プロローグ
アールデルス男爵家の五男として生まれたレフィ。
何の不自由もなく優しい両親や兄たちに囲まれて暮らしていた。
「レフィはどんな能力をもっているでしょうね?」
「兄たちはそれぞれ、優秀な魔法スキルの持ち主だった。この子もおそらくはそうだろうな」
この世界では十二歳になるときにそれぞれスキルというものを授かることが出来た。
スキルとは剣術であったり、魔法であったり、多種多様に渡って存在している。
そして、レフィがどんな能力を持っているのかは当人以上に親たちが楽しみにしている様子だった。
一番良いと言われてるのは魔法スキルで、レフィも兄弟同様に魔法スキルを望まれていたのだ。
しかし――。
「レフィ・アールデルス。そなたが持つスキルは【ポーション作成】じゃ」
「……えっ!?」
レフィは告げられたその言葉が信じられずに思わず聞き返してしまう。
ただ、鑑定所の老婆がその言葉を換えることはなかった。
「【ポーション作成】でそのレベルは最大のEX。どんな効果のポーションでも作れるというスキルじゃ」
そんな……。だって、ポーションなんて回復魔法があったら一切使うことのないものだ。
ちょっとした擦り傷を治す程度の効果しかない。
だから、魔力が尽きたときのための非常用……くらいの用途しかなかった。
いくらレベルが最大でもその使い道は変わらないだろう。
「う、嘘……だろ!?」
顔を真っ青にして今にも老婆に掴みかかろうとしている父のライバルド・アールデルス。
「儂の魔法スキル【鑑定】はいかなるものの能力も見通す。その子の能力は間違いなく【ポーション作成】じゃ」
魔法……という言葉を聞いてライバルドはピクリと肩を動かす。
この世界では魔法は絶対的な能力。しかも、この老婆の鑑定は今まで外れたことがないと有名だった。
それは、ライバルドもわかっていた。
だから、この老婆の言葉が本当のことだと理解した。
「……っ、帰るぞ!!」
ライバルドがレフィの腕を掴むと怒りの表情を浮かべながら無理やり引っ張っていく。
そして、家に着くと投げ捨てるように手を離される。
レフィは耐えきれずにその場に転けてしまう。
しかし、レフィのそんな様子を気にすることなくライバルドは声を荒くしながら言う。
「今ここでポーションを作ってみるんだ!」
魔法スキルじゃなかった落胆と、それでも使えるスキルかもしれないという希望を抱きながらの言葉だった。
今まで見たことのない父のその形相に萎縮しながらもレフィはポーションを生み出した。
作り方は簡単で手のひらを上に向けて、どんな薬を作りたいかイメージすればそれで作り出すことができた。
「ぽ、ポーションです……」
恐る恐る差しだすが、それを受け取ることなくライバルドは手で払い退けた。
「本当にただのポーションしか作れんわけか。魔法スキルを持たないお前なんかもううちの子じゃない!! 出て行け!!」
ライバルドによって玄関の扉が開けられる。
「ま、待ってください。ぽ、ポーション以外にも作ってみせますから――」
「もう聞きたくない。今ここで殺されたくないならさっさと出て行け。アールデルスの面汚しめ!!」
トボトボと玄関に向けて歩き出すレフィ。
するとライバルドが更に追い打ちの言葉を投げかけてくる。
「もう二度とうちの敷地をまたぐことは許さん! あと、アールデルスを名乗ることもな」
こうしてレフィは家を追い出されたのだった。
◇
「はぁ……、これからどうしよう……」
ため息を吐きながらレフィは一人町の中を歩いていた。
ただ、町の人たちにはすぐに噂が広がったようでひそひそとレフィに聞こえないように内緒話をしていた。
「とりあえず食べていけるようにお金を稼がないと……」
さすがにこのままずっと町の中を歩いているわけにも行かない。
既に勘当された身なのだからこれからは一人で生活していかないと……。
(でもどうすれば? ポーションしか作ることができないのに……。あれっ?)
今後の生活の方法を考えていたときに鑑定所の老婆の言葉を思い出す。
『【ポーション作成】でそのレベルは最大のEX。どんな効果のポーションでも作れるというスキルじゃ』
作れるのは回復に限らずにほかの効果を持っているポーションも作れる?
ためしに手のひらを上に向けてポーションを作る要領でもっと回復力が強いものを作れるか試してみる。
例えば……時間はかかるけど欠損すら治せるくらいの効果とかは?
考えてみるとあっさり回復力の強いポーションが生み出される。
デメリットは特になさそうだし、考えただけでいろんな効果のポーションが作れるようだ。
次に……そうだね、例えば身体能力を強化するポーション……とかはさすがにできないよね?
半信半疑で想像してみるとあっさり身体強化のポーションが出てきてしまう。
ちょ、ちょっと待って。この能力ってものすごい能力じゃないの?
さすがに回復をする以外のポーションまで出てくるとは予想外でレフィは大きく目を開いて出てきたポーションを眺めていた。
なんでも……か。色々試したいけど、ここじゃ人目がありすぎるよね。でも、この能力を使えば自分を追い出した両親を見返すことも出来そうだ。
だいぶ元気を取り戻したレフィはすぐに町を出て行く決意をするのだった。