11.ドラゴン
「あなた、なにを読んでいるのですか?」
「あぁ、旧友から久々に手紙が届いたんだ。なんでも面白いやつを見かけたらしい。ただ、それで気になることがあるから聞いてきたみたいだ」
ライバルドは手紙を妻のミリサに渡す。
それを受け取ったミリサは初めから読み始める。
「えっと、これは隣町のユーフェリアの町から来た手紙ですね。送り主は……ユウス?」
「あぁ、そいつが昔の知り合いなんだ」
「そうなんですね。……えっ!? レフィという子に助けられた?」
「あぁ、どこでその名を知ったのか、そんなことが書かれていたんだ。内容は酷いものだったぞ。あの魔法も使えない出来損ないがそんなことができるはずないのにな」
確かにそこにはポーションではあり得ない様々な能力について書かれていた。
「魔法でない、ただのポーションにこんな力があるはずないだろ」
その手紙を鼻で笑いながらライバルドは席を離れる。
「この手紙はどうしますか?」
「その辺にでも捨てておくといい。それより王都へ向けて出発するぞ。なんでも王女様がパーティを開くらしいからな」
「わかりました。では私たちも準備をしますね」
「頼んだ……」
ミリサは手紙を捨てようとしたが、それでもここに書かれている出来事が嘘には見えなくて結局自身の手元に保管しておくしかできなかった。
◇◇◇◇◇
次の町を目指すレフィは心地よい陽気を全身にあびながらリルの背中に寝転がっていた。
「レフィ、寝転がるのは良いが、落ちるなよ」
リルが注意を促してくる。
かなりの速度を出しているのでもし背中から落ちでもしたら相当痛いだろう。
「大丈夫だよ、しっかり掴んでるから」
「それなら良いが、急に止まることもあるからな」
それを聞いたレフィは起き上がり、しっかりとリルの体を掴んでおいた。
「それにしても遠くで変な音が聞こえるね」
何かが爆発するような音が幾度となく響き渡っていた。
「あぁ、向こうの方で何かが戦っているからな。巨大な気配と人の気配がするぞ」
「巨大な気配?」
「あぁ、この大きさになるとドラゴンとかだろうな。あいつらの肉はうまいんだが、なにぶん能力が高い。まともに戦うと私でも歯が立たない。下手に近付かない方が良いだろうな……。いや――」
リルが立ち止まり考え込む。
急に立ち止まったことで危うく振り落とされそうになったレフィが眉をひそめる。
「どうかしたの?」
「あぁ、確かドラゴンは鼻先に爆発を受けたら怯んでしばらく動けなくなるはずだ。もしかするとレフィのあの爆発する薬を使えば――」
つまり、爆発ポーションを使えば美味しいドラゴンを捕まえることが出来る……と。
「よし、やろう。今すぐにやろう」
レフィは早速ポーションを作り出し、それをドラゴンに向けて投げようとする。
ただ、相手はどこにいるかもわからないわけで、投げて届くような気がしない。
「うん、僕じゃ当てられないね。リル、お願いしても良いかな?」
「あぁ、その代わりドラゴンの肉はたっぷり食わせて貰うからな」
リルに爆発ポーションをくわえさせる。
するとあっという間に走り去ってしまった。
ただ、その場で待つことしかできないレフィ。しばらく待つと爆発音が聞こえる。
ドゴォォォォン!!
「よし、あっちだね」
音のした方へ向かって歩いて行くとそこにはバラバラに砕け散ってとても食べられそうにないドラゴンと青ざめながら呼吸を荒くしているリルの姿があった。
「な、何があったの!?」
とてもただ事ではないと思い、リルに駆け寄っていく。
するとリルはようやく我に返り、レフィに対して怒鳴りだしていた。
「あ、あれだけ高威力の爆発だと危ないだろう!」
「だって、相手がドラゴンなんだから威力は強めておかないとダメでしょ?」
「でも、見てみろ!」
リルがドラゴンの方を見る。
粉々に砕け散ったドラゴンだ。
「うん、見事にこなごなだね」
「なんか嫌な予感がして無理やり体を捻って避けたんだ。それをしてなかったら今頃私も粉々だったぞ」
「そういえばこのあたりにいた人たちは?」
リルが気配を感じたと言っていたはずだが……。
「もう少し向こうに何人か倒れていた。おそらくはもう――」
「うん、ドラゴンが相手なら仕方ないよね」
レフィは人が倒れていたという方角を向いて少しだけ黙とうをする。
「それじゃあドラゴンを食べようか」
黙とうが終わるとレフィはドラゴンの方を振り向く。
「どこを食うんだ? もう食えそうな部分は残っていないぞ?」
全身がバラバラ。尻尾は残っているが食べられない。あとは真っ赤なガラス玉のようなものが一つ転がっている。
「あれっ、これは?」
「魔石だな。確か高値で買い取りをしてるんじゃなかったか?」
「それならこれは持って行こうか」
魔石を持ち上げるレフィ。
ただ、心持ちどこか寂しそうだった。
「ドラゴンの肉……食べてみたかったなぁ」
「尻尾の肉でも食っておくか? 肉はあまりないが一応食えるからな」
「うんっ!」
リルに勧められてレフィは早速食事の準備を始めていた。




