14;月明かりの夜に
前回の投稿から二週間弱・・・随分間が開いてしまいました。申し訳ないです、とりあえず本日二話予定、久しぶりの投稿です、どうぞー
激しい戦闘の後少し経ってから悠輝は目を覚ました。意識を取り戻してすぐだからか、あまり頭が働かない。(頭の当たる部分が随分柔らかいような・・・しかも何だろ、落ち着くと言うか安心するにおいがする・・・うぇ!?)まどろんでいた意識が急速に覚醒する。なんと悠輝は翠に膝枕をされていた。
「悠輝君、目が覚めたんだね!!いきなり倒れるからびっくりしたよ・・・心配させないでよね。」「えぇと・・・何で膝枕?」「嫌だった?床に直接寝せるのは痛いだろうと思って。」「いや嬉しいけどさ・・・」「あ、嬉しいんだ。ふ~ん。」素っ気ない言い方だが、翠の顔は誰が見てもわかるくらい緩んでいた。悠輝も体は本調子ではないためその好意に甘えることにし、翠に頭を預けることにした。
「そうだ!堅悟たちはどうなったんだ?」〔やっと起きたか、悠輝。堅悟たちならあっちだ。お前より少し早く目が覚めたみたいだぜ。〕堅悟たちは既に起き上がって双川兄弟の状況を確認しているようだった。こちらに気付いた堅悟がこちらに軽く手を振っていた。悠輝も軽く振り返し、堅悟の状態にほっとする。ところで、さも当り前かのようにハクが勝手に顕現していた。「ハク、何勝手に出てきてるんだよ!」〔もう翠たちにはばれてるんだし今更隠すのも無理だろ。〕「まぁ、そうなんだけどさ・・・(これ民間にばれたこと組織に報告しなきゃダメか・・・?)」軽くため息をついて答える。
一方堅悟は自分が吹き飛ばした雄二の様子を確認するため自分の空けた穴から外に出ていた。雄二はやはり気絶しており、身体からは先程までの怪異の気配は消えているようだった。「ゲン、どう思う?」〔本当にただの人間になっておる。記憶の方はどうだかわからんがの。〕怪異の源というか魂のようなものは何処に行った?その点は気がかりだったが、ただの人間というのならこれ以上問題も起きないだろう。先ほど話した限り花蓮たち熱が出ていた人も双川兄弟を倒したことによって普段通りに戻ったようだった。これ以上症状が広まらない事に安堵し、先程意識が戻っていた悠輝とも話をしなければと考え屋敷に戻ろうと思ったところだった。「堅悟。」後ろから声がかかった。屋敷内にいたはずの花蓮が外に出てきていたようだった。熱は引いたとはいえまだ本調子ではないだろう、安静にしておいた方が良い。
堅悟がそう言おうと振り返る前にぽすっと、背中に触れる温かさが。花蓮が背に身体を預けていた。
「堅悟ぉ・・・ぐす」背に触れる花蓮の声は震えていた。翠と話していた時は努めて冷静さを保っていたが内心ひどく不安で強がっていた。
「大丈夫だよね?身体何ともないよね?」「あぁ、さすがに疲れてさっきは倒れてしまったが。それよりも、いいのか?俺は普通の人じゃない、内には霊獣がいる。言ってしまえば双川たちと似たようなものだ・・・」不安げに堅悟が言うと、花蓮の伸ばされた手にきゅっと力が込められた。「さっきも言ったでしょ、堅悟がどんなだって私は堅悟と一緒にいたいって。それ以上に言葉がいる?」「・・・ありがとう。花蓮姉ぇ。俺も花蓮姉ぇと一緒にいたい。」二人の間に心温まる時間が流れる。「ねぇ、もうちょっと・・・このままでいてもいい?」顔を赤らめながら花蓮が尋ねる。堅悟は静かにうなずいた。春とはいえ夜は少し冷える。お互いの体温を感じつつ二人はお互いの思いを確かめるのだった・・・
「堅悟遅いな・・・何やってんだ?」〔そういや間島の姉ちゃんもいないな。(堅悟の事追いかけたのか。あの姉ちゃん意外とやるねぇ・・・悠輝は気付いてないみたいだが。)〕なかなか堅悟は戻って来ないし、ずっと翠の膝の世話になっているわけにもいかない。「よっと。膝貸してもらってありがとう、雪園さん。」名残惜しいが翠の膝から離れて立ちあがり、翠に向き合う。翠は不満そうな顔をしていた。「名前。何で名前で呼んでくれないの?さっきは名前で呼んでくれてたのに。」「さっきは余裕なかったというか、つい呼んじゃったというか・・・」「名前がいい。名前で、呼んで・・・?」「・・・わかったよ、翠。」〔何だよこの雰囲気、俺お邪魔かぁ・・?〕甘い感じの空気があたりに流れていたが目線を下げ、ぽつりと悠輝が口を開く。
「翠、もうわかってるとは思うけど俺や堅悟は普通の人間じゃない。ハクたちを憑依させるとさっきみたいに普通の人間の枠から外れてしまう。普通の人から見たら、化け物かもしれない。・・・だけど。」
「全部、思い出したんだ。俺の一番大切な人は、こんなにすぐ近くにいたんだって。我が儘かもかもしれないけど、俺はこれからも翠と一緒にいたい。」静かな決意とともに、悠輝はポケットから空色の髪飾りを取り出す。それを見た翠が急に動く。ぼすっと、勢いをつけて悠輝の胸に飛び込んだ。
「私も、全部思い出したよ。絶対忘れないって約束、まだ続いてるよね? 悠輝君が嫌だって言っても、私が一緒にいたいよ。やっと、やっと思い出せたんだから!!」翠の手には雄一に攫われてからずっと、千切れた簡素なネックレスが握られていた。「それに・・」「それに・・・?」「さっきの悠輝君、ちょっと可愛かったよ?猫耳?似合ってたし。」それを聞いたハクが笑いだす。〔プッ・・・あーっははははは!!悠輝、可愛いだとよ!!くくく、俺たちを怖がるどころか可愛いだって!!翠は将来大物になるな!!〕
忘れていた過去を取り戻し、想いを伝えあった二人を夜空に輝く月が祝福するかのように静かに照らしていた・・・