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楽士伯の姫君は、歌わずにいられない  作者: 汐の音
十四歳篇 入学前

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81 レガティアの星祭り(5)

 サングリード聖教会――一般には《聖教会》の名で知られる建物は、大陸の何処(どこ)にでも見られる。

 千年以上昔、サングリードという一人の聖者が説いた教えのもと、聖職者達が日夜、人びとを守り導くとされる場所だ。


 他の宗教と争う姿勢も見せず、聖職者となった者は、教義と併せて人を救うための具体的な方法――医療術を習う。


 学んでいる間は、労働の見返りに最低限の衣食住が保証されるし、一人前の聖職者は治療への代価がわりに患者から施された「喜捨(きしゃ)」を受けることができる。


 妻帯も認められているし、もちろん女性の聖職者もいる。果ては、医療術に従事したいからと教会の門を叩く者もいる。様々だ。


 ゆえに、サングリード聖教を国教と定めるレガートには、民の救護を旨とする国府がない。

 レガティア建設後しばらくは存在したらしいが、当時の聖教会と職務があまりにも重なったため、統合・吸収されたという。――国府が、教会に。


 祈りの象徴とされるのは、円の中に刻まれた星十字(ほしじゅうじ)

 それを、中央の礼拝堂の入り口に飾った石造りの建物――聖教会レガート支部庁舎を前にして、エウルナリア達は立ち止まった。


 大きい。

 外観は白。

 切り出された石が巧みに加工され、組み上げられた技術と美観の結晶が、ここにある。 



「大きいね……それに、すごく綺麗」


 首が痛くならないか周囲が心配するほど、礼拝堂の両脇に建つ二本の尖塔をぐっと見上げたエウルナリアは、呟いた。彼女の口許に白い息が漂う。――よほど驚いたのか、唇がちいさく開いている。


 グランは、傍らの少女の無防備な様子に眉尻を下げつつも、口の()を上げた。きつい濃紺の眼差しが柔らかくなる。


「…医療所も兼ねた、平民にとっちゃ無いと困る場所だからな。

 それに、エルゥの言うとおりレガート(ここ)の支部庁舎は特に綺麗なんだって。観光客も祈りがてら、よく立ち寄るらしいぞ?」


「物知りですね、グラン」


「馬鹿にすんなよ、レイン。元騎士見習いを舐めんな。つうか、俺は元々平民よりなの。シルク商男爵家(うち)の、今の夫人――母は平民だったから」


「へぇ」


 わりと淡々とした返事に、逆にグランがたじろいだ。

 彼は、貴族が平民を伴侶にするのは珍しいことだと知っている。両親は結婚するために家格を気にして、いちど母を養子縁組させたほどだ。


 レインはそれ以上、口を開く気配がない。

 主である少女は、ちょっと困った表情(かお)で助け船を出した。


「貴族と平民の結婚は、皇国楽士団ではよくあることなの。ほら、みんな芸術学院の卒院生ばっかりだし。音が合えば気が合うことも多いらしくって」


「へぇ…」


 今度はグランが、少し気の抜けた返事をした。

 じっと目の前の主従を眺める。


「なに?」


「……いや、何でもない。中、入ろうぜ」


 「そうね!」と元気に笑みを浮かべ、栗色の髪の従者を伴った姫君は、(そび)え立つ尖塔アーチ郡の奥にある礼拝堂の入り口に向けて、石の階段を昇っていった。


 赤髪の少年は何となく殿(しんがり)をつとめる気分で、彼らのあとに続いた。


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