18.浄化
兵士長の一件以来、レフィの相談屋には沢山の依頼が舞い込むようになった。
ただし、汚水、下水、生活排水等の浄化の依頼ばかりだが……。
「これ、どう考えても兵士長の仕業だよね?」
本当ならもっといろいろな依頼をこなそうと思っていたのに……。
まぁ、依頼自体は簡単だもんね。
前の洗剤の時と同じようにポーション自体を売ってもいいんだけど、それはそれで問題が起きそうなので、レフィ自身が動くしかなかった。
あとは依頼人に何をしてるのか見られないように……ということだけは注意しておいた。
そして、今日もレフィは浄化の依頼に来ていた。
依頼主は冒険者ギルド。
まさかここからくるとは、とレフィは驚きを隠しきれなかった。
剣と盾が掲げられた看板の店に入っていく。
すると中はむせ返るような酒の匂いと大騒ぎする男たち。
それと必死にお酒を運んでいく店員の姿があった。
朝からお酒を飲んでるんだ……。
レフィが苦笑を浮かべてると店員の一人が声をかけてくる。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。登録か依頼なら奥のカウンターへ行ってください。酒場に用があるなら空いてる席に座ってください」
「わかりました」
(依頼を受けたわけだし、僕は奥のカウンターでいいんだよね?)
屈強な男たちの隣を通っていく。
すると男たちから笑い声が上がる。
「おいおい、そんな体つきで冒険者になるのか」
「やめとけ、やめとけ。すぐに怪我をするのがオチだぞ!」
あざ笑ってるようにも見えるが、関係ないところから聞くと新人の子に冒険者が過酷だということを伝えているようにも聞こえる。
「まぁ、僕には関係ないよね」
男たちの声を気にすることなくまっすぐカウンターへと向かっていく。
「すみません、よろしいですか?」
「はいっ、あれっ、初めての方ですね。ようこそ、冒険者ギルドへ。本日はご登録でしょうか?」
やっぱり初めてだと登録の方が多いのだろうか?
「いえ、今日は依頼の方なんですよ。ぜひ僕に受けて欲しいものがあると聞いてきたのですけど」
「あっ、ということはあなたがレフィさんなのですね。かしこまりました、では依頼のお話をさせていただきます。今回浄化していただきたいのは、貴族街にあるとある家なんですよ」
つまりそこの近くにある溝を綺麗にしたらいいんだね。
「わかりました。では、どこに溝の蓋があるか教えてもらってもいいですか?」
「はいっ? 溝……ですか?」
首を傾げてくる女性。
あれっ、浄化の依頼……だよね?
何か勘違いしてるのかな。
「えっと、僕がするのは水の浄化……ですよね?」
「いえ、建物自体の……、中に住むと言われる幽霊の浄化ですよ」
……えっ!?
「えっ、もしかして巷で有名な浄化って水を綺麗にする浄化のことだったのですか!?」
受付の女性が驚きのあまり顔を引きつらせていた。
「そ、それじゃあこの依頼は引き受けてもらえないのですね……。はぁ……、ようやく頼める人が出てきたと思ったのに……」
「それじゃあこの依頼は他に誰も?」
「えぇ、そもそも幽霊を浄化する能力の持ち主はかなり少ないんですよ。それなりに強力な聖の魔法が必要になりますから……」
「わかりました。僕がなんとかしてみせます」
レフィが頷くと受付の女性が心配そうな顔を見せる。
「本当に大丈夫なのですか? 本当に効くのが聖属性の魔法だけなのですよ?」
「多分なんとかなりますよ」
別に聖属性の魔法じゃなくても、聖属性効果のあるポーションを使えば良さそうだからね。
「い、一応幽霊は襲ってくる可能性もありますので戦闘に自信がないのならここで冒険者を雇っていくことをお勧めしますが?」
「いえ、大丈夫です」
いざという時にはリルが守ってくれるだろうし、そもそも聖属性の魔法以外効かない幽霊に武器を持った冒険者が相手をできるとは思えなかった。
「では、早速向かわせていただきますね」
レフィは冒険者ギルドを出て行こうとする。
するとそんなレフィの前に三人の冒険者が立ちふさがっていた。
「おいおい、そんな体で依頼を受けるなんて無謀すぎるだろ! 俺たちが冒険者の厳しさを教えてやる!」
理由もなく絡まれてしまった。
「ガバルさん! その方は冒険者ではないですよ。だから、冒険者の怖さを教える役はしなくても……あっ」
もしかしてこうやって絡んでくるのもさっきの声を上げていたことも冒険者ギルドからの依頼なのかもしれない。
「いや、依頼を受ける以上冒険者と同じだ。それなら依頼の恐怖は教えておかないと……どうした?」
ガバルが話していると隣の冒険者が顔を青ざめていた。
「お、おい……、こいつってドラゴン殺しの奴じゃないのか? 俺、噂に聞いたことがあるぞ。今、町で浄化をしてる奴は以前に避難勧告が出たドラゴンを倒した本人だって……」
「えっ!?」
ガバルが口をぽっかり開けていた。
「それ、私も聞きました。だから浄化というのが幽霊を倒してることだと思ったんですよ」
「えっ、えっ??」
困惑するガバル。これは追い討ちをかけたほうがいいかもしれないね。
「それなら実際に実力を見せたほうがいいですか? 命の保証はありませんけど……」
口を少し釣り上げて微笑むレフィ。
かなり無理をして役作りをしたので、全くレフィらしくなかった。
それを聞いて肩からはリルが笑いを必死に堪えようとしているのがわかった。
「い、いや、そんなに実力があるなんて知らなかったんだ! お、お前なら警告もいらなかったな。すまない、今のは忘れてくれ!」
必死になって謝ってくるガバル。
それを聞いて心の中でレフィはホッとしていた。
レフィ自身の身体能力はそこまで高くないので、なんの準備もなしに冒険者の人と戦うと何もできずに倒される可能性もあったからだ。
準備さえしていれば問題ないと思うけど、流石に依頼を受けにきて絡まれるとは思わないもんね。




