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楽士伯の姫君は、歌わずにいられない  作者: 汐の音
十歳篇 南への旅

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42 道のりを知る者

「そういえば、エルゥ様。《土産と甘味処》の店主から、ご注文の品が届いてますよ。国王陛下とお出掛けしていた間に」


 レインは、ゆっくりと丁寧に食後の紅茶を淹れながら、待ちかねた一報を主にもたらした。


「本当?よかった、帰国に間に合って。

 四十一個も注文したから、もっとかかると思ったわ…すごいね」


「一つ一つは、小さいしな。細工も、慣れてる奴からすればシンプルなものだし。親父さんも見た目と違って、あぁいう細かい作業、好きだしなー…お、ありがと」


 話をしながらでも、優秀な従者は手を止めない。いい香りの湯気が立ちのぼる白い茶器を、コトリ、という幽かな音とともに、黒髪の少女と赤髪の少年の前に、それぞれ置く。


「ありがとう、レイン。貴方も、ちゃんと自分のを淹れて?」


 温かい茶器を小さな両手で支え、()ずは、鼻先にふわりと漂う香りを楽しむエウルナリア。――作法として、ではない。飲みたいけど熱すぎて、まだ飲めないのだ。


 グランは熱くても大丈夫なようで、もう飲んでいる。――不作法なわけではない。ふぅ、と一、二回吹いて湯気を飛ばしてから、そっと口に付けているので、エウルナリアから見れば羨ましいほどのスムーズさだ。


「そうそう。俺のことも呼び捨てだし、一緒に飯も食べるし、主人は愛称呼びだし。今更なんだから、もう、どーんと構えとけよ」


「…では、お言葉に甘えて」


 困ったように笑んだレインは、ようやく自身の茶器に紅茶を注いだ。先程に比べると、ややぞんざいな仕草だ。――そのことが妙に可笑しく思えて、エウルナリアは茶器を持ったまま、くすくすと小さな鈴をふるうような笑い声をあげた。


 グランは(しばら)くの間、茶器を口にあてたまま、特に表情を変えることもなく幸せそうな彼女を眺めていたが…やがて一拍、紺色の目を閉じると茶器を離し、小卓の上にカタン、と置いた。口許は少し(ほころ)んでいる。


「で、どうやって全員に渡す?そろそろ、帰ってくる楽士もいるだろうけど」


「うーん。どうせなら、顔を見て渡したいかな。楽士団はこういうとき、単体行動禁止だから、ある程度まとまって帰って来ると思うの。で、人数を確認してからグループ毎にハイ、どうぞ作戦ってことで。

 今、部屋で休んでる人は把握してるから大丈夫。レインに配ってもらうわ」


「…こういう時のエルゥって、迷いがないと言うか、見た目より豪快だよな。まぁ、そういうとこも気に入ってるけど」


「そう?ありがとう」


 エウルナリアは、ご機嫌だ。にこにこと笑って、ようやく茶器を口元に運び、味わいながら紅茶を飲んでいる。


 栗色の髪の少年は、片手で持った熱い茶器にそっと唇を寄せながら、温かな湯気を吹くこともなく、とても静かに微笑んだ。


 (グラン。エルゥ様の場合――そこから気付いて貰って、尚且(なおか)つ受け入れて貰えるまでが、本当に大変なんですよ…)


 剣の稽古と違い、これは、己が一番(さき)んじているという自負がある。――勿論、教えてなどやらない。


 少し拗ねた表情の新しい友人(グラン)を視界の端で確認しながら、レインはあくまでも心のなかで、彼の胸中を(おもんぱか)った。


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