表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/134

九四 武で凌ごう

 畜生道が消えていく。

「遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ、我こそは」

 ばっと、赤き翼を雄々しく広げ、空へ舞い上がり大音声(だいおんじょう)戦人(いくさびと)は今にも枯渇しそうな覇力をふり絞って呼ばわっていく。

「大和国大将軍《猛虎》空柳義虎なり!」

 大和軍が朦朧としながらも顔を上げる。

「義虎は身一つで、才なき奴隷兵から帝国の総大将を張る最高武官へ上り詰めた」

 トナカイだった奴隷兵に震えながら凝視されている。他の奴隷兵も同じである。

「されば大和が同胞(はらから)たちよ威張れ! 同じようなことをやり遂げたではないか!」

 はっと、皆から注目される。

「よくぞ生き残ってくれた!」

 かっと、義虎は眼を見開く。

大和魂(やまとだま)たぎらす誇らしき兄弟たちよ叫べ……六道(りくどう)、破ったり!」

「「うぉおおおーっ‼」」

「そして義虎はさっき言ってしまった、太公望を武で凌ごうと!」

 びっと、戦場が張り詰める。

「漢(おとこ)に二言などあってはならない、賛同するなら猛りて雄叫べ!」

「「うぉおおおーっ‼」」

 黄華軍もヒトへ戻っていく。よって覇術を使えるようになる。畜生道も野菜の罠も攻略された今、姜子牙(きょう・しが)へ残された手は、陣形も戦法もあったものではない、単純なる総力戦のみである。

「総力戦なら我らが押し勝つ、いざ押し出せえーっ!」

「「うぉおおおーっ‼」」

「鎧仗顕現『鉄刃(くろがねやいば)』」

 義虎と戦っていた獣たち、煌丸(きらめきまる)と戦っていた鳥たちは、人間化しながら姜子牙のもとまで下がり守りを固める。見て、義虎は偃月刀を放り拍手する。姜子牙は自身の側近たちを揃って鳥類へ変えていた。鳥類であれば敵に肉食かどうかを見分けられにくく、生き残りやすいからだろう。

「斬る」

 斜めに回転しながら偃月刀を掴み突っ込み斬り付ける。

「鎧仗顕現『信刀(しんとう)』」

 ヒョウから変わった将軍に打ち込まれ、押し込みつつも受けきられる。哪吒(なた)の姉にして義虎に父と兄を討たれた《恵岸護法(えがんごほう)李木吒(り・もくた)である。

 どっと、みぞおちを膝蹴りする。

 うっと、李木吒が上体を崩しかぶさってくる。

 ごっと、その横面を殴り抜いて吹き飛ばし、疾駆し突入する。

「総大将に遅れるな、かかれえっ!」

 鷲朧(わしおぼろ)である。猛然と飛んでくる。

 樹呪(じゅじゅ)も走り、勝助(かつすけ)も立ち、煌丸も降りてくる。

「いざ魔の聖域をうち建てん!」

「太公望がおるのだな、首級(しるし)を挙げるのだな!」

「てめえら根性見せろ、一家の仇討ちじゃ、蹂躙しろおっ!」

「「うぉおおおーっ‼」」

「超魂顕現『恵岸信仰(えがんしんこう)』」

 義虎を行かせまいと、李木吒が信仰を強いる柑子(こうじ)色の霧を広げる。しかし橙系は煌丸が弾く野菜の色に含まれている。効かない。

「超魂顕現『毒蝕覇換(どくしょくはかん)』」

「超魂顕現『梨火槍禍(りかそうか)』!」

「超魂顕現『軟玉刃鎧(なんぎょくじんがい)』!」

 李木吒の側近たちも唱えつつ向かってくる。

 __されど、なんかする暇なんざ与えんよ?

 アナコンダだった、竜虎の罠を掛けんと動く韓毒竜(かん・どくりゅう)を打ち伏せる。

 ワニだった、李木吒を傷め付けられ憤慨する孫焔紅(そん・えんこう)を打ち上げる。

 ホッキョクグマだった、義虎に弟を討たれた黄天禄(こう・てんろく)を打ち退ける。

「超魂顕現『悪道導現(あくどうどうげん)』」

「うぃー、さっき殴ったん正解だった」

 義虎が理不尽に殴ったトラは、韓毒竜とともに碧を苦しめた薛悪虎(せつ・あくこ)へ変わっていた。着物の色を見て察し、歓喜し、打撲だらけの体がわめく悲鳴を無視し、再び本気で殴り飛ばし転げ出す。

「よくもまあ」

 呆れられて顔を上げれば、姜子牙はもう目の前にいる。

「女人へ対しためらいなく暴力を振るえるものじゃのう」

「差別なさるとは感心せぬ、戦う覚悟に男女があろうか」

「現場主義を貫徹するか、よかろう」

 姜子牙がついに自ら白兵戦へ出た。

「鎧仗顕現『堕鞭(だべん)』」

 あくまで鎧を付けずに引っさげるは、竹のような節で打つ短兵器、打神鞭(だしんべん)。金属で作るべき鞭を木製とするという犠牲を払い、畜生道において神となり得る存在、つまりヒトの生み出す覇力を打って無効化する。

 跳んで向かってくる。飛んで向かっていく。

 がっと、偃月刀と打神鞭がぶつかり合う。

「うぃー、ほんとに覇力を揺らがされる」

宝貝(パオペイ)と思え。お主らも見せてやれい」

「では猛虎をもらいます」

 ツルから変わった義虎似の上級武官・白鶴(はっ・かく)が進み出る。

「超魂顕現『飛傑白鶴(ひけつ・はっかく)』」

 __速っ⁉

 白い鶴の羽を織ったように袖の広がる道服を纏い、金色に光る棒を構えたかと思えば、一瞬で接近して打ち込んでくる。かわしきれず、柄を横倒しにし受け流しにいく。

 __重っ⁉

 白鶴の欧撃も重い。だがそれだけではない。自分の身体まで重くなった。

 動ききれずもろに喰らい、柄をへし折られ、鎧へ喰い込まされ砕かれた。

 そこを打神鞭に強襲される。

「鉄へ触れるな」

 鷲朧が翔け入ってきた。腕を前後し構え、覇力を使わずいなしてみせた。

「鷲王さま、超絶にイケメンです」

「そなたがな。よく戦ってくれた」

 しかし囲まれている。

「超魂顕現『孔子鳥翔(こうしちょう・しょう)』!」

 ハクチョウから変わった上級武官・洪錦(こう・きん)が巨鳥を召喚する。

 原始的な鳥類、孔子鳥ことコンフキウソルニスである。

「超魂顕現『甲冑魚遊(かっちゅうぎょ・ゆう)』!」

 コンドルから変わった中級武官・武吉(ぶ・きち)が巨魚を召喚する。

 いわゆる甲冑魚を代表するダンクルオステウスである。

「超魂顕現『獣弓牙駆(じゅうきゅうが・く)』!」

 ハヤブサから変わった中級武官・魏賁(ぎ・ほん)が巨獣を召喚する。

 恐竜以前で最大の捕食者、イノストランケビアである。

「うぃー、畜生道……」

 イノストランケビアが噛みついてくる。跳んでかわし頭を踏み付け、つんのめらせつつ宙返りし、突きかかってくる孔子鳥もかわす。水はないのに遊泳するように浮遊して、全長十六メートルもある甲冑魚も突っ込んでくる。

「やっと終わったと思ったら、お次は陸海空の古生物とは」

 __とりま甲冑魚カッコいい。

 鷲朧が鉤爪を開いて飛びかかり、骨の板に覆われていない腹部を捉え一閃し、のけ反らせる。妨害する李木吒らを抜いた煌丸も加わり、筅槍(せんそう)をしごき、自分の胴より大きなイノストランケビアの牙を突き折り、持ち替え振り抜き打ち倒すや、孔雀の尾羽を開いて威嚇し、孔子鳥も追い払う。

「おもしれえな!」

「マジでそれね⁉」

 __うぃー、体が重いんは治っとる。

 白鶴を睨めば、フラミンゴから変わった中級武官・韋護(い・ご)が立ち塞がる。

「超魂顕現『盾鏡光陣(じゅんきょうこうじん)』!」

 複数の盾を召喚し浮遊させ、やや斜めにし立て並べてくる。

「目くらましかな?」

 素早く、大和将は腕を掲げ目を守る。義虎が勘付いたとおり、凄まじい光攻めがきた。鏡のように磨いた面であらゆる光を反射する盾である。視力を守りつつ、他の敵がどう動くかと神経を研ぎ澄ませる。

 まず古生物たちが踊りくる。

「超魂顕現『死神呪陵しにがみ・のろいのみささご』」

 将軍《禍津日(まがつひ)嶺森(みねもり)樹呪が降臨する。

 装着する、鬼女をかたどる般若面で光を緩和し、左手を掲げ左目を隠し、身の丈一〇メートルへ及ぶ死神を進撃させ、瘴気(しょうき)をふり撒かせる。白い刃のぎらつく大鎌が唸り、発病する甲冑魚が刈り落とされる。

 そして韋護も発病し、盾が崩れ落ちる。

 ここぞとばかりに樹呪の側近たちが畳みかける。

「超魂顕現『始祖鳥翔もとさきのとり・かける』」

 上級武官・髭右近(ひげうこん)髭ノ介(ひげのすけ)は始祖鳥ことアーケオプテリクスを召喚する。

 始祖鳥は孔子鳥へ飛びかかり、巨鳥同士で鉤爪を突き出し取っ組み合う。

「超魂顕現『樹森拳宴たつきもり・こぶしのうたげ』!」

 中級武官・嶺森樹拳(じゅけん)はリーゼントをてからせ木々の根を突き出していく。

 獰猛なイノストランケビアが激しく連撃され、一方的に突き上げられる。

「超魂顕現『時機尺陽ときのからくり・ものさしみなみ』~」

 初級武官・(かなえ)みなみは魔法少女の格好をして変なリズムで遊んで進む。

 いきなり疾駆し、猫口のまま蛇腹剣を操り蛇行させ、武吉を攻めたてる。

「超魂顕現『匠穴掘道(たくみのあなほりみち)』!」

 初級武官・白梟(しろふくろう)白苦無(しろくない)はアナホリフクロウらしく穴を掘って消える。

 弾丸と化して魏賁の後ろから飛び出し、鋼鉄の鉤爪を閃かせ襲いかかる。

 ばっと、三将軍は斬り込んでいく。

 李木吒と女武官たちが立ち塞がる。

「七つの大罪、色欲じゃな。呪うぞ」

 流星さながらに樹呪がほとばしり、大鎌一閃、李木吒を押し込んでいく。

 だが義虎は急に頭痛に襲われ、煌丸に至っては断末魔を轟かせ悶絶する。

 鷲朧がなんともないのを見て、義虎は察する。紫紺の霧に呑まれていた。

 韓毒竜である。

 覇力を使えば使うだけ毒となり返ってくる。笑い飛ばす。

「霧が野菜の色しとれば、モヒカン極道が無効化するよ?」

「超魂顕現『藤霞幻誘ふじかすみ・まぼろしのいざない』」

 藤村勝助である。

 藤色の霞が紫紺を包み、白く変色させる。

「大根の色であると錯覚させる幻なのだな」

「ふざけるな、手品ごときで私の毒を……」

「しっかり抹消できてんぜ⁉ 俺さまさえ錯覚すりゃいいんだからよお!」

 煌丸が突きかかり、韓毒竜を押し込んでいく。

 薛悪虎が駆け付け、韓毒竜を援けて打ち合う。

 鷲朧は黄天禄へ、義虎は孫焔紅へ斬りかかる。

 孫焔紅は火炎放射器を兼ねる槍、梨花槍(りかそう)から放つ火へ柳の炭を付与し、目くらましも狙ってくる。火力も強く、軽く触れただけの偃月刀が熔けている

「鎧仗顕現『鉄刃(くろがねやいば)』」

「鎧仗顕現『旭刃(あさひのやいば)』!」

 がっと、奴隷兵が飛び出し薙刀を打ち込み、孫焔紅を押し込んでいく。

(こま)と申しまする。ここはお任せあれ、どうぞお先へ」

「君はトナカイだった……後で語らおう、必ずだよ駒」

「……ははあっ」

 頷いて走るが、限界を訴える体はぐらつく。

 勝助に支えられる。振り向くので倣えば、煌丸の側近たちも来ている。

「超魂顕現『暁烏暁生(あけがらす・あきらき)』!」

 上級武官・暁烏(あけがらす)暁丸(あかつきまる)が抱卵するカラスを召喚する。

 矢継ぎ早に増殖し、成長して暴れるカラスたちである。増えながら韓毒竜と薛悪虎へ群がり、煌丸の手を空けさせる。だが韓毒竜が引き受け、薛悪虎に突破させんとする。

「超魂顕現『榎楠枳柱えのきくすのき・からたちばしら』!」

 初級武官・榎楠(えのきくすのき)枳丸(からたちまる)が三種の木々を発射する。

 白鶴が棒を振り抜き打ち落とす。と、棒が熔解していく。木へ見せかけ柱状に固めた熔岩であった。次弾を練るところへ、カラスを突破しきった薛悪虎が斬り込んでくる。

「超魂顕現『生物初王(いきもの・はつのきみ)』!」

 初級武官・丱円(あげまきまる)丫丸(あげまきまる)がアノマロカリスを召喚する。

 鋭利なトゲを並べる二本の触手を鎌のごとく巻き込み、甲殻類を思わす巨体の左右に縅のごとく備えるヒレを動かし、薛悪虎を捕食しに襲いかかる。

 いよいよ、姜子牙を守るは白鶴のみ。

 捕食するように三将軍は迫っていく。

「じゃが後ろから来る大軍はどうする」

「我が側近たちが防ぐ」

 鷲朧が断ずるとおりであった。

「超魂顕現『猛将白嵐たけおすけ・しらあらし』」

 上級武官・白梟白嵐(びゃくらん)は、全身が嵐の塊である巨鳥と化す。

「超魂顕現『人喰酸花(ひとくいのすいばな)』!」

 上級武官・花英(はなはなぶさ)隼湊(はやぶさみなと)は、強烈な酸を発する花を生み出す。

「超魂顕現『綿貫風船(わたぬきのかざふね)』!」

 中級武官・四月一日(わたぬき)多福(たふく)は、風船を破裂させ驚くべきものを飛ばす。

「超魂顕現『玉髄鎧鷲(たまあやのよろいわし)』!」

 中級武官・西油(いりあぶら)鷲東(わしあずま)は、全身をカルセドニーと化す。

「超魂顕現『愛尽戦尽まなつくし・いくさつくし』」

 中級武官・面梟(めんふくろう)はあとは、敵兵長の愛情を支配し指揮系統を惑わす。

 彼らが指揮する大和軍に突き崩され、黄華軍は一兵たりとも進めない。

「うぃー、もう詰んだんじゃない?」

「だぁが降伏するたぁ言わせねえぜ、なんせ一家の仇ってのぁよお」

 義虎は姜子牙へ向かい偃月刀をかつぎ、煌丸が筅槍を突き付ける。

「討ってなんぼだろぉがよ⁉」

「報いを受けな、逃がさぬぞ」

「髄醒顕現『天翔翼水晶鳳』」あまかけるつばさ・みずあきのおおとり

 そして将軍《鳳凰》棘帯(いばらおび)鷲朧(わしおぼろ)が水晶の鳳凰と化した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★ 書籍化! Amazonに並んでいます 「第一章」  「第二章」★   ★ 公式HPできました! 『狂え虹色 戦国志』★   ★ YouTubeあります! 「大将軍のえのき」チャンネル
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ