4話 この世界のこと
熊の姿をした化け物をリヒトさんがあっさり倒した後。
私はリヒトさんにとりあえず国境は渡るべきだと言われたので、大人しくついていっていた。
「ルリ。」
「はい。」
「もうすぐ国境を越える。越えたらとりあえず今いる国よりは安全だから、もう少し頑張ってくれ。そのあとで軽く現状を話したり、ルリの知りたいこととか聞くから。」
「はい。分かりました。」
その後は再び無言で歩いていた。
歩きながら気付いたが、リヒトさんは国境を越えるために急ぎたいと言っていたのに私に歩調を合わせてくれている。
しかもまた襲われないか警戒しながら。
私、足手まといだな‥‥‥
「ルリ?」
「はい。」
「どうかしたか?」
「え?」
「いや、顔が暗いから‥‥疲れたか?」
「いえ。まだ大丈夫ですよ。」
「そうか?無理せず言えよ?」
「はい。」
こうして私のこともよく見てくれてる。
迎えに来てくれた人が優しい人で良かった。
そうして歩いている内にいつの間にか国境を越えていたそうで、昼食を取ることになった。
ということで私はリュックの中から敷物と2人分のお弁当を出した。
「お。弁当か。」
「はい。義母さんが初日ぐらいなら大丈夫だからって持たせてくれたんです。」
「そうか。じゃあお言葉に甘えて。いただきます。」
「リヒトさん。この世界でもいただきますって言うんですか?」
「いや?言わないよ。昨日見てて覚えた。」
「あ、なるほど。」
そして昼食を食べ終わると。
「さて、一先ずさらっと現状を言うな。」
「はい。」
「まず、この世界は大きく分けて人間と魔族の2つの種族しかいない。で、さっきまでいたのは人間の国。今いるのは魔族の国だ。」
「え?人間の国より魔族の国の方が安全なんですか?」
「ああ。魔族の国は今の王に代替わりしてからいい国になりつつあるんだ。だが、人間の国は俺達のことが知られたら命を狙われる。」
「え!?命まで狙われるんですか?」
「ああ。それは俺達の血筋のせいだ。」
「え?血筋?」
「ああ。さっき人間と魔族の2つしか種族がないって言っただろ?」
「はい。」
「実は大昔は共存してたそうなんだが、いつの頃からかお互いを差別するようになってな。人間と魔族の間に出来た子供は特にお互いからの迫害の対象だったんだ。それに耐えかねたその狭間の子供達が両親と共に海を渡って別の大陸に移住した。それが、俺達の祖先なんだ。」
「じゃあ私達は狭間の子供達の子孫だから迫害の対象なんですか?」
「ああ。人間の国は特にずっと昔からの差別意識が根強い。だから危険なんだ。」
「そうですか‥‥‥。」
「それでさっきまでは急いでいたんだ。現状はなんとなく分かったか?」
「はい。とりあえずは。」
「ああ。それぐらいでいい。詳しくはおいおい話していくな。」
「はい。」
「ルリは何か聞きたいことあるか?」
「この世界に来る時に通った扉。義母さんがうちからこの世界に出る時はランダムだと言ってましたが、逆は違うんですか?」
「ああ。この世界からあの地下室の扉を通る時は特定の場所から行けるんだ。だからルリの誕生日に合わせて来れたんだよ。」
「その場所も今は話せない類いですか?」
「ああ。」
「そうですか‥‥。」
「他、何かあるか?」
「えっと‥‥リヒトさんは私のいとこなんですよね?」
「ああ。そうだよ。」
「なら私の家族構成もご存知ですか?」
「ああ。えっと‥‥‥言っていいのかな?‥‥‥う~ん‥‥まあ、いいか。‥‥ルリの家族はな、両親の他に3個上の姉がいるぞ。」
「! そうなんですか?」
「ああ。」
「それ以上は話してもらえないんですよね?」
「ああ‥‥。」
「なら、えっと‥‥リヒトさん。これからどこに向かうんですか?今の話から察するに最終目的地は海を渡った別大陸なんですよね?」
「ああ。最終目的地はルリの言った通り海の向こうだ。だから港を目指して行くことになる。それで、まずは近くの街に向かう。それから旅の行程を決めよう。」
「はい。分かりました。」
「とりあえずルリの質問は終わりか?」
「はい。今は分からないことが分からないって感じなので。」
「だよな。で、ルリ。もう少し休憩してから行くか?」
「街まで近いんですか?」
「いや、あと最低でも1日は掛かる距離だ。だから今夜は野宿だ。14歳の女の子には辛いだろうが‥‥」
「大丈夫ですよ。現状、私は足手まといにしかなってませんから。我が儘を言うつもりはありません。」
「! (俺としては我が儘ぐらい言ってほしいんだがな。)」
「え?」
「いや。とりあえず俺は足手まといなんて思ってないぞ?ルリが本来の力を出せる様になったら俺より強いだろうしな。」
「え‥‥?」
え?リヒトさん、私の力のこと知ってるの?
どうして‥‥‥
「ん?どうした?」
「いえ‥‥。」
「? そうか。」
なんで知ってるかなんて聞き辛い‥‥‥
私の力は人を傷付けるから‥‥‥
その後、少し休憩時間を取ってから再び出発した。