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3章11話 愛しているの響きだけで、です

もう一話だけ書けていたので投稿します。

「割と狭いのね」


 僕の部屋に入って一番最初の感想がそれですかい。まぁ、セイラの知っている部屋とは全然違うだろうね。少なくとも棺桶とか瓶とかは並んでいなかったし。


「……こんなに荒れちゃって……」

「いや! お酒は飲んでいるわけじゃないからね! ポーション作成の時に色々と工夫していて買っただけだから! ……味見はしたけどさ」


 僕の歳になればこの世界では飲酒はしていいからね。何もおかしなことは無いけど大酒飲みだとは思われたくないなぁ。全然、日本にいた頃に比べれば荒れているとは程遠い生活だし。


 そういえば一度だけ夜に飲んでみたけど僕以外起きていなかったな。異世界の人達って案外、アルコールに弱いのかな。たかだか二十度くらいのを水割りにして飲んでいたのにさ。あっ、さすがにロイスは飲んでいないよ。後、アミとかも。


「それでこれ。ちょっと飲んでみなよ」

「これ? 少し色がおかしいかしら。それにドロドロした感じではないわ」


 ポーションを傾けてセイラは不思議そうな顔をする。中のポーションが傾けばススっと簡単に下側へと落ち色は白に近い。普通のポーションは緑色が基本でドロドロで美味しくないのが基本だね。僕も初めての時は驚いたなぁ。


「ささっ、どうぞ一口」

「えっ、ええ。……ん、甘くて美味しいかしら。……下に残る風味も悪いものじゃなくて……レモンみたいな風味なのに酸味は気にならなくて……」


 味はコーラにしてみました。

 だけど炭酸はさすがになかったから炭酸の抜けたコーラだけど、まぁ、セイラが言った通りくどくならないようにレモンでスッキリとした感じにして。結構、苦労したなぁ。


 大量生産って感じではないけど割と好評で商人ギルドからは多く欲しいって言われているね。原価は通常ポーションに食材を混ぜ合わせた感じだから格段と高いわけではないし。それなのに売る時は通常ポーションの五倍以上。これも一度作れれば食材があるだけで作れるから見せて困るものではないしね。


【でも、お高いんでしょう……?】


 今なら金貨一枚! 聞くなら高いと思うでしょうが店舗で買えばこの二倍はかかります! そして今なら通常ポーションが六本おまけ!


【わぁ、お安いですね!】


 と、まぁ、こんな感じで……いや、こんな感じではないけど薬師ギルドとの差別化も出来てきている。なんなら仕入れの時に薬師ギルドではなくて僕に来ることも多いし。ギドっていうのが一つのブランドになりかけている。


 働かなくても稼げるのは時間の問題かなぁ。

 そんなことを考えていたけど店を持っている訳でもないし無理か。作るにしても労力が尋常じゃないから常人じゃ作れないし。


「それ僕のお手製だから」


 これ以上までにないほどの笑顔でセイラに告げる。

 でも、驚いた様子もなさそうだね。出来て当然みたいな顔で頬を赤くしていらぁ。ああ、可愛いって罪ですね!


「……私の手助けもいらなかったみたいね。家も時間の問題だったかしら?」

「なんでそんなに自虐的なのかなぁ。手助けがなかったら地位が確立するまでに時間がかかっただろうし、有名になりたくないっていう僕の意見はギルドで通じなかったと思うよ。現に僕の手柄はフェンリルとかに渡しているから僕のことを舐めている新人も多いし」


 僕達が来た時よりも女冒険者は多くなったね。それは鉄の処女とフェンリルの二大看板があったからでその二つのパーティに憧れている人も多い。幻影騎士も何気に女性ファンや若くて強い姿に触発された男達も多いし。


 じゃあ、その憧れのパーティが媚びへつらう存在が現れたらどう思うか。僕はランクは高くても名前は売れていないからね。全然知らない、とはいっても僕に喧嘩を売った人達の末路を見た人達は知っているけどさ、それ以外の人達だったら、そう、例えば新人ならどうなるか。


 結果は『僕達の憧れが媚びへつらうんだ。すごい人達に違いない!』なんてラノベ展開にはならない。『僕達の憧れの弱みを握っている』や『上から目線の貴族の子供だろう』ってなる。現に僕も若いからね。そう考えられてしまうのも仕方ない。


 そうして何も言わずに僕に殴りかかってくるパーティも少なくないわけで……ほとんどがミッチェルに返り討ちにされて、男ならシロのタマヒュンの刑が待っている。僕でも怖かった。玉の横を思いっきり踏み抜かれるんだよ? 怖くて漏れても仕方ないと思うんだ!


 今でこそ慣れてしまったけど最初の時はアキが大激怒して、アイリが本気で構え始めて、アミが魔法の詠唱を始めた時にはビビったよ。「私の英雄を殺そうとしたんです! 止めなかった人も! 手をかけようとした人も殺して! 無かったことにします!」とか大声で言い始めた時には僕も本気で止めたよ。全然冗談には聞こえなかった。なんなら、その時にはアイリは先に走り始めてアミの魔法も飛んでいたからね。魔法はミッチェルの結界で、アイリは僕の手で止めたし。


 かなりの罰で報酬の半分が僕の元に来る話だったんだけど、それでも怒りは収まらなかったのか、初めてアイリから「お手合わせ願います」って模擬戦の話が来た。本気で来たので戦ってようやく納得したみたいだったね。その時だけは素直で「頭を撫でてください」って甘えてきた。モフモフ、堪能しました!


 そんなことがあった今でも話を知らない人達には絡まれるけどね。最初よりはさすがに皆も慣れてくれたみたいで本当にありがたかった。


「能無しも多いのね。逆にギド達のような人達が珍しいのかしら?」

「そうだと思うよ。僕なら情報を集めた上で行動に出るし。そこまでしないで短絡的な行動に出る人は出世しないね」


 これ、絶対。僕の知る限りでは仕事ではしっかりしていても家庭でストレスを発散する人とか、嘘ばっかりの人、他人の意見を聞けない人は絶対に挫折する。まぁ、学生という立場からでしか言えないから説得力もないけどね。


「……そんな人達に会えて、ギドに会えて良かったのよ」


 話をしながら棺桶の上に座っていた僕の肩に頭を乗せてくる。話しながらでも素材と瓶があれば簡単にポーションは作成出来るから楽なんだよね。……でも、少しだけ手順が狂っちゃいそうだよ。


「甘えるのとかズルいよ。爆発するよ?」

「何を爆発させるのかしら?」

「さぁ、なんだろうね」


 ピトッと肩に乗せられているセイラの頭に自分の頭を乗せ返してセイラの下ネタを華麗にスルーする。さすがに変な行動には出ませんって、旦那!


「……こんな雰囲気にして、どれだけの女性を落としたのかしら。どう? 怒らないから教えてくれない?」

「うーん、雰囲気は別としてもミッチェルとかアキとか、そこら辺じゃないかな。あんまり人は呼ばないし」

「ふふ、嘘ばっかり。でも、そんな姿を見れて嬉しいかしら」

「そう、良かったね」


 その後は失敗もなくセイラを横に置いたままでポーション作りに専念した。途中で話はしていたけどたわいのない話だ。なんのご飯が好きだとか、どういうことが夢なのかとか、好きなタイプとかね。タイプの時にセイラだよって言った時は面白かった。なんでか分からないけど出来たてのポーションを丸々一本飲んでいたからね。五百ミリリットルはありますよ? それ?


 ポーション作りが終われば一番やりたかったことだ。これのために戻ったと言っても過言ではない。……いや、嘘だけど。全然計画にはなかったけど。


「今からシルバーネックレスを作ろうと思うんだ。高性能なやつね」

「……ポーション作りもやり方が分からなくてつまらなかったかしら……」

「それじゃあ、帰ろっか」

「もう少しだけ付き合ってあげてもいいのよ。別に帰る理由も今のところないですから」


 素直じゃないねぇ。帰りたくないって言えばいいのに。頭を撫でて返答の代わりとして銀の塊と無属性以外の宝石の粉を取り出す。全部僕が成分だけを抽出したやつで全て百パーセントの不純物無しだ。


「まずはね、こうやって形を変えていくんだ」

「……すごいのよ。少しずつ形が変わって……」

「でしょ? そういえばセイラの好きな形とかはどんな感じなの?」


 セイラに聞いてみる。

 頭が近くにあるから悩む声が簡単に聞こえてかなり悩んだ後で小さく「星型かしら」とだけ答えた。星型とはメジャーですねぇ。


「それじゃあ、それにしてみようかな。そっちの方が見応えがあるだろうしね」

「それは……嬉しいのよ」


 見ている人も楽しませる。

 それがエンターテイナーだ! 知らんけど!


 少しずつ鎖を星型にしてそれが繋がっているようにしていく。大きめのハート型の宝石を付ける部分を完成させる。この大きさなら何カラットの宝石が必要なんだ……怖い。


「セイラが好きな宝石の色って何?」

「えっと……白かしら。落ち着くのよ」


 口元を隠しながらセイラが笑う。

 なるほど、白か。一番、難題なんだよね。黒なら色付けにたくさんの宝石を混ぜれば、それこそ絵の具みたいにたくさんの色が混ざれば黒になるけどさ、白は一色でしかないから結構キツい。それでもするのが僕だけど。


 全属性の宝石の粉を手元に集めて手と手で合わせて魔力を流す。その上に同じ量の宝石の粉を入れて、また流して。それを繰り返してある程度、大きくなったところでオパールの粉を取り出して魔力を流す。少しだけ色が混ざっているけど粉にすれば白くなるし、なんなら粉の中でも白いやつを選んでおいた。それを外側にして固めておく。


 最後に型に合うようにハート型にして終了だ。


「一回だけ付けてみてよ」

「えっと、こうかしら」


 頭を起こしてセイラの方を向く。

 ゆっくりとネックレスを手に取って首に付け始めた。


 うん、似合う。控えめに言って似合う。

 全部が全部がセイラのイメージだとオリジナリティのない作品になるからね。僕らしさを加えたいので宝石をはめるところはハート型にしたけど、それがかえってセイラにはピッタリだった。何気に星型の鎖もよく見えて可愛らしさを強調させてくるし。


「少しだけ大きいなぁ……。ちょっと借りるね」

「かなり付けやすくて良いものよ。私も欲しいかしら……」

「そっか、ほら! これでどうかな?」


 セイラの細い首に手を回してネックレスを付けてみる。パッと見ておかしな点もないし良い気がするな。


「これで完成っと」

「ええ、名残惜しいけど返すかしら」

「いいよ、別に。あげる」


 セイラは静かに「えっ」と言った。

 元々、そのつもりだった。だからバレないようにセイラの好みを聞いたわけだし僕のオリジナルも混ぜ込んだ。全部が全部、相手の好みだったら嬉しさも半減だからね。だいたいは選んでくれたこととかの、渡す側の気持ちが混ざっていた方がウケがいい。僕はよく知っているさ!


「セイラにはあげていなかったからね。有名な人のネックレスに比べたら目劣りすると思うけどさ、大事にしてくれたら嬉しいかな」

「……本当に馬鹿かしら」


 あーあ、セイラを泣かせちゃった。

 セイラの目元を指で撫でて抱きしめてみる。目劣りするとか言ったけど高価なプレゼントだ。これくらいは許されるはずだよね。


「……私の宝物よ……誰にも譲れない、大切なギドからの……」

「僕が守れない時はこれが守ってくれるはずだよ。僕の魔力を注いだし全属性に耐性を持って吸収効果もある。毒も無効化してくれるからセイラにはピッタリだね!」

「そこまで……ふふ、愛しているわ」


 セイラの愛している発言に少しビックリしたけど一時の高揚から来るものだと思って言及はしない。たださっきよりも抱きしめる力を強めて王国の宿に帰るまでの時間を楽しんでいた。帰る時もネックレスのハートに指を当てて大切そうにしているセイラが愛しくて、今回のデートは悪いこともあったけど行って正解だったと切に思ったね。

ラストは案外、予想できていたのではないでしょうか。途中の喧嘩を売られた話もアフターストーリーで書くかもしれないです。フェンリルが本気で怒る姿とか書いてみたいですね。

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