よみがえる『光の森』
11.おおきな鳥と、さらわれたコユキ
それでも、おばけたちだってたまにはいたずらしたいので、近くに妖精たちがきたら、ものすごーくこわいすがたや声で、おどかしてくるのです。
『月の砂漠』につづく山道を歩いていると、もうどこからかこわーい声がしてきました。
「うわ~、こわいよ~! おばけの声だ~!」
ヒトミちゃんが思わずべそをかきます。
「だいじょうぶ? ここでシュナちゃんがくるまで、まってみる?」
「それもこわい~」
コユキちゃんにやさしく『いいこいいこ』してもらっても、ヒトミちゃんのふるえは止まりません。
こんなとき、ゆうかんなシュナちゃんがいてくれたら、元気ひゃくばいなのに!
ソナタがそう思った、そのときでした。
そらからばさばさっ、と大きな羽音が聞こえてきました。
見上げると、大きな大きな鳥がそこにいました。
すうっとおりてきたその鳥は、がんじょうな足をのばすと、ぐっ、とコユキちゃんをつかまえます!
「きゃあ!」
鳥がいっきに高くまいあがり、コユキちゃんはおどろいてひめいを上げます。
たいへんなことになりました。ヒトミちゃんもべそをかいてはいられません。
ふるえる足をはげまして、立ち上がります!
「お、おいかけ、なくっちゃ!」
「あたしが行くよっ!」
12.シュナ、到着!
勇ましい声が、うしろから聞こえてきました。
ふりかえれば、きつねいろの毛皮をまとった、すらりとした女の子がかけてきます。
みまちがいようもありません。アカギツネの妖精の、シュナちゃんです!
by 金目猫様!!
シュナちゃんはぽんっとヒトミちゃんの、そしてソナタの背中をたたいて、そのまま鳥を追いかけていきます。
「ふたりは先に進んで!
とにかくソナタを『月の砂漠』に! すこしでもはやくっ!」
シュナちゃんは、赤いきれいな髪をなびかせ、あっという間に岩場に消えていきます。
ヒトミちゃんとソナタは、顔を見合わせました。
ヒトミちゃんはまだ小さいので、みがるだけれど、力が弱いです。
ソナタはといえば、ヒトミちゃんほどみがるでもないし、コユキちゃんほどまほうもうまくありません。
だから正直、この二人だけで進むのは、すごくすごく不安です。
でも、二人の足では、シュナちゃんにも鳥にも、追いつけそうにありません。
「……いこう」
ソナタはぎゅっとこぶしをにぎって、言います。
「ヒトミちゃんはいろんな道具がうまく使える。
わたしは、ちょっとならまほうも使えるし、どうしてもしつこい子がきたら、ひっさつ・ふわふわうさダンキックで『えいっ』てけっとばしちゃうからっ!
だから行こう、勇気をだして!」
するとヒトミちゃんもうなずきます。
「そうだね。お日さまはいまも、がんばってあたしたちを待ってるんだから。
あたしたちも、がんばらなくっちゃ!」
13.ぜつぼうの砂漠
ふたりは「えいえいおーっ!」と気合を入れました。
そうして、おおいそぎで山道をのぼっていきます。
もちろん、すべって転んだりしないように気をつけて。
おどかしてくるおばけたちは、ヒトミちゃんのびっくりばこや、はなびだまでおどかしかえします。
ちょっぴりいたずらのすぎるおばけだけは、ソナタのひっさつ・ふわふわうさダンキックで「めっ!」とおしおきです。
そのうちおばけたちも、じゃまするのをあきらめたよう。
ソナタたちは、えっさ、ほいさと山道をいそぎます。
だんだんに、上り坂のてっぺんが見えてきました。
あとちょっと。あとちょっと。
この坂をのぼりきればそこは、『月の砂漠』。
そのまんなかには、『光の森』があるはずです!
「ついたー!!」
そしてふたりはやっと坂のてっぺん、『月の砂漠』の入り口に立ちました。
けれどそこで、がくぜんとたちすくんでしまったのです。
目の前にみえるのは、いちめん銀色の砂漠だけ。
どれだけ目をこらしても、森なんてありません。
そう、この場所に『光の森』はなかったのです!
14.カナタのおくりもの
ソナタはぼうぜんとつぶやきます。
「ティアラさまは言ってた。
『このツボに、『月の涙』を、あつめてください』って。
『あなたたちのすむその大地に、あたらしい太陽をつかわすために』って……
ミソラさんはいってた。
『『月の涙』というのは、とてもめずらしい、まぼろしの宝石だ』って。
『この島の中心。『光の森』でだけとれる……そんなふうに言い伝えられている』って……」
なのに、『光の森』がないなんて。
一体、どうしたらいいのでしょう。ソナタには、けんとうもつきません。
わるいことに、だんだんと日もくれて、そのへんが暗くなってきました。
いつも元気なソナタも、さすがに泣いてしまいそうです。
「そうだっ!」
そのときヒトミちゃんがぽんと手を打ちました。
「クラフター工房のまえでカナタお兄ちゃんが、なんかくれてたよね!
いまそれが、役にたつんじゃないかな?」
「そういえば、そうだった!」
ソナタはリュックの中から、大切にしまってあった小箱をとりだします。
そうっとふたをあけると、小箱の中には、いちにんまえの歌姫が使うようなマイクが一本、入っていました。
15.よみがえる『光の森』
「えっ、マイク? ……なんで??」
ソナタはぽかんとしてしまいます。
カナタお兄ちゃんはとっても頭がいい妖精です。
けれど今回だけは、ソナタもさっぱりわけが分かりません。
ふたたびとほうにくれかけた、そのときです。
「ソナタちゃーん! 歌って! そのマイクで!
日が暮れちゃう前に! はやく!!」
空の上から声がきこえてきました!
えっと見上げるとそこには、さっきの大きな鳥。
その背中では、さらわれたはずのコユキちゃんと、それをおっかけてったシュナちゃんが、大きく手をふっています。
一体、どうなっているのでしょう。
よくわかりませんが、いまは言うとおりにした方がよさそう。
沈んでいく夕日をあびながら、ソナタちゃんはうたいます。
おひさま、いつもありがとう。
きっと、なんとかしてあげる。
だから、きょうはおやすみ、あしたまた……
するとどうでしょう。
なにもなかった砂漠の真ん中に、みるみる芽が出て、草が生え。
きらきらとかがやく木々があっという間にたけを伸ばし、あたたかな光に満ちた森がすがたをあらわしたのでした!