旅のはじまり
1.ホシフリ島のちいさな妖精、ソナタ
とおいとおいどこかの海に、ぽつんとうかぶ、ちいさな小島。
ホシフリ島とよばれるそこには、たくさんの『どうぶつの妖精』がすんでいました。
かわいいこどもに、どうぶつの耳やしっぽ……
ときには羽が生えたすがたの、妖精たちです。
うさぎにことり、しまりす、きつね。
いぬ、ねこ、たぬき、そのほかいろいろ。
ホシフリ島のかわいい妖精たちは、やさしい女神さまにみまもられ、あたたかいお日さまのめぐみをもらい、毎日たのしく、なかよくくらしていました。
ちいさなソナタは、そんな妖精たちのひとり。たれ耳うさぎの妖精の女の子です。
あたまからはえた、大きな桜色のおみみはもふもふ。
おしりからはえた、桜色のわたしっぽはふわふわ。
紫水晶みたいなきれいなおめめは、いつも好奇心でキラキラしています。
そんなソナタは、お歌がだいすきです。
しょうらいは、すてきな歌姫になりたい!
そんなふうに夢みているソナタは、おうちの手伝いや、まほうのべんきょうをしながらも、毎日歌のれんしゅうをかかしません。
いつもみんなに歌をうたってあげては、すてきだね、元気が出るよ、とほめてもらっています。
そんなわけで、ホシフリ島にはいつも、ソナタのはずむような歌声が響いているのです。
2.くたびれちゃったお日さま
さんさんとふりそそぐお日さまの光をあびて、島のみのりはゆたかです。
妖精たちは、畑をたがやし、木の実をあつめて、ごはんやお菓子を作ります。
みんなでおいしく食べたあとは、楽しく歌って、おどります。
春にたねをまき、夏にそだてて、秋にしゅうかく。
冬になると、一年はたらいたみんなは、ゆっくりとおやすみします。
妖精たちはおうちでのんびり。お日さまは天の国にかえるのです。
お日さまが帰っちゃったら、朝がこなくなっちゃうって?
だいじょうぶ。今年はたらいていたお日さまといれかわりに、べつのお日さまがやってきますから。
冬のなかばのいちにち、年の初めの日に、ふたつのお日さまがバトンタッチをするのです。
けれどことしは、なんだかようすがちがいます。
冬もなかばをすぎたのに、なぜかお日さまは、まだバトンタッチをしていません。
1年以上はたらきつづけ、お日さまもさすがに、おつかれのようす。
ぴかぴかだった光も、すっかりよわってしまって……
おひるちかくに空にのぼって、早くにしずんでしまいます。
妖精たちは、いろいろな方法で、お日さまを元気づけてあげようとしました。
おいしいスープを作ってあげたり、やさしくおうたを歌ってあげたり。
たれ耳うさぎの妖精ソナタも、元気の出る歌をうたってあげます。
それでも、お日さまは元気をなくしていくばかり。
このままでは、お空にのぼることさえ、できなくなってしまうでしょう
どうしよう、どうしてあげたらいいのかな。
ホシフリ島の妖精たちは、毎日いろいろなことを試しながら、どうしよう、どうしようと話し合うのでした。
3.ソナタと、ふしぎな神殿
そんなある日のこと。
気づけばソナタは、知らないところにいました。
ミルク色のきりに包まれた、神殿のようなところです。
「わあ、きれいなところ!」
ソナタは小さなこうさぎの妖精だけど、こわいもの知らずで好奇心いっぱい。
知らないものを見ると、どきどきわくわくしちゃいます。
あたまからはえた、大きな桜色のたれ耳もぴくぴく。
おしりからぞく、やっぱり桜色のぽわぽわしっぽもふりふり。
紫水晶のようなおめめもキラキラです。
きょろきょろと、みまわしながら歩いていると、きりのおくから、声がします。
――ソナタ。ソナタよ。
わたしはティアラ。
どうかここへきて、わたしのお願いをきいてください。
「『ティアラ』って、……めがみさま?」
ソナタのじまんのたれ耳が、ふわんとひろがります。
『ティアラ』というのは、ホシフリ島を守ってくれている、やさしい女神さまとおなじお名前です。
その女神さまに「おねがい」といわれたら、ほっておけません。
いいえ、もしも名前が同じだけの人だって、こまっているならほっておけません。
ソナタは声のするほうにかけだしました。
4.女神さまのおねがい
しばらく走ると、きりが金色にかがやくところに来ました。
ソナタは確信します。
「ここね、ティアラさまがいるところ!
ティアラさま、わたし、きました!」
かるく息を切らしながらよびかけると、すうっと目の前のきりがきえていきます。
きりがはれてしまえばそこには、きれいな女のひとがひとり、立っていました。
そのすがたは、村の神殿にある、ティアラさまの像とそっくり、うりふたつ。
ほんものの、ティアラさまだわ! ソナタはうん、とうなずきます。
ティアラさまはやさしくほほえんで、『よく来てくれましたね、ソナタ』といってくれました。
けれどすぐにまじめな顔になって、あらためてお願いをしてきました。
きれいな両手に乗るくらいの、月色にひかるツボをさしだしながら。
『ソナタ。あなたたちに、おねがいがあります。
このツボに、『月の涙』を、あつめてください。
あなたたちのすむその大地に、あたらしい太陽をつかわすために。
これはあなたたち『星の子』にしか、できないことなのです。
どうか、どうか、おねがいします』
もちろんソナタは「はい!」とうなずきます。
そうして手を伸ばし、月色のツボをうけとりました。
そのとたん、あたりはまばゆいばかりの光に包まれて……
5.ものしりシロフクロウのミソラさん
ソナタはおどろいて、ぽんっと、はねおきました。
まだお日さまも、満足にかおを出していない時間でした。
いつものソナタなら、まだねむーい! とおふとんにもぐってしまうのですが、今日ばかりは目がパッチリです。
「いまの……ゆめ?」
そんなふうにつぶやいたところで、気がつきました。
おふとんのなか、自分のとなりにころがっているのは、月色にかがやくツボ。
夢の中で、ティアラさまがわたしてきたものです!
by 金目猫様!
ぴーんときたソナタは、ねまきのきがえもしないまま、月色のツボをかかえてとびだしました。
ゆくさきは、シロフクロウのミソラさんのおうち。
ホシフリ島でいちばんのものしりで、ソナタのすむ村の村長さんをやっています。
それだけきくと、なんだかおじいちゃんぽいですが、このミソラさんはやさしくて、きれいなおねえさんです。
ミソラさんは、よあけにとつぜんやってきたソナタをすぐにおうちにあげて、お話を聞いてくれました。
「なるほどね。女神さまが夢で、そんなことを……。
『月の涙』というのは、とてもめずらしい、まぼろしの宝石だよ。
この島の中心。『光の森』でだけとれる……そんなふうに言い伝えられている」
ミソラさんは、せなかの白銀のつばさを小さく羽ばたかせながら、歌うようにそういいました。
この島で一、二を争う歌姫でもあるミソラさんが、そんな風にするのをみたら、ソナタはぽうっとなってしまいました。