106話 二人旅の始まり
さて、二人共帯剣して荷物を背負って、戸隠家の地下から扉を通ったルリとリヒト。
勿論、二人が通ったあとすぐに扉は消えた。
そして。
「【ワールドマップ】」
「どう?リヒト。」
「‥‥‥。」
「リヒト?‥‥‥これ、二年前より人間の国寄りじゃない?」
「ああ‥‥。」
世界地図を出したリヒトが現在地を確認した途端固まったので、ルリが横から確認すると、それは二年前よりも敵地と言ってもいい人間の国に近い場所だった。
現在地が既に人間の国の領地内なので、正確には街に近いということになる。
「どうする?一気にゲートで帰る?魔族の国に寄る?」
「あ~‥‥優人に会うならルリと二人だけの今しかないよな‥‥。」
「だね。」
と、相談していると。
「そこにいる二人。何している?」
背後からの声。間違いなく、人間の国の人だろう。
「(私達に言ったんだよね?多分。)」
「(だろうな。他に人いないし。)」
「(どうする?答えずに魔族の国に逃げる?)」
「(それが無難か‥‥)」
「何をしていると聞いている。答えろ!」
痺れを切らしたのか怒りが籠り始めた。
しょうがないので振り返ると、着ている物から恐らく兵士さんの類いだろうなと思われる、私達よりちょっと年上ぐらいの男性だった。
「何もしてません。私達は旅の者で、道に迷ったので相談していただけです。」
「ならば何故、すぐ答えない?」
「声で怪しまれてると分かって‥‥ちょっと怖かったからです。」
「あ。‥‥そうか、それはすまなかったな。」
「え?い、いえ‥‥。」
あ、あれ?優しい人っぽい‥‥?
「それで、道は分かりそうか?」
「はい。大丈夫です。」
「なら早くここから去った方がいい。」
「何かあるんですか?」
「南の、エヴァンジル大陸は分かるか?」
「はい。聞いたことはあります。」
「その大陸に巫女が現れたらしい。それで、どうやら上のお偉いさん達が誘拐する算段を立ててるらしいんだ。」
「‥‥‥聞いておいてなんですが、私達の様な旅の者にそんな情報を漏らして大丈夫なのですか?」
「ああ。その為に一人で近付いたんだからな。それに俺は上の考えることが理解できん。巫女を誘拐したところで意味がないと思ってるし、誘拐される巫女が可哀想だからな。むしろ旅先で触れ回ってあの大陸にも情報が渡って対策でもしてもらいたいぐらいだ。」
「そ、そうですか。」
私がその巫女ですとは言えない‥‥。
「だから、いずれこの辺りを軍が通って行くだろうから気をつけろよ。」
「はい。ご丁寧にありがとうございました。」
「いや。じゃあな。」
と言ったあと馬で移動し、ちょっと離れたところにいた仲間と共に去っていった。
「‥‥‥親切な人もいるんだね。」
「だな‥‥。しかし度胸あるよな、ルリは。」
「そう?‥‥でもあの程度の話で終わったのはあの人だったからだろうね。」
「ああ。もう少し上の奴らだったらこの場で捕らえようとしても不思議じゃないからな。」
「だね。‥‥さて、どうする?リヒト。」
「とりあえず、魔族の国に向かうか。」
「うん。」
そして改めて地図を確認してから、私達は魔族の国に向かって歩き出した。
「そういえば、リヒト。」
「ん?」
「二年前程は慌てないんだね。」
「ああ。あの時とは違うだろ?ルリも戦えるし。」
「うん。そうだね。」
「二年前は何としても無事にルリを送り届けないとっていうのが先だったからな。」
「今は?」
「二人きりの状況を嬉しく思ってるぐらいだ。」
「ふふっ。そっか。じゃあ‥‥」
と言って私はリヒトの左腕に抱き付いた。
「え?ルリ?」
「歩き難いならやめる?」
「いや。ちょっと驚いただけだ。そのままがいい。」
「ふふっ。良かった。実はこうしてみたかったんだ~。」
「そうなのか?」
「うん。でも、人前でやるのはまだ恥ずかしくて勇気がいるから‥‥」
「今なら二人きりだしな。」
「そういうこと。あ、リヒト。」
「ん?」
「今朝、頬引っ張ってごめんね。」
「いいよ、それぐらい。」
「‥‥‥リヒトは私に甘いよね。」
「優しいと言ってくれ。」
そしてしばらく歩き続けたところで。
「‥‥リヒト。今更気付いたこと、言っていい?」
「ん?なんだ?」
「飛んだ方が早くない?」
「あ。‥‥でも、ルリが俺を抱えられないだろ?」
「抱えなくても抱き締めるだけでいい気がする。翼生やして飛ぶんだし。‥‥やってみる?」
「‥‥‥興味はあるが、それをしたらなんとなくだが、男としての自信を失いそうだからやめとくよ。」
「そっか。」
そして一旦休憩しようということで、今回も義母さんが昼食にと持たせてくれた弁当を食べて、再び歩き出した。
今度は普通に並んで歩いている。
「‥‥‥ルリ。」
「ん?」
「もう、腕組まないのか?」
「とりあえず国境は越えないと安心できないのは変わらないでしょ?腕組んで歩いてると遅くなるから一旦終わり。」
「ということは‥‥」
「あとでまたしようかなとは思ってる‥‥。」
「なら、いいか。とりあえず、暗くなる前に国境を越えるぞ。」
「うん。」
そしてその後も歩き続け、夕方迄に国境を越えることができた。
馬車の休憩スペースに到着したところで、今回もリヒトが異空間収納からテントを出したのだが。
「‥‥ねぇ、リヒト。」
「ん?」
「なんで異空間収納使えるの?」
「なんでと言われてもな‥‥」
「魔族の国は精霊がいない筈なんだよ?全くいないって言っていいぐらい。なのに何で使えるんだろ?」
「さあ‥‥?」
「‥‥‥確認だけど、また一緒のテントで寝るの?」
「ああ。」
「‥‥‥まあ、婚約者だからいっか‥‥‥‥ん?リヒト。」
「‥‥‥なんでしょうか?」
「今なら王太子だって知ってるし、婚約者だからいいけど、二年前は違うよね?王族が未婚の女の子と一緒のテントに寝るって本当は問題だったんじゃないの?」
「‥‥‥はい。本来よろしくないです。」
「やっぱり‥‥私がリヒトの婚約者にならなかったら問題になってたってことだよね?」
「はい。その通りです‥‥。」
「さっきから何で敬語?」
「‥‥なんとなく。」
「そう。で、とりあえず夕食どうする?」
「今回も城の厨房の人達が頑張ってくれたのを預かってるぞ?」
「‥‥私も異空間収納使えるのに色々何故だ‥‥。」
「とりあえず、食べないか?」
「うん‥‥そうする。」
夕食後。
勿論、テントの中。
「リヒト。今日、通った道って二年前と同じ?」
「ああ。」
「なら、このまま行ったらリト君がいた街?」
「あ、そうだな。復興できてるか、見に行くか?」
「うん。行きたい。その後、優人さんに会いに行ってから帰る?」
「そうするか。この道程ができるのはルリと二人きりの時だけだからな。」
「うん。城に帰ってからだと、絶対大陸から出ることすら駄目って言われるよね。」
「ああ。もしくは敵意剥き出しになったイリス達の同行が義務付けられるかだな。」
「だね。‥‥‥リヒト。」
「ん?」
「また一人で寝ずの番するの?」
「‥‥‥いや、今回は頼っていいか?」
「!! うん!勿論。」
「そんなに嬉しいか?」
「うん。前は何もできなかったからずっと申し訳ないなって思ってたからね。頼ってもらえる様になったんだってすごく嬉しい!」
「そうか。とりあえず、俺が先に寝ていいか?」
「うん。いいよ。」
「じゃあ、ルリが眠たくなったら起こしてくれ。‥‥おやすみ。」
「うん。分かった。おやすみ、リヒト。」
そしてテントの中に並んで置いてある、二つのベッドの一つに寝たリヒト。
‥‥‥そういえば、異空間収納使えたってことは精霊がいるのかな?
でもオリジンの話だと、精霊は魔族の地にはいない筈だよね‥‥?
‥‥‥私と同じことかな。四大や他の大精霊、上位精霊達の力が私の中にある様に、リヒトにも空間の精霊との契約で力が宿っていて、その力を使って異空間収納を使ってる?
‥‥‥試してみるか。
「(【サーチ】)」
とりあえず、動物でもいたら反応が分かる筈‥‥‥
‥‥‥‥やっぱり近くにはいないか‥‥でも探ることができるならやっぱりそういうことなんだろうな‥‥
と思いつつサーチを解除した。
ということはある程度、精霊術も使えるのかな‥‥。
でも、ここぞって時以外は使わない方がいいんだろうな。あの大陸にいる間みたいに使い続けたら倒れるかもだし。
とかをしばらく考えていると。
「‥‥ルリ。」
「ん?‥‥あれ?起こしちゃった?」
「いや、自然と目が覚めただけだ。代わるか?」
「じゃあ、お願いしようかな。」
「ああ。いいよ。」
そして交代してルリがベッドで眠ると。
さっきのルリ、考えごとしてたよな?
明日とかにでも教えてくれるかな‥‥?
‥‥‥‥今回は本当に穏やかだ。もう何も隠していることがないから、心の葛藤もない。
と、思いつつルリの寝顔を懲りずに見ていたリヒトは。
‥‥‥‥心の葛藤はないが、理性との戦いはあるな。
と思いながら見張りを続けつつ、目の前で安心しきった顔で穏やかに眠る婚約者の顔を見ている間に夜が明けていった。




