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楽士伯の姫君は、歌わずにいられない  作者: 汐の音
十四歳篇 学院での日々

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95 作戦会議

「へぇ、そんなことが」


「えぇ。あったんです……お父様は、昨夜は皇宮でゼノサーラ殿下とは会いませんでしたか?」


 エウルナリアは朝食の焼きたてロールパンをちぎりながら、若干、眉尻を下げて父に(たず)ねた。

 既に食事を終えて寛ぐアルムは、仄かに湯気の立つ珈琲を片手に濃緑の目を見開き、まじまじと娘を見つめている。


 窓からの陽射しはまだ弱い。

 今日は、少し曇り空。


 ――皇女様の襲撃があった翌朝である。


 エウルナリアは、アルムが食事を終えた頃を見計らい、昨日の顛末を洗いざらい話した。



 あのあと、ロゼルは無事に美術棟へ行けたから大丈夫とはぐらかしたが、グラン曰く「結局、双子の弟皇子と三学年の兄皇子まで呼ぶはめになった」らしい。かなりの大事(おおごと)だ。


 自分だけではない。大切なひとにまで実害が及んでいる以上、早急に手を打つ必要がある。

 情報源は父しかいない。むしろ、父からゼノサーラ皇女に取りなしてもらえたら……という、儚い希望もあった。


 (無理っぽい、かな)


 少女は、ちらりと視線を父親に向けつつ、パンの欠片を行儀よく口に入れ、もぐもぐと()む――心配ごとがあっても、小麦はほんのりと甘い。温かくて美味しい。


 深刻な話題のわりに、幸せそうな愛娘に頬を弛めつつ、アルムはゆっくりと記憶を辿った。程よい苦味の珈琲を味わってから、無自覚に甘いテノールを響かせる。


 声量は、mp(メゾピアノ)


「……そういえば、昨夜は全然こっちに来なかったね。てっきりもう、私みたいなおじさんには飽きたのかな?って思ってた」


 とびきり可愛らしいことを(のたま)う父に、エウルナリアは吹きそうになった。慌てて口の中のものを嚥下する。堪えきれず、笑った。


「…おじ、さん……ふ、ふふっ!あ、ありませんよ、お父様。それはないです。だってあの方、お父様のこと、すごく大好きなようでした…」


 脳裡(のうり)に只ひと言、銀細工の姫君が洩らした言葉が離れない。

 ―――……貴女が、アルムの『姫』なのね、と言ったのだ。かの少女(ひと)は。


 しかしアルムは、通常どおりだった。


「あぁ、やっぱり?」


 しれっと答える三十八歳に、エウルナリアは苦笑する。


 (まったく、この(ひと)と来たら……)


 が、やはり、いとおしい。

 たった一人の肉親へのお小言は、最後の一口分のスープと一緒に流し込んだ。

 コトン、と食器を置く。完食。


「……で、さしあたっての対策なのですけど。何か妙案はありませんか、お父様?」


 ナプキンで口許を拭いながら、ちいさく首を傾げる仕草――言外に「助けて?」とお願いする。

 今度は父が苦笑する番だった。意思は正確に伝わったらしい。


「私のかわいい姫君は、いつの間にか随分、交渉上手に育ったね…嬉しいというか、頼もしいというか……まあ、いい。案ならあるよ」


 アルムも、空になった珈琲の器を卓に置いた。濃い緑の瞳に何かの思いが宿る。器を放して自由になった右手の指を、そろりと口許に当てた。


「サーラを……皇女様を、助けてあげてくれるかい。エルゥ?」


「―――……え。あ、……はい?」


 意外な案に思わず訊き返し、エウルナリアは青い瞳をきょとん、と瞬いた。


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