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百十九 恐竜×四神

 エリマキトカゲのばあさん。

 ノリが軽く世話焼きで身長三〇センチの彼女は、よくそう呼ばれる。

 ティラノサウルスに牙を見せ付け吼え抜かせ、黄華兵を逃走させる。

 させつつ、ひょうたんに入れた自家製ミルクセーキをがぶ飲みする。

「おははは、美味!」

 しかし正体は戦闘慣れし尽くした竜神である。

 誰にも八〇歳とは思わせぬ俊敏さで戦場を跳び回り、覇力噴を撃てば堅固な城壁を崩落させ、多くの召喚種使いが一体しか操ることのかなわぬ召喚獣を十体まとめて悠々と動かしてみせる。髄醒状態では座して体高三〇メートルのスティラコサウルス、纏う羽織は武士(もののふ)の極みを示し赤い。

 大将軍《恐竜王》大襟巻音華(おおえりまきおとはな)

 挙げた将軍首は三〇を超える。

 たとえ将軍級といえど『恐竜王へ一騎討ちを挑んではならない』と謳われる。

「四騎でも足りんと思うよ、ばあちゃん歳でさ、力の抜き方忘れとるからね⁉」

 兵に代わり出てきた〈四神〉を見下ろし、女神は舌舐めずりする。

「超魂顕現『西護(せいご・)白虎(バイフー)』」

「超魂顕現『東護(とうご・)青龍(チンロン)』」

「超魂顕現『南護(なんご・)朱雀』(スーチェー)

「超魂顕現『北護(ほくご・)玄武』(シェンウー)

「いざ始めるよ、桁のおかしい怪獣大合戦をね!」

 どっと、トリケラトプスが角を下げて突進する。

 体高六〇メートル、体長一五〇メートルへ達し、地を鳴らす巨体である。

 体高三〇メートル、体長七五メートルの白虎が爪を振り下ろし激突する。

 がっと、衝撃が爆ぜる。

 《白虎》崇黒虎(すう・こくこ)が教え子の《青龍》竜吉を(りゅう・きつ)覗き込む。

「いつもは叫ぶのに今は静かに唱えたな。恐ろしいか」

「うぅ……はいです、私髄醒できないし敵はあの……」

 どっと、地面が揺れる。

 白虎が跳ね上げられ黒虎の前へ着地していた。

「そんなっ、超魂とはいえ……浮かされたです」

「臆するな、来るぞ」

 《玄武》蘇護(そ・ご)が言い終わらぬうちに、走るトリケラの背を踏み台にし、パキケファロサウルスが石頭を向け跳び込んでいく。

 体高二〇メートル、体長五〇メートルである。

 体高三〇メートル、体長一八〇メートルの玄武が甲羅を突き出し受け止める。

 轟音が弾けるなか、白虎がトリケラへ跳びかかり、角を折らんと喰らい付く。

 その頭上を横切り、体高三〇メートル、翼開長一〇〇メートルの朱雀が飛ぶ。

「恐竜は飛べないある」

 《朱雀》火霊(か・れい)は朱雀を炎上させ、音華を狙う。

 受けて、丘へ留まっていたパラサウロロフスが叫喚する。鼻腔からトサカへかけ伸びる骨の空洞で反響させ、光線のごとく、大音量を発射し射抜き、朱雀を墜落させる。

 体高四〇メートル、体長一〇〇メートルである。

 転がる朱雀へ、敏捷なデイノニクスが爪牙を剥き襲いかかる。

 体高五メートル、体長一〇メートルである。

 首へかじり付かれ引っかかれ、振り落とすもすぐまた跳びかかってくる相手を、朱雀は炎と体格差で蹴散らさんとする。だがデイノは音華に苺色の覇力甲で固められ、熱をものともせずに躍る。叩き込まれる翼を掻いくぐり、羽軸を斬り裂き胸をくじり、蹴り込まれる鉤爪を跳び越え、尾羽を斬り裂き腹をえぐり、突き込まれる嘴へ跳び移り、額を斬り裂き目玉を潰す。

 絶叫にまみれ力尽き、朱雀は消滅していく。

「くっ、相手はまだ半数も参戦してないある」

「急ぎ覇力を練り直せ。白虎どの、こちらも」

「ええ、厳しいですな」

 白虎はトリケラの角を噛み切るどころか、巨体の圧力に押し込まれ踏み倒され、嘴で刺され角で突かれ、体を鉄へ変え耐えながら、反撃する機を伺っている。

 玄武は動き回るパキケファに翻弄され、首へ頭突きされて怯む。

 そこへステゴサウルスに迫られ、尾のスパイクを叩き込まれる。

 体高七〇メートル、体長一五〇メートルである。

 甲羅で受けるも突き刺さる。

 さらにアンキロサウルスに迫られ、尾のハンマーを叩き込まれる。

 体高二〇メートル、体長八〇メートルである。

 液状化してかわす。

 そのまま押し流しにいくも、水中へ適応したスピノサウルスに跳び込まれる。

 体高一二〇メートル、体長二七〇メートルである。

 押し流せぬばかりか、あまりの巨体に地面を割られ、沁み落とされていく。下手に実体化しても、機動力に欠ける玄武では一対四で瞬殺されかねない。

 援けんと、意を決した竜吉が青龍を動かす。

 とたんに、スピノが標的を変え咬みかかる。

 受け流し、青龍は敵の首へ巻き付いていく。

 しかし蛇体にして体長二五〇メートルでは馬力の差は大きく、強靭な腕に掴まれ鋭利な爪を突き立てられ、悶絶しながら引きはがされるや喰い付かれる。

「はわわ……間に合ったです」

 青龍は木像へ変わっていた。

「見るです、四神随一の秘技」

 咬み砕かれ転がる木片が一斉に伸びはじめ、それぞれが新たな青龍と化していく。

 スピノは反射的に二体を押さえ付け一体へ咬み付くが、残る四体が飛び出し、両腕、片脚、首へ巻き付き締め上げて、押さえ込まれた二体を放させる。スピノは慌てず、咥える青龍を咬み砕かずに応援を待つ。

 デイノが駆け付け青龍たちの目を潰していく。

 その間にパキケファ、ステゴ、アンキロが竜吉らへ襲いかかる。

亀甲渦潮(きっこうかちょう)・地獄車輪」

 蘇護が玄武を甲羅だけ実体化させ、高速回転させ薙ぎ払わんとする。

 パラサが大音量の長距離砲で撃ち抜き、脳を麻痺させ回転を止める。

 ステゴが棹立ちになり玄武を押さえ付け、パキケファらは迂回する。

「髄醒顕現『南護火霊朱雀なんごかれい・スーチェー』」

 ごっと、体高一〇〇メートル、翼開長三五〇メートルに達する朱雀が轟々と燃え上がる。極高温を噴き空間を揺らめかす紅蓮の翼を大きく広げ、パキケファらをすくませる。

「面目ないある、超魂では防げぬかと」

 呟く火霊へ、黒虎と蘇護が微笑する。

 四神としては、切り札である髄醒覇術を使う前に、できる限り恐竜たちの力を計っておきたかった。髄醒状態での個々の力は大差ないとみている。ならば手数で大きく劣る以上、切り札を切ってから想定外の力を発揮されては命取りになる。

 音華はミルクセーキを味わった。

「おははは、やっと遊べるねえ!」

 どっと、パキケファが覇力甲に覆われるや跳躍し、頭から尾まで一直線上にし炎を突き抜け、朱雀の胸を頭突きし巨体をよろめかせる。同時にアンキロも覇力甲で覆われ、尾のハンマーを唸らせ朱雀の肢をへし折りにいく。

「なんのこれしき、ある!」

 朱雀は炎と化し実体をなくし、すり抜けながら飛び上がる。

 パラサに大音量を撃ち込まれ、音の衝撃で吹き飛ばされる。

 実体化し巨大な翼を炎上させ、炎の轟音で次弾を相殺する。

 そして燃ゆる羽を降らしにかかる。

 どっと、スピノの巨体が躍り上がり右翼へ喰い付かれる。落とされ引きずり倒されつつ、燃ゆる左翼を叩き付けるも振り払えない。スピノは覇力甲に覆われ、業火に炙られながら猛然と腕を打ち込み、朱雀の首をひねり潰さんとする。

「髄醒顕現『北護水霊玄武ほくごすいれい・シェンウー』」

 その時、体高二四〇メートル、体長一四四〇メートル、恐竜たちを一〇倍して圧倒する巨体を誇る玄武が顕現し、首を一振りしスピノを跳ね上げた。足もとには顕現する勢いで蹴り散らしたパキケファ、アンキロ、そしてステゴを転がしている。

 音華は笑った。

「待ってたよ!」

 その時、体高二四〇メートル、体長一四四〇メートル、四神たちを一〇倍して圧倒する巨体を誇るブラキオサウルスが丘を踏み崩し、首を一振りし玄武を打ち伏せた。踏み出すだけで大地を揺らし岩雪崩を起こし、轟然と朱雀を呑み込みにいく。

「任せよ、他は頼む」

「「心得た‼」」

 蘇護が玄武の下半分ことごとく水へ変える。波打たせ逆巻き放出する。

 ごっと、津波と土砂が激突する。

 けたたましき天地鳴動、皆の頭が痛め付けられていく。

 そこへ現れ生物史上最長の爪をかざし、テリジノサウルスが竜吉らを襲う。鋭く、黒虎が白虎を水銀へ変え、のしかかるトリケラから解放するや実体化させ、長い首を目がけ跳びかからせる。

 白刃一閃、光るテリジノの爪が白虎を斬り伏せる。

 体高一三〇メートル、体長一六〇メートルである。

 その間に青龍七体を倒しきったデイノが竜吉へ走り、パキケファらも続く。

「四神、舐めるなですっ!」

 目を潰され喉を裂かれていた青龍たちが木片と化し、割れる。そして二倍へ増え馳せ戻り、後ろから恐竜たちへ喰い付き、巻き付き、斬り付ける。

 竜吉は汗だくになり覇力を噴いており、黒虎に案じられる。

「だがすまぬ、他も防がねば」

「お二人、任せていいあるか」

「は、はいです、火霊さまは」

 びっと、朱雀が飛びたち猛然と突撃する。狙うは、音華である。

「これだけ接近すれば音波は撃てないある、術者が巻き添えになるから」

 朱雀が燃え上がり音華が小躍りした。

 ティラノサウルスが朱雀を喰いちぎった。

「「なっ⁉」」

 一瞬であった。スピノに咬まれても抵抗してみせた朱雀が、炎と化しすり抜ける暇すらなく、刹那にして首から胴まで咬み潰されて消滅した。

 ティラノは覇力甲に覆われてすらいない。

「どうだい、咬み付きゃもう勝つんだよ!」

 発達した肢の筋肉、正確に立体視する目、優れた嗅覚、太く長い牙、そして破格たる咬合(こうごう)力、一切の追随するを許さず食物連鎖の頂点へ君臨するために進化し尽くした暴君竜が、絶大なる強さを見せ付けた。

 体高一〇〇メートル、体長二五〇メートルが吼え抜いた。

 火霊も竜吉も思わず震える。

 その竜吉は青龍十四体を操りきれていない。パキケファの石頭に打ち抜かれ、ステゴの尾のスパイクに突き刺され、アンキロの尾のハンマーに殴り倒され、さらに跳び回るデイノの爪牙に斬り刻まれ、次々と蹴散らされていく。

 そこへトリケラ、テリジノ、加えてスピノ、巨獣が揃って立ちはだかる。

 ざっと、いよいよ黒虎が進み出る。

「髄醒顕現『西護金霊白虎せいごきんれい・バイフー』」

 疾風迅雷、山のような白虎の爪がテリジノを殴り伏せる。

 体高一〇〇メートル、体長二五〇メートルが吼え抜いた。

 四神で最も速く凶暴である。

 スピノが牙をぎらつかせ突進してくる。白虎も突進する、と見せかけ衝突する寸前でいなし、いなしつつ横腹へ喰らい付く。そのまま力任せに押し倒し、牙を鉄へ変え覇力甲を削り込んでいく。

 トリケラが覇力甲で覆われ角を突き込んでくる。鉄へ変える前肢を叩き込み、角へ炸裂させ歪ませる。だがそのまま力任せに押し込まれ、踏ん張る肢をスピノの腕に打ちのめされ、ぐらつく。

 巨大な角が、巨大な爪が、巨大な牙が襲いくる。

 がっと、全身を鉄へ変え真っ向からぶつかり合い、弾き飛ばされる。

「まったく骨の折れることよ」

 黒虎が汗を拭き、音華は狂喜乱舞した。

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