道草
揺れ動く日の丸。遥か400年前より築き上げられてきた大都市は、伝統と進化の狭間で葛藤していた。自己の主張と他人による抑圧が認められたこの都市では、今日も酸味漂う程に腐りきった有機物が無機物の密林でうごめいている。
それは、突然現れたかのように存在していた。
何十メートルにもなる鉄骨の木々の間にあった、幅1メートルほどの道。ぱっと見た感じ、廃棄物や換気扇が大量にある、ありふれた風景画。道幅が狭いのか、奥まで見通すことはできない。
そんな景色を、齢35の青年は、帰路に着いてる時にふと見かけ、立ち止まった。
と、ここで不思議に思う。機械を模範とする会社に10年以上勤めている彼にとっては、統一性のかけらもないオブジェクトには「無」を抱くようになっていた、のに今、目の前のカオスな配置物に自分のエネルギーの焦点が向いている事に。普段なら機械が制御している統率されたLEDライトの発光に見惚れるのに、なぜ? と自分に問いかけてもみた。が、問われた自分もよく分からない、と答えた。
彼には説明のしようがない力が働き、足を路の外に向け、歩みを始めた。
踏み込んで7歩目。気づいた事は、あんまり臭わないということだった。こういうところは、周辺に配置されている何色も詰め込まれた半透明の袋が異臭を発し、鼻をつまんでしまうものだと聞いていた。が、今不快に思うような刺激は無い。鼻が詰まったかな? と思った青年は色褪せた手提げかばんから香水を取り出し、自分に吹きかける。シュッという音と共に、ラベンダーの香りが、周囲に広がるのを感じた。鼻づまりではなさそうだ。
踏み込んで16歩目。プラスチックのがらくたを見つけた。戦隊ものの合体ロボらしいが、彼にはピンと来なかった。ので、特に何もしなかった。
踏み込んで22歩目。少し目線を下に向けた時、彼は換気扇のカバーで強く頭を打った。余りの衝撃に驚き、痛みにより頭を押さえる。と同時に、変に傷が出来ていないかさわって確認する。どうやらデカイたんこぶを作っただけで済んだようだ。
踏み込んで23歩目。姿勢を建て直し一歩踏み込んだとき、彼の鼻が刺激を感じた。彼は匂いの発生源を探していたが、どうやら先ほど衝突した換気扇から発せられてるようだ、とすぐに気づいた。このスパイシーな匂いから察するに···辛口のカレーを調理しているのだなと彼は推測する。カレーが食べられる環境が羨ましく、また嫉妬を抱く彼。結局彼は換気扇の前に何分か立ち尽くしていた。
踏み込んで37歩目。8冊ほど綺麗に積まれている分厚い冊子が視界に入る。辞書···ではなさそうだ。手に取り中身を確認する。激しく表現される戦闘シーンが紙一面に広がっている事から、恐らく少年向けの雑誌だと彼は判断した。やや潔癖な彼が雑誌の汚れ具合に気付いたのは、手に取った雑誌を読み尽くしてからだった。
踏み込んで41歩目。やっと道から抜け出せた。脱出した先に広がった景色は、
無機物の直方体が立ち並ぶ路であった。
よくあるラノベ小説ならば、ここで転移現象なんかが発生してそうなものだが、そんなことはなかったようだ。何より、彼は道から抜け出した瞬間に感じたのは、一種の開放感のみ。期待も、想像も抱いていなかった。
彼は再び帰路についた。反生物勢力の象徴群は闇のない夜を迎え、無機物を夢見る有機物は悪戯に暴走を始める。
彼がもしあの時、想像と少々の期待を胸に抱いていたら、あるいは···。
だが恐らく、そんなことは起こらないだろう。「止まるもの」と「留まるもの」では望むものが違いすぎる。
わかる人にはわかる。
何処かの日常/現状を記した文章である。
自分で書いててここまでカオスになるとは思わなかった(笑)。




