第3話:神楽
ある暑い夏の朝。
僕はある祠に住んでいるという女の子に会ってみようと思った。
それは単純に、好奇心があったからだ。
そのため、親が寝ているのを確認して、こっそりと家を抜け出した。
そしてその足で、真っ直ぐに女の子の住んでいる森へと走り出す。
その走っている途中、僕は考えていた。
村の人達はみんな、彼女を穢れの存在として見ている。
だから彼女は森の中で暮らしているそうだ。
でも僕は、好奇心だけじゃなく彼女が災厄の存在じゃない事を確かめたいから会おうとしているのかもしれない。
だから今、僕は必死に走っている。
と、その時だ。
道の途中に、木々が寄り添って通行を遮っているところに突き当たった。
だが僕は、何の躊躇いも無く草木を退ける。
その先に広がった光景は、丸い円を描いた草原が広がった場所だった。
そこには朝の日差しが差し込んでいて、草原に反射しているために何とも言えない神秘的な光景になっていた。
そして奥には祠があり、その前には白く、長い髪の人が立っていた。
身長は僕と同じため十歳くらいだろうが、女の子かはまだわからない。
そのため、僕は早足でその人の元へと向かった。
するとその人は、足音に気付いたのかこちらへと振り向いた。
同時に揺れた純白の巫女服を纏ったその姿は、確かに女の子だった。
白い瞳で可愛らしい顔、そして頭には小さくて黒い角が二本。
たぶん、この角と白い瞳が原因で村の人達は穢れと言っているのだろうっと、僕は子供ながらそう思った。
でも、何だか仲良くなれそうな気がする。
そう思い更に近づくと、女の子は眉を寄せて、明らかに警戒心を持った表情で僕を見た。
そして、小さな口をゆっくりと開く。
「・・・キミは誰?何しにここまで来たの?」
問いは表情とは違い、冷静で透き通ったような声だ。
「・・・キミに、キミに会いに来たんだ。友達を探しているからね!」
「友達・・・?」
「そう、友達だよ。あ、僕の名前は嶋田 幸平、よろしくね!」
少し強引だったかなっと思い、後悔した。
そして案の定、女の子は一度首を傾げた後、目を細めてジッと僕を見ていた。
「・・・・苛めない?」
「いや、友達を苛めるわけないって」
「・・・・神楽、香坂 神楽。それが私の名前だよ」
香坂 神楽、その名前は村長である香坂家の長女の名前だ。
・・・・やっぱり、村長の孫だとかは関係ないのか・・・・・
それでも、僕だけはこの子の味方でありたいと、そう心に決めた。
だから僕は、彼女に手を伸ばす。
「・・・・僕は、どんな事があってもキミの友達でいるよ。約束する」
自然と口から出た言葉に全てを任せる。
すると神楽は、僕の手にゆっくりと自分の手を伸ばしてきた。
そして、約束は交わされる。
小さな手で交わされた、小さな約束が。
いつの間にか日は落ちていて、辺りは暗くなっていた。
そのため神楽には、また明日っと言って約束し、急いで家へと帰った。
僕の家は香坂家だ。
理由は、ずいぶん前にお父さんとお母さんを亡くしたため、親戚関係にあった香坂家に引き取られたからだ。
その日の夜。
僕は神楽の妹である神流に、神楽に会った事をこっそりと話した。
すると彼女は、驚いた表情をし、同時に小声で怒鳴った。
「どうして会ったの!?お婆ちゃんが会ったらダメだって言ってたじゃん!」
「会ってみたかった。そして味方に、友達になってあげたかった。そんな理由じゃダメかな?」
「・・・・・・・」
呆れたのか唖然としているのか、黙り込んだ神流に僕は、これ以上何も言えなかった。
ただ、俯いた神流が何かを呟くまでは。
「・・・・どうして、姉様だけ・・・・・」
「え?今、何て・・・?」
よく聞こえなかったその言葉。
それを聞き直すために言葉を出せたが、神流は黙り込んだためにまた無言の時間が続いた。
神楽と出会って、二週間くらいが過ぎた。
そろそろ夏も本番だなぁっと思いながら、眠気を吹き飛ばすために大きく背を伸ばす。
僕は、神楽から今日が誕生日だと昨日聞いたため、徹夜でプレゼントは何がいいか考えていた。
そのため、寝不足だ。
でも、何がいいかはわかった。
僕は手の中にある二つの完成したプレゼントを見て、思わず笑みを零した。
それは、頼りないように見えて意外と頑丈な紐を結んで輪にした腕輪だ。
そしてその結び目を隠すように、小さな銀の鈴が一つずつ付いていて
揺らすと、チリンッという可愛い音色を奏でた。
「・・・・・よし、完璧だ」
自分しか居ない自室でそう呟き、鈴を握り締める。
と、その時だ。
突然、大気を震わすほどの轟音が響いた。
その音は家を揺らし、開いていた窓から入り込んで僕の身体を震わす。
「い、今のは何だ!?」
外で何かあったんだと思うが、それが何かは検討がつかない。
だが一瞬、神楽の事が脳裏に浮かんだ。
この轟音の中、彼女は一人ぼっちなのに側にいてあげられる人が居ない。
・・・・・僕が居てあげなきゃ!
そう決心し、立ち上がって部屋を出た。
その瞬間、再度轟音が響いた。
それにより、家がさっきより大きく揺れ僕はフラついて廊下で転んだ。
音は近い。
それだけは分かる。
でも、今の僕には関係ない。
一刻も早く神楽の元へと向かわなくちゃいけないから。
思い、両腕を軸にして立ち上がる。
すると目の前には、心配そうな表情で僕を見ている神流の姿があった。
「・・・・どこに行くの?」
問いは、震えた声で掛けられる。
一瞬、返答に迷ったが、意外にもすぐに出た。
「・・・・・神楽の元へ、側に居てあげるために行くんだ」
冷静に答えた僕を見て、神流は目を見開き、驚いた。
そして、彼女の目からは、涙が滲み出す。
「どうして・・・・どうして・・・・・どうして姉様ばかり・・・・」
神流の目から流れる涙は大粒となり、次々と床に零れ落ちる。
「どうして私の事は見てくれないの!?私は姉様より長い間、幸平と一緒に過ごしているのに!」
神流の必死な声は、僕に向けられる。
でもそれでも、僕の思いは変われない・・・・
「・・・・・ごめん」
「ご・・・!ごめんじゃ済まないよ!わ、私は、こーへいと!こーへいと・・・・一緒に・・・・一緒に!」
肩が震えしゃくりあげるのを堪えながら、必死に訴えてくる神流。
僕はそんな彼女を見て胸を痛めつつも、彼女の願いを叶えてあげられそうにないなっと内心で呟く。
だからこそ・・・・・
「神流、よく聞いて。僕は、ずっと一人だった神楽の側に居たいんだ。彼女の唯一の理解者になってあげたい。だから今、僕は彼女の元に向かいたい。例え自分の命が危険な状態になっても」
言いながら、ゆっくりと神流に歩み寄り、満面の笑みを彼女に向ける。
「だから、ごめん。そして、ありがとう。僕の事を心配してくれて」
そう言うと、神流は目を見開いて僕の目を見た。
そしてその目は少しずつ細くなっていき、彼女の顔がくしゃくしゃになっていく。
その目からは、さっきより多い涙が流れていた。
その時ふと、一つの事を思いつく。
「そうだ、この音が止んで、これ以上何も起きなかったら、三人でーー」
刹那、僕の声を掻き消すような轟音が、今度は二回連続で響いた。
それに驚き、そしてバランスを崩して転んだ。
神流も同じように転ぶ。
すると神流は、思い切り僕を睨み付けて叫んだ。
「早く姉様の元に行って!このままじゃ、会えないまま終わっちゃうかもしれないから!!」
その言葉に強く頷き、神流が別れ際に見せた笑顔を目に焼き付け、走り出す。
愛おしい、神楽の元に・・・・
時々聞こえる轟音でふらつきながらも、村の中を駆け抜ける。
所々に見える光景は、ボロボロになり燃えている家や、半円の形にへこんだ地面だ。
そして山の向こうからは、花火のような音が無数に聞こえる。
「・・・・一体、何が起きて・・・・」
一人そう呟き、走る足を速める。
邪魔な葉を退かしつつ、神楽がいる場所を目指して全力で走る。
そして、最後の枝を退かすと、いつもの広い草原に出た。
その奥の祠には、神楽の姿があった。
まるで俺が来るのを待っていたかのように、立っていた。
それを見た僕は、彼女の元へと走る。
そしてたどり着いた時、彼女は驚きつつも嬉しそうに微笑んでいた。
「・・・・・来て、くれたんだね」
「うん、来たよ」
そう言うと、神楽は嬉しそうに笑い返してくれた。
「――あ、そうだ。神楽に渡したい物があるんだ」
「え?渡したい物?」
オウム返しに問い掛けてきた神楽に答えるように、僕はポケットから鈴のついた腕輪を取り出す。
「こんな物しか作れなかったけど・・・・いいよね?」
言うと神楽は、嬉しそうに笑顔を僕に向けてくれた。
「もちろんいいよ!嬉しいなぁ・・・・プレゼントなんて初めてだから!」
「ちなみに、僕もつけてるんだ」
言って自分の腕を挙げる。
そこには、神楽に渡したのと同じ腕輪が掛かっている。
「やった!お揃いだぁ!!」
それを見た神楽は、さっきよりも嬉しそうな表情を見せてくれた。
と、その時。
後ろの方、この草原の入口で草を掻き分ける音が聞こえた。
振り向くとそこには、鉄の帽子を被って緑色の服を着込んだ男が立っていた。
その男は、木で出来た杖のような物を構えており、それは真っ直ぐに僕達を狙っていた。
その瞬間、僕は自然と両手を広げた。
刹那、花火のような音と共に、腹痛が起きる。
まるであの杖から何かが出たように。
「・・・・こう、へい?」
後ろからは、神楽の声。
そして正面の男は、驚いた表情と共に知らない言葉を発していた。
「―――?―――!!」
男はそう言い残し、慌てて来た道を引き返して行った。
そしてその場に残ったのは、呆然としていると思われる神楽と、腹痛に耐えられずに倒れ込もうとする僕の二人だけだ。
だけど、地面に倒れると思っていた僕の身体は、神楽がとっさに受け止め、されど支えきれずにゆっくりと地面に落ちる。
そして神楽は、僕を半起こしにする。
そこから見える自分の腹部には、服を通して赤い血が滲み出していた。
腹部を押さえていた手も同じく、赤かった。
「こーへい!?大丈夫!?」
見上げれば、心配そうな表情をして涙ぐんでいる神楽の顔が吐息のかかるほどの位置にあった。
「・・・・・だ、大丈夫だ・・・よ・・・・・」
腹に上手く力が入らないため途切れる言葉をなんとか伝えるが、神楽の瞳から流れ始めた涙は止まらない。
「ダメだよ、声を出しちゃ!待ってね、今治すから!!」
言って神楽が僕の腹部に手をかざすと、小さな光が彼女の手と僕の腹部の間に宿った。
それでも血は止まる事なく、一向に流れ続けている。
「・・・・それは前にみせてくれた・・・・・ふしぎな力だね・・・・・でも、もうむりだよ・・・・」
「無理じゃないよ!絶対に、絶対に助けるから!!」
「・・・・一つ、約束をして・・・・そして神楽は、その約束を破らないように・・・・生きるんだ・・・・」
所々で咳き込みながらも、伝えたい事を言わなくちゃいけない。
・・・・まるで、別れの言葉みたいだな・・・・
「ダメ!ダメ!!そんなお別れのような事言わないで!!」
神楽が一言発する度に涙を流す瞳。
その目元にそっと血の付いていない左手を添え、ぬぐい取る。
「・・・・・ずっと、笑っていて・・・いつものように、元気な笑顔で・・・・」
自分はもう、笑顔を向けられないのに、身勝手だなぁ・・・・・
「・・・・・いやだよぉ、こーへいがいなくちゃ笑えるわけないじゃん!こーへいが居なくなったら、私はまた一人ぼっち・・・・」
「大丈夫・・・・いつも、そばにいるから・・・神楽を見守っているから・・・・
――あれ?目が・・霞んできた・・・」
最後まで神楽の顔を見ていたかったのにな・・・・・
「こーへい!?そ、それじゃあ私からも約束して欲しい事があるの!絶対に、いつかまた会おうね!?必ず、必ずだよ!?そしたらずっと一緒に居ようね!?」
約束する。
その言葉は出せなかった、出なかった。
でも、出したかった。
そのまま、意識が遠のいていく。
わすがに聞こえる神楽の声も、その度に揺れる腕の鈴の音も次第に聞こえなくなっていく・・・・・
そして全てが、閉ざされていく・・・・
――伝えきれなかった言葉は、次の僕に託そうーー
意識が一気に覚醒する。
そして、力一杯起き上がった時、俺は神楽の家、昨日借りた一室に居た。
さっきまでのアレは夢だったようだが、今でも鮮明に覚えている。
・・・・・不思議な感じだ。
まるで、誰かの記憶を、思いを託されたかのようだ。
嶋田 幸平という、俺と同じ幸平の名を持つ少年の、神楽に伝えたかった思いを。
「・・・よし、やるか」
自分にやる気を出させるためにそう呟き立ち上がって部屋を出る。
神楽を探すために家中を探したが、神楽どころか村長の姿も見えない。
そのため、家の外に出てみるが、誰一人居なかった。
ちなみに、家を出る際に時計を見て来たが、時刻は午後十三時。
つまりは、村人の一人は外に出ていてもおかしくないのだ。
だがその静けさは、元よりあった気がして・・・・・
「・・・・神楽は・・・・あの場所、か」
呟き、真っ直ぐに森を目指して走り出す。
やっぱり居た、と呟いた俺が居た。
いつもの草原の奥にある祠の前には、一人の少女が立っている。
その姿は嶋田 幸平が初めて会った時と同じ巫女服だ。
白を強調したその服は、されどいつの間にか空に掛かった雲によって、あの時の神秘さは出していない。
時たま吹く風で長い髪を揺らしている彼女は、俺が近くに寄るのを待っているかのようにピクリとも動かない。
だから俺は、それに答えるように近付く。
そして、距離が縮まった時、彼女は細目から涙を流した。
それを見た時、彼女は神楽じゃないとわかった。
彼女は・・・・・
「・・・・神流、だな?」
問いに、神流は驚いた表情をし、すぐに俺を睨み付けた。
「・・・・何で、私を神楽と呼ばないの?幸平は、姉様しか見てないのに・・・・!」
言いながら流れているのは、あの時と同じ涙なのだろうか。
思いながら俺は、無言で神流に近付く。
そして、彼女を抱き寄せた。
「・・・・・!」
「・・・・俺は、神流も見ていた。だから、最後に言えなかった言葉を今、言う」
思い出す。
あの時の嶋田 幸平が言おうとしていた言葉を。
そして、俺なりに直して。
「音は止んだ。これでまたいつも通りだ。・・・・・だから、今度は三人で遊ぼう。俺と神楽と神流、この三人でだ」
その言葉に神流は、俺の胸元に顔を押し付けて、何回も頷いた。
そのため、俺は彼女の頭を優しく撫でる。
「・・・・・ありがとう」
「あぁ・・・・」
たった一言の会話の後、神流は眠った。
ゆっくりと、身体から力が無くなっていき、俺に寄りかかる。
そんな彼女を俺は、起こさないように草原の上に座り、起きるまで彼女に膝枕をしてあげる事にした。
空に掛かっていた雲が無くなり、日が射し込む。
その光は、草原に反射し、いつもの綺麗な光景を見せてくれた。
すると、俺の膝の上に頭を置いて寝ていた神楽が目を覚ました。
「・・・・こーへい?」
小さな声で問い掛けてきた神楽に、笑顔を向け答える。
「あぁ、俺だよ」
吐息を一つし、
「また会おうねって、そして会ったらずっと一緒に居ようって約束を思い出したからな。急いで来た」
言うと神楽は驚き、次の瞬間には満面の笑みを作った。
「そっか、思い出してくれたんだ・・・・・神流は?」
「眠ったよ。幸せそうにな」
それを聞き、神楽は安堵したように吐息を一つした。
「・・・・・全部ね、全部夢だったんだよ・・・・さっきまでのこの島は」
夢。
それはたぶん、村人が一人も居ない理由なのだろう。
「・・・・お前の夢だったのか?」
問いに神楽は頷き、俺の目を真っ直ぐ見た。
「私が、こーへいとまた一緒に居たかったから、昔村の人達が穢れって言っていた力を使った」
でもっと言った神楽の表情は雲り出した。
「そのせいでこーへいが大怪我しちゃった・・・・だから、もう終わりにしなきゃ・・・・」
「そんなの、気にす――っ!?お前っ!」
神楽の異変に気付いてそれを知った時、驚いた。
彼女が片手で押さえている腹部は服を通して赤く染まっていたのだ。
「あはは、あの時と・・・・逆だね・・・・」
「この傷はいつ出来たんだ!?」
「神流がこーへいにさせた傷を、私が受け取ったんだ・・・・・だって、ここは私の夢の中だからね・・・・・簡単だったよ・・・・」
言ってる間にも、神楽の息は荒くなっていき、腹部の血は服を赤く染め続けていた。
「この夢の中じゃあ幸平に迷惑ばっかりかけちゃったから・・・・ね」
「馬鹿か、迷惑なんて一つも思ってない!逆に、お前のおかげで決心がついた事があったんだから、感謝しているんだ!」
感情を込めて、力強く訴え掛ける。
すると神楽は目を弓のようにして笑顔になった。
「よかった・・・・それじゃあもう、未練っていう物は残らないね・・・・」
「ま、待て、死ぬな!約束しただろ!?ずっと一緒に居るって!」
「大丈夫・・・・・私はずっと側にいるから、見てるから・・・・心配しないで・・・・」
あ、でもっと言って言葉を続ける。
「最後に一つあるから、耳を近付けて・・・・」
その頼みに俺は頷き神楽の口元に耳を近付ける。
すると突然、頬に柔らかい感触。
驚きながらも視線を移すと、神楽の唇が頬に当たっていた。
その後、神楽は顔を話して照れくさそうに、えへへっと笑った。
「隙あり、だね・・・・」
「ば、馬鹿かって・・・・」
神楽の笑みに答えるように、俺も笑みを作る。
たぶん、彼女から見れば、不器用な笑みになっているだろう。
「あ、あれ?目が霞んできた・・・・本当、あの時のこーへいみたい・・・・・私もう、死ぬんだね・・・・・」
「お、おい・・・・・死ぬな、死ぬなよ!?まだお前は生きているべきなんだから!神楽!!」
「これから・・・・・本当の夢を見続ける事になるんだね・・・・・」
ゆっくりと、神楽の息は弱々しくなっていく。
「お休み・・・・・幸平・・・・・」
「神楽!・・・・・かぐ・・・ら・・・・・?神楽?」
目を瞑った神楽を見て、俺は何度も身体を揺すった。
だが彼女は目を開けない。
一言も話さない。
「神楽!?神楽!!起きろ神楽!!神楽ぁぁぁぁ!!!」
森中に響き渡る俺の声。
目からは涙があふれ、喉からはかれるほどの大声が出続ける。
対する神楽は、事切れたかのように腹部を押さえていた手を地面に落とし、眠っているような微笑ましい表情を俺に向けている。
それを見てもなお、俺は声を出し続けた。
全てが涸れるまで・・・・・
目が覚める。
気がつくと俺は、居酒屋のカウンターに突っ伏して寝ていたようだ。
「・・・・・寝ていたのか・・・・・」
そう呟きながら、目の前にあるコースターの上に置かれたグラスを手にとって酒を口に流し込む。
入っていた氷はすでに溶けており、ぬるくなっていた。
酒を飲み干した後、ため息をつき、虚空を見た。
「・・・・・またあの夢・・・・・」
思えばあれから、五ヶ月が過ぎた。
俺は全てがかれはてた後、決心をつけて神楽の亡骸を祠の近くに埋め、海を渡る手段を探しに海岸沿いを歩き続けていた。
そしてしばらくすると、俺が乗っていた船が漂着していたのだ。
そのため、すぐに海へと押し戻して日本に帰る事にした。
その後、すぐさま図書館に行き、神護島について調べた。
――神護島。
それは、見えはするが、近寄ろうとしても一向に近寄れず、誰も上陸する事ができず、まるで神に護られているような島のため、神護島と名付けなれたそうだ。
だが、地図には載せていないため、場所を知っている者は自然と減っていった。
そんな中、神護に関連した項目が一つだけあった。
それは一九四五年、第二次世界大戦中の事だ。
アメリカ軍の軍艦数隻が日本に向けて進行中、地図に無い島が見えるという通信があった後、行方不明になった、との事だ。
これはたぶん、嶋田 幸平の記憶にあった銃を持ったヤツらの事を示しているのだろう。
つまりは、あの夢の世界は、嶋田 幸平の記憶は約七十年前の出来事だったと言う事だ。
だが、それから現在に至っても、度々目撃情報は密かにあるらしい。
ちなみに、何があったのかは、嶋田 幸平の記憶であってもわからないままだ。
・・・・まぁ、不思議な体験をしたのには変わりがない、か。
それに、後悔も少し残っている・・・・・
そして、俺はあの体験を、嶋田 幸平の記憶を含めた物語として本にしようと思い、そして今は原稿を書き終えたため、一息つけるために居酒屋で酒を飲んでいると、そんな所だ。
タイトルは・・・・・まだ決めていない。
何にすればいいか迷っている。
と、その時だ。
目の前に置かれていた空のグラスに酒が突然注がれた。
見ると初老の店主がにこやかな笑みを俺に向けながら、傾けていたさけびんの口をフタで閉じた。
「はいよ、未来の有名人に俺からの奢りだ」
「有名人って・・・・・まだプロになれるかもわからないってのに悪いよ」
苦笑しながら言う俺に向かって店主は、ガハハハッと豪快に笑った。
「スカウト来てたほどの男なんだ、プロ野球の試験なんて簡単に通るさ!
もうすぐ合格の知らせが来て、六月が永遠と思えるほどの練習がお前さんを待っているんだよう!!」
「それはそれで嫌だな・・・・」
はははっと乾いた笑い声を出しながら、店主の言葉を頭の中でリピートする。
・・・・・・決まった。
「決まったぁ!!」
叫びながら俺は、思い切り立ち上がった。
「な、何だ!?もう合格が決まってたのか!?」
驚きながらも問い掛けてくる店主を無視して、俺は椅子の横に置いてあるバッグから原稿用紙を取り出す。
その時、バッグにつけられている鈴がチリンッと鳴った。
それを聞いて、ふと手を止める。
視線の先にあるのは、あの後祠の中で見つけた、プレゼントの鈴だ。
持ってきてよかったのか、と迷いはしたが、神楽と神流が近くに居る気がしたため、俺の生き様を見せるために持ってきた。
理由が不器用だなっと、今更ながらに思い、動きを再開する。
取り出した原稿をカウンターの上に置き、ボールペンをポケットから出してタイトルを書き込む。
――永遠の六月、と。
あの六月のような暑さの島で永遠のようにに続いた物語を思い浮かべながら、ネーミングセンスの無い俺が考えた、タイトルだ。
それを書いた瞬間、頭の中にある光景が思い浮かんだ。
神楽と神流が俺を中心にして笑顔を向けている光景を。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
ども、作者のIzumoです
今回の作品は、二作同時連載をしてしる中で、無茶をして書いていた物で
いつもの空の五話あたりの後書きで書くと言っていた物です。
とは言っても、1話目で霧島家の両親の名前がわかるだけでそれ以外は完全に独立しているんですけどね(笑)
と、まぁ制作秘話みたいな感じでお話させていただきました。
それでは、これからも二作同時連載と短めの他作を書くのを続けていきますので、どうか暖かく見守っていただければ幸いです。
では、長々と失礼しましたー




