14話 魔岩について
これは育ててくれた両親から聞いた話。
20年前のとある日。
その日突然空に穴が空いた。巨大なその穴から禍々しい岩が落ちてきた。穴は岩を落とすと同時に閉じた。
ただの岩なら問題はなかった。
その岩は禍々しい色をしていた。真っ黒。そしてその岩に惹かれる様に続々と野生の動物が近付き、その姿を変えていった。森が近くにあったとはいえ、その距離5キロ。あの岩の影響する範囲が広すぎる。
幸い、岩が落ちたのは工事予定地だった更地。岩が落ちたことでの人的被害はなかった。
だが、それでも野生動物の突然変異。何が起こるか分からないと、周辺に住んでいた住民にもすぐさま避難指示が出た。
だが、不思議なことにあの岩は人間には影響がなかった。
しばらくして、安全の確保が出来た時に一人の研究者が自ら岩に近付いた。そして岩を調べて戻った後自らを隔離し、入念に体への影響がなかったか徹底的に調べた。
その結果、人体に影響なしと判断された。だが、たった一人の調査結果を鵜呑みにする訳にはいかないと他の研究者達も続々と同じ事を試し、改めて人体に影響なしと判断された。
そして禍々しい黒い色をしたその岩を人々はこう呼ぶようになった。
「魔岩」と。
そして魔岩の正体だが、これは今だに分かっていない。
様々な憶測は流れるが、どれも科学的に証明できていないのだ。
そんな中、戸隠家の家があったのは魔岩から20キロ離れた所だった。
研究者達が数年掛かりで調べたところ、魔岩の効果範囲は魔岩を中心に直径15キロ程だった。この範囲に入ってしまった動物は変異し化け物と化すが、その範囲から出ることはないとされていた。
従って、戸隠家があったこの範囲でも一時、避難指示が出されていたが、解除された為周辺住民も戻ってきていた。
戸隠家は避難指示を無視して残っていたそうだが。
そして魔岩が落ちて数年後。
母はルリを抱えて散歩をしていた。魔岩の周辺には間違って子供が入り込まない様に壁が作られていたため近付くことさえなかった。
この日も近付いた訳ではなかった。
だが、目の前に熊の化け物が姿を現してしまった。
母は逃げなければという意識はあったものの、体が震えて動いてくれない。
母は近付いてくる熊の化け物に成す術がなく、思わず目を閉じて「誰か助けて!」と心の中で叫んでいた。
その心の声を知ってか知らずか、ルリが「う?」と声を出したのに反応して母は再び目を開いて腕の中のルリを見た。
そうだ。私はこの子をなんとしても守らないといけなかった。
そう思ってもどうすることもできない。もうすぐそこに熊の化け物は迫ってきている。
そんな母をじっと見ていたルリは、母の焦りを感じ取ったのかおもむろに片手を熊の化け物に向けた。
え?と母が戸惑う中。ルリが「あぃ!」と言ってその片手から光を出し、熊を消してしまった。
助かったが、母は絶句である。
これはいつか言い聞かせないと駄目だ。日本でこんな力があると誰かに知られたらとんでもないことになる。
母はその時、そう決意した。
「以上が私が母に聞いた魔岩のことと、最初に私が力を使った時のことです。」
「確かに俺が魔岩のことを聞いた時も同じようなことを聞いたな。ただ俺は住んでた地域が違ったから何の影響もなかったが。」
「優人さんは東京でしたよね。」
「ああ。やっぱり知ってるんだな。ちなみに戸隠ってのがルリの日本にいた時の家名か?」
「はい。そうですよ。」
「そうか。で、まさか俺、ニュースになってたか?」
「ふふっ。はい。そりゃあもう毎日。」
「うげっ。」
「ルリ?」
「あ、私達だけで話してましたね。私が優人さんを知ってた理由ですが、去年日本で優人さんが突然行方不明になったとニュースで見たからです。」
『ニュース?』
「あ。ニュースって言葉はこの世界にないですか?何て言ったらいいんでしょうか?」
「う~ん。伝令とか?」
「ですかね?とりあえずお知らせ的なことです。それを毎日テレビで放送されてました。「東京から修学旅行で京都に行っていた学生の一人の小鳥遊優人さんが行方不明となっております。」って。」
『テレビ?』
「‥‥‥えっと‥‥映像で情報を伝える機械とかでしょうか?」
「ざっくり言えばそんな感じじゃね?」
「で、優人さん。本当にその時にこっちに来たんですか?」
「ああ。そうだ。この国の巫女に召喚されてな。」
「へ~。帰る気はなかったんですか?」
『!!』
「ないな。親には悪いが。やっぱり心配してたか?」
「はい。誘拐されたんじゃないかって言われ始めてからは「犯人がいるなら息子を返して下さい!」って泣きながら訴えてました。それに私がこっちにくる前に行方不明になってから一年経ったらしくて「今だに手掛かりすらない。早く帰ってきて」ってまた泣いてました。」
「そうか‥‥‥。」
そこで一同が沈黙する。
沈黙を破ったのはリヒトさんだった。
「とりあえずルリが優人を知ってた理由は今話してくれたことで全部か?」
「はい。そうです。」
「なら、ルリ。俺の怪我を治そうとした時、「久しぶり」って、前に誰かの怪我を治したことがあるって言ってたよな?それも聞いていいか?」
「えっと‥‥‥雅のことなんですが‥‥話していいんでしょうか?」
「ん?雅って幼なじみって言ってやつだよな?何か話し辛いことがあるのか?」
「いえ。雅のことじゃなくて、怪我を治したこと自体です。話していいんですか?」
「ああ。俺の怪我はルリが治したってもう言っちゃったからな。」
「そうですか。なら話します。」
そして今度は雅に怪我させてしまった話から。




