80 レガティアの星祭り(4)
眩しさに未だ目が慣れないエウルナリアは、半ば目を閉じたまま、グランに右手をエスコートされた状態で歩道の端に佇んでいる。
左側にレイン。彼はグランと同様、周囲に灰色の視線を投げかけ、注意を払っている。
今日は二人とも動きやすい線のチャコールグレーのコートを身につけ、隠すことなく帯剣しており、物腰に隙がない。
とても見目よい少年達だが、二人で真ん中の少女を守っているのは一目瞭然で、周囲の心ある大人達は微笑ましい思いで、かれらを見守った。
――勿論、うつくしいものを愛でる気持ちが多分にあるのは、否めない。
いくらかの衆人が見守るなか、エウルナリアは漸く左手を目許から外し、ゆっくりと顔を上げながら瞳を顕にする。
――レガート湖の青。
誰かが、そう思った。
ちいさく整った顔立ちに、くっきりと映える澄んだ青い目。長い睫毛には、うっすらと涙が滲んでいる。艶やかな黒髪は柔らかく波うち、少女の肩と背を飾る。
衣装は、暖かそうなクリーム色の羊毛のケープと揃いの膝丈のスカート。膝まであるブーツは、なめした革の光沢が上品なキャメルブラウン。襟元と裾にふわふわと雪のような真っ白の毛皮が縁どられ、さながら冬の妖精だ。
――混雑のわりに、静かだ。
エウルナリアは視線をさ迷わせた。……珊瑚色の唇がひらく。それだけでも人目を惹いた。
「えぇと……グランは、この辺りに詳しい?聖教会はどれかな」
甘く澄んだ声が、ささやかに空気を震わせる。つい耳が拾ってしまう――抑えた声量でありながら、存在感のある響きだ。
人びとは何となく聴き入ってしまい、彼女の次の一声を待った。
「あぁ、こっち。ちゃんと教会のある南東区に降ろしてもらったから、主街路は渡らなくていい」
「そっか、ありがとう。早速行こう?」
黒髪の少女は、にこっと愛らしく微笑んだ。心が逸って仕方ないと言わんばかりに、わくわくとしている。
少年達はそんな彼女に寄り添うように、す、と洗練された足運びでその場を去った。
……雑踏はそのあと直ぐ、おおいに賑わった。




