表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
楽士伯の姫君は、歌わずにいられない  作者: 汐の音
十四歳篇 入学前

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/119

83 少年と、似たひと

 コツ…、コツ…と、石の床を打つ(かかと)の音が、高い天井の上まで響き、弧を描くようにぐるりと降りて礼拝堂を巡ったあと、再び床全体へと沁み入るように返ってくるのが、わかった。


 (すごい反響率。いいなぁ…ここで歌えたら、凄く気持ち良さそう……)


 半ばうっとりとした表情で、少女はこの場所の音の響き方――残響とも呼べる音の余韻がもたらす軌跡を、無意識に感じとっている。


 圧倒されるほど左右の壁を埋め尽くす、尖塔アーチと彫刻の数々。単なる平面の壁はどこにも見られない。

 繰り返される同一モチーフの連なりは、上昇――天へと向かう気持ちを昂らせる。


 (バード邸(うち)の扉やステンドグラスは、みんな普通の半円アーチだものね。そうか、ちゃんと意図があっての様式なのね…

 入り口のだまし絵(トリックアート)にしても、建物に()ける土地の少ないレガティアならではの工夫だろうし。

 この礼拝堂の内装も、そう。すごいな、職人さんって……)


 エウルナリア、ユシッド、グラン、レイン。

 一名の少女と三名の少年達は、それぞれの異なる足音を聞きながら、静かに礼拝席の真ん中を歩いた。


 黒と見紛うほどに使い込まれた、つやのある焦げ茶色の木の長椅子が、ずらりと左右に一列ずつ、整然と並んでいる。


 ふと、エウルナリアは正面を向いたまま「そう言えば…」と、口を開いた。


「ここ、ヴァージンロードね。大抵の貴族は――皇族も、ここで結婚式を挙げるんでしょう?」


 ガッ、

 ゴッ……!

 ……カツン!


 なぜか、少女の後ろで乱れた足音やどこかに何かをぶつけた音、つい力を込めて立ち止まったような音が、同時にした。


「?!……大丈夫?」


 少女は立ち止まり、驚いた表情のまま、パッと素早く振り向いた。


 その時、礼拝堂の最奥(さいおう)――縦に長大なうつくしいステンドグラスに、真冬の晴天の光が射す。

 黒髪が浮かんで波打ち、一拍遅れて再びふわっ…と、肩と背に流れ落ちた。

 澄んだ眼差しは、レガート湖の青。


 一瞬の絵画に、少年達は釘付けとなる。


「あぁ、うん。……そうだね。

 君がここを花嫁のドレスで歩く姿は、きっと素晴らしいだろうね。そういう、憧れってある?」


 束の間、何かに考えを捕らわれたような沈黙を挟みはしたが、ユシッドは微笑みながら、穏やかに問い返した。


「それは――はい、ありますよ。想像もつきませんが……

 でも、父は黙ってエスコートしてくださるかな。ちょっと心配です」


 少しの恥じらいに頬を染め、隠すように睫毛の影を落とすエウルナリア。

 照れをごまかすために出した(アルム)の存在は、その場では、彼女が思った以上の効果を発揮した。




   *   *   *




「創国の故事?……あぁ、あれか」


 なんとなく、誰もいない礼拝堂が心地よくて、四人は思い思いに長椅子に掛けて歓談している。レインですら、ユシッドの「まぁ、座りなよ」には勝てなかった。


 (……この方、どことなくアルム様に似てるな…)


 レインは心の中で呟いた。――なんとなく、大切な少女には気づいて欲しくない。


「ご存じでしたか?すごい。知りたければ、ここで調べるよう父に言われたんですが……あの、書物の類いを、こちらでは見せては頂けるんでしょうか?」


 少女は、ぱあぁぁ……と嬉しそうに顔を綻ばせたあと直ぐ、おそるおそるという風に灰銀の髪の――もうちょっとで青年になりそうな少年に、問いかける。


 ユシッドは口許に手を当てながら、クスクスと穏やかに、少し低めの声で笑った。


「残念。書物には残ってないけど、歴代の聖職者を束ねる司祭とその後継者なら、知ってる。私も後継者候補だから、よければ教えるけど。

 ―――それでいいかな?姫君」


 穏やかだけど、時おり(したた)かさを感じさせる暗紅色の視線は、今は楽しげにエウルナリアに向けられている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ