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風変わりな国のお話

 初投稿です。拙い筆で失礼します。つい、書いてしまいました…

 “昔々――大陸の、ほぼ中央に位置する大きな湖には美しく、緑豊かな島がありました。そこはやがて、大陸全土を統一した大レガート帝国の新都となりました。


 しかし、統一を成した初代皇帝のたった一人の皇子は大変な芸術家で、統治よりも絵画や音楽が大好きな青年でした。


 青年は、初代皇帝の没後二代目皇帝として即位し、すぐに都を大陸一の芸術都市として造り変えましたが、なんとその在位中、都以外の領地をすべて元通りに独立させてしまったのです。


 よって、今のレガート皇国はその皇帝の子孫にあたる皇王が代々治める、大陸で一番小さな国となりました。

 けれど、その都レガティアは、今でも華やかな音楽と芸術の都として、大陸中に名を馳せているのです。”



 ~『子どもに読み聞かせる歴史物語』より、

   レガートの章 一部抜粋~




   *   *   *




 ぱたん、と厚い本が閉じられる音が部屋に響いた。


「ねぇ先生、ちょっと歌っていいですか?」


「だめです」


「えぇ…いいじゃないですか。音楽が尊ばれる都の成り立ちですよ?次代の担い手として心が震えます。しかも、歌いたい気持ちでいっぱいです」


「いえいえ、そのお気持ちはぜひ、歌の時間までとっておいてください。今は歴史の時間ですよ?エウルナリア様。しかも、まだ始まったばかりです」


 古の流れを汲むレガート皇国。

 その皇都レガティアの貴族街に居を構える、白い漆喰と赤茶色の屋根がどこか牧歌的な小さな邸宅でのこと。

 ぽかぽかと陽当たりのよい一室で、やんごとない幼い令嬢が、まだ若い家庭教師を困らせていた。


「そう、確かに歴史の時間でしたね。でも、わが国の歴史とは即ち大陸における音楽と芸術の発展史。そう思いませんか、先生?」


 令嬢――10歳のエウルナリアは、小首を傾げてきらきらと輝く青い瞳を自らの教師に向けた。

 柔らかに垂らした黒髪が、窓からの光を弾いて揺れる。白桃の頬、珊瑚の愛らしい唇。長い睫毛の上で揃えられた前髪の間から、おおらかに弧を描く優しげな眉が見えた。

 襟元に白いレース飾りの付いた、シンプルだが質の良い菫色のワンピースがよく似合っている。文句のつけようがない、うつくしい少女。


 (本当に…無駄に可愛らしい…。でも、かわいくないぃぃ!)


 家庭教師の女性――ユーリズ女史は、辛うじて心の叫びが口から溢れるの抑え込んだ。


 エウルナリアは、バード楽士伯の愛娘だ。音楽をこよなく愛し、その才能によって例の二代目皇帝により叙爵された楽士伯の祖である名門。現当主とその令嬢は、特に素晴らしい歌声の持ち主だという。

 聴いてみたい気もするが、一代限りの末端学問準男爵の娘であるユーリズ女史にとっては、自らが受け持つ歴史学を修めてもらわないと、今後教師として身を立てられない。…仕方がない。小さくため息をついた。


「私も、本当はエウルナリア様の歌声をお聴きしたいのですが…

 御父上である楽士伯様から伝言をお預かりしました。『学院入学前に修めるべきところを終えれば、再び自由に歌えるよ』だそうです」


 申し訳なさそうに楽士伯直伝の《奥の手》を使うと、目の前で愛らしい少女がしおしおと、元気をなくした。

 

 ユーリズ女史とて、生徒が憎い訳ではない。できれば楽しく教えてあげたい。

 しばらく様子を見守っていると、何とか切り替えが出来たのか、エウルナリアの瞳にゆるゆると光が戻ってきた。


「…わかりました。きちんと学びます。ごめんなさい、ユーリズ先生」


「!…良かった、そう言っていただけて。

 課程が終わりましたら、ぜひ聴かせてくださいね?楽しみにしていますから」


 そう言うと、少し驚いたように、しかし嬉しそうに頬を染めて「はい」と返事をした少女に思わず目を見張る。

 目が合うと、にっこりと花が咲くように笑ってくれた。


 (あぁぁ…素直だとかわいい!何これ、眩しい!!)


 自分に対して真っ直ぐに向けられる美少女の笑顔は、果たして慣れられるものなんだろうか。

 ユーリズ女史は再び、今度は悶え倒す心の叫びを抑える羽目になっていた。


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