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二七 山賊、海賊、そして奴隷たたみかけ

「意外と重傷なのだね」

 大顎(おおあご)山賊団に追い討ちを任せ、勝助は義虎を座らせ手当てを始めた。

「左腕は大げさに言えば粉々、それでなくとも二度にわたりあの石猿と一騎討ちしとるのだな、常軌を逸して傷んでおるのだな」

 くっと、麗亜に歯を噛みしめさせる義虎が、前線で戦う鯨小僧(くじらこぞう)から念話を受信した。

(敵さん、待ち伏せに衝突して悪戦苦闘だぞ)

(うぃー、上々。敵将なるべく分断してね?)

 勝助に手当てされながら、義虎は派手に目を輝かせた。

 自由(リベルテ)海賊団。

 義虎には人脈がある。その一つが大顎山賊団であり、そして自由海賊団である。この海賊たちこそ、逃げた黄華軍の行く手にいた伏兵である。

「超魂使いも三人おるんぜ?」

 義虎は手当てが終わった瞬間に立ち上がった。

「前線シメてくるね。勝さん、八丸(はちまる)武官へ伝達しといて? 敵の援軍ことごとく壊走せり、これを触れ回り城中へと攻め入られたしと。うぃー、新兵諸君はお疲れ、全力で休んでな?」

「ん、全力でぇ?」

「では身どもは美しい看護婦さんとなり、負傷した山賊がたの手当てでも」

「うぃー、女装願望のとこだけ美しくなぁい」

「通常はそうでもね、美しい身どもは例外さ」

「うぃー、いかん美しいまでに説得されそう」

「……分かんないよ!」

 麗亜が叫んだ。義虎も碧たちも静かに少女の眼を見据えた。



 __泣いとる……否、怒っとるんか。

 また聖人君子の正論かと唾を呑み込み、義虎は麗亜へ向き合う。こればかりは正直うっとうしい。だが育てると決めた以上、しっかり聴いてやらねばと思う。

「わがまま、だよ」

 紅い麗亜の眼に、渇いた義虎の目は射抜かれる。

「そんな体で、まだ戦わなきゃいけない理由なんて、ないでしょ⁉ だって減刑のためにしたって、石猿さんいないし、他の敵も琥珀から追い出したし、もう部下とか山賊の人たちに任せとけば十分じゃん、大将軍で偉いんだから、本営にいて指示出してれば十分じゃん、なのにまだ最前線にい続けるとか……みんなのこと信用してないの? それとも……戦が好きなの⁉」

 そっと、義虎は将軍羽織の赤を握った。

「己で貫徹したいだけだよ、文句ある?」

「ある……もっと自分を大事にしてよ!」

 どっと、少女が吐き出してきた。

「最後までがんばりたいのは分かったけど、でもすごい傷なんだよ、少しは休まなきゃ……」

 ぎっと、義虎は眼を見開いた。

挿絵(By みてみん)

「奴隷のこの身に戦は呼吸と同じ、戦わんとそれこそ死ぬんだよ」

 ぎっと、麗亜の身が歯を噛み砕かんばかりに震えた。言葉は出ないようだった。

 ばっと、将軍羽織をひるがえす。

 __なんなんけよ、人間のくせに奴隷の心配せんでよ……義虎を人間扱いしとんじゃねえよ……今さらあっ!

「君の言うは正しいんだろうけど」

 __もういい言ってやる。

 ぐっと、声を荒げていく。

「正しいとか間違っとるとか、こうあるべきとか誰が決めた、親か? 多数派か? 国家権力か? 祖先か? 神仏か? くそ喰らえだ! 義虎は奴隷なれど主は君にはあらず、君にまで己がいかに生きるかを拘束される筋合いなぞありはせぬ、否、本来なれば生きとし生ける者ことごとく他の権利を侵さぬ限り何人(なんぴと)にも縛られず! 己がやりたいように生き尽くすべきではないのか。そうして払いし犠牲なれば惜しくはない、そうして課されし責任なれば喜んで負おう。問う、これのいったい何が悪い」

 しばし待つ。返事はない。

 動かない少女の答えは置き、義虎は出陣した。

 ぴったり、その背へくっ付いてきた者がいた。

「……うぃー、さすが鳥居碧」

 励ますように、碧は笑った。

「うぃー、気付いた言い忘れとった。海賊のガラハッドって子は覇能が〈万能治癒〉なんだよ、故に腕は治してもらうので心配しなさるな。先日の肋骨もそうやって治したから」



「超魂顕現『上品雪崩ラフィヌモン・アヴァランチ』!」

 自由(リベルテ)海賊団の船長、ザリガニの魚人・リーベルタース。

「超魂顕現『神託出産オラクル・アクーシュマン』!」

 自由海賊団の幹部、顔が恐い姐さん・ヴァハ。

「超魂顕現『聖十字盾ホリネス・クロス・シールド』!」

 自由海賊団の一員、美しい少年騎士・ガラハッド。

 不意討ちだった。

 ばっと、どくろマークの三角帽にアプリコット色のコートを広げ、両手のハサミから大粒の泡を大量に噴き出し、リーベルタースが飛び出した。先頭を行く黄華(おうが)兵一〇〇が足を取られ、泡の雪崩に埋もれていった。盤毅(ばんき)がねばつく泥を進ますも、泡は逆に、泥の粘度を洗い流した。

 さらに、髪もマントも甲冑もトマトレッドに染めたヴァハの霞に呑まれ、左翼の黄華兵一〇〇が力を失い、出産直後の女性さながら、へたり込んだ。ベリルの装甲を纏う八戒でも、同じであった。

 そして、プレートアーマーに輝くガラハッドが重厚なスノウホワイトの盾を突き出せば、右翼の黄華兵一〇〇が突如、見えない壁に弾かれた。賀停(がてい)が叩き込む巨戟(きょげき)ドリルの破壊力をも、不可視のシールドははね返してみせた。

 止まった黄華軍へ山忠たちが突っ込んだ。

「やっちまえ、おらコンチキショー!」

 大牙顎(おおきばあぎと)が体を丸め大車輪と化し、蘭の嵐を突き抜け悟蘭(ごらん)を追い立てた。猛進する、山のような山忠の岩亀が体当たりをかまし、本来は大きい竜馬の白龍をトンボ扱いして打ちのめした。三蔵が天道で囲い天眼通(てんげんつう)をかけたが、その桁違いの質量は動かせなかった。

「落ち着きなさい、隊列を整えるのです」

「よし皆、三蔵法師が戦術をくれるぞよ」

 山のような岩亀や得体の知れない出産の霞はともかく、大牙顎やこのは、リーベルタースやガラハッドには対抗できると、五〇〇〇の数と集団戦法を武器に立ち向かった。

「だが餌だべよ」

「爆走するピンク装甲車、おいらの夢運汽車ゆめはこぶ・ゆげのぐるまのな!」

 兵の野は鯨小僧(くじらこぞう)の縦横無尽な草刈りで荒らされた。このはの木の葉は黄華兵にへばり付き、大牙顎らの接近を隠し翻弄する。山賊三〇〇、海賊二〇〇も暴れ回った。

「髄醒顕現『鉄刃空紅戦人くろがねやいば・そらくれないのいくさびと』」

 そんなところへ降臨した。誰もが手を止め振り返る。

 碧が目を輝かす。

 赤き翼を雄々しく広げ、空へ舞い上がり大音声、戦人は呼ばわった。

「遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ、我こそは幾星霜の古より琥珀の地へ十重二十重にも仕込みし大計略をもって常勝将軍・斉天大聖とその精鋭軍を嵌め倒し、ここに圧勝、快勝、必勝たる絶景を爆誕させる、大和国大将軍《猛虎》空柳義虎なり!」

「「猛虎‼ 猛虎‼ 猛虎‼」」

「猛虎が愛する兄弟たちよ、いざ猛虎へ続け詠わん、我ら勝つ!」

「「我ら勝つ‼」」

大和魂(やまとだま)いま燃えたぎれ!」

「「大和魂いま燃えたぎれ‼」」

「灼熱猛虎となりて進まん!」

「「灼熱猛虎となりて進まん‼」」

「全軍……押し出せえーっ!」

「「うぉおおおーっ‼」」

 気炎万丈。戦の趨勢は決した。

 大顎山賊団に後ろ、自由(リベルテ)海賊団に前を塞がれ、さらにこの戦場でただ一人の髄醒使いたる義虎に中央を貫かれた黄華軍は、左右へ別れ、ばらばらに逃げざるを得なかった。

 義虎隊は止まらない。

「なははは、追い討ちをかけい、追い討ちをかけえいっ!」

 義虎はガラハッドに治療させるやいなや刃を掲げて翔る。

「旗を掲げよ貝を鳴らせ(とき)を挙げい、功名立てるは今ぞ!」

「「うぉおおおーっ‼」」

 黄華軍を追い散らし、灰荒野(はいあらや)へ出ても追い散らし、国境を越えても追い散らす。

 義虎隊は悟空の領地、昴星(ぼうせい)州へ侵攻した。

「リーベル部隊、右の道を塞げ! このは部隊で谷へ追い立てよ!」

 しつこく分断を試み孤立させつつ、それぞれ城へ追い込んでいく。

「突撃じゃあ! さあ(たが)を外せ、地図を書き換え教科書へ載るぞ!」

「「うぉおおおーっ‼」」

 すっかり日も沈み、乗りに乗った攻める側の体力も底を突くほど進みに進んでから、ようやく義虎は突撃じゃあと叫ぶのをやめた。黄華軍の三分の一は討ち取られ、もう三分の一は脱落し降伏して義虎隊に覇玉を没収されていた。

 義虎隊は四つに別れ、義虎が八戒の逃げ込んだ城へ、リーベルタース、鯨小僧、ヴァハが盤毅と悟蘭の逃げ込んだ城へ、大牙顎、このは、ガラハッドが三蔵と竜馬の逃げ込んだ城へ、山忠が賀停の逃げ込んだ城へ攻め寄せていた。

「あと三日だね。うぃー、どう気分は?」

「気もちい! ぴょんぴょんしたいけど疲れてできん、ぎゃー!」

 汗だくの義虎は碧と笑い合い、ここに、五月二日の戦を終えた。



「鎧仗顕現『鉄刃(くろがねやいば)』」

「鎧仗顕現『碧鎌(あおいしのかま)』」

 五月三日。早朝から義虎の城攻めが始まった。

「一点突破ぞ、狙うは敵将の首ただ一つ、いざ我に続けえっ!」

「「うぉおおおーっ‼」」

 大将軍・義虎が先陣をきる。猛虎印の旗をおし立て、戦太鼓を打ち鳴らし、(とき)の声を轟かせ、碧、山賊に海賊が一斉に押し出していく。正面の城壁へ何本もの梯子をかけ、我先にと駆け登る。

「敵を入れるな!」

「撃ち落とすぞ!」

「弓隊、放てえ!」

 城主や城兵が城郭へ集まり、雨のように矢を降らせる。

 偃月刀一閃。複数の断末魔が響く。

「空柳義虎、一番乗りい!」

 一ヶ所、雨がやむ。空気をつんざき飛翔し城郭へ押し入り、獅子奮迅、義虎が暴れ回る。

 それでも他は雨が続く。梯子の途中という極端に悪い足場に這いつくばり、落石の衝撃を伴う矢をまともに受けながらよじ登るのは、ふつう困難を極める。

 だが険しい斜面や揺れるマストの網で生活する山賊、海賊にとってはむしろ専売特許である。片手で武器や盾をかざし上手く身を反らし、あれよあれよと城郭へ近付いていく。

「くそ、ならば火攻めだ!」

「まずは油だ、あびせろ!」

「丸太を燃やして落とせ!」

 だが断末魔が響く。させまいと義虎が斬り捨てていた。そこへ八戒が進み出た。

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