3章15話 フウの話です
気分が乗れば書き足しします。
後、久しぶりのシリアスです(多分)。
「まず私がこの街にいる理由はいくつかあります。魔力暴走っていう言葉はご存じですか?」
【魔力溜りに長時間触れ続けたことによるMP枯渇症、もしくは精神不安定化のことをさしますね。一概にはこれだけのことを指す訳ではありませんが話の流れで言えばメインはそこでしょう】
フウの言葉に首を縦に振ってからイフに感謝する。なるほど、これが前に感じていた魔力密度の問題か。確かにコップから溢れた水は机の上なら濡れるだけで済むけど、それが精密機械の上ならどうなるか。多少の故障では済まされないよね……。
下手をすればあの時にいち早く恐怖を感じていたイアは危うい状況だったのかもしれない。後で謝っておこう……。
「私が教えられた情報としてはそれに関することなのですが……さすがに国家機密に関係する可能性があるので詳しい話は」
「魔力溜りが関係しているの?」
僕の発言にフウが驚いた顔をしたまま固まる。
そりゃあ、そうだよね。魔力溜りに関しては知っている人なんて少ない。さっきの聞き方なら魔力暴走は普通の人でも症状は知っている人が多くても、その元となる原因には一切触れられていないからね。そこが機密情報として扱われてもおかしくない。
「……その通りです」
苦々しく、それでいてどこか諦めたような表情で僕の方を見つめてくる。
「不思議な人ですね。情報戦を操る私ですら勝てる気がしませんよ?」
それはチートのおかげです。
我がチート、イフ=シモン・ラプラスの力でな! ……すいませんでした! なんとなくイフから嫌な気配がしていたから早めに謝るが吉だ。
「教えないよ?」
「……笑顔で言うことじゃないですよ。まぁ、聞く気もないですし。冒険者の中で相手が聞かれたくないことを聞き出すのはご法度ですから。それに」
「それに?」
「なんとなく想像はつきますし聞かずともと言ったところですかね」
「そう」
とりあえずは過干渉はしてこない。
そこだけ分かれば十分だ。別に僕の能力を話しても、いくつもあるチートスキルの一つでしかないから誤差だけど……念には念を入れないとね。どこで何を聞かれているか分からないし。
一応、フウが差別主義者の可能性も少なくない。吸血鬼であることがバレれば嫌われる可能性だってあるからね。それだけで済むのなら楽だけど……。
「……それなら話したところで差はなさそうですね。ちなみにどこまで掴んでいますか?」
掴んでいますか、っていうことはそのままの意味ではないよな。例えば魔力溜りが普通の出来方ではないとか……他には……。
「人為的なこととかかな?」
「その通りです。……ああ、今はおやっさんが結界を張っているので周りは気にしなくてもいいですよ」
僕が話しやすいように説明をしてくれた。
フウからしても大切な話をするかもしれないのだから、それくらいの配慮はしなくちゃいけないよね。忘れそうになるけど目の前にいるのは格上のSSランク冒険者だ。多少の表情の変化で心まで読まれてしまう。
「……そこも情報戦の一つかな?」
「とぼけなくてもいいんですよ?」
笑いかけてくるフウに気持ちが揺らぐが少なくとも僕は気を引き締めた。ミッチェル以外にイフを経由して何も言わないようにさせ、ミッチェルには口元に指を当てる。
フウ相手ならあからさまな方がいい。
「なるほど……まぁ、いいですよー。そういうことには慣れていますし。それに仲間は多い方が良さそうですから!」
「……普段通りにしないでよ。ビックリするじゃないか」
「まあまあ、それで私のしたい話はハーべ教の謀反者集団、プロトの話です。そもそもの話、ハーべ教の教えに準ずるガットと敵対する組織ですが……このプロトが王国内で魔力溜りを生成している話があるんです」
「プロトとガット……」
「はい!」
プロトとガットか……。
分かりやすく言うのならキリスト教の宗教改革であったプロテスタントとカトリックみたいなことかな。宗教改革とは少し違うかもしれないけど名前的にそこら辺が近そうだ。
【その通りですね。少し付け加えるのならプロトには改革を、ガットには安寧を意味する言葉としてハーべ教では教えられています】
僕達のいた地球と近い言葉があるのか。
一概に英語だから通じないとかではないみたいだね。それとどこの世界でも宗教による争いはあるのか。一つの考えからいくつもの考えが生まれる。……なんとなく難しい話だなぁ。
「それでプロトがどうしたの?」
「プロトは元々、ハーべ教本来の凶暴性を軸に活動しています。ガットのように利益を生まない相手には攻撃しないなどの、そのような合理的な考えはなく、ただただ豊穣と安寧、秩序を求めて大量虐殺をします」
それって……遠回しにハーべ教は頭がおかしいってことじゃないか。邪神崇拝とかではなく普通の神様でさえ、そんな教えが広まっていくのか……。どこの世界もサイコパスはいるんだな……。
プロトは神への生贄のために人を殺して、ガットは神を崇める国家を強くさせるために人を殺す。どこに違いがあるんだろうか。選民思想の欠片が垣間見える。
【選民思想というよりもハーべという一つの神が全知全能を司り、その人を信仰し続ければ情愛と来るべき世界滅亡の際に助けてもらえるという考えが……まぁ、選民思想と変わりませんね!】
あーあ、ついにイフが投げ出しちゃったよ。
まぁ、人の信仰にあーだこーだ言う気は無いけどさ、せめて他人に迷惑はかけるなよってだけ思うな。
実際はハーべは豊穣を司るんでしょ?
【過去に加護を受けた者は神託によって、人を殺すことで血を取り、それを畑に撒くことを命令していました。この時に多数の人が死にハーべは神界では能力の大半を奪われています。今は豊穣、それも繁殖や栄養を与えることのみを能力として渡されていますが】
それ以上のことをやってのけていると。
魔力溜りも普通は出来ないことだしイフでも察知出来なかった。……いや、まずイフってなんなんだ? なんで神界のことを知っているんだ?
【……分かりません。本当に分からないんです! スキルとして生まれた時から覚えていたこととマスターに聞かれることで得た知識、どれも私が知っている物とは言いきれません】
別に必死にならなくていいよ。
僕はイフがいてくれたからここまで頑張れたし、その能力のおかげで助かった場面も多い。良いように扱って捨てるなんてしないし、何よりもイフは……僕のスキルだろ。僕と一心同体のイフを捨てるなんて現実的にも、僕の気持ちを加味しても出来っこないよ。
イフの小さな【ありがとうございます】の声に気持ちを引き締める。誰がなんと言おうと僕を最初に理解してくれた、助けてくれた存在を簡単に捨てられるほど、人間やめてはいない。
「そこはよく分かっているよ。それで何を話ししたいの?」
イフよりも少ない情報を並べていたフウに先を促し結論を急ぐ。どうもフウは隠している部分が多すぎる。この様子だとまるで王国が危うい状況だと言っているようではないか。
「調べていくうちに二つのことが分かりました。プロトとガット、両者がこの街にいるということです」
それはつまり対立する派閥の二つがこの街で戦ってもおかしくはないということか。それは……まずいな。王国の人はどうであれ、セイラへの被害を考えれば対立することは間違いがない。
「それは……怖いね……」
「はい、それに誰がプロトやガットなのかも見当がつきません。何より……ガットの幹部である十二神獣を司る者達には注意が必要です」
なるほど、十二神獣を司る、か。
十二神獣とかガットの幹部達はどういう人なのか分かる?
【十二神獣は干支の獣達から作られたハーべの配下です。特有の能力を持ち干支から神へと神化させて貰えた恩から、絶対的な忠誠心を持っています。幹部の能力はすみませんが分かりません】
分かった、そこの前提が分かっただけありがたいよ。となれば、プロトとガットの両者との接触も考えないとな。魔法国で起きた魔力溜りもプロトの仕業と見て間違いないでしょ。
それに加護持ちという情報と神の配下っていうだけで絶対に弱くはないことは分かる。下手をしたら僕の持つチートよりもチートなスキルで戦ってくるのかもしれない。……こんな時にコンテニュー機能を欲しがる僕は最低だね。今は少しだけ死ぬのが怖いや。
あの頃には死への恐怖なんて感じたことがなかったのに。早く死ねばいいのにって、ずっと思っていたのに……。
「……どこまでは分かっているの?」
「冒険者ギルドに内通者がいること、そして……街にプロト複数名とガットの幹部が暗躍していることです」
嘘は……なさそうだね……。
あー、もう、休みや旅行に近い気持ちで護衛をひきうけたのにさ、ここまで面倒なことになるなんて……。まぁ、知らなかったら余計に厳しい状況になっていたし、今回の話は聞けてよかったということにしよう。
この情報は明らかに大切だよね。
まず内通者……いや、なんでフウがそんなことを知っているんだ? ランクが高い冒険者といえども簡単に情報は得られないよね。
「……それで、目的は?」
「プロトの目的は魔力溜りを多くして人の死を広がらせることで」
「そうじゃなくてフウの目的が分からないよ? どうしてそこまでする? それにおやっさんという人のこともよく分からない」
僕の質問に対してフウは固く口を閉ざした。
とりあえず書けたので投稿しました。もう少しだけフウとおやっさん、そしてハーべ教の確執を書いていこうと思います。ちなみに後で書くと思いますがハーべ教=転職をしてくれる教会の人達ではありません。
後、3章はセイラメインです(多分)




