3章4話 厚顔無恥です
少し「はっ?」ってなるかもしれないです。
時間があれば書き直しすると思います。
「……え?」
周囲が静まり返る。
普通に力で勝っただけですよ。この人、ステータスが高いだけで技術はないし、強化魔法の一つも使えやしない。それに比べて僕の仲間は全員が強化魔法で馬鹿みたいに強くなるし、出来ないリリも心器で対応出来る。
僕に至っては普通に魔力面では九千台で、物理面は六千台だ。強化魔法ってすげぇんだぜ。イフに頼めば二倍ぐらいまでなら楽に強化してくれる。ぶっ飛ばすぐらいなら、へのへのかっぱですよ。
多分で動くほど僕は気楽ではない。
能天気にいるということはそれだけで損をする環境の時もある。別に悪い事だとは思わない。逃げることも隠れることも必要なことだ。簡単に物事を考えることも必要なことだ。僕のいた環境では少し慎重さを欠けば傷が増えることもあったからね。
「……その程度で喧嘩を売っていたんですか?」
「お、お前は……!」
どこか恐怖を覚えた表情だね。
今更遅いよ? エス君?
怖いのかな、それとも自分の本性がバレるのが怖いとか。別に僕にはどうでもいいけどさ、人に迷惑をかけて自分の尻を拭えない癖に生きる奴は苦手なんだよね。
僕に恐れたとしても怒らしたのは誰だよ。
僕だって無意味には怒らない。……うん、怒らないと思う。ゲームで上手くいかなくてブチギレることは多々あるけどさ。それは計算外だ。ノーカンです。投げつけることがあるのは人の性です!
「あの! ギルド内での戦闘は!」
「ギルドの規約には先に攻撃を仕掛けた方が悪いとされるはずだ。ギドにおかしな点でもあったかな?」
エスを庇おうとする受付嬢がリリによって一喝される。さすがだね、伊達にAランクで一番の常識人だと言える。いや、軽い部分もあるけどさ。
受付嬢は黙った。
エスは周囲を見るが誰も助けない。一番強いお山の大将がフルボッコなんだ。喧嘩なんて売りたくないだろうし。まぁ、女性陣にエロい目を向けていた人達は顔を覚えたから。無事に朝日を拝めると思うなよ。君達の股間は僕の薬で壊させてもらう。くっくっく。
【あっ、悪魔です!】
ニヤケ顔で言われてもこたえないなぁ。
ってか、そういう時用で作るように言ってきたのはイフでしょ。共犯で僕と一緒にギルティさ。後、否定形は使おうね。嘘がバレバレだ。
【まさか……私の心を見透かすなんて。仕方ありません。倉庫から秘薬を取り出してあげましょう】
へいへい、作成者僕。効力は……お察し。
男子の天敵である薬だ。元はオークやゴブリンの睾丸で性欲を向上させる効果を付けられる素材だけど、あることをして効力を逆にしておいた。まぁ、作るのにめちゃくちゃ時間がかかるけど。
「うーん、なんか拍子抜けだね。僕に喧嘩を売ってきたバカはいたけどさ、怖がりながらも向かってきたよ。まさか、そんな勇気もないのに攻撃を仕掛けたのかな?」
「うっ、うるせぇ!」
軽く笑っただけなのにどうして怒るの?
ただの煽りですね。申し訳ありません。……思っていないけど。
エスの剣戟は簡単に目で追える。
MPに関してはドレインで吸収出来るから問題ないし、先にへばるとすれば僕じゃない。攻撃と守備を繰り返す度にエスの顔は冷や汗まみれになっている。そこでようやく気が付き始めたようだけどさ、ステータスで負けているのに勝つ方法なんてある?
剣でガードしなければ切られるし、躱すにしても限界がある。ステータスが高いからある程度はやり過ごせるけど十回も連撃をすればどこかに傷は与えられるしね。
「はい! 終わり!」
「ぐえっ……」
どこかで見た必殺の技。
出来る人は少なく上手く出来たとしても倒しきることなど難しい。本当に必殺の技だ。隙も多いから諸刃の剣と言ってもいいかもしれない。ただし諸刃の剣の割にはダメージが少ないけど。
そうその名は腹パン。
どんな性病……もとい病気持ちか分からないので地面に倒す。気絶までは行かないかぁ。少しだけ夢を見すぎていたようだ。ラノベとか漫画のような展開にはならない。
「まっ……待て……」
「まだ何か御用ですか?」
僕としてはここまでプライドをズタズタにしたんだから解放して欲しい。別にこれ以上戦う必要性も僕にはないし。僕のステータスがエスを上回っていることを知らしめることが出来ればいい。……昔みたいに力を隠して、なんて甘えたこと言ってられないしね。
「俺と……依頼で勝負しろ……」
えっ? いや、えっ?
僕は一回、こいつをフルボッコにしたよね。目を擦る。エスが倒れていることには変わりない。僕がエスをぶっ飛ばしたのは幻想ではないはずだ。
「はい?」
「お前が強いことはよく分かった。認めなくはねえが認めてやる。ただ本当に冒険者としての才能があるようには見えねえ。攻撃に粗が多すぎるからな」
おおぅ、なんだかんだ言ってよく見ているねぇ。いじめ抜かれているような戦いなのにそこまで見てられるか。まぁ、自分よりも強い相手をそう簡単には認めたくないよね。
でも、これで確信した聞き間違いじゃないね。
厚顔無恥も甚だしい。常識のジの字もないね。
「ちなみに条件は?」
「近くに姿の見えない風魔法を得意とする魔物がいるらしい。その敵の討伐だ」
「そうじゃない」
「……ああ、仲間は同じ人数で、とは言わない。俺は別にいる仲間と行動するしお前は好きにたくさんの人と動けばいい」
「違うね」
何を言いたいんだ、コイツは。
普通なら最初に考えることだ。そこが抜けている。
「僕が受ける必要性はどこにある?」
「……冒険者としての意地が」
「そんなのないよ? 生きるために冒険者になっているだけだし?」
「はっ?」
うーん、この人は勘違いしているよね。
僕が好き好んで冒険者をやっているわけではないよ。強くなれてお金も稼げて融通が利くのが冒険者だっただけで、全部の面でより優れていた職業があるならそっちにしていたと思う。
「ギドさんはやりたいことをしたいだけですからね」
「ギド兄は戦えて楽しく生きられればそれでいいみたいだし」
「主は自由ですから」
「ギド様は女たらしだよ?」
「主様のいいところがわかっていないようですね」
「ギド様が働こうとせずともお金は貯まります。今でさえ冒険者をやるのは鉄の処女のおかげでしょうね」
「何も言わないの……」
「話に入れないのだ」
「話に入れないのです」
多種多様な意見があるね。
でも、僕の言葉を否定する人はいないし。やっぱり冒険者である一番のメリットって自由なことだよね。公務員みたいな騎士だと自由は少ないし外の目もあるから。
「それなら強い敵と」
「あー、別に聞かなくても場所は分かるんだ。僕って特殊な存在だから。というか異世界人を名乗る人が知り合いでいてね。さっきの言葉もその人に教えてもらったものなんだよ」
【しれっと大嘘をつきますね】
いえ、嘘も方便ですから。
それにここで「僕が勇者でーす。崇めて崇めて」なんて言えば宗教国家とか王国に連れていかれそうだ。そんなのは絶対に嫌だね。僕は崇められるよりも自由が欲しい。自由への渇望が僕の生きる理由だ。……すいません、適当なことを言いました。
「後さ、勘違いしているみたいだけどここにいる僕の知り合い全員が、手の内を隠さないで戦うのなら君より強いよ? そんなことをしなくても模擬戦をするだけで得られることは多いかな」
エスは黙り込んだ。
時々いるよね。人のことを考えないで自分優先で行動する人。別にいいんだけどさ、僕のこととか他の人を巻き込まないで欲しいよ。一個のミスで全てが壊れる時があるんだし僕はそれで損害を受けたくない。
自分が納得出来ないのは理解している。
けど、だから? 僕は受ける理由も何も無い。攻撃してこないのならわざわざ社会的なトドメを指す必要性もない。よく考えてみればやり過ぎてしまえばこの街にいられなかった可能性もあるしね。
「……そんなはずは」
「ないと思うのは自由だよ。だけど他人のことは考えようね。僕達はあのチンピラ君に話しかけてもらいたくなかった。男性が三人しかいなかったのも、若いから小馬鹿にして来たのかもしれないけどさ、君が出る幕はないよね?」
エスにトドメをさした。
僕の視線は最初に話しかけてきた馬鹿達に向いていて、その人は僕の顔を見てぶるりと震えている。今回の考えに僕のおかしな点はないはずだ。依頼を受けるとか、決闘をするとかは任意だし、僕がこの人達に対して甘く接する理由もない。
普通にエスも嫌いだしね。
調子に乗って仲間を助けようとして喧嘩を売って大敗北。結果、俺に認められたいなら挑戦を受けろよ、とかさ、どこのラスボス手前の強キャラポジを気取っているんだか。あいにくとエスにそこまでの力はない。それにこの世界はターン制でもないし、魔王の脅威を感じたことは一度たりともないや。そこまで暴君を気取るなら誰にも負けないくらいに強くなれよ、なんて考える僕は酷いのかな。
ぶっちゃけ、ここまで自分勝手に物事を決められる人がいることに驚いているし。テンプレさん……無理にイベントを作らなくていいですよ? 僕はもうお腹いっぱいです!
無駄な時間を食った。
それにしても……この空気どうしようかな。
「終わったよ?」
「あっ、ああ……やりすぎな気もするが、まぁ、攻撃を仕掛けてくる方が悪いしな。オレは別にいいと思うぞ!」
うわっ……エミさんに少し引かれている……。
こんな時でもいい笑顔を浮かべるのは仲間、というか信者だけですね。はい、やりすぎました。これって絶対に恨まれるじゃん。特に冒険者の人達に。
「……それでもイアは……」
「……恋とは怖いものだな」
うーん、仲間だけでなく鉄の処女も重症っと。嫌われるよりはマシだから全然ありがたいけどね。皆に嫌われたら自殺ものだよ。そのくらい心に来るものがあるね。目の前の俯いて独り言をボヤくエスは何を考えているのか分からないけどさ。
【もっとやってもよかったのに】
イフさんがすごく怖いことを言っているんですけど。
慈悲もないとはまさにこの事ですね。別にもっと酷い目にあわせるのもやぶさかではないけど限度はあるし。僕というよりもセイラの立場悪化にもなりかねないからね。
このままでいても雰囲気が悪くて辛いだけだし、僕達はすぐに依頼報告の話をしてギルドカードを提示しておいた。それ以上のテンプレはなかったみたい。あっ、話と待ち時間が長かったので、その間にミラージュで自分を隠蔽して野郎共のお酒に薬を仕込んでおいた。それは結構強い薬で治すのに軽い聖魔法くらいは使わなきゃいけないレベルだからね。まぁ、苦しんでくれ。この薬を出した時に苦い顔をしたのはイルルとウルルだけ。さすがは性に精通するサキュバスだね。
「変な匂いがしたのだ」
「幻影なら我らも負けていないのです」
とは二人の言葉だ。確かにね、買う時も幻影を見せて変な人達に買われないようにしていたくらいだ。この程度の魔法なら見破れるよね。もっと練度を上げてバレないようにしよっと。……くっくっく、完全犯罪を成立させるのだ。
聖魔法という時点で分かると思うけど原材料をすり潰して、オークかゴブリンの血に呪魔法を混ぜ込んだので溶かす。そして煮込めば出来るんだよね。だから呪耐性があれば薬は効かないよ。……裏を返せばほとんどの人には効果ありってことなんだよなぁ。
「……これはギルドマスターに提出させていただきます。少しだけ日にちがかかりますが大丈夫でしょうか?」
「……別に構わないが今回みたいなことがあればギドがキレかねないぞ……。少しギルドの体制も変えた方がいい」
「善処します……」
酷い言われようだ。エミさんって時々、酷いことを言うんだよね。いや、僕のせいだから何も言い返せないけどさ。だけど、最悪、連帯責任だと思います。あんなことをしてこなければ僕も怒りませんでした。
でも、ここまですんなり話が進むのは鉄の処女と僕達のランクがS手前ということも関係しているんだろうね。冒険者ギルドは国ごとでやり方も違うし。悪ければ街ごとで違う。でもランクはどこも基準として必要としているからここで活きてくるとは。
「……なんかすいません」
「ギドは悪くねえよ。少なくとも対応もせずに一個人を守ろうとしたギルド、突っかかって逃げようとしたり逆ギレした冒険者。悪いのは全部あちら側だ」
「……優しく言い過ぎだよ。惚れるよ?」
「なっ! 馬鹿! ……そういうことは後にしてくれ……」
エミさんのそういうところ大好きだ。
僕は戦闘よりもイチャイチャの方がいいからね。アイラブイチャイチャ。イチャイチャの無い人生はただの地獄である。これでも突っかかって来る人はいないだろうし……って、エスってSランクだもんね。誰かから推薦を貰っているわけだし、その人が突っかかってくるかな。貴族なら面倒くさい。ルール家のこともあるしね。……いや、まさかね? テンプレさんの活躍は今後なくても結構です!
「ああ、後、そこの女達!」
冒険者ギルドを後にしようとした時にエミさんが止まって未だ呆然としている女性達を指さす。女性全員がエスの名前を借りようとした狐だ。冒険者みたいだけど雑魚しかいない。ランクを聞いていたので怖かったのか、話しかけられてビクッと肩を震わせていた。
「すっ、好きな男はキチンと、そう、キチンと! 目だけじゃなくて心でも考えた方がいいぞ! 恋愛の先輩からの助言だ!」
うん、エミさんが言うな。
僕に言われるまで自分に自信もなくてピュアピュアな乙女心満載なのに、恋愛の先輩って……なんか面白いな。これでイジリネタは確保出来たね。普通に可愛いけどさ。
「……ギド兄の顔が怖いよ……」
「あれはなにかイタズラを考えた顔ですね。どのようなことをするのか楽しみです」
さすがはエルド、表情で分かるとはやるな。
「それじゃあ、また来ますよ」
わざわざ王国に来る気もない。
護衛依頼ならまだしも売られた喧嘩は買うし僕の好きな人を奪うならぶっ飛ばす。寝取り反対、大っ嫌い。悪いが僕には寝取られ属性なんてない。他を当たってくれ。
僕達がいなくなってすぐに冒険者達が気分を落ち着かせるために飲み物に口を付ける。もちろん、男性陣、全員分に薬が入っているから効果はお察しだ。
「うっ……あぁぁぁぁ!」
男達の悲鳴が聞こえて僕はニッコリと微笑んだ。
ギリギリまで書き直しをしたのに未だにカオス。これでも意味不明な部分は削ってみたんですけどね(笑)
ちなみにイフ直伝の秘伝はいくつかあります。今回のアレ不全はその中の一つです。そのうち他のも出てくる……かな?
そして空気のイルルとウルル。
メイン会とか作りたい願望はあります。




