一先ず保留で。魔族の者とだけお答えしておきます。」
「それで、なんの用だ?」
「簡単なことです。この街で何が起こったか、ご存知ならお聞かせ頂けないかと。」
「なら奴等が出てきて街を襲っていた。俺達が着いた時には火の海だった。以上だ。」
「そうですか。後ろのお嬢さんはいかがですか?」
「え?私ですか?」
「はい。お聞かせ頂けますか?」
「えっと‥‥‥基本的には同じです。私は子供を一人保護して避難場所に送り届けてます。」
「避難場所とは?」
「あっちの‥‥関所みたいな建物です。」
私がその方向を指差して言うと。
「確認を。」
「は!」
後ろの部下らしき人に簡潔に指示を出した後、再びこちらを向いて一礼した後こう続けた。
「ありがとうございます。一人でも命を助けて頂いたこと、感謝致します。」
「い、いえ。当然のことかと‥‥。」
「なあ、俺も話してみたいんだがいいか?」
「へ、‥‥‥しかし!」
「心配なら見てればいいだろ?」
へ、ってなんて言おうとしたんだろ?
って!この人!
今「話してみたい」と出てきた人を見て驚いた。
「り、リヒトさん。この世界にも黒髪黒目の人いるんですね‥‥日本人みたいですよね。」
「あ、ルリ!」
『え?』
一応声を抑えたつもりだったのに、私の発言が聞こえたのか、今度は魔族の人達が驚く番だった。
「い、今日本人って言ったか!?」
「え‥‥っと‥‥(ど、どうしましょう!リヒトさん!)」
「(とりあえず惚けろ。)」
「(は、はい。)わ、私。日本人とか言いました?」
『言った!』
「(駄目でした!)」
ザッザッ
ポン
「え?」
いつの間にか黒髪の男性が近づいてきて、私の頭に手を置いていた。
「そんな警戒しないでくれ。2人をどうにかしようとは言わないし、しない。だからとりあえず名前教えてくれるか?」
「え‥‥っと私は、ルリです。」
「歳は?」
「14歳になったばっかりです。」
「お。俺の一個下だな。呼び捨てで構わないか?」
「え?は、はい。」
「ありがとな。で、そっちのお兄さんは?」
「‥‥‥‥リヒト。家名は悪いが言えない。16だ。」
「一個上か。じゃあリヒトさん、ルリ。このままここにいる訳じゃないんだろ?一緒に来てくれないか?リヒトさんは怪我してたみたいだし。」
「そうだが‥‥‥」
「勿論、来てくれるならルリも一緒だ。離さないから安心してくれ。」
「「‥‥‥‥」」
「あの、私達には名前教えてくれないんですか?」
「あ。そういえば俺が名乗ってなかったな。」
と言って黒髪の男性が名乗ってくれたことで周りの人達も次々に名乗ってくれた。