103話 一年越しの
そして最終日の朝。
いつも通り起きたルリが一階に降りると、今日はリヒトもいた。
「おはよう。義母さん、リヒト。」
「「おはよう。」」
「ルリ、みんなを起こしてきて。」
「はーい。」
戸隠家の日常のやり取り。
そして全員が起きてきて、みんなで朝食を食べて、春花以外が仕事と学校に行く。
年齢的にはリヒトやルリも高校生の歳だが、行かない。
住む世界が変わってしまったから。
そして樹達を見送ったあと、ルリ達は部屋の片付けを始めた。だが、帰るのは明日だし、一週間でそこまで汚す様なこともないのですぐに終わった。
ついでに明日の準備も粗方終わらせてしまった。
昼食後。
「で、ルリ。リヒトさんも。今日はどうする?何かやっておきたいとか、行きたいところとかないの?」
「「う~ん‥‥。」」
「‥‥‥義母さん。」
「ん?」
「陛下の許可がもらえたらさ‥‥今度は本当に遊びに帰ってきてもいい?」
「ふふっ。勿論よ。いつでもいらっしゃい。」
「ならいいかな‥‥今回の目的は魔岩だったし、リヒトと出掛けられたし、雅達にまで会えたしね。一つだけ浮かんだのは義姉ちゃん達が帰ってきてから聞いてみるよ。」
「みんなで行くの?」
「うん。」
「そう。明日からまた旅になるかもしれないし、それ以外はゆっくり休むのもいいかもしれないわね‥‥あ、お土産は良かったの?」
「それ昨日、水族館でも迷ったんだよ。物を買っても文化とか材料とか違うじゃない?使い辛いだろうなって。で、お菓子ならいいかもって思ったけどどこまでの人にあげるかによるねって話して結局やめたんだよ。」
「どこまでって?」
「家族だけじゃなくて、近しい人達にもあげるか否かだよ。境界線が難しいなって。だからいっそのこと無くてもいいかなって。こっちにくる時もなかったでしょ?陛下達もお土産がないぐらいで怒る様な人達じゃないだろうし。」
「怒りはしないかもしれないけど、寂しくはあるんじゃない?」
「‥‥‥じゃあ、寂しそうだったら何か作るよ。料理方面で。」
「むしろそっちの方が喜ぶんじゃないか?」
「そうかな?」
「私もそう思うわよ?」
「ならやっぱりお土産なしで。」
「だな。」
やることがない。
「‥‥‥暇になっちゃったね。」
「だな。」
「じゃあ、散歩してきたら?」
「‥‥そうしようかな。」
「じゃあ、俺も行っていいか?」
「勿論。」
そしてルリはリヒトと散歩に向かった。勿論カツラは忘れてない。
適当に歩いていたのに、足は自然と魔岩の隔離施設に向いていた。
そこにはまだ規制線が張られているものの、ルリが扉を破壊した為、かつて魔岩があった場所も見えていた。
「‥‥‥何も無いね‥‥。」
「だな‥‥。」
「‥‥他に移動した様子なかったよね?」
「ああ。」
「なら、やっぱり成功かな。やっぱりテレビ越しじゃなくて自分の目で見た方が安心する。」
「そうか。いい報告ができるな。」
「うん。」
そして私達は再び歩き出した。
「‥‥‥リヒト。」
「ん?」
「私達が結婚したら更に日本に来にくくなるのかな?」
「そうだな‥‥ルリも仕事を任される様になるだろうから、難しくはなるだろうな。」
「‥‥‥だよね‥‥。」
「ルリ、やっぱり寂しいか?」
「寂しくないって言ったら嘘になるかな‥‥。ここは私のもう一つの故郷だからね。」
「‥‥「もう一つ」か。」
「うん。」
そしてゆっくり散歩を楽しんでから帰ってきたルリ達。
春花は買い物に行ったのか、いなかった。鍵はルリも持っていたので、問題なく中に入れた。
すると。
「ルリ、ちょっといいか?」
「えっ、なに?」
リヒトはルリの手をとってそのまま二階に上がり、リヒトが泊まる部屋に入った。
そしてリヒトはそこで手を放して振り返った。
「リヒト?」
「ルリ。去年から決めてたことがあるんだ。これを言うならこの家でかなって。」
すると、リヒトはルリの前に跪いて真っ直ぐルリの目を見た。
「え!?ど、どうしたの?いきなり。」
「ルリ。‥‥いえ、セピオライト王国第二王女ルリ姫。私、ラズライト王国王太子リヒト・ラズライトはルリ姫を心よりお慕い申し上げております。あと二年もお待たせすることにはなりますが、私と結婚し、妃となって頂けますか?」
「!!!」
こ、ここでプロポーズするの!?
と私が衝撃で固まっていると、
「‥‥‥さすがに何か言ってほしいんだが‥‥。」
「あっ!ご、ごめん。衝撃が半端なかったから‥‥ちょっと待って。」
私はゆっくり深呼吸したあと、
「失礼致しました。王太子殿下。‥‥王太子殿下のお気持ち大変嬉しく思います。私も殿下を心よりお慕い申し上げております。ですので‥‥喜んで殿下のお申し出を受けさせて頂きますわ。」
「!!‥‥ありがとうございます。」
リヒトはそう言って嬉しそうに笑ったあと、立ち上がって私の左手をとった。
そして「やっと渡せる。」と言って私の左手薬指に指輪を嵌めた。
「え?」
「婚約指輪。まさか一年越しになるとは思わなかったけどな。」
「‥‥‥向こうにもあったんだ‥‥婚約指輪‥‥。」
「ああ。ということは日本にも?」
「うん。あるよ。気持ちの問題なのか、いらないっていう人もいるらしいけどね。」
「そうなのか?‥‥ルリは?」
「‥‥勿論‥‥嬉しいに決まってるよ‥‥」
「え!?ルリ?」
私はいつの間にか自分の指にぴったり嵌まった指輪を見ながら泣いていたらしい。
「大丈夫。嬉し涙だから‥‥」
「いや‥‥それはそれで嬉しいんだけど、涙で赤くなったルリの目を見て怒る鈴さんと舞さんが浮かんでくるんだが‥‥」
「あ‥‥確かにそうかもね。」
そして、ルリがなんとか涙を引っ込めたところで。
「で、どうしてうちで言おうと思ったの?」
「向こうはルリならどこでもいつでも行けるだろ?でも日本はなかなか来れないから、指輪を見て思い出すきっかけになるかなって思ってな。」
「!!‥‥そっか‥‥ありがとう。」
「ルリの成人前に突然決まった婚約だったから、あの時用意できてなかったのもあるけどな。でもちゃんと俺の口で言いたかったし、言うならこの家だなって思ってその機会を待ってたんだよ。」
「そ、そうなんだ‥‥。」
「それで、ルリ。結婚するまで絶対その指輪、外すなよ?」
「え?絶対?なんで?」
「虫除けのために決まってるだろ?」
「‥‥‥。」
虫除けって‥‥
「向こうでナンパされたのは薬指に指輪がなかったからだぞ?」
「え?関係あるの?」
「ああ。向こうが一夫一妻制なのは知ってるよな?」
「うん。座学で教えてもらったよ。」
「あと婚約指輪だろうと、結婚指輪だろうと、それを嵌めている者には手出し無用って暗黙の決まりがあるんだよ。」
「そうなの!?‥‥それは女性に対してだけ?」
「ああ。ちなみにユリ姉は「落としたら嫌だから」って言ってネックレスにしてるって聞いたな。」
「じゃあ、私も‥‥」
「頼むからずっと嵌めたままにしてくれ。その指輪、婚約指輪だから宝石は付けたかったが、普段の生活で邪魔になったら意味がないからな。だから、わざと指輪に宝石が一粒埋め込まれているだけの簡素な物にしたんだからな?」
「‥‥‥分かった。嵌めたままにする。」
と言うと安心したのかリヒトが私を抱き締めて
「はぁ~‥‥緊張した‥‥」
「え?緊張したの?」
「それは婚約者でもやっぱり緊張はするさ。一生に一度のことだからな。噛んだらカッコ悪いし。」
「ふふっ。ちゃんと格好良かったですよ?殿下。」
「本当か?」
「うん。」
「良かった‥‥‥あ。」
「ん?」
リヒトの目線の先。そこには
「「ふふっ。私達のことは気にせず、続きをどうぞ~。」」
こ、この声‥‥義姉ちゃん達!?
そう。ルリ達は部屋の扉を閉め忘れていたのだ。そこから双子の姉妹が顔を覗かせていた。
「す、鈴さん、舞さん‥‥いつから‥‥?」
「ユリ姫様の話をしてる辺り。」
プロポーズは聞かれてなかった‥‥良かった‥‥。
「で、リヒトさん。続き、しないの~?」
「「‥‥‥」」
続きってなに!?って続けられないでしょ‥‥
「鈴、私達がいたらできないよ。」
「あ。そうだね、舞。じゃあ、邪魔者は退散するんで」
「「ごゆっくり~!」」
と言って鈴花が扉を閉めて二人共去っていった。
「「‥‥‥」」
き、気まずい‥‥抱き締められたままだし‥‥。
「‥‥ルリ。続き、していいか?」
あったの!?
「ちなみになんでしょう‥‥?」
「決まってるだろ?」
と言って抱き締めている力を緩めて私にキスをした。
「これでしたか‥‥確かに「続き」だね‥‥。」
「だろ?‥‥真っ赤だな。ルリ。」
「誰のせいかな?」
「俺のせいだな。」
「でも‥‥」
「ん?」
「お陰で寂しい思いはしなくて済みそう。」
「そうか。なら、作戦成功だな。」
「うん。良かったね。私に置いてかれないで。」
「ああ‥‥あれは本気で焦った。」
「浮気を疑われてもおかしくない光景見たらね~。」
「うっ‥‥傷口抉るな‥‥ルリ。」
「ふふっ。」
「さて、鈴さん達が帰ってきてるならそろそろ降りるか。」
「うん。」
そして私達は一階に降りていった。
書いていて作者は思いました。
「これが100話であるべきだった!」と。
ちゃんと二人の意思を尊重してのことだけど、二人の婚約関係は親同士が決めた様なもの。このままその時を待って結婚するのをリヒトは良しとしないかなと。
ちゃんとプロポーズさせてあげたかったので書いてみました。




