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二九 れあちゃん役に立つ。

「もともと昴星(ぼうせい)州は狭かった」

 義虎は朝っぱらから、占領した城の書庫を物色して地図を引っ張り出し、寝ていても念話を繋ぎっぱなしにできる勝助へ念話し、叩き起こして情報を聞き出し、地図上で駒をいじくり回した、かと思えば感慨深げに胸をかいた。

「今わりと広大なんは、石猿が琥珀里とか切り取りまくった成果だよ?」

「それだけ義虎が負けたんだね!」

「うぃー、ミドリムシ」

「ん、わー虫じゃない」

「フグみたい顔しとる」

「魚でもなぁいぃ。さて旧領だった城はまだ残っとるんでしょ?」

 碧が目玉をぐりぐり動かし地図を覗き込むみ、義虎は指さしていく。

「六つ目、七つ目までだね、兵力も充実してきたし無血開城でも狙っとくか。二城におる兵はもちろん、民とも自領だった頃に仲よくしとったので。内から門を開けてもらえる可能性いと高し、密会してくるね?」

「お待ち……もう見えんくなった」

 碧は窓より飛び去った義虎から地図へと目を移した。

 麗亜と妖美の動きが分かる。

 昨日、二人は後方の本陣へ残り、勝助が全軍の動きを指揮するさまを見学していたが、今日からは城攻めへ参戦する。麗亜は大牙顎(おおきばあぎと)隊、妖美は山忠隊へ入る。両隊の駒は、それぞれ兵力五〇〇〇を超える中規模城塞へ置かれていた。



「わにゃにゃにゃ、カワイイ娘っこだなあ?」

 麗亜はびびった。

「この大牙顎さまはな、弱え奴にゃあ大事な一家の命を預けやしねえ!」

 大急ぎで馬を飛ばし、息を切らせ辿り着いたそばから、大顎山賊団の頭目を張るワニに大きな牙だらけの顎を開かれ凄まれてしまった。

「証明しやがれ、てめえが役に立つってのをな」

「三蔵法師の天道に絶賛苦戦中であなた様の殺傷力を待ちわびてたんですぅ、て正直に言えばカワイイのに」

 にっと、大牙顎の後ろからゾウ耳の少女が顔を出した。

「このはテメえ、食べちゃうぞ!」

「れあちゃんゴメンね、お頭がカワイくないて」

「こらテメ、ちっと自分がカワイイと思って!」

 __このはちゃん凄い……ボクのあだ名、れあだって見抜いた。

 こわ張った愛想笑いを余儀なくされる麗亜へ、自由(リベルテ)海賊団の美少年、ガラハッドが静かに進み出た。はっと、麗亜は真剣な眼を戻す。

「昨日の戦で、天道を攻略する目途は立っています」

 ガラハッドの白い盾には、害と認識したあらゆる事象を弾く力がある。その後ろにいれば、天道の霧の中にいようと三蔵の支配を受けることはない。よって覇術で攻撃できる。

 厄介なのは、実体を消し攻撃をすり抜ける神足通(じんそくつう)である。

「しかし、発動時間には限界があります」

 白い盾の後ろから、このはが木の葉の濁流を流し続けて発覚した。

 だが神足通がなくとも天眼通(てんげんつう)の拘束がある。このはが数で畳みかけても、拘束を逃れた一部の木の葉では傷を与えられない。遠距離攻撃ができない大牙顎やガラハッドが攻めても、天眼通に捕まってしまう。

「でも、ボクの剣圧なら!」

「おうよ、破壊力さえありゃあ勝てる。わしが白龍と一騎討ちしとる間に、三人で三蔵ぶっ潰せ!」

 大牙顎の城攻めが始まった。



「来たべな新人。んじゃあ突撃だべ!」

「「うぉおおおーっ‼」」

 妖美が到着するなり、山忠の城攻めが始まった。

「いかなる策で」

「力攻めだべ!」

 と即答して妖美に目をしばたかせ、山忠は城壁へかかった梯子を駆け登る。熱く隆起する筋肉の騒ぐがままに大杵(おおきね)を振り回し、石や丸太の雨を弾き飛ばし、城郭へと踊り込む。

「美しい手際だね」

 という声は、山忠のすぐ横から聞こえた。

「人を褒めといて、自分も同じことやっとるべか」

「よって身どもも嗚呼、美しい」

 陶酔する表情で舞踏し、妖美は矢をかわしながら敵を薙いで進んでいく。城内へ降りる階段へ向かっている。城門を開け、味方を雪崩れ込ませるつもりである。

「なんつう奴だべ……負けとれんべな!」

 山忠は敵を蹴散らし、城内へと飛び降りる。

「超魂顕現『巌山殴亀いわおやまのなぐりがめ』!」

 次の瞬間、城壁前の広間に天を覆うばかりの砂ぼこりが巻き起こる。山のような岩亀が出現する。体高三〇メートル、甲長一〇〇メートル、体長一八〇メートル、総重量四〇万トン。

 甲羅の頂上へ立って山忠は呼ばわる。

「我こそは! 偉大なる戦神(いくさがみ)《猛虎》大将軍が腹心、大和国武官《山男》嶺森(みねもり)山忠なり!」

「超魂顕現『巨重刃戟(きょじゅうじんげき)』!」

 賀停(がてい)が飛び出す。武器の方天画戟(ほうてんがげき)を全長二〇余メートル、柄の幅五メートル、総重量十八トンへ巨大化させる。

 麗亜を倒した巨戟である。

 しかし岩亀の前ではちっぽけに見える。

「あんたはん、力任せに戦ってきたんだべな、かわいそーに。相手がおいどんなばっかりに、いつも通りにゃ戦えんべよ」

 昨日の戦では、賀停とその兵たちは数多の投石機で火攻めを仕かけ、城を奪われながらも岩亀自体は追い払った。だがその時にこの城から投石機を補充し、そして破壊され尽くしたこともあり、もう尋常に勝負するしかない。

「……同じ召喚種でもお前のは痛覚を有する動物だ、勝機はある」

 矢のごとく、岩亀の首を狙い、巨戟が射出される。

 斧のごとく、岩亀の石頭がぶつかり、打ち落とす。

 そして岩亀が進み出し、賀停や敵兵を踏みつぶさんとする。その地響きは地震と化し、賀停たちは膝を付かされた。

「おいどんのカメさんはすごいべよ! 髄醒しても地形の一つもびくともせん、てっちゃん様とは大違いだべーっと粗相だべな。ほれほれ、カメさんの足つぼマッサージ器にしちまうべよ⁉」

 まずはこの歩みを止めようと、賀停は岩亀の脚へ連続、渾身の巨戟を叩き込んでいく。穂先から月牙を分離させ、二方向から攻めたてる。

「規模が足らんべ、規模が!」

 岩亀は蹴り、尾ではたき、相殺しながら距離を詰めていく。

「これでもか!」

 賀停は巨戟を柄を軸として回転させ、ドリルのごとく撃ち出す。

 山忠は岩亀へ左前脚を収納させ、斜めへ崩れる勢いで対抗する。

 巨戟は軌道を逸らされつつも、突き出る岩壁を削り込んでいく。

 岩亀は左前脚を突き出し、飛び跳ねるように巨戟を彼方へ払う。

「もらったべ!」

 長孫賀停、討ち死に。

 厚さ七〇センチの緻密骨(ちみつこつ)。岩亀の頭突きが葬った。

 最期に放った士魂の巨戟。それは岩亀の甲羅へ突き立つが、巌を貫くには至らなかった。

 煙のように巨戟が消え去っていく。

 唯一の超魂使いを喪った黄華軍は、山のような岩亀と妖美が広げる闇を前にし士気を逸した。五〇〇〇が降伏しあるいは逃亡し城は陥落、山忠隊は次なる城へと進撃した。



 同じ頃、大牙顎隊の戦場。

「もぉ。多いよっ」

 三蔵が一〇〇〇の城兵を天道へ入れた。

 神通力を使う敵が四桁もいる戦である。一人一人は覇力が小さいため恐れるに値しないが、麗亜はすでに五、六発の剣圧を無駄撃ちしている。

 麗亜は狼狽していた。

 撃つたびに、一〇〇人単位の兵が力を合わせ、その一点へ天眼通をかけてくる。止められ、投げ返され、白い盾を構えるガラハッドへ負担を強いてしまう。

「れあちゃん、落ち着きなね?」

 はっと、麗亜は木の葉を動かし続けるこのはを見る。

「ガラちゃんの盾、構えた平面上の全方位に結界張ってるんだと。敵さん、れあちゃんに手出せんよ安堵しなね。一発ずつ無駄撃ってもらったんも惰性の罠だし、木の葉の錯乱も完成間近、合図できえーっ連発すればカワイく勝てるよ!」

「おぉー、あ、うん!」

 __このはちゃん頼もしい。いくつだろ?

 などと麗亜が目を輝かせる前で、残りの木の葉が一ヶ所へ集まった。

 このはは黄華兵への目隠しへ努め、剣圧へ天眼通をかける敵を減らそうとしている、そう振る舞ってきた。黄華兵は視界を覆う木の葉へ天眼通をかけ、上や横へずらしてきた。ずらしておき続けなければならない。手の空いている兵は確実に減っていた。

 このはの策が完成した。

「れあちゃん一〇連射!」

「きえーっ!」

 空色の剣圧が飛ぶ。手の空く兵が全員で天眼通をかけるが、ほぼ全員でやってようやく止まる。二発目は三蔵がほとんど独力で押しとどめる。

 三蔵が司令し、木の葉へ天眼通をかけていた兵たちが拘束の対象を変え、剣圧を受け止める。三、四、五、六発目までを止めたところで、全ての木の葉が自由となる。

 このはが笑い、木の葉がことごとく三蔵へ突っ込む。

 神足通、効果切れへ秒読みが始まる。

「きえーっ!」

 麗亜は汗だくとなりながら、兵たちが投げ返してくる剣圧を三つ、特大の七発目で相殺する。残りの三つは、ガラハッドが歯を喰いしばり盾で受ける。

 手の空いた黄華兵が、三蔵を攻める木の葉を拘束しようとする。三蔵はそちらを無視し、剣圧へ備えるよう命じる。すると木の葉の半数が、兵たちの目隠しへ反転する。

「きえーっ!」

 八発目、ぎりぎりで止められる。

「きえーっ!」

 九発目、ついに三蔵へ届く。ぎりぎりで神足通が生きていた。

「今だよ!」

「きええーっ!」

 そして満身の一〇発目、最後の一太刀を撃ち込む。

 神足通の切れた三蔵は身をひるがえす。かわしきれず、脚をやられて呻く。

 天道が消えた。

 兵たちは神通力と士気を失い、木の葉と大和勢に押し流された。竜馬が大牙顎との戦いを投げ出し、三蔵を救い出して後退した。だが隙を見せたことで、大牙顎に白龍の喉を喰いちぎられた。

 黄華軍は城を捨て落ち延びるより他なかった。

 __やった。ついに役に立てた!

 ぐっと、麗亜は拳を握りしめた。

 __気もちい……これ続ければ大将軍に、言葉が届くかも。



 山忠隊は将を欠いた敵を攻め立て、次の城も落とした。

 大牙顎隊も超魂使い四対二という戦力差で勢いに乗り、続く城も落城せしめた。

 リーベルタース隊には勝助が合流し、こちらも超魂使いの数が敵の倍となったことで優勢となり、二城を奪い取った。

 そして義虎隊は声で城壁を崩さんばかりの士気で跳びかかり、残る五つの城をことごとく獲得した。うち二城は、もと義虎兵が所属を偽り城門守備を交代したり、民衆が守備兵の飲む水へ眠り薬を混ぜたりした無血開城であった。

 五月四日。ここに、義虎は昴星州を征服した。

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