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楽士伯の姫君は、歌わずにいられない  作者: 汐の音
十歳篇 南への旅

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41 少年たちの法廷

 キウォン宮の主ジュードは、その後、退屈を持て余していたエウルナリアを敷地内の果樹園や図書館に連れ出し、大いに楽しませてくれた。


 元々、今日の午前中は彼女と過ごすべく、調整してあったらしい。

 多忙を極めるはずの国王の大切な時間を分けてもらったようで、今更ながら少女は恐縮を覚えたが…――はた、と気がついた。


 初日は理不尽な待遇しか受けず、二日目はまさに賓客扱い。


 まるで彼自身の性格を表すような極端さだと、エウルナリアは歩み去るジュードの背に手を振りつつ、ほんのりと愛らしい笑みを浮かべる。


 そんな二人の年齢差を感じさせない仲睦まじさは、平穏を装う宮殿の水面下で、あらゆる噂を席巻(せっけん)させつつあったのだが――それはまた、別の話。


 小宮殿に戻ってすぐ、どこか慌てた様子の少年達に呼ばれた黒髪の少女は、淡いラベンダー色のワンピースの長めの裾を風にそよがせながら、白い敷石の庭を控えめに駆けて、戻っていった。




   *   *   *




「大丈夫か?エルゥ。あの王様、あからさま過ぎだろ!」


 場所は、小宮殿の食堂を兼ねる一階の広間にて。

 若い女官の給仕を受けて、三人で昼食の席についた時のこと。

 女官が退室したのを見計らい、まずは赤髪の少年が爆発した。既に平焼きのパンが片手に一枚ずつ、確保されている。

 ――そうだね、稽古のあとはお腹が減るよね。


「グランはまだいいですよ。僕は昨夜、目の前で膝抱きになったエルゥ様を、ずぅっと見守る羽目になったんですからね。ずっと!」


 水浴びしたあとの濡れた栗色の髪を、今は斜め下で結んで前に垂らしている綺麗な少年も、これに便乗した。その手にはパンに乗せる具の、蒸し鶏のオレンジソースがけの皿。主の分と自分のを取り分けたあと、「はい」と、隣のグランに渡している。

 ――随分、仲が良くなったんだね。君たち?


 少女は、今は食事の邪魔にならぬよう、波打つ黒髪を背中でゆるく編んでもらっている。とりあえず喉が乾いた…と、瑠璃色の小さなグラスに注がれた果実水を、こくん、と味わってから飲んだ。

 ――柑橘系なのはわかるが、知らない果実。…爽やかな香りに、ほんの少し、きりっとした苦み。お肉料理に合いそうだ。


 喉を潤したエウルナリアは、一応、年の離れた友人となったジュードの、よくわからないが何かしらの誤解を解くために、食事を中断して口を開いた。


「うーん。ジュード様は確かにちょっと、変わってるけど…多分、小さな女の子が珍しいんだよ。昨日はびっくりしたけど、今日はとっても優しくしていただいたよ?」


 それだけ言ったあと、パンにハーブと茹でた根菜を少々乗せてから、先程の蒸し鶏を挟んで直接がぶり、と食べる。

 このときオレンジソースを溢さないようにするのが上手な食べ方だと、昨日、女官さんに教わった。一口を大きくし過ぎないことも、綺麗に食べるコツだと習っている。


 一通り咀嚼して、美味しく味わってから嚥下したエウルナリアは…――ようやく、二人の少年の何とも言えない視線に気がついた。


「エルゥ。言いにくいんだが、それ、アウト」


「…セーフじゃないの?

 冗談だろうけど、『約束があるから妃も養女も諦める。気が変わればいつでも来い』って」


「はい、アウト!」

「…性質(たち)の悪い、大人の見本ですよ…」


 少女の弁護の声も虚しく、この場にいない疑惑の国王陛下は、少年たちから、ものの見事に有罪判決(ギルテイ)を言い渡されていた。


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