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楽士伯の姫君は、歌わずにいられない  作者: 汐の音
十四歳篇 学院での日々

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90 違う意味での洗礼

 広々とした公園で、遠目にも大きく存在を示していた一群の建物は、温かみのあるクリーム色の壁と、赤みのつよいオレンジ色のとんがり屋根が特徴的な学舎だった。

 敷地を囲う壁も門扉もない。開放的な、ほのぼのとした造り。

 ――童話に出てくるお城のようだ、と少女は感じた。


 学舎前の石畳の広場で馬車から降りると、左右に建つ二つの塔の間を繋ぐ廊下が渡されており、等間隔で柱が立っている。屋根だけで壁はない。


 石の階段で、やはり石造りの廊下に上がると、奥に向けて同じだけ降りる。

 そこは、周囲を同じ色、異なる形の学舎に囲まれた中庭だった。

 ――広い。バード邸の離れは楽に入りそうだ。程よく木が植えられ、ベンチが配置してある。休み時間などは、ここで寛ぐのも良さそうだ。


 階段と同じ幅の石畳が中庭を突っ切って、奥へと続いている。

 真っ直ぐ進むと、正面の一際(ひときわ)大きな建物に辿り着いた。開かれた両開きの大扉の横には「中央講堂」と記してある。周囲の真新しい制服を着た生徒は皆、この扉の中へと流れていた。




   *   *   *




「入学の式典か。確か、皇王陛下が見えられるんだよな。お言葉もいただけるって」


 聞くともなしに、耳に入る周囲の声。

 既に、定められた場所に着席したエウルナリアはぴくん、と反応した。


「え、じゃあ皇子殿下と皇女殿下もこの中に?!」


 話を振られた少年が、きょろきょろと周囲を見渡している。黒髪の少女の右斜め前なので、とても目につきやすい。

 片割れの少年が、笑いながら答えた。


「ばーか。そんなわけ無いだろ。殿下方は、今日は不参加だって。いくら平等にって言ったってさ。俺らが平静でいられるわけないっしょ」


「そっかー……まぁ、そうだよな。残念!

 あ、でもさ、確か今年はバード家とキーラ家のご息女も入学するって聞いた!めっちゃ見たい!見られるかな?」


 更に、周囲を見渡す新入生の少年。

 それがふと、斜め後ろを振り向き――青い目のエウルナリアを見て、止まった。


 ……止まっている。

 まだ、固まっている。


 さすがに「おい…」と声をかけた隣の少年も、友人の視線の先に気づき、同じように固まった。


 ちら、ほらと、周囲で視線の波が同じ方向を向いては縫い止められている。

 中々ない、嘘みたいな現象だ。

 エウルナリアはちょっと辟易した。


 (うん…そうね。何故か分からないけど、人込みとは相性よくないよね、私。浮いてるのかな…)


 ――仕方がない。

 諦めて、ふわっと微笑んでみる。

 すると、なぜか皆一様に顔を赤くした。その上、口許を手で抑えて目を逸らし、困った表情で俯く生徒までいる。


 (いや、困ってるのはこちらなんだけど…)



 その時。

 左右の幼馴染み達の気配が、すっと変わった。


 左隣のグランが、おもむろに姿勢を変えて足を組んだ。ついでに腕も組み、元からきつい濃紺の眼光も鋭く、周囲を見返している。――苛烈な印象が増した。怖い。


 右隣のレインは、姿勢こそ変えないものの纏う空気を変えた。――冷たい。

 もともと怜悧な整った顔は、こうすると温度を感じさせない灰色の瞳も相まって、とても冷ややかに映る。


 その甲斐あってか、周囲の不躾な視線は(たちま)散開(さんかい)した。

 エウルナリアは、ほっと安堵の息を吐いた。


「……ありがと、グラン。レイン。」


「どういたしまして」


「当然です」


 少年達は、しれっと返事を返す。

 少女はそれらを聞きながら眉尻を下げ、こっそりと観念した。



 ―――……新しいお友だちは、すぐには出来ないかもしれない、と。


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