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百十三 《建御雷》対《雲師》・《風伯》

 天地を切り裂く烈風の爪が轟々と襲いくる。

 __三〇秒稼ぐよ?

 すっと、義虎は一歩、右へどく。風圧だけ残し烈風を素通りさせる。振り向かずとも、後ろの丘が五等分され崩落していくのが分かる。

 積乱雲が進撃してくる。横に五キロ、縦に十五キロ、あまりにも大きすぎる。

 しかし戦い慣れた義虎の眼は、その大きさに呑まれ矢を見落としたりしない。

 骨羅道(ゴルラド)が突撃してくる。小刻みに烈風を連射される。よけ尽くし斬りかかる。

 がっと、火花を散らせ馳せ違う。

 そのまま大空を突き進む。積乱雲を迂回し背後へ回る。

 桓龍開雲に目で追われ、積乱雲を広げられる。下がる。

 __うぃー、稼ぎきった。

 左目に埋まる赤い覇玉を静める。亜空間袋が開く。雲に隠れ誰からも見えていない。骨羅道が追い付いてくるまでまだ時間がある。覇術適応値を無理やりに上げる適騙錠(てきべんじょう)を掴み取り、かぶり付く。

 額に息づく黄金色の覇玉を輝かせ、姿を現してやる。

 雲師(ウンサ)風伯(プンベク)、神々に注視される。

 ざっと、右手の人差し指で下を指す、降魔(ごうま)印を取り奏上する。

()けまくも(かしこ)建御雷神(タケミカヅチのかみ)大前(おほまへ)(かしこ)み恐みも(まを)さく

 石上(いそのかみ)古き国風(くにぶり)(ためし)(まにま)追儺(ついな)(のり)仕へ(たてまつ)らむと ()まはり清まはる(さま)を (たい)らけく(やす)らけく聞食(きこしめ)して

 ()ギガ(いか)() 枝葉(よろず)(あめ)色染メ 稲光数多(あまた) (たなごころ)()()()ケヨ

 かくの(ごと)く申し追儺(ついな)せよと依奉(よさしまつ)り (うと)(あら)()諸々(もろもろ)邪鬼共(じゃきども)神祓(かむはら)ひに(はら)はせ(たま)ひて 大神等(おおかみたち)敷座(しきま)す里の同胞(はらから)を守り(さきわ)(たま)へと (かしこ)み恐みも(まを)す」

 かっと、義虎は眼を見開く。

「超魂顕現『猛虎雷轟たけるとら・いかづちのとどろき』」

 集う全てに凝視される。

 猛虎をかたどる黄金色の鎧に、赤くマントをはためかす。

 背より円状に連ねる八つの太鼓に、三つの勾玉が渦巻く。

 暗中へ奔り、折れ、弾け、分かれ合わさり、稲妻が光る。

 巨大な積乱雲が向かってくる。

 太鼓の一つを鳴らし手を掲げる。互いの親指と人さし指、中指で結ぶ三角形。双方二本の指を立て、水平の右へ左を垂直に。立てる、内から三本の指の右掌へ、重ねる、内から二本の左指。手を叩く。

八卦(はっけ)・開ノ陣……雷剛(らいごう)天無絶雷(てんむぜつらい)

 ごっと、自身の上下左右へ黄金色に輝く円周が膨らみ奔り抜け、その軌跡で数知れぬ黄金色の円が爆ぜ、残らず飛び出しまた飛び出し、極高温に轟く莫大なる電撃を高密度に太々と圧縮する、おびただしき黄金色の柱と化しほとばしる。

 息も吐かせぬ一斉掃射である。

 積乱雲を穿ち、穿ち、穿ち、穿って穿って穿ちまくり、穿ち尽くして下半分を消し飛ばし、血を吐き垂らしながら名乗り上げる。

「我こそは! 大将軍《建御雷(たけみかづち)》空柳義虎なり!」



 桓龍開雲(ファン・リョンケウン)はかつて《雷神(いかづちのかみ)雷島片信(かみなりじまかたのぶ)と戦ったことがある。義虎と片信は全く同じ覇術を使うはずである。

「……超魂じゃよな」

 彼は首をひねった。

 骨羅道(ゴルラド)は構わず、蒼穹を緋色へ染めんばかりに烈風の爪を奔らせる。

 義虎は太鼓を打つ。指を張る両掌を前へ向け、親指、人差し指を付け三角形。合掌し。人差し指の他を組み、前へ倒す。

「八卦・(しょう)ノ陣……布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)自凝(オノゴロ)ヲ コヲロコヲロト 掻キ成ラス (あめ)沼矛(ぬぼこ)ヲ (あらわ)(たま)()

 どっと、蒼穹を黄金色へ染めんばかりに雷霆の矛を振り抜き、緋色を弾きのけるや太鼓を二つ打つ。右手の、立てた二本の指を左手で握る。

「八卦・()ノ陣……懺悔之肖像(ざんげのしょうぞう)

 左の掌へ、右の拳を叩き込む。

「八卦・生ノ陣……堕嗚呼羅煮(だああらしゃ)

 全方位から、変幻自在に飛び交う無数の高圧電流を撃ち込んでいく。機敏にかわし、細切れに烈風を撃って払う骨羅道を狙い定め、全身へ雷電を纏い、身体能力を底上げし電光石火、背後を取って殴りかかる。

 振り向きもせず、手甲鉤を振り込み防がれる。

 眉一つ動かさず、逃げ出す相手へ追いすがる。

 感電させていた。

 手甲鉤という金属を持った状態で堕嗚呼羅煮を纏う義虎に触れれば、一瞬にして全身を雷電に侵食される。狂戦士たる骨羅道といえど、これを受ければ意識がぐらつく。

 それでも烈風を撃ってくる。

 天之沼矛を呼び叩き落とす。

 しかし矛は押さえ込まれる。

 桓龍開雲が動いた。緑龍の全身を覇力甲で覆い、巨大な蛇体を速疾にくねらせ巻き付かせ、矛の放電に耐えながら締め上げさせていた。すかさず骨羅道が烈風を撃ち込んでくる。

 伏せて掻いくぐり、骨羅道を目がけ手を叩く。

「雷剛」

 柱状に雷を束ね撃ち抜き、覇力甲を固め耐えしのがれる。

 その間に、こう唱えつつ肉薄する。

「東海の神、名は阿明(あめい) 西海の神、名は祝良(しゅくりょう) 南海の神、名は巨乗(きょじょう) 北海の神、名は愚強(ぐきょう) 四海の大神、百鬼を(しりぞ)け、凶災を(はら)う 急々如(きゅうきゅうにょ)律令(りつりょう)

 右の人差し指と中指を伸ばし、親指で他の爪を隠し刀を表し、左の掌を見せ親指を浮かせ(さや)を表し、納刀する。

 堕嗚呼羅煮、懺悔之肖像、そして天之沼矛、広大なる空へ跋扈する膨大なる雷をことごとく、瞬時に凝縮し、直視すれば必ず失明するまでに光りぎらつかせ、手刀より伸びる黄金色の光刃と成す。

 電光一閃。

 右の手甲鉤を破壊し灼き落とす。

 骨羅道が盾にしたそれを守り固める覇力甲は、一昨日、音速で海面へ叩き付けてなお壊しきれず、今しがたも、雷剛を直撃させながら防ぎきられたものである。これを瞬殺した。

 そんな光刃で続けて斬り付ける。

 そんな光刃と鍔ぜり合ってくる。

 骨羅道は残る左の手甲鉤へありったけの烈風を凝縮し、爪より伸びる緋色の光刃と成していた。

 そこへ巨大な緑龍が噛みかかってくる。

 __うぃー、一対一でもぎりぎりなんに……。

 骨羅道に翼ではたかれ、緑龍のもとへ突き飛ばされ、手を叩く。

「雷剛」

 鼻づらを撃ち抜くも逸らしきれない。

 __大技がいる、もってくれよ覇力。

「斬る」

 斜めに回転して電光一閃、すれ違いざまに牙を熔断する。

 直上、骨羅道に強襲され、振り向きざまに刃を交錯する。

「酸雲沁み喰い荒ぶるのじゃ」

 緑龍に濃硫酸の雲を吐き付けられ、骨羅道を翼ではたき、雲のもとへ突き飛ばし、離脱しようというところを緑龍の爪に斬り付けられ、よけて熔断するところを烈風の爪に斬り付けられ、光刃を投擲してぶつけ爆発させ、鎧で爆風を防ぎつつ、身を任せ飛ばされ遠ざかる。

 __まずは片方を拘束する。

 太鼓を打つ。互いの親指と人さし指、中指で結ぶ三角形。双方二本の指を立て、水平の右へ左を垂直に。立てる、内から三本の指の右掌へ、重ねる、内から二本の左指。右手の、立てた二本の指を左手で握り。合掌する。

「八卦・景ノ陣……絶途啊雷喩(ぜっとあらいゆ)

 どっと、雷雲が湧き起こり蒼穹を隠す。

 ごっと、雷霆が次から次へと閃き轟き戦場を隠し、的になりやすい緑龍を連撃する。

 ぶっと、大量に吐血し悶絶する。

 烈風が飛んでくる。連続して落雷を当て撃ち落とす。

 濃硫酸の雲が飛んでくる。連続して落雷を当て灼き払う。

 ぎっと、歯を喰いしばり拳を握りしめる。

 骨羅道のいる一所のみへ、息も吐かせず、執拗に、一切合切の容赦なく撃ちまくり、烈風の盾をはたき落とし、背から胸へと撃ち抜き、一〇の雷を循環させ維持して五体を挟む。

 両手の指で球を組む。

「絶途啊雷喩・帰命する(オン) 日輪(にちりん) あまねく清めよ(ビシュダヤ) 成就あれ(ソワカ)

 雷を五〇、隙間なく集め球状の鉄格子となし二重に拘束する。

 緑龍へ向き直る。細胞を焼け爛れさせながら覇力を噴き出す。

「雷雲咲き乱れ荒ぶるのじゃ」

 絶途啊雷喩の雷雲が吸収されていく。緑龍の吐き出す雷雲と合わせ、宇宙へ達さんばかりの積乱雲を築き上げられていく。

 構うかと、絶途啊雷喩の集中砲火を叩き込む。

 だが積乱雲の中や周囲で、黄金色の落雷は白き落雷と激突し相殺されていく。

 雷雲を吸われ尽くし、新たな落雷を起こせなくなる。

 構うかと、朱く吐き垂らし鎧を汚しながら覇力を噴き上げる。

 互いの親指と人さし指、中指で結ぶ三角形。双方二本の指を立て、水平の右へ左を垂直に。立てる、内から三本の指の右掌へ、重ねる、内から二本の左指。手を叩く。

「雷剛・天無絶雷(てんむぜつらい)

 雷剛の一斉掃射を轟かせる。

 絶途啊雷喩のように維持できず軌道や電量も操れぬ分、ただひたすらに破壊力を追求した連撃である。ほとばしる白き雷を力任せに弾いて穿って蹴散らして、風景そのものたる雲を猛然と蜂の巣へ変えていく。

 __この百雷なら積乱雲も突破できるはず……。

「雷雲流れ並び荒ぶるのじゃ」

 __突破できとらん⁉

 緑龍が揺らぎ雲が衰える気配がない。直撃し続けていないのかと、天無絶雷を緩めながら雲の向こうを覗ける位置まで飛んでいく。

 絶句させられた。

 __うぃー、これが雷の自然種の弱点か。

 多くの覇術において、何らかの技を行使する際に技名を唱えることがある。

 覇術自体を発動する際と同じく、唱えねば効力を引き出せないからである。

 能力が単純明快な強化種や世界種、能力ありきの召喚獣などの例外もある。

 桓龍開雲(ファン・リョンケウン)は例外ではない。

 故に、相手の一挙手一投足を見逃さぬだけの集中力があり、なおかつ接近戦を主体とする義虎であれば、聞き漏らさずに気付けたはずだった。新たな技を詠唱されたと。気付けば早々に天無絶雷を切り上げ、残り少ない覇力を無駄使いせずに済んでいた。

 __雷はうるさいから……そして遠隔戦に甘んじてしまうから。

 天無絶雷は届いていなかった。

 積乱雲が四つ増やされ列を成していたからである。

 一つ目を突破しても、すぐ後ろに構える二つ目で生み出される白き雷に相殺され、それを突破しても三つ目の中で相殺され、どうにか突破したわずかな雷剛も四つ目に相殺され、五つ目まで到達してすらいなかった。

 __うぃー、あれだ……線状降水帯。

 集中豪雨をもたらす現象である。本来は、ある積乱雲が風下へ流され、残されるように吹き出す下降気流が地上の空気を押し上げ、上昇気流を生み出すことで新たな積乱雲が発生し、また流されることを繰り返して発生する。

 桓龍開雲はこれを人力で築き上げる。

 構うかと、血まみれで泣き叫ぶ体を嬲り覇力を噴き散らせる。

 指を張る両掌を前へ向け、親指、人差し指を付け三角形。他の全て指を組み、親指、人差し指を立て合わせる。

「八卦・死ノ陣……猛虎(たけるとら)建御雷(タケミカヅチ)

 雷が成す巨大な猛虎が咆哮し、線状降水帯を突貫し、巨大な緑龍へ喰い付いた。

 地平線を端から端まで灼く天変地異のごとき烈風が奔り、猛虎は切り裂かれた。

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