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3章6話 少し怖いのです

 朝起きる。外からはチュンチュンとスズメのような鳴き声が聞こえてきた。周囲には服がはだけて惚けた顔をするミッチェルとシロ、イルル、ウルルがいた。……というのは嘘だ。僕の鋼の精神が誰かと一緒に寝ることで崩されるわけがない。


 現にロイスも含めて全員が穏やかな笑顔で、服もはだけていない健全な状態で寝ている。天使の笑顔は心が落ち着くな。フニフニとミッチェルからシロ、ロイス、次いでにあまり触ったことの無いイルルとウルルの頬っぺも触ってみる。思いの外、触り心地が良かったのはイルルとウルルだった。まさか……ミッチェルを超えるなんて……。


 少し高い木材で作られた歯ブラシで歯を磨く。材料は違うのに日本の歯ブラシと性能面では変わらないことに驚きだ。あー、歯磨き粉が欲しいな。後は口をすすぐ口内炎とかを防ぐアレとかもね。した後のスッキリ感が好きなんだよ。


「……おはようございます……」


 最初に起きたのは予想通りミッチェルだった。なんなら僕を起こすのはミッチェルだから遅く起きるところを見る方が少ない。寝顔は疲れていれば先に寝るから見る機会は多いんだけどね。


「おはよう」


 軽い挨拶を返す。

 昨日の感じを引きずった様子はないね。聞いて掘り返すのも野暮なことだし知りたくても聞けないなこれは。まぁ、気にするのも男としてどうかって感じだし忘れることにしよっと。


「今日は私もフェンリルに同行しようと思います。よろしいでしょうか?」


 ミッチェルが顔を洗ってすぐにそんなことを言い始めた。別に許可を取ることでもないと思うんだけど、その考えは僕だけなのかな。体裁上ってところか?


「いいけど、何かやりたいことでもあるの?」

「いえ……少し戦闘訓練を積むのも悪くないかと思ったので。昨日もギドさんを含めて見たことの無い魔物と戦ったのは数少ないですから」

「そっか、確かにそうだよね。それなら気を付けて行ってらっしゃい」

「はい、ギドさんもセイラ様の護衛をよろしくお願いします」


 そんなに堅苦しく言うことかな。

 少なくとも僕の自由時間が今日から無くなるだけで、セイラのことだから休みもくれるだろう。それにシロとかはついてくるだろうから気を張り詰めている心配もないしね。最悪はジルとミドがついてくるだろ。


「後、今回の戦闘は依頼を通す気ではないです。昨日のことでこの街の冒険者ギルドの利用は控えたいと思いましたから」

「ごめんね、僕のせいで」

「違います! あのエスとかいう馬鹿とナンパ野郎! それに煮え切らないギルドが嫌いなんです! ギドさんは間違ったことはしていません!」

「あっ、はい」


 おおぅ……ミッチェルも信者だってことを忘れていた……。必要な助言はするけど否定はしない。それが全員に共通したことなんだよなぁ。後、今みたいに一度でも僕のことを話し始めると堰を切ったように続けてしまうところとかね。……何度やられても慣れないし恥ずかしいな、これ。


「……ありがとうね。ミッチェルから言われるとかなり嬉しいよ」

「……私はギドさんの大切な存在ですから。私のことを助けてくれて認めてくれた、生きるための力をくれたギドさんを馬鹿になどしたくありません。喜んでくれるなら私もそれ以上に嬉しいです」


 嬉しいことを言ってくれる。

 いつものことながらミッチェルをギューっと抱きしめて頭を撫でる。毎日ではないけど週五くらいでやるルーティーンみたいなものだね。これをやると落ち着けるよ。


「ギド兄……また、イチャついている……」

「あっ、ロイス。起きたのか?」

「今、起きたよ……? 少し眠いけどね」


 寝起きのロイスって何というか女の子みたいなんだな。いや、どこか少女を匂わせるような外見なだけだからね。腐女子とかに好かれそうな見た目だなぁ。アキとかがこういうのを見たら喜ぶよね。


「起きたのなら顔を洗わないといけないですよ?」

「うん! 洗うからミル姉手伝って!」

「しょうがないですね! ほら! 早く行きましょう!」


 ミッチェルが軽く微笑む。

 そのせいで抱きしめた時の緩んだ頬が引き締まってしまった。もう少しだけ恥ずかしそうにするミッチェルを楽しみたかったんだけどなぁ。まぁ、いつでも見れるしいっか。


 朝は六時半を回った頃だし皆を起こしても問題はないよね。庭で素振りの音が聞こえるから誰かが練習しているみたいだし。冒険者にとってはこのくらいに起きないと良い依頼は取れない。


 そんな考えに至って皆を起こして行ったけど、シロはキスしてきて、イルルは「抱っこちゃん人形ですぅ」とか言って手にしがみついてきて、ウルルはその間に首元に回り込んでいた。二人に気を取られている間にシロが胸に抱きついていて離れなくて……そんなことで三人が強くなったこととか、この世界に抱っこちゃん人形があることとか知りたくなかったよ……。ミッチェルとロイスがいなかったら外すのに時間がかかっていたと思う。


 目が覚めてもトロトロとしているシロは僕が無理やり顔を洗わせた。イルルとウルルがそれを見て残念そうにする意味が分からないや。結構、雑に洗ったつもりなんだけどな。


 朝食を簡単に終え一度、全員で集まる。集合場所は僕達の部屋みたいだ。理解は出来るよ。なぜかセイラの部屋よりも僕達の部屋の方が広いからね。でもさ、僕達の部屋に集まるやいなや、僕の私物を探すのはどうかと思うな。セイラは目で探すだけだから良しとしてもアキとかね……。


「今日は街を回ろうと思うのよ。そこでギドには護衛を頼みたくて昨日、あんな約束をしたかしら」


 セイラが椅子に座って話し始めたのでベッドに腰を下ろす。……あの? なんで移動してまで隣に来るんですか? セイラさん?


 うわっ、見ていたら睨まれたんだけど……最近の子供って恐ろしいわぁ。さすがにミッチェルとかみたく弱点を撫でて気分を逸らすことは出来ないので、そーっと目を逸らしておく。うん、これがベストだよね!


「昨日、鉄の処女には戦闘のために依頼を受けることを許諾したかしら。フェンリルも今朝、ミッチェルと一緒に戦闘をしに行くことも。幻影騎士も同様よ」

「えっ?」


 僕はじーっとエミさんからミッチェル、アキ、ロイスへと視線を移していく。皆、僕が目を合わせると逸らして頬をかくのはなぜだろう。怒らないよ? 怒らないからここまで仕組んだように皆に用事がある理由を聞きたいんだけどな?


 いや、まだだ。シロとジルとミドがいる。

 一対一はデートにしかならないからそこに望みを託す。僕にエスコートするだけの力はないし一人で守るのは荷が重い。何よりも僕なんかと一緒にいればセイラに変な噂がたってしまう。


「シロは鉄の処女と、ジルとミドはフェンリルの戦闘を観戦することを承諾したかしら。だから今日はギドに負担をかけるのよ」


 おいぃ! 裏切ったね!

 絶対に仕組まれたものだ! 再審を申し込む!


【もう罪は決まっています。ギルティですよ】


 この世界に神も仏もないのか!

 ……貴族の喜ぶことなんてわからないよ。助けて……便利な未来のロボットさん……。今ならあのお菓子をたくさん奢って……あっ、この世界にあれはないや。今度作るか……。って! それじゃあ、呼べないじゃん! 餌付けとか無理じゃん!


【覚悟を決めてください。別にセイラはマスターが一緒にいてくれれば楽しんでくれますよ】


 だといいんだけどね……。

 まぁ、僕も男だ。覚悟を決めよう。

 先に部屋を出た皆の後を追う。静かに頬を叩いて気合を入れた。大丈夫だ、最終兵器イフもいるから最悪はどうすればいいか聞こう。ギャルゲーの攻略本を持っている状態の、強いままでイベントに入るだけだ。気持ちを張りつめてはいけない。


 朝七時半頃にセイラと僕以外が宿を出た。

 僕はセイラに頼まれたので玄関ら辺で待っている。……本当にデートするみたいだ。なんだかんだ言ってセイラと二人っきりになるのはこれが初めてだ。少しはドキドキもするよ。


 この世界にもガラスはある。扉の横に敷き詰められたガラスから外の世界を眺めて、綺麗に澄み渡り雲一つない空を見る。この世界も澄んだ青空は日本と変わらず綺麗だ。いや、少しだけこの世界の方が綺麗な気もする。オゾン層とかの問題なのかな。


「待たせたかしら……?」


 恥じらうような声が聞こえて振り返る。

 あまり長くないスカートにフリルの付いた服、少し長めの靴下のセイラがいた。髪型も軽く巻く程度で昔のようなドリルではない。スカートは白と黒のシマシマで服も黒がほとんどな所を見るとゴスロリにも見える。身長が低いところもあって魔法少女かな、なんて一瞬だけ思ってしまった。


「待っていないよ。今、来たところ」


 サラッとそんな言葉が口から漏れた。

 昔あったな、デートの時に一時間も遅れてきた元カノとか。その時もこんなことを言ったっけ。でもさ、真冬の中で連絡もよこさずに「遅れた」の一言だけなのは今でもどうかと思うよ。


「……嘘ばっかり」

「はは、でも、セイラが来てくれてよかったよ」


 その元カノとかは待ちぼうけさせた挙句、来なくて次の日聞いたら「寝てた」なんてこともあったからね。今では関係がないけど少しだけ恨んでいたりする。あの後、風邪引きましたよ? 僕は?


「……本当に女ったらしかしら」

「でも、こんな状況を作ったのはセイラでしょ? 早く行こうよ。ここで時間を潰していたら勿体ないしさ」


 もうヤケだ。セイラの体裁とか気にせずに一緒に楽しむ。仲間がいないから過度なボディーガードはないしね。別に楽しむ分には構わないだろう?


「……手を貸してほしいかしら」

「当たり前だ」


 頬を赤くしながら手を繋ごうとしてくるセイラ。……地味に恋人繋ぎなんだけど、これってこの世界でもあるのかな? 嫌いじゃないから、というかセイラのことは好きだから別にいいんだけどね。


「今日は行きたいところにいくかしら。ついてきてくれる?」

「いいよ」

「……今日だけは貴族のセイラじゃなくて平民の、ギドと仲がいいセイラ。そこは忘れないで欲しいのよ」


 貴族であるしがらみはいつでもあるんだろうな。本当はこんなことをしたかったから僕達を護衛先に選んでいたりして……まさかね? ミッチェルとかだってセイラと仲がいいしそこら辺が関係していそうだ。


「それなら行こう。セイラ!」


 セイラは大きく首を縦に振った。

 その時にセイラの手を握る力が強くなったのは忘れない。

次回はセイラとのデート回の予定です。うまく書けるか自信が無いですが楽しみながら書いていこうと思います。


後、二月後半と三月最初は投稿出来るかわからないです。暇があれば書くので期間中で投稿無しというのは避けるつもりですが……温かく見守っていてください。

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