3章12話 似たようなものです
少し納得がいかないので後で書き直しをすると思います。その時は報告させていただきますね。
次の日、朝食を終えた頃に宿から出る。今日は昨日のうちにギルドからお呼びがかかっていたとミッチェルから言われていたので、セイラはミドとジル、シロ、そして最悪のことを考えて幻影騎士に残ってもらっていた。
全員の話を聞いたけど冒険者ギルド自体が僕達の正当性はないという見解のようだし、下手にセイラを連れて行ったり、シロ一人で強い敵を任せ切るのは怖いと考えた。だっていくら強い人がいてもわずかな隙でセイラにまで行く可能性もある。最低限の行動だけでは駄目だ。
「だから! どうして話を聞かないのですか!」
冒険者ギルドの前に行くと大きな声が聞こえてきた。外まで聞こえるほどの大きなもので下手をすればそれだけで弱い者は恐れてしまいそうなレベルだ。
「そのような話に信憑性がないからだ。それに話の通り強いのであれば依頼の対決もすればいいじゃないか。出来ないと言うのであればその程度なのだろう?」
知らない男の声だな。
だけど僕に対して言っているのは分かるし自分の見解を勝手に話しているだけ。しっかりと話を聞いたのかな。やられて負けて、それなら依頼対決だ、なんてお人好しでもやらないでしょうに。
「……酷い言い草ですね」
「まぁ、あの冒険者いて仲間ありなんだろうね。もしくはギルドマスターとかかな」
ミッチェルの言葉に小声で返す。
外は未だに朝っぱらの喧騒が響いていて、それに負けないくらいにギルドもうるさい。だけど僕のフォローをしてくれている人よりは相手側におかしな点がいくつもあるし、なによりフォローをしてくれている人が誰か分かっているだけ腹立たしい。
「第一、そんなたかだか街の娘一人の証言で勇者様を切れるわけがないだろう」
僕は無意識のうちに扉をぶち開けていた。
とは言っても壊れない程度に思いっきり開けただけだ。冒険者に関係しているのであれば相手がどんな人かは分かっているとか思っていたんだけどなぁ。
「……いきなりの登場とは。誰ですか? 今、大切な話をしているという」
「あっ、ギドさん!」
やっぱりフウだった。確かにどうでもいいんだけどさ、せめて話していた男の人の話は全部終わってから喋ろうよ。
フウの前にいるのは……ギルドマスターか。一番上の人がこれだと王国の旅は幸先不安だなぁ。見た目は少しシワが目立つ黒スーツに中年程度の顔。でもステータスは上に立つだけあって高めだね。エス以下だから心配する必要性もないけど。
「苦労していたみたいだね」
「本当にですよ! こいつ何言っても変なことしか言わないんですから!」
「なっ、ギルドマスターになんという」
「確かにねぇ。こんなやつ本当に上に立つ資格はないよね」
「貴様! そこになお」
「本当です! 私のことも知らないみたいですし!」
僕も知らなかったけどね。
存在自体は鑑定でやっと理解したくらいだしカラクリもよく分からない。ただ僕の名前と、いや、名前だけならセイラとの話で聞いたと思えるけどさ、フウは僕の得意な魔法は水魔法だと当てた。実際は上位の氷魔法だけど同等に水魔法も得意だ。僕も素性を探るよね。
プロテクトがかかっていたみたいだけどイフの手にかかれば楽々だったし。本来のステータスを見たら称号とかから誰かはよく理解出来たし。
【さすがとは思いましたけどね。ですが私の力にかかれば難しくはありませんでした】
心強いことで。
ここぞという時にとてつもない仕事をしてくれるからありがたい。駄目になっちゃうよ? 僕、仕事も何も出来なくなるよ?
【皆で】
あー、養うとかはなしで。
出来る限りは僕も失敗はしても頑張りますから。
【チッ!】
舌打ち!? やめて! 怖い!
「それで今、来たということは外で話でも聞いていたってことですよね! 私はしっかりと話をしましたよ!」
「それは私も同伴で聞いていました」
昨日、フェンリルの三人とミッチェルはここに来ていたみたいだし疑うことはしない。それにフウがそんな嘘をつくわけがないよね。もっと言うのならそれならこんなに大事にはなっていないし。
「信じているよ。ごめんね、こんなことになってしまって」
「いえ! この街に膿があるということが分かっただけでも僥倖です! 嘘つきもいたので情報としては十分ですね!」
「おい! 膿とは!」
「黙っていてください」
そこまできて怒りに震えたのかギルドマスターが怒りの形相をしながら僕の方に向かってきた。僕は何もしない。皆にも何もしないように昨日から言ってある。
「調子に乗るなよ! たかだかBランクごときが! 俺はこう見えても元Aランクなんだよ! 上の人は敬え! たかだか女ごとき差し出せない野郎が!」
胸ぐらを掴まれて胸糞悪いことを吐き出してきた。……我慢だ我慢。ここは我慢して言いたいことを言わせておこう。イフ、録音を頼む。
【任せてください】
これでやることはやっている。
さて、これでこのギルドマスターは後戻りが出来なくなったね。名前は……エイか。エスといいこの人と言い、王国の人達はランクがその人の名前にでもなるのかな?
「大切な人を奪われないようにするのは普通です。それに僕とこの人達は仲間だし、フウの店にいた人は護衛対象です。勝手に変なことをしようとすれば守るのは当然では?」
「ランクが上ならば敬う! それが冒険者だ! 俺はそんなことを何度もして我慢し続けてきた! これだから若いやつは……」
「らしいけどフウ、こんなこと冒険者の規約にあるのかな?」
「ないです! あったら普通は犯罪ごとですから!」
「店員ごときに何が分かる!」
僕はそっと頭を押さえた。
本当にフウのことを知らなかったなんて。いや、知れ渡っている名前は偽名だから仕方ないけどさ、それでもここまで僕が立てているんだからおかしいとは思うでしょ。エイの話も思いっきりブーメランになるし。
僕が頭を押さえた頃にフウからため息が聞こえた。そこで僕の胸ぐらを掴む腕が弾かれてエイが吹き飛ぶ。
「店員ごときで申し訳ありませんね」
僕達は驚かないが横でガヤを入れていた冒険者達が静まり返る。まぁ、言わなかっただけでフウを「良い女だ」とか言って言っちゃいけないこととかたくさん言っていたしね。
「きっ、貴様! 俺を吹き飛ばすなんて」
「いや、もう言い訳出来ないよ」
「そうですね。……ゴホン、私はフウ、もといイチという名前で活動させていただいています。これならば知っている方もいるのではないでしょうか」
静まり返る室内に小さな悲鳴が聞こえる。
役職を知っていれば僕も驚いていたかもね。王国でさえも名前を聞く時はあったし。イチは冒険者としては上位に立つ存在だし、なにより僕のような異世界の人には馴染み深い職業を持っている。
「クノイチのイチ。一応はSSランクの冒険者ですが……さて、上位の冒険者には敬意を払わなければいけないのですよね。今までの話していたことはどうするつもりでしょうか」
ニッコリと微笑んでいる。
何も含んではいないと思うんだけど、いかんせん状況的に怒気や威圧を笑顔の中に仕込んでいそうで少し怖い。僕達には何もないけど今までおかしな発言をしていたエイは顔を強ばらせているし。
「……だが、私はギルドマスターで」
「それならば私は本部で活躍する存在ですが。まだそのような言い訳が通用すると思いますか?」
あれ? なんか怖くなってきたぞ?
会った時みたいな笑顔で大きなハキハキとした声じゃなくて、どこか諭すようで心の内を言葉に隠している、そんな影の攻撃をしたているように見えるぞ。
案の定、エイは何も言えなくなっているし。
「最初もそうでしたよね。エスでしたっけ。その人を運んだ時も私が絡まれた時に助けもせず、また気絶させたのは私だと言った挙句に、次はギドさんを殺すと勢いよく叫んでいましたから。さて、今はどのようなお気持ちですか?」
日本だったらどれだけの罪が並ぶのだろう。
まず会社だったらパワハラと恐喝は免れないよね。そしておかしな裁定……これは社長の息子だからと優遇させて調子に乗らせたのと同じ感じかな。割とゴロゴロ罪は出てきそうだなぁ。
「今日もエスを出さない理由はなんでしょうか。気絶程度であれば出すことくらいは可能なはずです。話を聞かせてもらいましょうか。今度は私の立場も踏まえて」
フウがより良い笑顔をした。
ぶっちゃけ、どうしてここの街の店員に紛れていたのかはよく分からないけど、フウがイフの探知内に入らなかった理由は分かっている。プロテクトがかかっていたからそれのせいで偽造されたステータスで強い人としてフウが出なかったんだ。
フウと戦えば十中八九、負けるだろうね。最近は使っていない呪魔法と時間稼ぎに奔走すれば……数パーセントは勝ち筋が見つかるかな? あいにくとステータス差が激しくて勝てる見込みがなさすぎるよ。
「……すまないがエスは今日は表に出せない」
「それはなぜでしょうか。第三者の貴方がしゃしゃり出てきて、当人の、それも加害者が出てこない理由が分かりません。なんなら私が連れてきましょうか?」
「それはやめてくれ!」
この街の冒険者ギルドがエスに頼り切っていた代償か、エスより強い存在が出てきてしまった現在、僕もフウも止められる人はいない。ステータスで言えば僕すら倒せない人達だからね。
それにしてもフウは探知能力にも長けているのかぁ。そうだよね、クノイチとか忍者系の人達って情報戦術に長けていそうだし。僕のステータスもモロバレかな? 多分、イフの力や加護の力で見ることは出来ないと思うけど……。
その後もエイの見苦しい言い訳が続いたが、そんな時にギルドの扉が強く開かれた。まだ壊れるほどではないけど、それをした当人はとてもボロボロで鎧すら刻まれて原型をとどめていない。その当人が僕の知らない人だったら全然、話を聞きに行ったけど。
「エス!」
正直、ざまーみれって思ったね。
だけどエスの着ていた防具はランクに沿った弱くはないものだ。ブラッドウルフの毛皮から作られていたから防御力に説得力はあまりなさそうだけどね。それでもBランクくらいなら簡単に攻撃を逸らしてくれる。それを破壊したのだから攻撃力も相当だなぁ。
エイが入口で倒れ込んだエスを抱えてギャーギャー騒ぐだけで報告も何も聞こえない。かろうじて聞こえたのは「例の魔物が」とか、その程度だ。耳を澄ますと風魔法で切り刻まれて姿は見ていないことは聞こえた。
さて、帰りますか。
嫌な予感がプンプンするからね。白羽の矢が立ったら嫌だしコイツらを助けたいとは思えない。勝手にどうぞ、みたいな気分だ。いいだけ悪口を言ったのだからこれくらいの対処は出来るでしょ。
「フウ、帰ろうか」
「そうですね! 何か嫌な予感がしますし!」
フウの話し方は元通りになっていた。
よかった、フウに聞きたいこともあったから機嫌が悪くなくて。僕に怒られてもとんだ見当違いだから怒る理由もないんだけどね。フウが常識人でよかった。
「なっ! 助けてはくれないのか!?」
うるさいエイは無視してギルドを出た。
僕に頼むのはおかしいですって。さすがに命は惜しいし敵の戦力も分からないのに動くわけがないでしょ。それにあのギルドマスターのことだから倒した功績はエスと分配しそうだし。
次いでに軽い呪を二人にかけてギルドを出た。えっ? どんな呪かって? 前に作った薬と似たような効果ですよ? 呪の文だけ追加効果があって……言うのも恐ろしい効果だけどね。せいぜい苦しみなさい。
次回は多分、フウの立場とかを書くかな、なんて思っています。伸ばしていても面白くないのでパパっと書いていきたいですね。後、用事はだいたい終わったのですが、モチベーションが上がらないので少しインターバルが空くと思います。一週間に一回は出すのでゆっくりと待っていて貰えるとありがたいです。




