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閑話 ヤンデレの楽しい旅路

タイトルは仮です。

「そういや知っているか?」

「あっ? 何がだ?」


 シュウの戦闘中、突然話しかけてくるくせはやめて欲しい。別にやられるわけもないしコイツはコイツで強いことは認めている。それにボクに手を出すというよりは、自分の敬愛するボクのお兄ちゃんの妹として大事にしてくれるからな。


 けど、少しの油断が命取りになることは理解出来ていないのか? 面倒くさいったらありゃしない。コイツはボクの保護者か、なんて思うこともよくある。


 心器は目立つから鉄の剣を装備していたが、それですら簡単にゴブリンナイトは切り裂ける。今もシュウの言葉に返答しながらゴブリンナイトを切り殺した。


「王国の勇者様がゴブリンジェネラルを倒して英雄扱いだとさ。あんな雑魚で浮かれているんだねぇ、って話」

「所詮、身の程を弁えないシュウにも、喧嘩を売るべきではないイツキ兄にも野心をもって接していた人だから。ボクからすればどうでもいいし、あの人の底意地の悪さは好きじゃない」

「はは、同感だよ。昔はあそこまでじゃなかったのにな。後、口が悪いよ」

「てめぇにはこれで十分だ。猫かぶりなんて気持ち悪いことてめぇに出来るか」


 これも一種の認めているからこそ許す行為だ。わざわざ仲も良くない気も許すことが出来ない人に自分の本性を見せる必要もないだろ。


「ふぅ、そんなことだから素直になれなくてイツキにも嫌われるんだよ。まぁ、百パーセントで嫌われているわけではないけどさ」


 どの口がそれを言うのか。

 ボクがイツキ兄が告白されたと教えた時にいの一番にその関係を壊そうとしたくせに。全部ボクのせいにしやがって。……それのおかげでコイツから情報を得られるから悪いことばかりではないけど。


 今はゴブリンのコロニーを潰していた。

 一応はランクBの依頼らしいけど報酬もいいし、なにより強くなったボク達がより強くなるためには強い敵が必要だ。ギルドで半ば強引に受けた甲斐はある。少し強く言えばボク達の功績を考えて簡単に受けさせてくれたからいいんだけどさ。


 何度も倒したことのあるゴブリンジェネラルを袈裟斬りにする。血飛沫が舞うがボクはそれにかかりたくないので後ろに飛んで躱す。誰も好き好んで体を真っ赤に染めるヤツはいないだろ。


「グギ!」

「うるさい。鳥獣戯画」


 何体ものゴブリンナイトが近くまで寄ってくるが、偽の自分を作りだし一体ずつゴブリンナイトを消していく。回収はマジックボックスみたいな異次元の空間にものを詰め込める能力がシュウの心器にあるので問題ない。ということで、後は任せた。


「へぇ、早くなったな」

「まぁね、雑魚は簡単に倒せるよ。固有スキルなら自分と一緒に装備している武器も実体化させてくれるから手間もないし」


 自分の分身を消しながらシュウと話をする。

 今回のコロニーでの一番の目的はまだボク達も戦ったことのないゴブリンキングだ。集団戦を加味してBランクなんて大それた依頼にされているけど、タイマンだったらそこまでの脅威はない。パーティ登録もしているからどっちがトドメをさそうと関係もないしね。


「……このコロニーって以外に進化一歩手前が多いな。ゴブリンキングは一つのコロニーに一体しかいれないらしいから仕方ないか」


 この程度で進化手前か……。

 それならキングの力も安易に予想出来る。きっと雑魚だ。最悪は、本当に最悪だけど、やられそうな時はシュウに任せればそれでいい。……絶対にコイツに助けを求めたくはないけど。


 このコロニーに来てからシュウが戦ったのは雑魚を殲滅する時だけだ。ゴブリンナイト以上はボクの戦闘能力向上のために無視してもらっているし、変な邪魔が入らないようにゴブリンが向かってくるのを倒してもらうだけ。後は回収係だ。


 悔しいけどコイツはボクよりも強いんだよね。何度かボクを助けた時にその力は見たから信用しない方が無理だ。


「……早く鑑定のレベルを上げたい」

「そう簡単には上がらないさ」

「二日でマスターした奴に言われると腹立つな! 三まで上げれたことでさえ! 凡人からすれば天才扱いなんだぞ!」


 コイツは本当に腹が立つ。

 イツキ兄に負けるならまだしも、コイツに負けていると思うと吐き気を催すな。実際、模擬戦では本気でやれば倒せなくはないけど、それは命の取り合いをしていないからだ。真剣にやれば負けることは目に見えている。


「俺は自惚れないよ。ココだって自惚れてはいないだろ」

「……きっとイツキ兄だったらボクも、シュウよりも早い速度で進化しているからね。そんな中で自惚れるなんて無理だよ」

「うんうん、よく分かる。それにしても自分で気が付いていないのもしれないけど、幼児退行しているぞ。イツキの呼び方が昔と同じになっている」


 ……本当だ。

 別にどうでもいい。他人からすればたかだか三日とかでも、ボクからすれば三年は待っている。偽物のイツキ兄じゃ抑えられない情欲もあるってぇの。


「……早く会いたい……」

「この依頼を終えたらお金が入るんだ。その時にアイツの近くまで行けばいいだろ。俺とお前なら三日三晩、休まなくても歩き続けられるだろうし」


 確かに……。

 イツキ兄のためならいくらでも歩き続けられる。ってか、コイツの場合は死ぬまで歩き続けそうだ。絶対にイツキ兄がそんなことを望まないと知っていても。よくそんな感情をセーブ出来ているな。感心するよ。


「あっ、来るから気をつけて」


 シュウの心器はかなり使える。

 対象者が装備している間は脳内に地図が開かれ、狭い範囲ではあっても探している相手の場所を知ることが出来る。これがなかったら何度も奇襲でやられていた可能性もあるね。それと怖いのは相手の嘘が分かるってことか。絶対に抜けがけ出来ないんだよな。


「貫け! ファイアランス!」

「覆え! ウォーターウォール!」


 鳥獣戯画を無言で展開して分身を六つ作り出す。四人には水の壁の展開を、本体も含めて三人で火の槍を撃ち込む。魔力面ではシュウに負けず劣らずである自信があるからこれで傷を付けられないなら少しキツイかな。


「ギャヤヤ!」

「意味はなんで分かっただとさ」


 なんだアイツのドヤ顔……。

 本当に腹が立つんだよ! いや、お前のおかげでキングの接近は分かったけどさ! その顔が本当にうざい! うざすぎる!


「黙れ!」


 強化魔法を分身五人でボクと分身一体にかけまくる。分身の魔力切れのせいで五人は消えたけど問題ない。これがシュウがボクと戦いたくないって言っていた戦い方だ。ステータスで負けているのなら追いつけばいい。


 なんならMPに関してはシュウを越えている。成長率とかいう話があるらしいけど、それが見えているのならボクはシュウを越えているかもね。


「形成しろ!」


 闇魔法で杖に魔力を流し漆黒の剣を形成させる。ボクの心器である杖にはいくつかの条件があるけど流した魔法の魔力によって属性剣を作り出せる。メリットもあればデメリットもある行為なんだよね。実際にダメージ計算は斬撃であっても物理からではなくて、魔法面での計算になるみたいだし。キングは物理面では硬そうだからこっちにしておいた。


 それとこれの利点はもう一つある。


「鍔迫り合いなら負けないから!」

「ギ!」


 キングの持つ武器は過去に倒して奪ったのであろう鋼の剣だ。キングの剣はないから安心して壊せる。それに名称のあるキングの剣と比べて脆い。ボクの心器にはピッタリの相手だ。


「少し音が聞こえたね」


 魔力で流した作成した剣には心器としての特性がつく。心器はその人の心を表す武器で折れない心を持っていれば作成した剣も折れない。それに鍔迫り合いや切り付ければ相手の魔力を吸えるからボクの方に利点がありすぎる。


 こんな武器ならいくらで売れるんだろうな。


「後ろに躱すの?」

「ボクがいるんだよ?」


 横から分身が切り付ける。

 まぁ、驚くよね。でもさ、こんなことで驚いていたら簡単に死ぬよ? ボクは一歩後ろに下がって分身をもう一人作り出す。動きに変化はあるだろうけど時間稼ぎさえしてくれればいい。


「ギギ!」


 下がったボクを見て戦っているのは偽物だって分かったのかな。ふぅん、頭は回るんだね。こんなに気持ち悪い姿をしてさ。豚とあの人の合成獣かな。


「偽物に気を取られていていいの?」


 偽物のボクがキングを揺さぶる。

 キングも目を開いて剣を振るうけど意味がない。その剣を持っているはずの手が今、斬撃で飛ばされたのだから。


「別に遠距離も出来るだよね。イツキ兄ならなんて言うのかな。行動が甘いとか怒られそうだな」


 本体の心器の剣は解除される代わりに重い一撃を持つ斬撃が飛ばせる。まぁ、一発限りなんだけどね。新しい剣を誕生させるだけのロスはあるけど分身に前衛を任せれば怖くもないし。偽物であってもイツキ兄のためと思えば簡単に死んでくれるし。いや、まだ死ぬ気もないんだけどさ。


「その厚い脂肪でどこまで保てるかな」


 結局、シュウの助けも要らずにゴブリンキングを倒すことは出来た。これでランクが上がれば楽になるんだけど。まぁ、無理だよね。半ば強引に受けたからどっちかと言うと少し注意されたし。攻略されたことが調査で分かれば追加報酬も貰えるらしいし、もうそろそろでお金も貯まるかな。


「さて、これで大金貨までは貯まったな。それでどうする? 他のメンバーでも入れるか?」

「冗談は程々にして。お前はボクの虫除けになればいい」

「一丁前に偽物のお前は面倒みがいい可愛い女性っていう扱いだもんな」


 笑いながらボクの前まで椅子を運んできてベッドに座るボクを見てくる。この本当にボクを見ているのか見ていないのか分からない顔が嫌いだ。


 夜の時間はコイツに部屋に来てもらって虫除けになってもらっている。夜這いなんてされそうになったら正当防衛って言って殺してしまいそうだ。


「イツキ兄が好きな女性像をイメージしているだけ。本当に猫被りで可愛いとか告白とか馬鹿なんじゃない」

「ファンクラブもあるしな。イツキが聞いたら鼻で笑いそうだ」

「お前も鼻で笑っているだろ」


 シュウは「違いない」と口元を隠す。

 コイツのくせだ。自分の感情を見せないようにこんなことをする。誰であろうと同じことをするんだよな。


「お前も人のことを言えないしな」

「ああ、あの子達は良い子だよ。付き合うことはないだろうけどな」


 王国の端の街とは言っても有名にはなりたくない。外でボク達が仲良さげにしていれば他の人に付け入る隙は無いはずだ。それにパーティメンバーはボクとシュウだけなのにも、その考えに拍車をかけている。


 わざわざボク達のメンバーになりたいなんて言ってしまえばファンクラブに殺されるからね。イツキ兄の場合は逆にぶっ飛ばすだろうから安心安心。


「それで今日も何か変わったことはあったか?」

「性格悪いな。お前も分かっているんだろ」


 クックックと意地悪く笑って首を縦に振る。

 無言で心器を展開して地図をベッドの上に広げる。ボクも無言でコンパスを端に置いて距離と方角を見せ付ける。ボク達は動き始めたコンパスと地図の点に微笑みを投げかけながら、その日を終えた。


 終始、笑顔を絶やすことなどボク達には出来なかった。

なんだかんだ言って仲のいい二人です。そしてリュウヤが苦労して倒した敵を難なく倒すココ。少し不条理さを感じますね。


千鶴視点は……書けたら書きます。

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