絵画を探す猫 1
改めましてという形になります。
「うそでしょ……」
「うそじゃない、本当だよ」
そんな会話から僕と猫屋敷さんの依頼は始まった。
ここは猫屋敷調査事務所、東部大陸の大国サンロマンの地方都市マヴェールにある小さな探偵事務所のようなものだ。
僕は自分の目を疑う。
「そんな、なんでこんなことになってるんですか」
「今までの依頼を考えてみればわかるよ」
「今までの……ってもしかして、留守が多かったとかですか」
この調査事務所には少しばかり欠点がある。それはつい先日改めて発覚したものだが、長期の依頼を受けすぎて経営が回らない傾向にある、というものだ。
一ヶ月も留守にする状態が何回も続けば、経営も回らなくなるだろうけど。
そんなわけで、この事務所の経営危機というわけだった。費用諸々の通知書を見て愕然としているのが今の僕である。
非常にピンチだ。
「そこでね」
猫屋敷さんが僕に視線をよこす。
「ここはもう、今までのような依頼は受けないことにしたんだ。比較的短期ですむ依頼を数多くこなす、これでいこうと思う」
「なるほど、それならなんとかなるかも……」
その場合、数多く依頼がないといけないことになるが、それに関しては心配はいらないだろう。
なぜならこのお方、猫屋敷さんと僕が呼ぶこの人は大陸全土に名を響かせる情報屋だからだ。
そんなとき、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「少年君、逃してはならんよ」
「了解です。
はいっ、いらっしゃいませえっ!」
「その挨拶もどうかと思うけど、まあいいか」
猫屋敷さんが後ろでそういっているのが聞こえた。
挨拶が少々品のないものになってしまったのは許してほしい。元兵士の所作には目をつむってもらいたい。
そんなことを考えながら今回の依頼人を、精一杯の愛想を持って招き入れた。